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マゼルの勇戦戦争  作者: モルモラ
第一章 旅立ち編
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第一話 馬鹿人間の勇戦戦争

 今日、俺の中学校の校舎内で悪魔が現れた。


 俺が教室に筆箱を忘れて取りに帰ったとき教室で何かが割れる音が聞こえたのである。


 よく見るとガラスの瓶が割れている。俺は立ち止まった。

「あーれ? これあなたのせいでしょ?」

  俺は見ていた。眼鏡をつけた女子がクラス一性格の悪い野口さんにぶつかり、教室の端っこにあったガラスの瓶が割れてしまったことを。


「ごめんなさい!」

 彼女は肩から血を流しながら横たわっていた。

「ごめんなさいでは許されるわけはないわ! 土下座しなさい! 土下座!」

 ガラスの瓶はひどく割れていて、破片が散らばっていた。

 彼女は渋々ゆっくりと起き上がって野口さんに土下座した。野口さんは笑った顔で彼女の頭を何度も蹴りつけた。黒い髪の毛は乱れていく。しかも野口さんの周りには女子二人がいて笑っている。


 これを見ていて注意する人間は一人もいない。何故なら、もうとっくに終礼から一時間ほど過ぎている。すると野口は彼女のカバンからノートを取り出し破っていく。一冊、二冊、三冊……と。

 教科書もそこら中にばら撒かれた。

「これはあなたへの罰よ! ぜーんぶあなたが悪いんだから!」


「何言ってんだ、あいつ」

 心の声が漏れてしまった。女子と相手をしたくないが、今回は仕方がない。

 あいつらと話し合っても勝てる自信は全くないので、俺が悪役でも演じてやろうかと思った。


「輝くん? 今さっきなんて言った?」

 はい来たよ。俺にまで敵にする馬鹿女。

「ガラスの瓶を割るのを指示したのは俺だよ」

 俺は嘘をつくのが下手くそだ。

「あー、可哀想! この子が泣いちゃっているよ」

 とりあえず俺が悪役になった。嘘は本当に下手くそだが、相手もバカだったようだ。

「早く蹴るのをやめてやれよ」

「やめないよ! 土下座よろしく」

 何を言っているのか?土下座なんてこんなことでするものなのだろうか。

 もう我慢の限界だ。教室の中に急いで入って俺は彼女の手をとり逃げようとした。


「はい、バーカ!」

 俺と彼女が逃げ出そうとした瞬間、野口は俺に回し蹴りを的中させた。俺は顔を打って倒れ、鼻血が大量に出てきた。本当に悪い女だ。

 一方、彼女はすばやく廊下に逃げ出しこちらを見てまだ泣いている。

「今度はあなたの番ね!」

 俺を何度も何度も蹴り続け三十分程度。頭にはあざが残り、立ち上がれないくらいにふらふらになっていた。


「今日はこれぐらいで許してあげる」

 オレンジ色の夕暮れの空は俺を優しく温めてくれた。やっと終わった。もし俺が悪役でも演じてなかったら彼女はずっと蹴られていたのだろうか。

「大丈夫……ですか?」


 彼女は震えるような声で俺に話しかけて来た。家に帰っててもよかったのにとは思ったが、彼女は俺のことを気にしてくれたのだろうか。計画では、彼女とふたりで走って帰るつもりだったのに。

「私のせいでこんなことなってごめんなさい」

 俺の耳元で語りかける小さな声。その声は恐怖で震えているように聞こえた。

「俺が話に割り込んでしまったからだよ」

 彼女は何一つ悪くない。俺が悪いのだから。自分がみっともない姿になっていることがとても悔しい。

「何で私を助けてくれたの? 教えて」

 何でって言われたって返す言葉がない。めいいっぱい考えたが、やはり思いつかない。

「とりあえず、家に帰ろうか」

 彼女にそう告げると俺はフラフラになりながら立ち上がった。


「すこしだけここに居てくれる?」

 俺は、彼女のこの言葉に戸惑ってしまった。

「何でここに居る必要があるんだ?」

 そう答えると、彼女は自分の手を強く握りしめる。

「私の話、少し聞いてほしい」

 彼女は俺に何を伝えたいのかは理解出来なかったが話ぐらい聞いてあげようと思った。どうせ暗い話だろうなと思っていたが……。

「実は私、家でも虐待にあってて」

 彼女は可哀想だ。いじめ、虐待、おまけに傷だらけだ。

「ごめん、俺はどうすることもできない」

「そ……そうだよね、こんなこと言ってごめんね」

「先生には言ったのか?」

「言ったけど無視されて……」

 本当にこの学校はどうかしている。

「ここの人間は馬鹿人間ばかりだな」

「バカ人間……?」

「野口、両親、先生……それに俺だって全員馬鹿なんだよ!」

「輝くんはバカじゃないよ、私を助けてくれたのに」

「やさしいな、お前は」

「そんなことないよ、私なんかいなくなればいいのに」

「もうちょっと前向きに生きていこうぜ」

 彼女は初めて俺に笑顔を見せてくれた。とても嬉しい。こんな世界から抜け出せればいいのに。


 そう思った矢先の出来事である。光が現れ俺たちを包み込んだのだ。


「おめでとうございます! あなたたちはこれから強制的に異世界に移動します!」

 現れたのは金髪の女だ。

「何ですか、俺たちは異世界に移動するって嘘言わないでください! っていうかあなたは誰ですか?」

「あとで説明します! では出発しますよ!」

 俺と彼女は渦巻きのようなものにのみ込まれ、頭が一瞬だけ痛くなった。


「さあ、異世界にようこそ!」

 さっきまでいた彼女がいない。もしかして彼女は……?

「何で彼女は消えているのですか?」

 俺は冷静に質問した。そして女は暗い顔をして俺にこう伝えた。

「あの方は、別の場所に飛ばされたと思われます」

「今すぐに会えることはできるのか?」

「今すぐには会えないですが同じ異世界なので会える時が来るでしょう」

 俺は彼女にはもう会えないかと思っていた。また今度会えるなら、また話がしたい。


「では、あなたの名前をどうぞ!」

 金髪の女はハキハキと喋る。

「戸田輝です」

「この世界での名前ですよ! もっとかっこいい名前をつけましょうよ!」

 これは厄介だ。本名が異世界に存在できないとすれば彼女に会える可能性が極めて低くなる。まぁとりあえず、かっこいい名前をつけなければいけないのだ。

「名前をつけてくれませんか?」

「初代魔王アーゼルの名前から"マゼル"ってどうでしょうか?」

「じゃあ、それで」

 正直、名前だってどうでも良い。


「では、マゼルさん! 職種を選んでくださいね」

 職種は戦士、魔法使いの二種類がある。戦士の上級職は勇者、騎士、忍者、騎士、弓使い。魔法使いの上級職はウィザード、特殊魔法師、回復支援専門魔法使い。訳がわからなかったのでとりあえず魔法使いにした。


「では、異世界を存分に楽しんでください」

 っていうかあの女は結局何も説明せずに俺を異世界に転移させることとなるのであった。


 異世界転移した俺はレンガの建物の前にいた。鼻血まとまっていて、頭のあざもない。

「お兄ちゃん、ようこそ異世界へ」

 筋肉ゴリゴリなお兄さんが急に話しかけて来た。

「ちょっと人手が足りないからさ、手を貸してくれよ」

「まぁ……いいですけど」

 いきなり仕事をもらった俺だが、苦笑いするしかなかった。

「俺はフランコって言うんだ、よろしくな」

 フランコは俺の手をとり建物の中に入っていく。建物の中はアイテムが散らかっていて、まるで魔獣の巣窟みたいになっていた。

「ここを片付けてくれんか? もちろんタダとは言わない」


 この世界のことを全く知らないので俺にとっては好都合だ。アイテムの種類も覚えることもできるし金ももらえる。一石二鳥だ。


「ここのポーションは左から二番目な」

 フランコの指示のもと俺はアイテムを次々と片付けていく。

「これで最後だ!」

 三十分程度で片付けは終了した。大量な汗をかき俺は疲れ果てていた。


「お兄ちゃんごめんな、お金ないんだ」

「お金くれないんですか?」

「その代わりと言ってはなんだが、この中のアイテムを一つ選びな」

 一つと言われるとなるべく高級なアイテムをいただきたい。しかしまだ異世界に来たばっかりなので何がなにかわからない。

「フランコさん、ここで働かせていただかませんか?」

 ここはアイテムを入手するより少しでも異世界のことを学ばなければならない。お金もある程度必要だし。

「人手も足りないしお兄ちゃん気に入った! 明日からちゃんとお金渡すからな」


「一つ質問していいですか?」

「お兄ちゃん、なんだ?」

 フランコさんが俺の目をじっと見つめた。

「何故このお店が散らかっていたのですか?」

 本当は聞いたらいけなかったのか?フランコさんは下を向いて話してくれた。

「まぁこの荒らし方ひどいもんだったな、お兄ちゃんは異世界に来たばっかりで知らないと思うだけれど勇戦戦争が始まっているんだ」

「勇戦戦争?」

 聞いたことはない。戦争というだけあってきっと過激なことだろうと大体想像がついたが。

「勇戦戦争のおかげで店は賑わって大忙しだが金を奪っていく奴らが多くてな、この店も被害にあった。勇戦戦争のせいで貧しくなる人もいっぱいいる。仕方がないことだが、勇戦戦争をはやく終わらせてほしいのが民衆の本音だ」

「お店の方も大変なんですね」

「いや、店よりも農村地帯が大変なんだ。食料はないし村の畑は焼け野原だよ」

 この世界で楽しく生きていけると思っていたが、そうはいかないようだ。


「お兄ちゃん、名前は?」

 一瞬、戸田輝と答えようとしていたが危ない。この世界での俺の名前はマゼルだ。

「マゼルと言います」

 フランコさんは少し悩んだ顔でこちらを見る。


「マゼルか、初代魔王アーゼルを思い出すな」

 そういえば金髪の女もアーゼルの名前からマゼルって名前つけたんだったな。

「アーゼルって、どんなやつなんでしょうか?」

「アーゼルか、俺は一回戦ったことがあるよ」

 フランコさんが嬉しそうに話す。

「本当ですか?」

「あいつは強いよ、最終的に逃げられたがな」

「そうなんですか」

「あいつはチート能力を持っていてな」

「チート能力?」

「そう、敵を時空間に送る魔法だ」

「時空間って……」

「俺も行ったことはないが、二度と帰ってこれないという噂があるんだ。しかしこの世界には時空間って存在していないはずだが……」

 そう言うと、フランコさんは俺に腕のギズを見せてくれた。すごく深い。

「そう思えば、この傷も五年前か」

「今、アーゼルはどこに?」

「今の勇者がやっつけたらしいが、今も二代目魔王ザゼルは生きているから厄介なんだが。まぁとりあえず話はこれくらいにして寝ようとするか」


 そう思えば日はすっかり沈んでいた。フランコさんは俺を店の中の小さな部屋に招き入れてくれた。

「異世界は始まったばかりだろ? ここに飯置いてあるから食べとけよ」

「ありがとうございます、フランコさん」

「そんな気をつかうな、マゼル」

 俺はフランコさんに用意された飯を食いながら、外の光を見ていた。

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