第四十六話 勇戦戦争中での休暇
この……建物は……!
大きなシャンデリアが広い部屋を灯していた。
床はレッドカーペット、ドーム一個分の面積は余裕であるだろう。
「ようこそいらっしゃいました、マゼル様」
フランコさんは、急いで魔法書を構えた。
「いえいえ、私たちは貴方たちと戦いたくはありません。まずは、汚れた体をシャワーで洗い流すのが良いかと……」
「お前は誰だ……」
フランコさんは男を睨みつけた。
「私はブルコビルでございます。この建物の管理人です。もしよければその魔法封じ爆弾と重りと手錠を外してよいでしょうか?」
俺がうなづくとブルコビルは慣れた手つきで外していった。
「お風呂はこちらです。ついてきてください」
ここはまるでホテルのように清潔で、美しかった。
今まで見てきた建物の中でも一番綺麗だと思う。
少しブルコビルについていくとそこには「露天風呂」と書かれた文字が。
右は男湯、左は女湯だった。
俺とフランコさんは右に進んでいった。そしてラズラは左に。
「バスタオルはこちらなのでどうぞ使ってください」
ブルコビルは俺たちにバスタオルを配ってくれた。
そうしてラズラが左に行くかと思った瞬間、ラズラはなぜか立ち止まってしまった。
「ラズラ、どうしたんだ?」
「私、私もう一人になりたくないよ! 露天風呂には絶対入りたくない! 」
ラズラの気持ちはわかる。
今まで一人きりにしていて色々迷惑をかけてしまった。
ラズラの表情は真剣で、俺はどうしてあげようと悩んでいたときブルコビルが突然「よかったらマゼル様、女風呂に入ってはどうですか?」と言った。
冗談だろ?男が女風呂入るなんて犯罪である。
「いやいや、女風呂なんて……」
「本来ならこの時間で露天風呂を空けていません。なので貸切状態になっております。大丈夫ですよ、マゼル様」
「おい、この流れおかしいじゃないか。男が女風呂入るなんてわけがわからないだろ?」
俺は必死に抵抗した。が……
「せっかくだから、文句言わずさっさと二人で入れ!」
「フランコさん、なに言うんですか!」
まさかのフランコさんまで俺を女風呂に入れようとする。
「ほらほら速く!」
フランコさんは俺の背中を押した。フランコさんの顔はとてもいい笑顔だったが、俺にとっては恐怖しかない。
「ラズラ様、マゼル様を女風呂に入れるということでいいですね?」
ラズラは笑顔で二回上下に首を振りうなづいた。
「でも、でも……」
俺だけだ。笑ってないのは。
俺は結局、女風呂に入ることになってしまった。
俺は服を脱ぐのをためらった。
こんな状況で服を脱ぐのはおかしいだろ。
後ろを少し振り向くとラズラは服脱いでるし!
俺は、こんなときどうすればいいんだ?
「先にお風呂入っとくね!」
ラズラは走ってお風呂に入っていったが、走ったとわかったのは足音だけ。
流石に後ろは振り向けなかった。
さてとラズラがお風呂に入ったことだし、俺も安心して服を脱ぐことができる。
俺は汚れた服を脱いでいき、パンツも脱いだ。
ラズラもいることだし、タオルは巻いておこう。
俺はゆっくりと歩いていった。正直、入りたくないです。
かけ湯をして風呂に入ろうとするとそこにはラズラの姿があった。
ラズラとは距離を置いて風呂に入ったのに、ラズラは俺のほうに近づいてきたのである。
「ねぇ、マゼル……」
タオルは巻いていたが、ラズラの顔は恥ずかしくて見れなかった。
まず俺は緊張していることだし、あまり近づいて欲しくない。
「本当にありがとう、今まで私なんかのこと助けてくれて」
「こちらこそ、ありがとう」
「マゼルはこの異世界に来る前、なにをしてたの? ホームレスの件はほっておいて」
「至ってホームレスさえしてなければ普通の中学生さ」
「私も実は中学生だったの、私がこの異世界に転移する前はいつもいじめられていたし。そんなときに一人の男の子がね、私を助けてくれたの。マゼルもその男の子に似てるなって思って……」
「なんでいじめられてたんだ?」
「両親が性格悪くてね。いじめられることが当たり前だったよ。でもね、私が花瓶を割ってしまったときその男の子が花瓶を割ったことにして助けてもらったの。その恩返しがいつかしたくて……」
「……、一つ聞いていいか?」
「うん、いいよ」
「その男の子の名前、教えてくれないか?」
「マゼルは知らないと思うけど特別に言ってあげる!」
「『戸田輝』って言うの」
それ、俺のことだ。




