第二十五話 シータの勇戦戦争(後編)
俺の服はビーストの流した赤い血が大量についていた。
「そろそろいくか」
俺たちはまた洞窟の奥に進む。しかしシータの魔法書は今にも破れそうで怖い。
それから俺たちはビーストを何度も倒し、そして休憩。これを何度か繰り返した。
けれども俺はただ刃こぼれしたナイフを片手に見守るしかなかった。
「マゼルさん、休憩させてください」
連続で魔法を使うシータは俺に魔道書を貸してくれと言っても断ってくる。俺のことを心配してくれているのだろう。
俺なんて爆炎銃と時空間魔法しか使えない魔法使いだ。マッガの街で学んだ火の魔法や水の魔法は戦闘では使えない。しかもなるべくシータの目の前で時空間魔法を使いたくないのだ。
一方シータは、風魔法を上手く使ってビーストたちを倒していく。しかもシータの使う風魔法の種類は豊富だ。
俺は食料が無くてもホームレス時代のおかげか、全然平気だ。でもシータはお腹が空いている様子で、お腹が鳴る音も何度か聞こえた。
俺の水魔法で喉を潤した。なんとか水は確保できるのだが、問題は食料だ。
「ビーストの肉って食えるか?」
俺が冗談で言ってみたが、シータは嫌そうな顔で首を上下に動かす。
俺は刃こぼれしたナイフで皮を剥ぎ、火の魔法を使ってビーストの肉を焼くことにした。
けれども俺の火の魔法は弱くてなかなか焼けない。
「もう諦めるか」
「僕の風魔法で火の威力を強めましょう」
シータにぼろぼろの魔法書を渡し、風魔法を使うと一気に火の威力が強まりビーストの肉がいい感じに焼けた。
「これ、食えますか?」
「先に俺が食べてやるから大丈夫だ」
俺はビーストの肉をナイフである程度切って食べることにした。
「あっつ!」
焼いたばっかりなので熱かった。これはちょっと冷ましたほうがいいな。
けれどもビーストの肉は予想以上に美味しい。俺は水の魔法で口に水を注いだ。
「これは美味いぞ、シータ!」
「本当ですか?」
シータは俺がビーストの肉を食べていることに対して相当怖いと思っているのか、肉を食べようとはしない。
「これじゃあ腹減るぞ! 食ってみろって」
「じゃあ……いただきます」
シータはゆっくりビーストの肉を口にいれた。
「お、美味しいですね!」
「いっぱいあるから、たくさん食おうな」
二人でビーストの肉を一匹分丸々食べきった。
俺たちはビーストの肉で腹一杯だが、ここから動かないわけにはいかない。こんなところにずっといるのは危ないしな。
「おっ、こんなところに人間がいるぞ……」
おい、さっきの声は誰だ?奥の方から聞こえるのだが……。
「さっき声が聞こえませんでしたか?」
やっぱりシータも聞こえていたようだ。そして足音がだんだん大きくなっていく。
「ふっふっ! 貴方達、こんなところでよく生きていますね」
「おい、誰だ!」
「我が名はデスペル、悪の勇者だ」
デスペル……!確か看板の入り口に書いていたな。
ここは魔の迷宮。今すぐここから出たければ、この洞窟にいるデスペルという男に救ってもらえ!
そうだ、この男に救ってもらうんだ。
「俺たちをここから出してくれないか?」
「ここから出す? そんなことする気なんて一切ない」
こいつに救ってもらえなければ出られないのに救ってくれなかったらどうやってここから出ればいいんだ?
俺とシータが悪の勇者に出会ってしまったことが地獄の始まりだった……。




