第四話 魔王の勇戦戦争
あれ、マリーさんがいない。机の上にはマリーさんが書いた手紙が置かれている。
マゼルさんへ
先日は助けていただきありがとうございました。私は勇者様のところに行かなくてはならなくなりました。これで勇者軍が優勢になるでしょう。本当にありがとうございました。
獄炎武装 マリー・ギャレットより
俺はその手紙を机の中に入れ、青いペンダントを首から下げた。朝からマリーさんとたくさん話をしたかったが、勇戦戦争が起こっている以上仕方がない。ただ、マリーさんから手紙をもらったことはとても嬉しい。
俺は興奮しながら二階に上がっていった。
「マゼル、おはよう」
フランコさんは疲れた顔をしてこちらを見ている。
「おはようございます」
フランコさんは起きたばっかりのようだ。フランコさんは顔を洗い、ため息をつく。俺はそんなフランコさんに朝飯を作ってあげたいと思った。
「フランコさん、朝飯作りますよ!」
するとフランコさんは、こちらを見て笑ってくれた。
「いいんだ、マゼル。俺が作るよ」
「疲れているでしょ? フランコさん」
「その気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとな」
そう言ってフランコさんはキッチンへ向かった。
何かパンの香ばしい匂いがする。美味しそうだ。
「はい、できたぞ!」
フランコさんはクロワッサンを作ってくれた。
「ありがとうございます。美味しそうですね」
「そうだろう? まだまだあるからいっぱい食うんだぞ!」
クロワッサンは外はサクサク、中はもっちりしていてまるでパン屋さんで食べたようなクロワッサンだ。
「さあ、やるか!」
「了解です!」
今日もフランコさんの指示で店の準備が始まった。
「ポーション入荷したから並べてくれ」
「はい!」
俺はなんだかんだで仕事を楽しんでいる気がする。なによりもフランコさんがとても人柄がいい人で、働きがいがある。もし俺が異世界でフランコさんに出会ってなかったら今頃俺は修行でもしているのであろうか。でも、ひとつ言えることはフランコさんに出会えてよかったと思う。
「いらっしゃいませ!」
フランコさんが俺に続く。
「いらっしゃいませ!」
俺が地球にいるときは、こんなに仕事にやりがいがなかったのに、今やりがいがあるのはなぜなんだろうか。
「マゼル、レジ行ってくれ」
「わかりました、すぐ行きます!」
今日もポーションがたくさん売れる。
すると、黒いフードをかぶった男が俺の前に現れた。なにか嫌な気配が店中を漂う。
「すみません、マゼルさんですか?」
「あっ、はい! マゼルですけど」
「あなたには魔王様になってもらいましょう」
「お断りします、魔王になる気なんてさらさらないので」
「そうですか、ではあなたに最高の技をお見せします。 悪魔暴走!」
すると黒いフードの男の後ろから黒い影が現れ、俺の首を締め付けた。
「ちっ、マゼル! 今助けてやるからな!」
フランコさんの声だ。しかし俺は全身が闇に包まれていく。苦しい、苦しいけどここでは死ぬわけにはいかない。まだフランコさんにお礼の言葉を言ってないんだ!
「爆炎銃! くっ、なぜ技が発動しない!」
技も唱えたのに発動しない!なんでだよ!
「フランコ、ここでは私以外の魔法系統の技は使えませんよ」
なんであいつは俺の名前を覚えてやがる! 店の常連さんではないはずだが。とりあえずここは物理攻撃でどうにかしないと。
「物理攻撃でもこの呪いは解けませんよ。さあ、マゼル!魔王となる日はすぐそこなのです!」
お客さんも次々と逃げていく。本当にこのままでは俺が不利だ。どうにかしないとな。しかもマゼルの意識は完全に失っている。そうだ、この店のアイテムを使えば……!
そう思っている隙に黒いフードの男は逃げていった。しかし追いかけても魔法系統の技を出せない以上、俺に勝ち目はない。それよりも早くマゼルの呪いを解かなくてはならない。
「くそっ!」
店から白のポーションを取り出し、マゼルに飲ませることにした。しかし、マゼルは気を失っていて飲んでくれない。結果俺はマゼルを隣の都市のウールタウンに連れていくことにした。大体の大都市には病院がある。呪いが解けるかどうかわからないが、行かないより行ったほうがいい。
「マゼル、死なせねーからな!」
俺はマゼルには伝わらない約束をしてしまった。