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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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071 キュウビ討伐の結末

 キュウビ討伐の2日後、<地竜>が普段、建設会社として使用している事務所にヴォルフが訪れていた。応接室のソファにヴォルフとホシヤマが向かい合って座る。


「ホシヤマ殿。キュウビ討伐、ご苦労様でした。」

「俺だけじゃねえよ。部下たちも、討伐隊の傭兵たちも、皆頑張ったから勝てたんだ。」

「ごもっともです。」


 結局、キュウビ討伐はホシヤマの作戦通り、キュウビがホシヤマたちの『ソイルショット』を迎撃している隙をついて討伐隊が一斉攻撃。それであっさり決着がついた。


「しかし、その瞬間には立ち会わなかったものの、初の神獣狩りも終わってみればあっけねえな。」

「神獣とは神から膨大な魔力と異能を与えられたとはいえ、生物です。そんなものですよ。」


 どんな強力な攻撃を持っていようと、生物であれば急所を潰せば殺せる。神獣でもそれは変わらない。


「それより驚いたのはこちらですよ。」


 そう言ってヴォルフは机に広げられた報告書の一点を指さす。そこには「神獣の子供とみられるフレイムフォックスが傍らで死亡しているのも同時に確認」と書いてある。


「神獣が子を産んだ例は私の知る限りありませんからね。どれほどの力を継承するか、未知数です。ここで潰せてよかったというべきでしょう。」

「そうかあ?俺には普通のフレイムフォックスに見えたがなあ。」


 ホシヤマが言う通り、神獣であるキュウビは真っ赤な毛並みなのに対し、子狐がどれも赤茶色で、他の特徴も普通のフレイムフォックスと変わりない。

 それはこの子狐が生まれたのがキュウビが神獣化する前なのだから当然なのだが、2人はそんなことは知らない。


「それで、子供は4匹で全部だったのですね?」

「たぶんな。近くの巣穴も探したが、他にはいなかった。」

「では逃げた可能性がある、と?」

「この子狐は見た感じ生まれて1年も経ってねえ。まだ獲物も狩れない歳だ。仮に逃げてても、他の魔獣の餌になるのが落ちさ。」

「それならいいのですが・・・」


 そうしてヴォルフはわずかな不安を残しつつも、ホシヤマからのキュウビ討伐報告を聞き終えた。報酬は各自に後日支払う、と言い残して事務所を去る。


 ・・・クロ殿は間に合わなかった、ということでしょうか?


 それならそれで構わない、とヴォルフは思う。だが、それで機嫌を損ねられて非協力的になっては面白くない。ヴォルフはクロの家を訪ねることにした。



 アイビスの森にぽっかり空いた入り口。ヴォルフが勝手に切り拓いたクロの家への道だ。馬車でそこに乗り入れ、クロの家がある荒れ地に入る。家から適度に離れたところで馬車を止め、降りる。近づきすぎるとスイーパー達の攻撃対象になるからだ。

 住居、倉庫、作業小屋と並んださらに隣に、建設途中の炉がそびえたっている。クロがホシヤマに発注したリサイクル製錬炉だ。ホシヤマが討伐隊に加わったため、作業が中断されている。

 ヴォルフが住居に近づくと、スイーパーにいつも以上に威嚇された。ふと住居をよく見れば、入り口に鉄板がはめられ、「外出中」と書いてある。


「タイミングが悪かったですね。」


 まさかまだ戻っていないということはあるまい。そう思ってヴォルフが踵を返すと、北側の森から数人の人影が現れた。


「お、ヴォルフ爺さん。来てたのか。」


 現れたのはクロ、マシロ、ムラサキだった。クロがキュウビを助けられなくてさぞ不機嫌になっているだろうと思っていたヴォルフは、むしろ機嫌がよさそうなクロに驚く。


「え、ええ。」

「今、家を開ける。でも用事があるから、対応はマシロに任せるがいいかな?」

「用事?」

「ああ、これ。」


 クロがマシロ、ではなくマシロが担いだ、アリゲータドッグの死体を指さす。


「俺とムラサキでこいつバラすから。その後でなら話をしよう。それとも急ぎか?」

「いえ、急ぎではないですが・・・」


 そこでヴォルフはずっと気になっていたモノについて聞くことにした。


「その狐はどうしたのです?」


 ヴォルフが指さす先には、マシロの足元で、ヴォルフから隠れるようにしている赤茶色の子狐がいた。


「拾った。」

「それは・・・」

「拾った。」


 キュウビの子ではないか、と追求しようとするヴォルフの言葉を、クロが強引に遮る。

 和やかに話していたクロがいつの間にか殺気を放ち始め、挙句、マシロやムラサキまでヴォルフを睨む。

 数秒の膠着の後、クロが口を開く。


「用がないなら帰ってくれるか?こいつも俺達も腹減ってるんだ。」

「おい、クロ。早くバラそうぜ。」

「そうだな。」


 ヴォルフの返答も待たずにクロとムラサキはアリゲータドッグの解体を始める。スイーパー達が群がり始め、子狐も興味津々に寄っていく。

 困ったヴォルフがマシロを見るが、マシロはバッサリ一言。


「今日はお引き取りください。」

「・・・わかりました。」


 ヴォルフはすごすごと帰っていった。


 ・・・マシロさんにまで嫌われてしまいましたか。ちょっと痛手かもしれませんね。


 とりあえずヴォルフは生き残ったキュウビの子はクロに任せて、見て見ぬふりをすることにした。


ーーーーーーーーーーーー


「では、このまま見ているしかないのですか?」

「・・・ああ。精々、こうして不自然でない程度に岩の盾を作るくらいだな。」

「・・・・・・」


 3人がキュウビ達を砲弾の雨から救う手立てが思いつかず、途方に暮れている間、1匹の子狐はクロの左腕に抱えられていた。

 キュウビが最初の砲撃でやられ、子狐たちがキュウビに走り寄ったとき、クロの左腕に抱えられていた子狐だけはクロに捕まえられたままだったのだ。この子はクロからかけられた『ヒール』の感覚で気が抜けていたことと、「黒嘴」を持ったまま抱えていた右手よりもしっかり捕まえられていたために、この1匹だけは抜け出さなかったのだった。

 キュウビが来るな、と言ったのは、その子だけでも生き延びてほしい、と我が子をクロ達に託していたのだ。

 キュウビは上空からこちらを観察する者たちに気付いていた。そして自身に駆け寄ってきてしまった子供たちはその観察者たちに見つかってしまったと思った。

 キュウビは親から教わっていたヒトの執念深さを考え、きっと見つかった自分と子供たちは助からないと思った。だが、きっとこの魔族たちと、捕まっている最後の子はまだ見つかっていない。ならば、自分の命をすべて使って、その最後の希望を活かす。そう覚悟した。


 クロ達が悩んでいる間に、砲撃の第2陣が止む。クロの岩の盾とキュウビの迎撃により、かなり被害を抑えられた。

 この隙をキュウビは見逃さない。キュウビは己の限界を超えて魔力を集め、かろうじて視認できていた観察者を熱線で狙撃した。今までクロたちの戦いで撃っていたものとは桁が違う威力と射程。火の神獣の全力の一撃だった。そのあらゆるものを融かし吹き飛ばす極太の熱線が、キュウビの視力ですら遥か遠くの点にしか見えないような観測手を確かに捉え、そしてその点を消し飛ばした。

 そして命中を確認した瞬間、クロ達に目配せした。今のうちに逃げろ、と。


「マスター、キュウビが・・・」

「わかってる。」


 マシロはキュウビの感情を読み取り、その意図を察する。クロも、さっきキュウビが観測手を警戒してこちらを見ないようにしていたのに、そのキュウビがこちらを見たということは、今の特大の熱線で観測手を潰したということだろう。

 逃げるなら今しかない。新たな観測手が上がってくるか、観測手を失った討伐隊が次の手を打つ前に、逃げなければならない。しかし、クロはキュウビを助けに来たのだ。見捨てていくのをどうしても躊躇ってしまう。

 躊躇して動かないクロに、マシロはクロの肩を掴んで言う。


「マスター、気持ちはわかります。私も彼女を見捨てて逃げたくはありません。でも、彼女の覚悟を無駄にしないでください。」


 マシロはキュウビの決死の覚悟も読み取っていた。もう自分が助からないと理解し、最後の希望をその身を挺して守ろうとする覚悟を。


「・・・わかった。行こう。ムラサキ。」

「・・・ああ。」


 クロは子狐をしっかりと抱えなおし、立ち上がる。ムラサキもちらちらとキュウビの方を見ながら、後に続く。マシロは素早く犬形態に『変化』し、2人と子狐を乗せて、巣穴を飛び出した。

 そうして最後の子狐を抱えてクロ達はその場を脱した。間一髪、討伐隊が林に入ってくる前に。


ーーーーーーーーーーーー


 そして今、クロ達は戦闘で負傷した分の回復と生き残った子狐に食事を与えるために狩りをしてきた。狩ったのは森で一番多く見られる肉食獣のアリゲータドッグだ。つまり、生態系のバランスをとるための間引きである。

 ムラサキはクロに指示を出しながら協力して解体を勧めつつ、愚痴を言う。


「あーあ、こいつも街に行けるなら、レストランで豪勢に食べられるのになー。」

「そりゃ仕方ないだろ。せめてキュウビの印象が薄れてからでないと。」

「何年後だよ、まったく。」


 3人は努めて明るく振舞う。助けられなかったキュウビのことを忘れてはいない。しかし、助けられた子狐の前で、いつまでも暗くしているわけにもいかない。

 後悔の念は絶えない。ああすれば助けられたのではないか?こうすればもう何匹か救えたのではないか?そんな思いは絶えず浮かんでくる。しかしそれに囚われていては生きていけない。過去はいくら後悔しても変えられないのだから、教訓だけ得て、未来のことを考えるべきだ。

 来客対応が不要になったマシロが解体作業を眺めながら言う。


「しかしこれからは狩りも日常的に行わなければなりませんね。」

「そうだな・・・真白、頼めるか?」

「構いませんが、なぜ私に?」

「ただ狩ってきてやるんじゃなくて、狩り方を教えないとダメだろ?俺は野生の狩り方を知らない。真白が教えてやってくれ。」

「ということは犬形態で、ということですね。まあ、いいですが、私もこの森で狩りをしていた期間はあまり長くありませんよ?」


 マシロがアイビスの森で単独で狩りをしていたのは、親兄弟が死んで一人になってから、縄張りなしでは生きられずに街へ出るまでのごく短い期間だ。


「全くない俺よりいい。それに、そいつは真白に一番懐いてるみたいだし。」


 子狐は『ヒール』をかけてくれたクロにもそこそこ懐いたが、それ以上にマシロに懐いていた。


「なぜ私なのでしょう?」


 無愛想で目つきもきついマシロはあまり子供に好かれる方ではない。本人も自覚している。


「狐と犬って近いから、かもな。」

「はあ・・・」


 クロの説にあまり納得しないまでも、断る理由もなく、マシロが子狐に狩りを教えることなった。


「ところで、その子の名前だが。」

「どうせまた色だろ。」


 ムラサキが先回りして言う。


「悪いかよ。」

「別に?」

「・・・アカネでどうだ?」

「ほら、やっぱり。」

「私はいいと思いますよ。」


 とりあえず反論はないので、クロは本人にも聞いてみる。


「今日からお前は茜だ。いいか?」

「キャン!」


 アカネが元気よく返事をする。こうしてクロの家族に新たにフレイムフォックスのアカネが加わった。


念願のあったかモフモフ担当アカネが加入。構想段階から決めていたメンバーなので、早く加入させたくてうずうずしながら書いてました。

これにて第2章完結です。人物情報を挟んでから、第3章に移ります。

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