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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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087 ミタテ平野決戦②

 マシロは全速力で青髪の男に接近する。剣が届く範囲に入るまで数秒かからないだろう。そのわずかな時間で相手を観察する。

 背まで伸びた青い長髪。動きやすさを重視したラフな服装。特殊な性能があるようには見えない。しかしその両手に携える短い双剣は、少々異様な形をしている。

 剣というよりは鉈の方が近い。刃がかなり分厚い。そして刃の反対側が何ヵ所か欠けている。刃こぼれではなく、意図的に欠けさせているようだ。


 ・・・見たことがない武器ですね。しかし、構えから見て、剣であることは間違いないでしょう。当たらなければいいだけの話です。


 本当なら、もっと慎重に分析したい。しかし、今のマシロには時間がなかった。

 すでに雨水はマシロの髪や肩を伝い、顔に迫っている。鼻などから体内に侵入し、脳や内臓を破壊するつもりだろう。その前に青髪の男を倒さなければならない。

 制限時間は30秒もないだろう。マシロは初手から勝負に出る。


「『奥義・花鳥風月』」


 マシロの短い詠唱とともに、身体強化魔法が全身を最大限に強化し、身に纏う黒い服「影縫」が所定の動きを始める。両手の「黒剣」と両手両足に仕込んだナイフ「黒爪」にも魔力が供給される。


 ・・・これが私の集大成。これで勝てなければ、それまでです!


ーーーーーーーーーーーー


 カイルの目が、高速で迫る白い髪の女性<疾風>の動きを余さず捉える。

 <疾風>はカイルまであと10mというところで、急激にブレーキをかけた。その直前に呟いた詠唱は聞こえなかった。


 ・・・さあ、何が来る?


 まず飛んできたのは、ブレーキをかけた<疾風>の足に蹴り出された泥や石だ。かなりの速度で飛んでくるが、カイルはそれを地面から滝のように立ち上る水流で難なく処理。

 しかしその水の壁を突き破って黒い影が飛び出す。


 ・・・投げナイフか!多い!


 飛んできたのは真っ黒のナイフ20本。水の壁で触れたことで、それに魔力が込められていることを把握。


 ・・・素材はわからないし、ナイフを操作する魔法なんてあったか知らないが、操作できると見るべきだな。ならば!


 魔法で操作された物体を止める方法は、同じように魔力を込めた物をぶつけて、それに込められた魔力を乱すのがポピュラーな方法だ。当然、込められた魔力より大きい魔力をぶつけなければ、乱すこともできない。

 カイルは立ち上らせた水流を即座に方向転換させ、自身に迫るナイフめがけて落とす。さっきよりも多大な魔力を込めたうえ、重力による加速で物理的に軌道を変えさせる効果も期待できる。そして、狙い通りにすべてのナイフを叩き落した。

 カイルの『レインメイカー』は、一度発動すれば、その雨水は好きに操れる。それゆえ、こういった操作にも詠唱が必要ない。実戦においては大きな利点だ。今も高速で飛んできたナイフに水を追いつかせることができた。


 ・・・さて、次は何を・・・何!?


 ナイフを叩き落したカイルが<疾風>に意識を戻すと、瞬時にその姿が移動していた。

 ナイフに気を取られたほんの一瞬。その間に<疾風>はカイルの頭上へと移動していたのだ。カイルが雨による触覚式魔力感知を常時行っていなければ、確実に見失っていただろう。

 カイルが見上げるよりも早く、<疾風>は手に持った剣の片方を投げた。しかしカイルの感知能力が、それはただ投げたのではないと知らせる。魔法によって加速された矢のような攻撃だと瞬時に判断する。


 ・・・目で確認する暇はない!


 カイルはその飛んで来る剣の軌道を予測して、半歩横に移動することでぎりぎり剣を躱す。剣はカイルの左腕をかすめ、地面に深々と突き刺さった。


 ・・・なんて鋭利な。当たったらただでは済まなかったな。


 そんな感想を抱いた次の瞬間、またしても雨による感知が信じられない状況を伝えてくる。

 なんと<疾風>は頭上の空中にとどまり、足に何かを展開。それを蹴って跳び込んできた。

 思わずカイルは頭を上げ、目で確認する。頭上の空中には黒い蜘蛛の巣のようなものが広がり、宙に浮いている。<疾風>はそれを足場にしただろう、もう目の前に剣を構えて迫っていた。


 ・・・くっ!間に合え!


 地面の水は間に合わない。今降っている雨水では量が足りない。水では止められないと判断したカイルは、その手の剣で防御する。

 そして、亜音速で迫る黒い刃を、なんとか剣で受け止めた瞬間、その黒い刃が砕ける。

 そもそもそれほど頑丈な剣ではない。衝突の衝撃で容易に砕けた。その破片がカイルに降り注ぐ。顔に、肩に黒い刃が刺さり、痛みが走る。


 ・・・痛てえ。ダメージを負うなんて久しぶりだ。


 カイルは『レインメイカー』を使いこなせるようになってからは、敵に接近すら許したことがない。手古摺ったのと言えば、先代の<疾風>ハヤトの氷魔法くらいだ。ダメージを負うのは本当に数年ぶりだった。

 しかし降り注いだ刃による傷は浅い。かなりの速度で当たったのに軽傷で済んだのは、カイルのある体質によるものだ。それに感謝しながら、カイルは<疾風>を見る。

 <疾風>は折れた黒い剣を両手持ちで振りぬいた状態で着地したところだ。着地の衝撃でまた泥や石が飛び散るところだったが、それはカイルが地面にたまった雨水を操作して抑え込んだ。

 すかさず<疾風>の足を水で捕らえる。武器を失った<疾風>の動きを奪えば、それで終了だ。だが、油断はしない。ダメ押しとばかりにカイルは両手の剣で斬りかかる。


「終わりだ、化け物!」


 その瞬間、カイルは<疾風>がぼそりと言った言葉を聞く。


「・・・『げつ』」


 その詠唱と同時に<疾風>は地面に刺さっていたもう1本の剣とともにカイルの視界から消えた。


ーーーーーーーーーーーー


 マシロは目の前の状況に我が目を疑う。

 『奥義・花鳥風月』は、マシロの4つの必殺技を連続で繰り出す技だ。仕込んだ20本のナイフ「黒爪」を同時に射出する『花』、敵の頭上に跳んで急所に「黒剣」を撃ちだす『鳥』、空中に足場を作って高速で斬りかかる『風』、そして最後に敵の死角に高速で回り込んで攻撃する『月』。

 『花』『鳥』『風』『月』はどれも単体でも必殺の威力を誇る技だ。それを3つまで防いだ青髪の男は流石だと思った。だがそれは想定内。最後の『月』は完全に隙をついたと思った。何しろ、わざと前の3つの技の速度を抑えて、それを最高速度だと思わせ、最後の『月』だけ全速力で行使したのだから。

 確かに隙をついた。完全に敵はマシロを見失っていたし、確かに「黒剣」が敵の頸椎に当たったと思った。

 だが、信じられないことに、「黒剣」は敵の肌の上、いや長い青髪の上で止まっていた。よく見れば完全に止まっているのではなく、少しずつ髪が切れている。だが、すぐには切れない。


 ・・・髪が堅いのか?鉄すら切るこの「黒剣」よりも!?


 そんな考えで一瞬動きが止まったのを、敵は見逃さない。首に当たる「黒剣」をその手の剣で押し返す。「黒剣」は敵の剣の刃の溝にがっちり挟まり、滑らない。

 そこでマシロはその剣の形状が、防御に重きを置いたものだと理解する。それと同時、敵が剣を捻ると、容易く「黒剣」が折られた。

 さらに敵の足元から強烈な水流が流れ出し、マシロを攻撃する。下手をすれば身体を貫通しかねない威力だが、防水仕様に緻密に編まれた「影縫」のおかげで貫通は免れる。しかし代わりに腹に強烈な衝撃を受けた。内臓へのダメージを感じると同時に吹き飛ばされた。


「お前との接近戦は危険なようだな。」


 敵の言葉が聞こえ、態勢を立て直すと、5m以上離されてしまった。

 マシロは折れた「黒剣」を捨て、拳を握りしめる。内臓のダメージを回復しながら立ち上がり、走り出す。


「まだだ!」


 ・・・奥義が破られればそれまで、と考えていましたが、諦めるわけにはいきません!私のため、ハヤトのため、国のために!たとえ素手でも・・・


 最後まで諦めない。野に生きる者なら当然のこと。生きるのを諦めるのは、自身の犠牲が仲間を救う時だけ。今がその時でない以上、マシロに諦める理由はない。

 そんな覚悟で走り出したマシロは、しかしすぐに止まることになる。敵の無慈悲な言葉とともに。


「いや、終わりだよ、化け物。今度こそな。」


 身体が急に動かなくなる。糸が切れたように斃れる体が、他人の体のように感じる。

 必死に動かそうと意識するが、身体は一切反応してくれない。身体が地に伏すと同時、マシロは意識が途絶えた。

 

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