第四十二話 檻での勇戦戦争
夕暮れの草むらは、誰かを守りたいように風によって動く。
一人の少年は魔法書を持ち、一人の少女を守っていた。その少年は心がとても弱く、「死にたい」と思うことが何度もあった。
マゼルは異世界で一人で戦っている。
異世界?自分は甘く見ていた。
最初は転移だった。今は死んでいるのさ。
不死の力、そんなものはいらなかった。だから俺はこの檻にいる。
俺の腕には手錠、足には重りが片足ずつ。
ラズラはあの後、霧毒の毒は解除してもらった。
その代わりに俺は一生檻の中だって。
結局あのとき時空間魔法なんて使うことなんてできなかった。
馬鹿だろう。かっこ悪いだろう。
床がコンクリートでできているので檻の中はなかなか暑い。
飯も一日一食の生活だ。
ラズラは今は勇者軍に所属。
アシュコットは、ラズラを助ける代わりに勇者軍に入るように命令した。
あの日以降ラズラと顔を合わしたことはない。
シータは架空の人物だったようだ。なぜならそれはアシュコットの霧の分身。
だから俺がシータに大風剣が腹に突き刺さったときに白い気体が出てきたのだろう。
俺は毎日得体の知れない液体を注射された。
体が痺れる日もあった。
頭がクラクラする日もあった。
寝られない日もあった。
俺が不死の力を持っているから魔王に効く薬を模索しているのだろう。
俺は勇者軍の実験台だ。
「マゼル、ごめん……」
俺が最後にラズラにかけてもらった言葉だ。
本当なら俺が勇者軍をやっつけて救ってやりたかった。
「俺はおとなしく捕まってやる、お願いだからラズラだけ救ってくれ!」
この言葉は間違っていただろうか。
俺が勇者軍に捕まっていく姿を見てラズラは泣いていた。
けれどもラズラを助けることができて本当に良かった。俺はもうこんな存在でいいのだ。
戦うことが苦手な馬鹿人間で、不幸の連続。
しかし、ラズラと交わした約束だけは守れた。
この檻は魔法封印術の結界が張られており、魔法の発動が不可能である。勿論、ここにポーションや魔法書や武器はない。
ここから逃げ出す方法なんてない。
もう諦めた。ここから助けてくれる人なんていないし、俺にそんな力はない。
ここで死んでいく。不死の力を持ちながら。
ここから星は見えなかった。月の光も明かりも。
暗いこの部屋からは俺の影が薄っすら映るだけだった。
俺の心は影のように暗かった。
「消えたい」
いつのまにか俺の願いは変わっていた。
俺の心は黒いシャープペンシルの芯のように細くてすぐに折れる。
俺の短所をを教えて欲しいか?
全部だよ、全部……。
この男に生きる価値さえもない。
さっさと消えろ。この世界から。




