第三十七話 病院での勇戦戦争
ウールタウン――病院
「これで安静にしていてください」
俺は体が包帯だらけである。血の色が滲んでいるが。
どうやら俺はマゼルということはバレているようだが、魔王だということはバレていないらしい。
病院の大きな窓は俺と夕暮れの太陽との距離を近づけてくれた。
景色がとても美しい。雨が降ったからだろうか。虹がよく見える。
「マゼル、本当に悪いことしちゃた。ごめんなさい!」
ベットの横でラズラが話しかけてくる。
「ああ、俺が悪いんだ。ごめんな」
魔法教室のお姉さんは時間がないと言って車で帰っていったらしい。
そう、この病室で二人だけだ。
俺はラズラに詳しいことを聞こうとはしなかった。
俺を刺した理由、ラズラがなぜここにいるのか、シータは生きているのか。
聞いても今の状況は変わることはない。
自分から話しかけないことは悪いことだろうか。
この異世界のルールを何も理解していない俺が。
もうすっかり夜になってしまった。
俺は飯を最近食べていないので、腹が空いた。
でも医師たちは俺の体のことを考えると、食べないほうがいいと。
俺がこの異世界で学んだことは、大きく二つある。
一つ目は、この異世界では魔王が嫌わらている。なおかつ恐れられているということ。
二つ目は、ここには転移者と転生者の二種類の人物がいるということ。
これは俺の推測なのだが、勇者軍が悪の組織だということだ。
なぜなら、地下にいる悪の勇者。そいつが俺の体を乗っ取ったと思われる。
あくまでも勇者であり、あのとき勇者軍のバッチがついていたことも鮮明に覚えている。
「わ、私……」
「なんだよ、ラズラ」
ラズラの声が震えている。
「私、呪われているの」
「なんだよ、呪われてるって!」
俺はラズラが呪われていることがとても怖かった。
「君を勇者軍のところまで連れて行かないと私が死ぬの!」
し、死ぬ……。
俺はこの言葉を信じることができなかった。
この異世界はおかしい。
いや、それとも俺の頭はおかしくなっているのか?
駄目だ。自分を信じられない。
「今から勇者軍のところに行こう!」
仰向けのまま俺は話を続ける。
「駄目! こんな姿じゃ移動も出来ない! しかも勇者軍のところに行っちゃったらマゼルが……」
「俺のことなんて気にしなくていいから。だって俺はもう死んでるんだ」
「なんでだよ、私は君を傷つけたんだよ。死んでるなんて関係ない! なのになんで私を助けようとしてくれるの? 私なんかほっといていいんだよ! でも、私を助けてほしい……。こんなこと言ってごめんね」
俺、なんで涙が出てるんだろう。
この嫌いな異世界で。
「いいんだよ、俺が守ってやるから」
俺が魔王になるまでは……。




