第三話 赤い武装の勇戦戦争
六時十分、俺はフランコさんよりも早く起きてしまった。開店時間は八時、俺は歯磨きをしながらフランコさんを待つ。外を見ると、また赤い飛行機が見えた。ちょっと外でも出てみるか。
俺は店の入り口を出ると、そこは草原が広がっていた。黄緑色の葉っぱは風に揺られ自分まで気持ちが良くなっていく。俺は目を閉じながら風に気持ちよく当たっていた。
「マゼル、外にいたか」
フランコさんは目をこすりながらこちらを見る。
「ここは気持ちいいよな」
「この風景を見ると、家族のことを思い出してしまいます」
「そっか、両親と離ればなれか」
「いいんです。両親は事故で死んでいますし妹は行方不明で俺がホームレスだったんで」
「そうか……」
するとフランコさんは店に入っていった。
そう、俺はホームレスだったんだ。苦しい生活だった。バイトしながら学校に行っていたのは事実であり、このことを他人に決して話さないと心に決めておいたがフランコさんがいるとつい口に出してしまう。
「マゼル、これをあげよう」
青色のペンダントだ。とても綺麗で光沢が美しい。
「これは、青色の魔法石で作ったペンダントなんだ。昨日注文してたお客さんが取りに来なくてな。マゼルにあげるよ」
「ありがとう、フランコさん」
俺はフランコさんからもらった青いペンダントをつけた。
開店時間まであと一時間くらいだ。フランコさんは二階に上がって料理を作っている。いい匂いだ。
「おーい、出来たぞマゼル!」
今日はサラダとホットドッグだ。これくらいの量がちょうどいいのに、昨日の朝飯はなんだったんだろうか。
すると店の中に開店時間でもないのに誰かが入ってきたような音がした。
「誰か入ってくるような音しませんでしたか?」
「ちょっと俺、様子見に行ってくるわ」
「一緒に行かせてください」
俺も気になったので一緒に階段を降りることになった。
やっぱり誰かいた。レジを漁っている。するとこちらを一瞬だけ見て逃げようとする。俺は追いかけようとした。
「おい、マゼル待て。あいつの服装から見て隣町の人間だ。隣町は勇戦戦争で農家が大きな被害が出ている。しかもレジにはお金を犯罪防止のために少ししか入れてないからな、残りは金庫さ。勇戦戦争で困っている人は沢山いる。だから許してやってくれ」
俺は渋々諦めることにした。
「さあ、仕事だ仕事!」
これから店の準備が始まる。もう開店時間三十分前だ。今日はポーションの色を間違わずに並べることができた。今日もフランコさんは魔法石を削る。
「マゼル、魔法石削ってみないか?」
俺は手先が器用な方だと思うが、魔法石を削る自身はない。
「失敗するかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「失敗は成功のもとって言うだろ? 心配せずにやってみろって」
俺は予想以上に魔法石を削るのが上手かった。
「やるじゃないか! マゼル」
フランコさんに褒められたので嬉しい。しかし当たり前だが、フランコさんのほうが魔法石を削るのが上手い。
「いらっしゃいませ!」
俺も後に続く。
「いらっしゃいませ!」
今日もポーションが飛ぶように売れる。
「赤ポーション売り切れました。申し訳ありません」
「いいのよ、黄ポーション買っていくから」
ここの人たちは本当に優しい人が多い。レジ打ちも昨日より上達し、長い列を作ることはもうなくなった。
「マゼル、昼飯行ってこい」
今日はラーメンだ。一人でインスタントではないラーメンを作るのは凄い。昨日の鍋と味が似ていたが、美味しかった。
「フランコさん、交代です」
「マゼル、すまんな」
俺はレジ打ちを続ける。
「ありがとうございました!」
そう言うと、帰っていく人たちは嬉しそうな顔をして帰っていく。
「お兄ちゃん見ていると気持ちがいいよ」
今日は褒められまくる日だ。嬉しくてレジ打ちのペースがどんどん速くなる。
「マゼル、レジ打ち早くなったんじゃないか!」
「そんなことないですよ、フランコさん」
「そろそろ閉店するか」
「そうですね」
閉店時間を迎え、二階に上がりフランコさんが作った野菜炒め、ご飯それと味噌汁を食べ、俺は階段を降りていった。外を見ると、また赤い飛行機が見えた。
俺は今日気づいた。人々が勇戦戦争によって苦しんでいることを。どうにか止めることはできないのであろうか。
フランコさんが食器を洗う音が二階から聞こえてくる。では、そろそろ寝るか。そう思った瞬間、窓から声が聞こえるような気がした。窓を見ると、赤い武装をした俺と同年代ぐらいの女性がいる。
「中に入れてもらえないですか? 魔王軍に追いかけられているのです」
俺は少し悩んだが、女性を中に入れることにした。
「ありがとうございます! この御恩は忘れません」
俺は近くにあった机の上のコップに水を注いで渡した。女性は、渡した水をゆっくり飲んでいく。
「今日ここに泊まることはできないでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「注文が多くて申し訳ございません」
「いいんですよ」
俺は女性にシャワールームに案内した。女性は俺に一礼して入っていく。
すると女性が帰ってきた。体にタオルを巻いたためだったため、服を貸すことになった。
「そういえば、私の名前言い忘れてましたね。私の名前はマリーです。あなたの名前も聞かせてください」
「俺はマゼルです」
「マゼル……!まさか、魔王の仲間ではないですよね?」
「いや、昨日この世界に転移したばっかりですよ」
「勘違いしてしまってすみませんでした」
「大丈夫ですよ、それよりもなぜあなたは魔王軍に追いかけられているのですか?」
「私は勇者の仲間であり、魔王軍の機密情報を得たのですが追いかけられるはめになってしまって……」
「大変ですね……」
俺は仕方なく床で寝ることにした。
「ベット使わないんですか?」
「大丈夫です。マリーさんはベットで寝てください」
俺は床に倒れ、眠りについた。マリーさんはまだ起きているようだ。
「マゼルさん、この恩はいつかお返しします」
マリーさんから聞こえた今日最後の声だった。