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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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A1 とある平凡な異世界人の孤独な日記①

この外伝は日記であるため、本編と違って一人称で書かれています。

 私は見暗みくらあかり。この世界では異世界人と呼ばれる者だ。

 こんな日記を書いても誰かに読んでもらえる可能性があるのかわからないが、僅かでも可能性があるなら書き残しておきたい。


 私は前世ではごく平凡な女性だったと思う。

 普通に大学を出て、普通に就職し、しかし長続きせず、職を転々とした。

 仕事ができないわけではない。現に給料はそこそこもらっていた。しかし何故だか長続きしないのだ。人間関係は、悪くなかったと思う。職場でケンカしたこともないし、嫌ったり嫌われたりも多分していない。親しい人もいなかったけれど。

 そしてどうも会社というシステムに馴染めないのではないか、と思った私は、山岳ガイドの仕事に就いた。そこだって会社と言えば会社だが、仕事は基本山歩きだ。外見はインドア派に見える私だが、結構アウトドアも好きだ。

 やってみると、客の相手は大変だけど、山を歩くのは何だか心が癒されるようで気分が良かった。


 これは天職を見つけたかもしれないと思った矢先、不運に見舞われた。もし前世にもこの世界のように神様がいたのなら、きっと私が嫌いだったのだろう。

 ある日、3組ほどの家族を比較的簡単な登山コースに案内していた時だ。9合目あたりで雲行きが怪しくなってきた。

 天気予報では晴れのはずだったが、山の天気は変わりやすい。危険と判断した私は、客に引き返すように告げた。

 ところが客はごねた。3家族ともだ。子供は一様に山頂が見たいと喚き、激しく文句を言ってくる親すらいた。

 それをねじ伏せる度胸もない私は、止む無くそのまま山頂を目指した。それがいけなかった。


 山頂を見て、引き返す頃には、雨が強く降り出した。急いで戻ろうにも、疲れた子供がなかなか進んでくれず、進めない。

 そんな中、雨はひどくなるばかり。風も出てきて視界も悪くなってきた。

 このままでは山小屋にも到達できないと判断した私は、個人的に山を歩き回った時に偶然見つけた洞穴が近くにあったことを思い出し、一行をそこへ案内した。


 「嵐が止むまでここで待ちましょう。」


 私はそう言って客を元気づけ、洞穴で嵐が過ぎ去るのを待った。


 ところが嵐は一向に止む気配がない。3時間ほど経ち、日が暮れ始めた頃、客が騒ぎ出した。

 子供がお腹がすいたという。客に食料を持って来ていないのか尋ねると、なんと一人も何も持って来ていなかった。

 仕方がないので、私は自分のリュックの非常食を客に分け与えた。しかし当然1人分の食糧を3家族10人強で分ければ、1食分にもならない。

 私が自分の分を取らず、全部分け与えたというのに、客たちはあっさりそれを完食し、そのうえで「足りない」と喚いた。


「嵐が止んだら、明朝には下りられますから、それまで我慢してください。」


 私はそう言って客をなだめたが、客は取り合わない。


「こんなんじゃ、明日の朝までだって持たないわ!」

「明日に嵐が止む保証なんてあるのかよ!」

「あんたがこれっぽっちしか持ってきてないのが悪いんだろ!」


 親たちが揃って私を責めている間も、子供たちはお腹がすいたと喚き続ける。

 耐えられなくなった私は「ならば今すぐ食料を取って来る」と言って、嵐の中、洞穴を飛び出した。


 あとはもう説明せずともわかるだろう。視界が効かないほどの嵐の中を下山なんてしたら、死ぬ。私も死んだ。

 道幅が狭くなっているところで足を滑らせ、崖を転げ落ちた。

 いっそ一発で死ねればよかったのに、私は何度も岩やら木やらにぶつかって、激痛に苦しみ、その中で走馬燈を見ながら、死んだ。多分、最後にぶつかったのは大きな木だったと思う。


 今にして思えば、私はあの客たちを恨んでもよかったかもしれない。でも私が死に際に思ったのは、自分の能力不足だった。


「ああ、私がもっと力が強くて、もっとたくさん非常食を運んでたら、こんなことにはならなかったのかな。」


 私はただ誰かの役に立ちたかった。いや、今でもそう思っている。そうして自分が価値ある存在だと思いたいのだろう。

 その思いが伝わったのか、気がつけば私は真っ白な空間に浮かんでいた。


ーーーーーーーーーーーー


 ぼんやりした意識が徐々に鮮明になり、そこが会議室のような作りだと気がつくと、真っ白な空間に8つの色が現れた。


「ようこそ、アカリさん。あなたは異世界への転生者に選ばれました。」

「へ?」


 当然、私は驚いた。まず、死んでも意識があるということから、死後の世界の実在に驚き、さらにそこが死後の世界でなく、小説にあるような異世界転生の場だと聞いて驚いた。

 白い髪の女性は、光の神と名乗り、驚いて呆然とする私に淡々と異世界転生の説明を始めた。

 年齢は変わらず、今と同じ肉体で異世界に送ること。種族を選べること。固有魔法が与えられること。大体そんな感じだ。

 私は光の神に進められて、種族一覧を見る。能力で見れば、竜人、獣人、人間の順に強いけど、なんとなく竜人は避けた。

 獣人の身体能力の高さは魅力だったけど、喧嘩っ早い性格が多く、実力主義の種族と聞いて、争いごとが苦手な私は結局、人間を選んだ。


「さて、では適性を調べましょう。」

「適性?」

「この世界の魔法には属性があり、適性が高い属性の魔法ほど使いやすいのです。固有魔法もその適性を基に決めます。」

「はあ。」

「これまでは大雑把に決めていましたが、最近、適性を数値化することにしました。我々八神はそれぞれ司る属性が違い、それぞれの神がそれぞれの属性のあなたの適性を見ます。」


 光の神が周囲の神を見渡すと、8柱の神が頷き、一斉に私を見た。圧迫面接のようで居心地が悪かったけれど、すぐに皆視線を切った。


「よろしいですか?では火の神から順に。」


 真っ赤な髪で筋骨隆々の男神が、光の神に勧められて言う。


「炎適性は5だ!普通だな!」


 5で普通。つまり10点満点と見ていいようだ。まあ、私はそんな熱い性格でもないし、そんなものかなと思っていた。ところが、風の神、水の神、土の神、木の神、雷の神と順に結果を述べていくにつれて、雲行きが怪しくなっていく。


「5だよ。」

「水、5。」

「5じゃ。」

「5ですね。」

「5。」


 この結果には神々を驚いた様子で、皆思わず次の黒いフードを被った男神を見る。


「なんだ?心配するな。闇も5だ。」


 そう言われて他の神は、安心したような、またかという呆れたような、微妙な顔になる。私はと言うと、もう予想がついて諦めの表情になっていたと思う。


「まさか、皆、5とは。すみません。光属性も5です。」


 謝られた。光の神に謝られた。なんで?謝らないでよ。私の適性なんだから、私が悪いんでしょう?

 そんな感じで自棄を起こしながら、私は落ち込んだ。前世でもそうだった。職を転々とした私は、いろいろなことをできるようになったが、代わりに何一つ極めていない。どれもこれも普通。器用貧乏という奴だった。しかしまさか、転生しても器用貧乏のままだなんて・・・

 自分の凡人っぷりに落ち込む私に、励ますように光の神が声をかける。


「ま、まあ、低いわけではありませんし、むしろ選択肢は広がるでしょう。固有魔法は次の中から選びなさい。」


 光の神が手をかざすと、私の前に固有魔法の一覧が現れた。


「普通は2,3個の中から選ぶのですが、やはりあなたは選択肢が多いですね。」


 光の神が言ったように、確かに選択肢が多かった。10以上はあったと思う。

 しかし、全部は覚えていないが、地味な魔法ばかりだったことは覚えている。それはそうだろう。きっと効果が高い魔法は、その分、高い適性を必要とするのだろうから。

 だから、魔法の威力が足りないと意味がなさそうなものは除外した。例えば『サイコキネシス』。材質に関係なくなんでも手を触れずに操作できる魔法らしい。でも、どうせ私の平凡な適性では、大した威力は出ないだろう。

 全属性の強化魔法『フルブースト』も同じ理由で却下。他者の魔法を支援する『マルチエンハンス』も便利そうだけれど、前世で友達が少なかったのを思い出して却下。

 結局私が選んだのは、収納魔法『ガレージ』だった。異世界ものでは定番の、異空間に道具を保管できる便利魔法だ。

 そもそも私は争いが苦手なのだから、戦闘で使いそうな魔法は必要ない。そしてなにより、前世の死に際に思ったことが頭にこびりついて離れなかったのが大きい。


「『ガレージ』かあ。便利だよね、それ。」

「汎用化したかったが、全属性に一定以上の適性が必要なことから、まだ保留されていた奴だな。」

「異世界人でもなければ、全属性適性などまず現れんからのう。」


 神々が口々に感想を言う。

 え、なに?平凡な私の適性が、実はレア?

 嬉しいような、そうでもないような、微妙な気分のところへ、緑髪の優しそうなお姉さん、木の神が声をかけて来る。


「『ガレージ』は地味ですが素晴らしい魔法です。きっと人々の役に立つことでしょう。」

「は、はい!」


 木の神の言葉に、私は嬉しくなった。誰かの役に立ちたいというのは、私の前世からの願いだったから。



 そうして私は固有魔法『ガレージ』を引っ提げて、異世界に降り立った。

 平凡で、大して役に立たなかった前世と違い、今は『ガレージ』という非凡で素晴らしい能力がある。きっと人の役に立てる。そう思って意気揚々と歩き出した。


ーーーーーーーーーーーー


 それが約2年前。今にして思えば、私はなんて愚かだったのだろう。『ガレージ』なんて選ばなければ、こんなことにはならなかったのに。


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