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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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082 クロについて

開戦の前に、ちょっと主人公に関する解説回。

 神域の一室。大型テレビの前にソファーが置かれ、そこに闇の神がどっかと座ってくつろいでいる。横に小さなテーブルを置き、茶を飲みながら画面に見入る。

 神は肉体を持たないため、本当に茶を飲んでいるわけではない。お茶も家具も、すべてそう見える幻影であり、お茶の味を感じるように魔法を仕込んだものだ。

 闇の神は相変わらずクロの様子を見ている。開戦を前に黙々と武装を確認するクロを、闇の神はじっと見つめる。

 本人の談では画面越しには心を読めないと言っているが、その真偽は闇の神本人にしかわからない。こうして目を離さずに見ている様子から、もしかしたら画面越しにも心を読んでいるのでは、と思えて来る。

 動かず黙って画面を見ていた闇の神が動く。手に持った茶碗をテーブルに置いて、視線を動かさないまま声をかける。


「覗いてないで入ってきたらどうだ。」


 その言葉に応じるように部屋の空いたスペースの空間に穴が開き、そこから白い髪の女性が姿を現す。光魔法を司る光の神だ。


「覗いていたわけではありません。転移先を確認するのは当たり前のことでしょう。」

「見ていたのなら変わるまい。」

「違います。後ろめたいことなどないと言っています。」


 闇の神と光の神はそりが合わない。性格が全く異なるうえ、主義主張もほとんどが対立する。言い合いを始めれば何日も続くことすらある。

 それをわかっている2柱は早々に話題を変える。


「わかったわかった。で、何の用だ。」

「イレギュラーについてです。」

「クロには神獣や神子を差し向けることで議決しただろう?」

「その神獣を退けたではありませんか。直接ではないですが。」


 クロは火の神獣であるキュウビと戦った。その結果、互角とも言える戦いを繰り広げたが、横やりが入ってキュウビは死んだ。結果だけ見れば、クロが生き残った点ではクロの勝ちと言えなくもない。


「で?」

「神獣を退ける存在とは、我らでも断罪が困難な、厄介な存在ということです。そこで、詳しい調査を行いました。」

「断罪ね・・・」


 ・・・相変わらず傲慢なことで。


 闇の神は、光の神のそういうところが嫌いだった。自身を正義と信じて疑わず、秩序を乱すものを悪と切って捨てる。断罪という言葉からもその信条がうかがえる。

 対する闇の神は生粋の研究者。物事の善悪に興味はなく、ただただ優れた技術と優れた効果を追い求める。それゆえ、光の神と対立することが多い。

 そんなことを考える闇の神に、光の神は調査内容を映し出した画面を突きつける。テレビを見ていた闇の神の眼の前に。


「おい、見えないぞ。」

「こっちを見なさい。」

「やれやれ・・・」


 仕方なく闇の神は調査書に目を通す。光の神が用いる、空間に浮かぶ半透明の画面の扱いにも慣れたもので、速読ですいすい読んでは画面をフリックしてページをめくっていく。

 何十ページにもわたる調査書をものの数分で読み終えた闇の神は、座り直してソファーにもたれかかる。


「まあ、よく調べてあるのではないか?よくもまあ30年ものクロの人生全てを調べ上げたものだ。」


 神々は異世界人選定の時、その異世界人を詳しく調査などしていない。招いてから適性を調べているあたりから察せられるだろう。魔法で検索条件を指定して検索し、該当者の中からランダムサンプリングしているだけだ。まさに実験台を選ぶように。

 故に、異世界人の前世をここまで詳しく調べるのは異例と言える。

 例えば、アリの生態調査のためにアリを捕まえて実験に使うとする。そのとき、アリ1匹の個性まで調べるだろうか?せいぜい種族くらいしか区別しないはずだ。ましてや、アリがこれまでどんな人生を送って来たかなど、調べる者はいないし、調べようもない。

 光の神がクロの人生を調査し得たのは、この神が時空を操ることができるからだ。過去に遡って今を変えるようなことはできないが、過去の出来事を見ることはできる。

 調査書には光の神がそうして見て来たクロの人生について、要点をまとめられていた。


「成績優秀だが、天才というほどではありません。そこそこ有名な大学に進学し、順調に大手企業に就職。派手な栄光はありませんが、大きな挫折もなく、順風満帆の人生。俗にいう勝ち組というものでしょう。」

「一般的には、な。」

「親族にも友人にも犯罪者一人いない。両親も社会で一定の地位を築くできた人物。なぜこれであれほど闇適性が高くなるのです?」


 闇適性が高い者は、精神異常者や犯罪者が多い。光の神はこの経歴でそんな性格になることが解せないようだ。

 そんな光の神を、闇の神は嘲笑する。


「はっ、光の神。お前はまだ人の心と言うものがわかっていないな。」

「なんですって?」

「人というのは誰しも心に闇を抱えているものだ。多いか少ないかの違いはあれど、必ずある。いかに健全な環境で育とうが、小さなきっかけでそれは表面化するものだ。」

「また性悪説ですか。あなたは心が読めるがゆえに、人の悪いところばかり見てしまうのです。そんなことでは秩序が乱れてしまいますよ。」


 闇の神の持論は極端に言えば、人間皆、犯罪者予備軍と言っているようなものだ。そんな状態では人が人を信頼などできるわけがなく、社会は成り立たない。


「また話が逸れているぞ。」

「逸らしたのはあなたでしょう。まったく。もうイレギュラーの適性の話はいいです。それよりも彼の者が抱える恨みが問題です。イレギュラーは人間を恨んでいますね?」

「ああ。恨んでいる。かなり深い。」


 これは闇の神は迷いなく肯定する。だからこそ復讐魔法を与えたのだ。恨みなくして復讐魔法は扱えない。

 光の神はもうクロの復讐魔法について知っている口ぶりだ。風の神が話したのだろう。

 心を読むまでもなく予想がつき、心を読んで確認した闇の神が先んじて話す。


「復讐魔法のことか?」

「そうです。復讐魔法『ヴェンジェンス』。あれの危険性はあなたもよくわかっているはず。」

「確かに威力は高いな。」


 厳しい口調で言う光の神に、闇の神はのんびりと返す。

 その態度に怒った光の神がドンとテーブルを叩く。


「なぜ、あなたはいつもそう危機感が足りないのですか!『ヴェンジェンス』は攻撃対象も術者も確実に葬る無益な魔法です!人類すべてを恨むイレギュラーがそれを行使したら、どうなるか!最悪、世界が滅びかねないのですよ!?」

「あいつはそんなことはせんよ。」


 怒鳴る光の神を、闇の神は変わらず落ち着いた様子で受け流す。


「なぜ、そんなことが言えるのです。」

「それだけ調査してもわからないのか?クロはヒトは嫌いだが、ヒト以外は好きだ。ヒトを滅ぼそうとも、他の生物を滅ぼすことはない。」

「ヒトが滅べばそれで終わりでしょう!」

「相変わらずヒトしか見ていないのか、お前は。」


 呆れる闇の神に、光の神は何を呆れられているのか理解できない様子だ。


「何を言っているのかわかりかねますが、まあいいです。あなたがそこまで言うなら、イレギュラーが世界を滅ぼすまで猶予があると理解します。それまでに勇者をぶつけて倒せばいい。」

「ああもう、好きにしろ。」


 闇の神は既に理解させることをあきらめ、用が済んだら帰れ、とばかりに手をパタパタと振る。

 しかし光の神の用事はまだ終わっていないようだ。


「次に気になっているのは、恨みの動機です。先も言った通り、イレギュラーの人生は順風満帆。事件一つない。人間を恨むような切欠などないようですが。」


 光の神はクロを出生から死ぬまですべて見てきたようだ。それでもそのどこにも人を恨むようになるような出来事は見られなかった。


「誰かに近しい者を傷つけられた事も無い。自身が傷つけられた事も無い。少々、友人に早死にが多い気がしますが、それだけでしょう。その友人たちも事故死や病死。誰かに殺されたわけでもない。なぜこれであそこまで人間を嫌いになれるのです?」

「ほう、傍から見ていればそうか。」


 新たな知見を得た、という感じで闇の神が感心する。


「あなたにはどう見えていたというのですか。」


 光の神と闇の神はいずれも異世界人の過去を調べる術を持つ。しかしその方法は異なる。光の神は先に述べたように、過去に起きた出来事を見ることができる。しかしそこで当人がどう感じたか等、心の動きは見えない。

 逆に闇の神は記憶を読み取る。それゆえ、過去の出来事を当人の主観で見ることになる。2柱では得られる情報にいくらか差異があるのだ。いや、場合によっては大きな違いになることもある。


「クロの主観では、もっと多くの仲間が、人間に殺されたように感じているぞ。」

「仲間?誰のことです。彼の友人には他者に殺されたような者はいない。」

「いや、いるよ。お前が見逃しただけだ。」

「ですから、誰ですか。」

「だから、ヒト以外さ。タヌキ、熊、鳥、魚、虫・・・ヒトは食う以外の目的で容易に他生物を殺す。生きるのに必要とは思えん目的でな。ひどいときには娯楽で殺すこともある。それがクロには我慢ならん。」

「動物愛護の精神ですか?しかし、それだけでヒトを恨むことなど・・・」

「違うな。動物愛護というのは動物を守ってやる、という上から目線だ。クロにとっては、人外は対等の仲間だよ。」

「馬鹿馬鹿しい。ヒトと獣が対等の訳がないでしょう。」

「お前には理解できんだろうなあ。」


 光の神の心を読んでいる闇の神は、それを光の神に理解させるのが困難であるとわかっている。だから説明は初めからしない。

 ヒトは確かに他生物に比べて優れている。現在の世界において、人間が支配する地域の広さを見れば一目瞭然だろう。

 しかし、だからと言ってヒトという生物がすべてにおいて他生物を上回っているわけではない。一生物として比較するなら、ヒトはむしろ弱い方だ。同サイズの獣と単独・武器なしで戦えば、ほぼすべての人間が獣に敗れるだろう。

 ヒトが他生物より勝っているのは、知能のみ。しかしその知能が、汎用性に富み、劣った部分を補う道具や知識を生み出したからこそ、ヒトは今日世界一の勢力を誇るのだ。

 クロはヒトを「知能が優れるだけの生物」と認識している。故に、ヒトも獣も得意分野が異なるだけの対等な生物だと思っているのだ。だからこそ、無意識に他生物を見下すヒトが許せない。


「仮に対等だとして、イレギュラーがそう認識しているとして、なぜイレギュラーは獣に肩入れするのです?イレギュラーは人間でしょう。今は違いますが。」


 珍しく光の神が譲歩してさらに問いかける。


 ・・・頑固なコイツがこちらの意見を一部とはいえ飲み込むのは珍しいな。


 そう思いつつ、闇の神は問いに答える。


「お前がさっきから言っているではないか。イレギュラーだからだよ。」

「は?」

「奴は生来の天邪鬼あまのじゃくということだ。いつでも少数派になり、弱者に与し、世の流れに逆らう。そういう性格なのだよ。」

「まあ、そういう者は確かに存在しますが・・・」

「おそらく遺伝的なものだろうなあ。前世では親の教育で真人間のように振舞っていたが、内心ではいつでも世界への反逆を意識していた。」

「遺伝の訳はないでしょう。彼は両親とも真っ当な人間でしたよ。」

「それはそうだ。天邪鬼とはいえ、いつでも何もかもに反逆していては、社会で生きていくことなどできはしない。時に自分の望みと異なっても、勝つため、生き残るために主流派に回ったことだろう。だが、勝てると踏めば進んで少数派に回っていたはずだ。調査結果を思い返してみろ。」


 そう言われて光の神は、闇の神の眼の前に出していた画面を自分の前に引き戻す。軽く目を通して、納得する。


「なるほど。妙に人気のない活動に参加したり、危険な仕事を請け負ったりしていると思いましたが、そういうことですか。」


 調査結果には、大学でマイナーなサークルに進んで入ったり、困難な仕事や危険物を取り扱う仕事に望んで就いている。友人関係も変わり者が多い。


「天邪鬼だから、世界の主流派たる人間を嫌い、劣勢の人間以外に与する。しかし勝ち目のない戦いはしないから、表立った行動には出さない。いや、出さなかった。」

「そうですか・・・」


 光の神は考え込みながら、闇の神の部屋を去ろうとする。しかし、途中で立ち止まり、振り返って問うた。


「ではもし、彼の念願叶い、獣が人間よりも繁栄したら、彼はどうすると思います?」

「さあな。それはワシにもわからん。だが生粋の天邪鬼ならば・・・」


 そこで闇の神は一度切り、テレビから動かさなかった視線を光の神に向けてニヤリと笑う。


「今度は人間側につくだろうな。」

「・・・・・・」


 沈黙する光の神の心を読んで、闇の神が勝手に捕捉する。


「言っておくが、生粋の天邪鬼ならば、だ。クロがどうだかはわからん。あの家族への溺愛ぶりを見れば、アレを裏切るとは思えんがな。」


 クロがマシロやムラサキ、アカネを己の身よりも大事に思っていることを、闇の神は知っている。それ裏切るようなことがあるとは考え難い。

 闇の神はそう言うが、光の神の表情は厳しいままだ。そして宣言するように言う。


「私はこの世界の秩序を守るため、最悪の事態を考慮して対処しなければなりません。天邪鬼が混沌をもたらすものであるならば、予定通り、滅ぼすまでです。」


 そう言って光の神は、来た時と同様に虚空に穴を開けて、そこを通って去って行った。

 それを見送った闇の神は、視線をテレビに戻す。クロはまだ黙々と武器の整備をやっていた。


「そんなに秩序が大事かね・・・」


 闇の神が零したその言葉を聞く者はいない。


主人公に関する情報は伏せておいて、終盤に実はこうだった、というのもありかと思っていましたが、主人公がどういう存在か、謎過ぎるのも読みづらいと思ってこの回を追加しました。

要は主人公は、半天邪鬼、半動物好きというところでしょうか。

結局、具体的な憎悪の動機や切欠はぼかしましたが、それはいずれ、この物語の山場にでも。

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