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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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076 森の家の日常その2

 9月23日。今日も朝から材料をホームレス達から買い、炉に投入。貯めこんだ分を少し追加して、製錬を行う。前世の日本なら祝日だが、この世界には当然ないし、今のクロ達は自営業だから、休日とかは関係ない。

 そういえばこの世界の曜日は8日で一周するようだ。当然、八神、8属性にちなんでいて、光と闇の日が休日だ。クロ達の仕事に休日は関係ないが、街に出かけるときは注意が必要だ。休日は混むのでクロのストレスが増えることになる。出かけるのは平日と決めていた。

 製錬の処理量は初回より少なく、炉の最大容量の3割程度でやっている。量が多いとムラサキやクロが疲れるが、少なくともその日の入荷量より多く処理しなければ、滞留分が処理できない。3割稼働で少しずつ滞留分を減らしている状態だ。

 11時頃には地金の後処理も終わり、販売予定の地金は工房内の保管庫へ、売れない金属は倉庫にしまう。そしたらお待ちかねのティータイムだ。


「だー、今日も疲れたぜ。」


 ムラサキが獣人形態でテーブルに突っ伏す。魔族3人の中でムラサキだけ魔力量が少ないから、製錬作業で一番負担が大きいのはムラサキだ。


「これが毎日は流石にきついか。」

「あー、休みが欲しいぜ。」

「魔法の鍛錬になるのですから、毎日やればいいではありませんか。」


 マシロの言う通り、魔法も使えば使うほど鍛えられる。わずかずつだが魔力容量が増え、出力や操作力も向上していく。


「マシロは作業が少ないからそんな疲れないだろうが、オレはきついんだよ!」


 ムラサキの言うように、確かにマシロは製錬時の作業は少ない。炭素の回収と添加だけだ。

 しかしマシロは他のところで忙しい。


「真白はその分、他のところで働いてくれてるだろ?その点では比較できんな。」

「む。」


 マシロは家の中の掃除の大半をやっているし、午後はアカネの教育に森に出ている。さらには警備の主力でもある。索敵能力が高いため、野生の獣が接近したときに真っ先に気付いて対処するのはマシロだ。

 それを理解してか、ムラサキは一旦黙るが、それでも諦めきれずに訴える。


「でもきついのは本当だ。休みの日があってもいいだろ?」

「そうは言っても入荷は毎日ありますし・・・」


 そう。ホームレス達は金がもらえると見るや、休日も関係なく材料を持ってくるのだ。持って来られたらクロ達は対応せざるを得ない。不在の時は仕方ないとしても、いる時に対応しないのは不義理であるとクロは考えている。

 だが、だからと言って休みなしではクロも疲れる。そこで提案する。


「いや、製錬は毎日じゃなくてもいいだろう。今も入荷量より少し多く処理できてるんだし。・・・そうだな、4日に1日くらいは休めるんじゃないか?」

「おお!」


 クロがその場で概算して休日を決めると、ムラサキが喜びの声を上げる。しかし、そう甘い話ばかりではない。


「ただし、今の滞留分がなくなってからな。あれがなくなるまでは休めねえ。」

「う・・・まあ、そりゃそうか。はあ・・・」


 ムラサキが渋い顔をするが、正論であるがゆえに、納得するしかない。

 せっかくなのでクロは発破をかけておく。


「ムラサキの腕が上がって、処理量が増やせれば、それだけ早く滞留分はなくなる。それに休日も増やせるぞ。」

「そ、そうか?」


 ・・・お、乗って来た。


 努力嫌いのムラサキがこういう話に乗るのは珍しい。あと、もう一押しだ。

 その時、机の脇で水を飲んでいたアカネが、トコトコとムラサキに寄っていく。


「なんだ?アカネ?」

「キャン!」


 アカネがムラサキに向かって短く鳴くが、ムラサキは首を傾げるばかりだ。仕方ないのでマシロが通訳する。


「ムラサキを励ましているようですよ。」

「マジで?」

「キャン!」


 ムラサキがアカネに問えば、肯定するようにアカネが鳴く。


「アカネにまで励まされたら頑張るしかねえかなあ。」


 ムラサキが笑いながらアカネの頭を撫でる。

 それを見るクロとマシロは内心してやったりという感じだ。


 ・・・グッジョブ、茜。

 ・・・よくやりました、アカネ。


 こうしてクロ達の精錬業は処理量を増やしていくことになる。これが後々世界に大きな影響を与えていくことになるが、それはまだ先の話だ。



 午後。マシロとアカネは狩りの訓練に行き、クロとムラサキはフリーになる。

 大抵クロの午後は読書だが、今日は雲行きが怪しい。クロ自身が雨に濡れても気にならないが、本が濡れては困る。何より、屋外で椅子にもたれてのんびり読書というくつろぎの時間に雨が降って来たら興醒めだ。


「今日は俺も出かけるかな。」


 マシロ達の後をこっそりついて行くか、適当に森の動物を観察するか、玄関先でクロが迷っていると、ムラサキが猫形態で籠を『エアテイル』で浮かせて家を出て来た。


「お、クロも森に出るのか?ならオレと一緒に来ないか?今から採集に行くんだ。」

「それもいいか。わかった。」


 家が留守になるので戸締りをして、出発だ。

 ムラサキはクロを荷物持ちとして誘ったのだろうが、クロはそれを分かったうえで同行している。


 ・・・ムラサキには色々苦労させてるから、こういうところで助けておかないとな。


 そもそも奔放な性格のムラサキが、最近は製錬に料理と多くの仕事をやってくれている。マシロに比べれば少ないが、当人の性格を鑑みればちょっと多い。



 しばらく森を進むと、ムラサキが顔を上げる。


「あの木だ。」


 ムラサキが見上げる先を見ると、黄色い実をたくさんつけた果樹があった。背が高く、幹がすべすべしていて、登りにくそうだ。枝も高いところしかない。冬が近づき、葉は紅葉して既に半分ほど散っている。しかし黄色い実は健在で、拳大の大きさの実が所狭しと生っている。


「美味そうな実だな。」

「実際美味いぜ。完熟しないと渋いんだが、今の時期はもう完熟してるはずだ。」

「へえ。」


 見た目は縦に長い卵型だが、柿のようなものだとクロは考えた。


「ところでムラサキってそういう知識はどこで学んだんだ?」

「城のおばちゃん、いや、マリーさんに聞いたり、市場での会話を聞いたりしてな。それに本の情報を加えて、補完して・・・後は勘だな。」

「本とか読んでたのか。」

「小遣いで買ったんだよ。初心者狩人向けの奴だけど。」


 いつの間にか結構勉強していたらしい。同じ家に住んでいても、互いの私室には入らないから、クロも気づかなかった。


「で、あのマガキの木はあんな感じで下からは登りにくいようになってるんだ。おかげで実もまだ残ってる。」

「てことは、主に食うのは鳥か。より遠くに種を運んでもらおうって狙いかね?」

「んなことまでオレにはわからねえよ。ともかく鳥に食われちまう前に回収だ。この森で採れる貴重な甘味だぜ?」


 木に近づきながらムラサキのうんちくを聞くと、あの木は異世界人がマガキと名付けたらしい。味はやはり柿に似ているようだが、糖度が高く、あまりの美味さに病みつきになりやすいという。


 ・・・中毒性ありの魔柿マガキってか。安直だが、そのほうがわかりやすいのかね。


 そんなことを考えながら、マガキの木の真下まで2人が到着し、いざ魔法で飛ぼうとした時だ。

 ムラサキが目の色を変えて横を見る。


「げっ、この移動音は!またあいつらか!おい、クロ、急ぐぞ!」

「は?」


 クロを急かしつつ、ムラサキは急速に上昇する。クロが慌てて追い付くと、ムラサキは枝の上に乗って、『エアテイル』で器用に実をもぎ取っていた。


「籠!」

「おう。」


 ムラサキに言われてクロが背負っていた籠を前に出すと、ムラサキがどんどん実を籠に入れていく。

 籠を持っているだけでは暇なので、クロが辺りを見回しつつ、ムラサキに問う。


「ムラサキ、あいつらってのは?」

「猿だ!前も別の実を収穫してる時に来て、横取りされたんだよ!」


 ムラサキがイラつくように答えるのと同時、隣の木から黄緑色の影が飛び出した。1段低い隣の木からは距離も高低差もあり、普通の獣には飛び移れない。だがその影はかなりの速度があり、明らかにクロ達がいるマガキの木の枝を目指している。

 クロが左手に籠を抱えたまま右手の剣を構える。納刀したままでも打撃武器になるし、いざとなれば魔法で抜刀できる。

 しかし、黄緑色のそれはクロ達に向かうことなく、別の方向に行き、マガキの枝に着地する。

 それは黄緑色のサルだった。小柄で体長は1mちょっと。しかし手足が長い。マガキの木は大きく、枝がたくさんあっても隣の枝とはそれなりに距離があるのだが、その長い腕を伸ばして悠々ともぎ取っている。


「だー!もう来やがった!急げクロ!」


 ムラサキがそう言うと同時に、さらにサルが次々と信じられない跳躍力で飛び移って来て、マガキの木の上はサルでいっぱいになってしまった。

 サルたちはもりもりとマガキの実を食べ、食べながら次をもぎ取り、さらに食べるだけでなく腹の袋に入れ始めた。


「有袋類?」


 腹に袋があると言えば、カンガルーなどの有袋類だが、猿とは明らかに別種だ。異世界ならではの生物というところだろう。

 大方、より多くの食料を確保したいという願望を持った猿が、魔力によって進化した結果と言ったところか。だとすれば魔獣の可能性もある。

 とにかく食料を確保したいのはこちらも同じだ。魔族3人だけのときはどうでもよかったが、今はアカネがいる。アカネに美味いものを食べさせてやりたい。クロも剣を魔法で浮かせて右手を開け、手が届く範囲の実を収穫する。



 数分後、いっぱいあった実がなくなりかけた時だ。


「クロ!」


 ムラサキの声に反応してクロが振り向くと、サルがクロに飛び掛かっていた。


 ・・・速い!


 思わずクロは右手に持っていたマガキをサルに投げつける。するとサルはそれを見事にキャッチし、クロの横を通り過ぎる。

 さらに周囲を見渡せば、次々とサルが襲い掛かって来ていた。

 クロは剣を操作して薙ぎ払うが、予想以上の速さで木の上を跳びまわるサルになかなか当たらない。終いには、サルたちは接近が難しいと見るや、腹の袋から取り出した石を投げつけて来た。


「くっ!」


 クロは籠をかばって投石をその身に受ける。そこそこ威力があり、結構痛い。


「相手にしてたらキリねえぞ!クロ!」


 ムラサキが木から飛び降りる。クロも籠を守りながらそれに続く。2人とも地面すれすれで魔法でブレーキをかけて着地する。


「逃げろ逃げろ!」

「くそ!盾持ってくりゃよかった!」


 果物の採取で盾が必要な場面に出くわすとは予想していなかったクロ。

 逃げる2人を追いながらサルが石を投げて来る。剣で払い落とそうとしても、後方から来る石を落とすのは難しく、落としきれずに何発か食らう。ムラサキは『エアテイル』で防御できているようだ。被弾面積が小さい分、守りやすいようだ。

 結局、全力で逃げる2人に木が途切れる荒れ地までついて来て、そこでようやく諦めたサルたちは去って行った。


「なんなんだ、あいつらは・・・」

「オレが知るかよ・・・とにかく果物を見つけると貪欲に取ってくんだ。」


 クロ達の逃走速度は時速50kmは出ていたはずなのに、木の上を同じ速度で追って来たあたり、いくらなんでも速すぎる。まるで漫画や昔話に出る忍者や天狗のようだ。


「忍者猿・・・ってところか?」

「あいつらの名前か?」

「仮称。正式名称は今度調べてみるわ。」

「ああ、そうしてくれ。対策が必要だ、あれは。」


 兎にも角にもマガキの実は確保できた。籠いっぱいあるのだから、保存できれば当分楽しめるだろう。

 クロが干し柿の方法をうろ覚えで話して、ムラサキが料理の知識を加えて現実的な案にしていく。相談の末に、収穫の4割を試しに干してみることにした。外に干したいが、スイーパー達が食べてしまいそうなので、物置に干すことにした。


「どうせ日持ちしねえからな。うまくいったらラッキーってことで。」

「そうだな。」


 干す作業を終え、傷ついた実や傷みかけた実をスイーパー達に投げてやっていると、マシロ達が帰って来た。


「甘い臭いがしますね。」

「キャンキャン!」

「おう、おかえり。」

「ただいま戻りました。・・・果実ですか。」

「ああ。ムラサキと取って来たんだ。たくさんあるから皆で食べよう。」


 いつの間にか雲は晴れ、夕焼けになって来た。そんな中、クロ達は外にテーブルと椅子を出して、マガキの実を頬張る。


「かなり甘いですね。運動の後にはちょうどいい。」

「そうだな。甘すぎるかと思ったが、結構美味い。なるほど病みつきになるかもな。」

「スイーパー達はもう病みつきになってるみたいだがな。奪い合ってやがる。残りは外に出さないようにしないとな。」


 スイーパー達は腐りかけすらお構いなしに貪っている。本当に何でも消化できるその胃袋はいったいどうなっているのか。

 3人の足元でアカネも幸せそうにマガキの実を齧る。

 それを見ればクロもムラサキも苦労して取ってきた甲斐があったと思えた。


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