第二十八話 地獄の勇戦戦争
明るいこの洞窟の中に俺とシータは黙って立ったまま下を向いていた。なんだか心がすごい締め付けられているように。
俺は人間を殺したくはないが、俺はもう人間を殺している。魔王軍の騎士たちだって人間だ。
なぜ時空間魔法を使ってしまったのか自分でもわからない。また勇者に向けて爆炎銃を使った理由もいまいち理解できない。
俺はこの異世界で魔物だけを倒せばいいと思っていたが、実際そうではなかった。勇戦戦争という残酷な戦争が続くこの異世界。
俺が転移した理由は魔王になってこの異世界を支配することなのか。いや、違う気がするんだ。
人間を殺すことだって間違っている。
けれどもなぜ俺は今まで沢山の人間を殺したのにさっきのドードルートの言葉を聞いて腕が震えるのだろう。
俺だってこの異世界で無双したい気持ちがあった。けど俺が異世界に存在しなくてもいいのではないか?そう思った。
俺のせいでこの勇戦戦争がもっと最悪な方向に発展してしまうのも事実。自分なんか死ねばいいのに。
ラズラがあのとき魔法封印術を使ってくれた理由もよくわかった。俺はいろんな罪を犯した。
なんで、なんで俺を転移させた!この異世界にいて幸せなことなんてもうないんだよ。
勝つために人間を殺す。そんなのできるわけがない。
今すぐこの刃こぼれしたナイフで俺の腹を突き刺そうか。
俺は無言で自分の腹を刺し続けた。痛いけれどもこれが俺が幸せに生きる方法である。心の痛みがまるでなくなっていくような。
あれ、俺の腕が震えながらまだ動いている。なんでなんだよ。俺の血は大量に流れ出ているのに死なない。
俺はもっと力強く腹を刺しまくった。
刺す力が足りないのは自分のせいか。いっそ崖から落としてもらったほうが楽なのか。
異世界がおかしいのか自分がおかしいのかいまいちよくわからない。
これでもう魔王扱いは終わりだ。そう思った、そう思いたかった……。
「死ねない」
なんで死ねないだよ!
俺は、なぜこの異世界にいる意味がある?ただの人殺しは消えてなくなったほうがいいだろ!
大量の赤い液体と透明の涙をこぼしながら闘技場の天井を見上げたら、そこは、そこは……何も変わらない俺の姿が写っているだけで、誰も俺の気持ちをわかってくれる人がいなくて。
現実世界で不幸だったんだから、異世界ぐらい幸せになりたかった。
現実世界で誰も俺を助けてもらえなくて。
俺だって、何度も悪者扱いされてきた。学校でもホームレスとバレてしまい、いじめを受けて何度も自殺しようと思った。でも妹が見つかるまで俺は死ねなかった。
もし妹が見つかって俺が自殺したと知ったら妹が悲しむ。そう思って今まで生きてきた。
両親がいない俺には相談相手なんていなかった。
ただ知らないおじさんたちと話をし、アルバイトをする日々が続くだけ。冬休み中の三月の誕生日なんて誰も祝ってくれない。
でも、俺が異世界に転移したときは興奮した。たくさんの人に出会い、いじめられることもなく楽しい生活ができた気がした。
しかし俺は悪魔暴走を使われて悪者扱いされた。
魔王なんて嫌なんだって言ったって誰もこの呪いの魔法を解いてくれないのだろう。
妹がいないこの異世界で俺が生きる理由なんてないのは知っている。
でもどうして俺はどんどん最悪な方向に進んで行くのだろう。
誰でもいいので教えてほしい。
こんな馬鹿人間死ねばいいのに。




