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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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068 キュウビ捕獲作戦⑤

 火山は必ずしも山頂からばかり噴火するわけではない。地下にマグマ溜まりがあり、条件がそろえば、麓でも噴火し得る。

 さらに魔力があるこの世界では、その現象は珍しいことではない。魔力は様々な運動や自然現象を活発化させる。魔力濃度が高い土地では地震も豪雨も、そしてマグマがあれば噴火も起きやすい。

 このキュウビのねぐらもかなり魔力濃度が高く、すでに地中のマグマは噴火の準備ができていた。キュウビは足元の地面を地中深くまで融かし、そのマグマだまりに出口を作ってやることで、噴火を誘発した。

 一度噴火が始まれば、マグマが噴出するのはそのキュウビが作った出口だけでは済まない。当然その周囲の地面からもマグマが噴出する。キュウビのねぐらである広場は、何カ所も溶岩が噴出し、また新たに次々と噴火が起きる危険地帯と化した。


 ムラサキを抱えたクロは咄嗟に近くの木に一足飛びで登る。しかしその木が急に傾いたかと思うと、その木をひっくり返しつつ溶岩が下から飛んできた。


「ぐっ!」

「うおおおお!?」


 クロは別の木に飛び移りつつ、ムラサキを守る。ムラサキを抱え込んで背中で溶岩を受けるが、予想以上の衝撃に苦悶の声が漏れる。ムラサキは慌てて騒いでいる。噴火など初めて見たのだろうから、無理もない。

 どうにか隣の木の枝に飛び乗ったクロが背中のダメージを確認する。チタン装甲のおかげで背骨は折れずに済んだようだが、火傷がひどい。それに今はチタン装甲が薄くなっているため、骨も無傷とはいかなかったようだ。ミシミシと嫌な音を立てている。


 ・・・結構深いが、十分回復可能だ。それよりも真白だ。


 ようやく自分の足元が落ち着いたところで、広場に目をやる。

 広場は噴出したマグマが空中で固まって石になり降り注いでいた。さらに噴火口からはドロドロとマグマが流れ出ている。マシロはその隙間、マグマがないところに立っていた。

 服が所々破け、そこに軽度のやけどを負っている。既に網を回収し、左手に持っている。降り注ぐ石を回避しきれず、いくつか頭に当たっているようだ。小さい石でも高温なうえに結構な高度から落ちてきているのか、頭から血が垂れる。それでもマシロはしっかりと立ち、広場の中央を見据える。

 広場の中央には、網を抜け出したキュウビの姿があった。融けた溶岩が未だに左前足に絡みついて拘束しているが、それ以外はもう自由に動ける。そして驚くべきことに、流れ出すマグマを意に介さず、その中に立っている。

 マグマの温度は約1000℃。明らかに生物が耐えられる温度ではない。だが、炎適性が異常に高いキュウビは全身に耐熱結界を張り、熱を遮断していた。


 ・・・マグマの温度に余裕で耐えるとは、流石は火の神獣ってところか。


 キュウビが再び動き出す。クロに足を1つ拘束されているため、移動こそできないが、炎魔法は健在だ。何十個もの炎弾を撃ち出し、熱線を出してマシロを追い詰める。

 先程まで余裕で躱していたマシロも、もう状況が違う。マグマで足場が減り、絶え間なく降り注ぐ石で度々ダメージを受ける。マシロの服「影縫」は魔法強化炭素繊維でできていて、耐熱温度は1500℃弱。マグマに足を突っ込んでも耐えうるが、戦闘中の激しい動きが加わればどうなるかわからない。現に先の噴火の時に溶岩が当たった部分は破けてしまっている。マシロが仕留められるのは時間の問題だった。

 クロとムラサキはどうにか対策を考える。


「ムラサキ、窒素玉は?」

「さっきので驚いて消しちまった。もう一回・・・うわっ!」

「ちっ!」


 ムラサキの攻撃を察知したキュウビが炎弾を飛ばして来た。木の上では盾にする岩がないので、クロはムラサキを抱えて飛び降りる。さらに着地地点に先回りするように炎弾が来るが、クロが地面の溶岩を遠隔操作で引っ張り出し、盾にして無事着地する。


「俺が守るから、早くやれ!」

「わかってる!」


 クロが次々と盾を出して防御する間に、ムラサキが窒素玉を作り、キュウビに飛ばす。速度は遅いが、確実にキュウビに近づく窒素玉。目には見えずとも魔力感知で飛んでくるそれを知覚しているであろうキュウビが、さらにクロ達に飛ばす炎弾を増やす。

 その時だ。


「あ。」


 ムラサキの間抜けな声が響いた。何が起きたのかとクロが岩の盾の向こう側を確認すると、窒素玉が消えていた。


「おい、何で消した?」

「いや、その、炎にぶつかって・・・」


 どうやら、キュウビの炎弾が窒素玉に偶然命中し、かき消されたようだ。炎の熱が気流を生んでムラサキの魔力で固められた窒素を乱し、さらに敵対意思がある魔力同士の反発により、窒素玉は破壊されてしまったらしい。

 魔力同士は本来干渉しあわないが、所有者がいる魔力同士で、所有者が互いに敵対意思を強く持っていると、魔力は反発する。そして魔法がぶつかり合った場合、相性や状況にもよるが、威力が高い方が残って、低い方は打ち消される。


「・・・やばいな。」


 クロにはキュウビがニヤリと笑ったように見えた。今までキュウビがムラサキの窒素玉を恐れていたのは、対処法が不明の未知の攻撃だったからだ。だがもう簡単な対処法がわかった。炎弾1発で消せる。それがわかってしまえばもう脅威ではない。

 キュウビはクロ達を無視してマシロに猛攻を始める。躱しきれず被弾した部分を治しつつ、辛うじて対処しているマシロには厳しい状態だ。

 クロは自身を囲む岩の盾を構築しながら対策を考える。


「クロ!もっと溶岩を操作できないのか!?」


 ムラサキの言う通り、今、クロが操作する溶岩は確かにキュウビの足を1本拘束できている。もっと大量に動かして自由を奪えば捕獲できるだろう。


「すまん。無理だ。今の出力では、この距離だとあの量が限界だ。」


 今、クロは怒っていない。それも当然で、クロの怒りの根源は人間に向けられたものだ。獣には向きにくい。いつかのウィングタイガーのように、クロが気に食わない行動をキュウビが取れば怒る事もあるが、今のところそれはない。襲っているのはクロ達で、キュウビは防衛しているだけだ。

 そんなクロにムラサキは怒る。


「お前、マシロが危ないんだぞ!?それでも怒れないってのかよ!」

「・・・・・・」


 ・・・わかってる。だが、あのキュウビには、怒りが湧いてこないんだよ・・・!


 クロとて何とかしなければならないとは思っている。怒り、復讐魔法を発動させれば勝てるとわかっている。だが、復讐魔法はそんな都合がいい物ではない。そもそも当人の意志で自在に発動できる魔法なら、とんでもないチート魔法だ。好きに魔法制御力を上昇させることができるのだから。

 だからクロは別の方法を考える。そしていつも通り、賭けるのは自分の命だ。


「ムラサキ、ちょっと行って来る。しばらく牽制しつつ何とか逃げ回っててくれ。」

「あ、おい!」


 ムラサキの返事を待たず、クロは行動を開始した。


ーーーーーーーーーーーー


 キュウビはひたすらに炎の弾幕をよけ続ける白髪の獣人・・・いや、魔族を見る。

 初めは敵意がないふりをして内心に殺気を抱えた油断ならない敵という印象だったが、ここまで来るともはや敬意すら湧いてくる。

 殺気を抱えていたかと思えば、殺傷能力がある武器を使わず、努めて捕獲を狙ってくる。今まさに己の命が危ないというのに、その腰に下げた「牙」を抜こうとはしない。ひたすら回避に徹し、ただひたすらに先程投げた捕獲用の非殺傷武器を投げる隙を伺っている。

 当然、キュウビはそんな隙を見せる気はない。その隙を作ろうとしていた紫色の猫も、もはや脅威ではない。闇の神子が作った岩の盾に隠れて、時々謎の魔力の球を飛ばしてくるが、炎弾でかき消せるとわかった以上、問題にならない。


 ・・・白い犬の魔族よ。これでもお前はあきらめないのか?もう私の捕獲をあきらめて逃走するか、本気を出して殺しに来るか、2つに1つではないのか?


 そう思っているところへ、白い魔族は炎弾をその身に受けながら強引に接近して来た。ついに殺す気で来たか、とキュウビが身構えるが、彼女が投げたのは先程と同じ投網だ。


 ・・・無駄なことを!


 キュウビは飛んでくる網を熱線で焼き払う。噴火にも耐えた網も、熱線には耐え切れずに大穴が開く。もはや捕獲には使えまい。そして網を囮に接近していた白い魔族を右の前足で払う。白い魔族はキュウビの前足を回避するが、それを回避したところへ炎弾を撃ち込み、押し返す。炎弾を何発か受けながら、白い魔族は後退した。


 もはや白い犬の魔族は無数に降り注ぐ石とキュウビが放つ炎弾に何度も当たって傷だらけだ。身に纏う黒い服は大層頑丈なようだが、石が当たる衝撃は吸収してくれない。傷は次々回復していくが、魔族の再生能力にも限界があるはずだ。現にキュウビの魔力探知には減っていく彼女の魔力量が感じ取れる。

 対するキュウビはこのホームグラウンドではまず魔力が枯渇することはない。ただでさえ高い魔法回復力が、この地に満ちる炎属性の魔力によりさらに高められ、高出力の熱線を連射してもまだ魔力は有り余っている。

 キュウビとしては、この白い魔族が負けを認めて撤退し、標的である闇の神子だけを仕留めるのがベストだ。

 当の闇の神子はいつの間にかどこかに姿を隠したが、地中に満ちる奴の魔力が健在であることから、逃げたわけではないことがわかる。


 ・・・私が感知できないということは、魔力がある何かに包まれているということ。溶岩を操っていたところからすると、岩の中に隠れたか?だが不自然に近づく岩があれば、すぐにわかる。その時には、熱線でまとめて吹き飛ばしてくれよう。


 キュウビは白い魔族を目で追いながら、耳も鼻も使って周囲を把握する。不自然に動く岩はないか、近づいてくる不審物はないか、警戒する。

 広場は既にあちこちでマグマが噴出し、どこで次の噴火が起こるかキュウビにもわからない状況になっている。それが白い魔族をさらに苦しめているのがキュウビにも感じ取れる。

 同じく嗅覚式魔力感知で先読みして戦う者だからわかる、ランダム攻撃の怖さ。今、白い魔族はいつ自分の足元が噴火するか、気が気ではないはずだ。

 対するキュウビはその怖さはない。噴火しない場所を心得ているのだ。それはすでに噴火した場所。すなわち自分がいる場所だ。マグマは相変わらず流れ出続けているが、キュウビの耐熱結界なら余裕で耐えられる。もっとも、未だに闇の神子の拘束が左前足にあり、移動できないからここにいるしかないのだが。


 ・・・これほど不利な状況でも逃げないのは、闇の神子を信じているのか?奴が私に隙を作ると?そんな薄い希望に縋っていては命を無駄にすることになるぞ。


 再度見渡しても近づく物体はない。キュウビがそれを確認したその時だ。


 ドオオオオン!


 轟音がした方向を見れば、噴火して噴き出すマグマと、その付近に転倒した白い魔族が見えた。とうとう噴火に当たったのだ。


「マシロ!」


 紫色の猫が慌てて岩の盾から飛び出し、近づこうとするが、すかさずキュウビは炎弾で牽制する。猫は何とかそれを回避して、盾に戻る。逃げる猫からは絶望の感情が感じ取れた。

 キュウビが白い魔族に向き直れば、脚を負傷したのか、立ってはいるもののよろめく様子が見て取れた。噴火によるダメージと、吹き飛ばされた先のマグマに漬かったダメージでかなり損傷したようだ。


 ・・・もはや素早い回避は不可能だな。さらばだ、勇敢な白い犬の魔族よ。


 キュウビは口を開き、熱線を構える。白い魔族は必死に移動するが、逃げ切れる速度ではない。

 そして熱線が発射されようとしたその時、キュウビは下顎に強烈な衝撃を受け、熱線は中断された。


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