第二十九話 地獄の勇戦戦争2
「マゼルさん! 何やってるんですか!」
俺が血まみれになっていることは周囲の人間もわかっているが、誰も声をかけてくれないのは当たり前だ。
どんどん腹の深い傷が治っていく。それは一生俺が死ねないということを暗示していた。
けれども俺の心の傷は消えない。この異世界から消えたいのに自分のことを心配してくれるシータやラズラ。
俺なんて迷惑な存在なのに。それなのに……、それなのに……!
「マゼルさん、マゼルさんってば!」
俺は気づいてしまった。一代目魔王アーゼルの時空間魔法、そして二代目魔王ザゼルの不死の力を手に入れてしまっていることを。
もう、俺はこの異世界では魔王なんだ。
俺の体中が黒に染まっていき、体が重くなっていく。
徐々に俺の思うように体が動かなくなって、目が血の色に染まる。
「魔王だ! みんな殺せ!」
周りの人たちはみんな俺を攻撃するが、もう俺は魔王になっていて死ねない。ただ痛みだけが残る。
剣、槍、斧。そんな攻撃では俺は死なない。死ぬことができない。
前も何も血で見えない魔王は何も動けない。武器を持った人間が群がっているだけだ。血は止まらない。
もう俺の血を流さないでくれ。
最悪だ。俺が死ねないこと。
最高だ。俺に仲間がいること。
最悪だ。俺が魔王であること。
最高だ。異世界で生活できたこと。
最悪だ。俺が異世界に転移したこと。
そして一番最高なことは俺がここで死ねないこと。
俺の心は闇に染まりどんどん自分自身を失っていく。俺の、俺の心は完全に死んだ。死ねた。
心を失うとすごく体が楽になって痛みがなくなっていき気持ちいい。
俺は魔王になれて最高だ。
みんな殺しちゃったらこの異世界を救える。死ねないなら俺が異世界の覇者になる。
心の奥から俺ではないなにかが俺を動かしている。
「おまえは死んだ。私がおまえの体をもらったのだ……!」
「俺は……死んだ……」
俺は死ねたんだ。やっと異世界から出られる。そう思ったのだが、急に真っ白な光が俺を包んだ。
「おまえの願い、叶えてやったぞ。おかげで私の願いも叶った。もう一度教えてやろう、不死の力を手に入れた、と」
俺は不死の力がなんなのか理解できず、目の前に光が見えた。
それは傷だらけの闇に覆われた光なのであった。




