第三十一話 転生者の勇戦戦争
薄暗い朝。俺は道の端で寝ていた。
俺はもう一度、魔法教室に入る。
「すみません」
入口は誰の気配もしない。多分お姉さんが明日に来てと言われたので魔法教室は休みではないはず。
すると、奥の扉からお姉さんが出てきた。
「ごめんなさいね、ここに名前を書いてくれる?」
お姉さんはこちらに名簿を渡す。
しかし、その名簿にマゼルの名前があるのに気づき、驚いてしまった。
「マゼル……」
俺が固まった表情で名簿を見つめた。
「マゼルくんと友達?」
友達というか、実は俺がマゼルなんだが……。
「ああ、一度会いたくて」
「今日も来てくれるらしいから」
会える。俺はその意味が理解できなかった。マゼルという人物は闘技場にいるはずなのだが。もしかして洞窟から出られたのか。
俺が教室の中に入ると、誰もいなかった。多分だと思うが来るのが早すぎたんだろう。
俺は教室の端で座って待つことにした。
両手で何度も頰をつねったが、どうやら俺の体は消えてはいない。しっかりと顔を触ることができる。
これで、本当に俺は死んだのか。
そう思いながら窓の外を見ると、空には赤い飛行機が飛んでいた。
マリーさんの獄炎武装は美しい飛行機のように見える。これを何度見てきたことか。
快晴の中、俺はこの小さな魔法教室でただじっと異世界を眺めているだけだった。
魔法とは自分としては最悪の武器であるのに、魔法使いを選択した理由。それは俺が不死の力を手にしているならば、時空間魔法も使用できる可能性が十分あるからだ。それでこの異世界と自分自身を救えるならば。
そしてドアから思われる人たちが部屋の中に入ってくる。そこにはゆっくりと歩く男の姿があった。胸には青いペンダント。横にはラズラもいる。
震えながら俺はなんて声をかけようか迷った。魔王で不死の力を持つマゼルに対して、俺は何も魔法を使えないさっき転生した魔法使いだ。
俺が今、彼と戦っても負ける。ならば積極的に声をかけて距離を詰めようと思った。
しかし、俺の名前はシータだ。怪しまれる可能性も十分ある。
俺はマゼルと同じ身長、顔も多分同じだろう。服装が変わっているだけで同じ人物が二人いることに気づかれると危ない。相手はあくまで俺ではなく魔王。早くラズラを救わなければマゼルが何をしでかすのかわからない。
それにマゼルのそばにシータがいないことに不思議で仕方がないのだ。
シータはもしかして死んだのか?俺は決してそう思いたくはなかった。しかしマゼルの表情はとても嬉しそうで、元気がいい。
俺はそんな魔王を不自然に思う。
声をかけることが怖く、近寄れない。自分自身が俺にどう接していいのか。俺を一番よく知っているのは俺のはずなのに。
俺は魔法教室の窓の外を見て、俺と目を合わさないようにしていた。手を異世界の青い空に向けながら。




