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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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067 キュウビ捕獲作戦④

 クロ達はキュウビのねぐらである広場に辿り着くや否や、2手に分かれる。

 クロとムラサキはマシロの背から飛び降り、林との境界線付近に降り立つ。マシロはその勢いのまま広場の中央に向かう。そしてキュウビの注意がクロに向いている間に低くジャンプし、約1秒で空中で『変化』と『換装』を終える。

 その動きの間にマシロはここに来る前の作戦会議でのやり取りを思い出していた。


ーーーーーーーーーーーー


「戦場で敵をさっさと倒すのに必要なのは、敵の虚をつくことだ。」


 回復しかけの体でクロが言う。その意見にマシロも同意する。いかな強敵も、死角から不意打ちすれば一瞬で片がつく。


「そりゃあそうだが、そんな簡単に隙なんてできるか?」


 クロの意見にムラサキは首をひねる。確かに平時ならともかく、戦場で周囲を警戒している敵は、そうそう隙を見せない。


「相手が隙を見せるのを待つんじゃない。作るんだよ。」

「死角に回り込む、とかですか?」


 マシロはいつも自分がやっている方法を述べてみる。


「それ、おめーしかできねーから。」

「まあ、それができればそれもありだが、マシロ並みの速度がないと難しいな。」

「むう。」


 ムラサキとクロ同時にツッコまれて、反論できないマシロ。


「もう少し簡単な方法だよ。」

「そんなんあるのか?必勝法なんてあれば、とっくに戦場で誰か使ってそうだが。」

「いや、必勝法じゃない。うまくいけば、って程度だ。」

「なんだそりゃ?」

「まあ、つまり・・・驚かせればいいんだよ。」

「は?」


 マシロも声こそ出さないが驚く。だが確かに思い起こせば、間違ってはいない。今までの戦場でも、敵部隊を急襲したとき、驚いた敵兵は動きが鈍っていた。そのおかげで多数の帝国兵相手にたった3人で勝ち続けられたともいえる。


「どうやって驚かすんだよ。」

「そりゃあもちろん、敵が予想もしていないことをやって見せればいいのさ。」

「はあ。」


 ムラサキはピンと来ない様子だ。


「相手が集団だと決まりやすいが、単体だと成功率が下がる。そして、失敗するとこっちが1手遅れるから逆に不利になっちまう。だから、そんな戦法はあまり使われないのさ。」

「あまり、ということは使われることはある、と?」

「ああ世に言う、奇策って奴だ。俺の前世で言うと、例えばハンニバルの山越えとかかな?険しい山を越えて進軍することで、敵がまさか山から来るとは思ってなかったローマ軍を叩きのめしたって逸話だ。」

「なるほど。想定外の方向から攻撃することで不意を討ったと。しかし下手をすれば無理な行軍で兵を疲弊させてしまうリスクがある、ということですね。」

「流石、真白は察しがいいな。そういうこと。ハイリスクハイリターンの戦法だ。でも俺らは魔族だから、大抵の負傷は問題にならない。多少の奇策なら試してみて問題ない。」

「そうですね。」

「というわけで、今回もやってみよう。悪いが、真白。頼む。」

「はあ。」


 そうしてクロの作戦を聞き、不安を抱きつつもマシロはそれを了承した。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・いざ、やるとなると、これはリスクが高すぎる気がしますが・・・了承した以上はやるしかありませんね。


 『変化』を終えたマシロはキュウビの正面、広場の中央に着地し、キュウビと相対する。キュウビがすぐに攻撃してこないことを確認すると、作戦を実行に移す。

 マシロは着地した態勢から素早く背筋を伸ばして起立する。そして片足を斜め後ろの内側に引き、ロングスカートの裾をつまみ、膝を曲げて頭を下げる。メイドに習ったカーテシーだ。


「お初にお目にかかります、火の神獣よ。私はマシロと申します。マスター、クロに仕えるメイドであると同時に、対等の兄妹分でもあります。本日は御身の保護に参上いたしました。」


 セリフを言いきり、頭を下げ続けるマシロ。敵意がないことを全身で表す。

 これがクロの奇策、不意打ち説得だ。これで説得できればよし。無理なら次の作戦に移行する。

 数秒、互いに動かず、小雨が降る音と風に木の葉が揺れる音だけが響く。

 だが次の瞬間、キュウビが突進して噛みつき、マシロがそれを読んで跳び退く。回避と同時にロングスカートをズボンに『換装』するマシロの耳にクロとムラサキの声が届く。


「むう、説得は失敗か。」

「あのバカ!殺気は抑えろって言っただろ!」


 ムラサキもマシロほどではないが、嗅覚式魔力感知は使える。マシロがわずかに抑えきれずに殺気を出していたのに気づいたようだ。


 ・・・仕方ないではないですか!マスターを傷つけた相手に頭を垂れるなど!殺気くらい出ます!


 やってしまったものは仕方がない。次の作戦は、マシロがキュウビを実力行使で捕獲するというものだ。クロ達はその援護に回る。

 捕獲が目的であるため、「黒剣」は抜かず、別の武器を持って走り回るマシロ。対するキュウビはクロを攻撃したいようだが、走り回るマシロを警戒して、迂闊にクロへの攻撃はしない。

 数秒の躊躇いの後、キュウビはまず五月蠅く走り回るマシロを仕留めると決めたようだ。マシロの移動先を予測して熱線を撃つ。

 だが、もうそれは当たらない。なぜならこの距離ならば、キュウビが口を開いてからでも十分キュウビの横まで回り込めるからだ。

 キュウビの熱線は口を開いて、口の前の空間に魔力を集中して発動する。体内を発射地点にしてしまうと、自分も焼いてしまうからだ。

 普通の炎魔法使いは、炎魔法を使う際、自身を耐熱結界で保護することで、手から炎弾を発射したりしても手を火傷しない。火の神子たる国王が『ヒートフィールド』を使っても自分が火傷しないのは、それだけ強力な耐熱結界を張っているからだ。

 キュウビの熱線はどうやら自身が使える耐熱結界の限界を超えているようで、身体から離した地点を発射地点にしなければならないようだ。そのため、一度魔力の集中を始めると、発射地点は変えられない。故にそこから発射方向をマシロの方に変えようとしても、自分に当たらないように撃つには、撃てる方向が限られる。つまり、前にさえいなければ、熱線は当たらない。

 熱線が当たらないと見たキュウビは、9本の尾を振り、数十個もの炎弾をばら撒いた。しかしそれをマシロは自前の反射神経と速度で、危なげなく躱す。

 そうして炎弾で弾幕を張り、時々熱線で攻撃するキュウビと、それらを躱しつつ隙を伺うマシロの膠着状態ができた。


 しかしその膠着状態にはすぐに動きが現れる。キュウビが何かを嫌がるように移動した。


「ちっ。また逃げられたか。」


 ムラサキの窒息攻撃だ。窒素魔法で集めた窒素を、熱線を撃つ瞬間の口に叩き込もうとしたが、近づけようとしただけで距離を取られてしまった。

 ムラサキは魔法操作力はピカイチだが、出力が弱いため、窒素の塊をあまり速く動かせない。キュウビのすぐそばに作れば発動は速いが、魔力の集中がすぐそばで起きれば、鈍い奴でも気づく。そのため、こっそりと近づけていたのだが、容易く見破られてしまった。しかし牽制にはなっているようで、ムラサキが操作して窒素の塊を近づけるたびに、キュウビは逃げるように移動した。

 もう少し速く動かして、キュウビが慌てて逃げるような態勢になれば、マシロが攻撃する隙も生まれるのだが、なかなかそうはいかない。

 キュウビとしても鬱陶しいムラサキを排除したいところだが、距離があるし、マシロから注意を外すと攻撃を受けてしまうため、それはできない。キュウビにとってマシロが手に持つ武器は未知のもので、十分に警戒する必要があった。

 ムラサキはさらに集中し、窒素玉を2個、3個と増やす。ムラサキの器用さがあればこそできる芸当だ。だがムラサキが攻撃に集中したのを感じ取るや否や、キュウビがいくつかの炎弾をムラサキに向けて来た。マシロに隙を見せない範囲での攻撃だ。

 だが、その炎弾はクロが防ぐ。


「ふっ!」


 クロは地面に手を突っ込み、岩を強引に引っ張りだすと、それを盾にして炎弾を受け止める。


「このくらいならこれで十分だ。」


 クロは何でもないことのように言うが、ここに獣人がいたら、溶岩が固まった岩だらけのこの地面を素手で砕いて大岩を瞬時に取り出したクロの怪力に度肝を抜かれただろう。

 実は、クロは純粋な腕力でこれを成したわけではないのだが、クロはその仕掛けをまだキュウビに見せないために、腕力で岩を引き出したように見せた。


 そこから再び追いかけっこが始まる。牽制を放ちつつ、ムラサキの窒素玉とマシロから逃げ続けるキュウビ。マシロには攻撃が当たらず、ムラサキを攻撃してもクロが防ぐ。この膠着状態がしばらく続いた。

 しばらくと言っても体感時間であり、実際は数分程度だが、それでも全力戦闘で数分は長い。

 クロはこれだけ魔法を連射しても疲れる様子がないキュウビに驚きながらも、疑問を抱き始めた。


 ・・・このままじゃキュウビはジリ貧だ。この状態なら明らかにキュウビの方が消耗が激しい。このまま続けて疲労したところを捕らえればミッションコンプリートだが、それは向こうもわかってるはず。なぜねぐらを捨てて逃げない?


 ムラサキからもっと離れれば、窒素玉に追い回される心配はなくなる。現に今のキュウビの牽制しながらの移動速度の方がムラサキの窒素玉の移動より速いのだ。離れるように移動すれば有利なはず。それなのにねぐらをぐるぐると逃げ回るばかり。


 ・・・ここを離れられない理由があるのか?


 そこまでクロは思い当たるが、その思考は置いておいて、とりあえず作戦通りに進めることにする。なにせ、たった今、絶好の機会が来たからだ。


「グルゥ!?」


 キュウビが声を上げる。想定外の事態に驚いたことが、クロにもわかる。

 キュウビは下を見下ろす。自分の足を。それが隙になるとわかっていても、確認せざるを得なかった。

 キュウビの左前足は地面に取り込まれていた。深々と埋まり、その膂力をもってしても引き抜けない。

 クロがニヤリと笑う。それはクロがここに来てから、つまりマシロがカーテシーで注意を引いているときからずっと準備していた罠だった。クロはフィールドを地中に張り、溶岩に含まれる金属を介して溶岩を操作していた。さっき容易く地面を掘れたのもこのためだ。そして広場の中央に小さな落とし穴をいくつか掘っていた。踏んで落ちるのではなく、タイミングを見てクロが開くことで足を捕らえる仕組みだ。今はクロが全力で魔力を込めて溶岩を操作し、キュウビの足を締め付けている。

 元々土地の魔力濃度が濃い場所故、注意して感知しなければ敵のフィールドにも気づきにくい状況だ。キュウビが地中に意識を向けるようなことがあれば悟られたかもしれないが、マシロと戦うキュウビにそんな余裕はなかった。

 焦るキュウビが左前足を引き抜こうとするが、それより早くマシロが動く。

 キュウビに接近したマシロは振りかぶって手にしていたものをキュウビに投げる。それはマシロの操作で大きく広がり、キュウビの全身を覆った。投網だ。

 キュウビは見てすぐにその性質を察知したのか、無駄に暴れず、口をひねって上に向ける。そして熱線で網を焼き切ろうとするが、網の一部が絡みつき、口を縛り上げて開かないようにした。


「口は閉じていなさい。」


 右手を前にかざしたマシロが冷たく言い放つ。そしてマシロの操作により、網はキュウビの体を地面へと押し付ける。これで体の拘束は完了だ。

 あとはムラサキの窒素玉で窒息させて気絶させれば捕獲できる。キュウビは諦めずにムラサキに炎弾を撃つが、すべてクロが防ぐ。


 ・・・詰みだ。できれば説得したかったが、仕方ない。


 そうクロが思ったその時、マシロが目の色を変えてクロに叫ぶ。


「マスター!敵が何か、しています!」

「何?」


 マシロが具体的に言わないということは、マシロでもわからない何かをしているということだ。キュウビの切り札の可能性が高い。確かにもう炎弾を撃ってきていない。

 クロが注意深く見ると、キュウビの左前足を抑え込んでいる岩が加熱され、融け始めている。


「穴の岩を融かすつもりか?だが、融けても操作できる。問題ない。」


 クロがそう言うが、マシロの警戒は解けない。


「それではありません!もっと別の何かです!」

「別って・・・」


 クロが再度キュウビの足を見ると、融けた溶岩が確かにキュウビの足を拘束し続けている。問題はないように見える。が、わずかにキュウビの足が沈みこんだのが見えた。


「おい、まさか・・・」


 クロが地面を覆うフィールドを解除して、地面を魔力視でよく見ると、キュウビの魔力は足の先から地中深くへと向かっていた。


「なんだ!?おい、クロ!何が起きるんだ!?」


 ムラサキも本能的になのか、危険を察知している。


 ・・・おいおいおい、冗談じゃねえぞ。こいつ、シャレにならんことをしてやがる!


 クロはムラサキを抱え、マシロに叫ぶ。


「真白!下だ!」


 クロの声でマシロが下を見たのと同時、マシロの足元の地面が盛り上がり、爆発した。キュウビの切り札は、火山の噴火だった。


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