第三十話 地獄の勇戦戦争3
俺はもう一度、異世界の入り口に来てしまったみたいだけれどもそこには金髪の女の姿はない。
正直、俺は死んでここから出られると思っていた。
魔法使いか戦士を選択する小さなタッチパネルの前に立っていたのだ。
座りたくても座れなかった。倒れたくても倒れなかった。ただ、動くのは手だけ。
これが、俺の不死の力……。
死んでもこの異世界から出られなかった。今頃俺は死んだことに後悔する。もう、出られない。これが俺の運命。
手だけしか動かない俺は震えながらタッチパネルを操作する。
魔法使いを選択。名前を入力――マゼル
その名前は使用されています。変更してください。
俺は何度も決定を押す。
その名前は使用されています。変更してください。
こう表示されるだけだった。
タッチパネルを何度もおもいっきり叩いた。全く力が入らないこの手で。
俺の名前は使用されていた。死んだはずの俺がここにいるのに。
「おまえは死んだ。私がおまえの体をもらったのだ……!」
そうだよ、俺の体は奪われたんだっけな。死んだって言われたけど、俺は本当に死んだのかわからなかった。
手が動く。音が聞こえる。目が見える。なのに死んでいるのか?もし生きているなら、異世界から出たい。まぁこの異世界から出られてもホームレス生活が始まるだけ。もうどっちも嫌だ。だから死んだのに。
涙を出し震えながら、タッチパネルを再び操作した。
魔法使いを選択。名前を入力――シータ
一度、異世界にいると思われるシータの名前を試したかった。もしこれで変更してくださいという表示がされていないとおかしい。
では異世界に転生します。
シータの名前を使ったのに転生できてしまった。
俺は異世界転移でここにきたはずなのに異世界転生になっている。
俺はやっぱり死んでいる。
光に包まれた俺はどこかで見た街に転生した。
気づけば全身が動かせるようになっていた。
目の前には無料魔法教室の看板。そう、ここはマッガ。魔法使いの街。
もうこの街は魔王によって潰れたはずだが、一つも風景は変わっていなかった。
この異世界はまるで魔法のようだ。転移しても転生してもここにいることが不思議で仕方がなかった。
俺が恐る恐る魔法教室の中に入ると、そこにはお姉さんの姿があった。明るく元気なその笑顔はどこか懐かしく思えた。
「今日はもう終わりなの。明日でいいなら来てくれるかな?」
「わかりました。ありがとうございます」
思えば、そろそろ日が沈む頃だ。金も武器も持っていない俺はこれから異世界にいる自分自身と出会わなければならない。俺がこの異世界に生きていることを信じて。




