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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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007 初陣①

 山賊と戦った場所から数km進んだところで、日が沈み始めた。派手に流血沙汰を起こした場所は獣が集まる可能性があったため、できるだけ離れたかったのだ。これ以上は進めないと判断し、ここで野営することになった。

 部隊の8人は二手に分かれ、6人はテントと夕飯の準備、2人は仲間の埋葬になった。犠牲になった隊員は4名。山賊と一まとめに処理するのは忍びなく、遺体を運んできたが、街までまだ1日半はかかる。ここに埋葬するほかなかった。

 クロは埋葬の穴掘りを手伝いつつ、テント設営などの様子を見る。魔族故必要なしと断じて一切行わなかった作業だが、覚えておいて損はない。そして、それを見ていて一言つぶやく。


「やっぱ、雨とか考えたら、テント必要だったな。」

「おま、今頃かよ!」


 手持無沙汰になり、近くに座っていたムラサキが耳聡くつぶやきを拾い、ツッコミを入れる。

 埋葬が済むと墓標代わりの石を置き、皆で手を合わせる。同時にクロはここまでの馬車で聞いた世界情勢について頭の中でまとめていた。


 この世界は、1つの大きな大陸とその周囲に浮かぶいくつかの島で構成されている。少なくとも今把握されている限りでは。その大陸の形は、北に東西に若干長い楕円のような大陸(北大陸)があり、その南西に半分くらいの大きさの大陸(西大陸)がくっついている。その反対側、南東にも三角形のような大陸(東大陸)があり、互いの角だけがくっついている北大陸と西大陸と違い、東大陸は北側の一辺が完全に北大陸とくっついている。

 100年前の魔族討伐戦争では、勇者が筆頭となって世界中が一致団結し、魔族と戦い、滅ぼした。残党は西大陸の北西の山奥に引きこもり、姿を見せなくなった。

 魔族討伐から数十年後、勇者が亡くなると、せっかく一つになった世界はまた分裂した。種族間の隔たりは大きく、共通の敵やまとめる者がいなくなれば、容易に争いは起きた。結局、人間と獣人は分かれてそれぞれ国を作り、人間同士でも思想の違う者は別々の国を作った。今、クロ達がいるカイ連邦は、勇者が導いた時の名残というべきか、種族の分け隔てなく協力して運営される国だ。ここにいる部隊は皆獣人だが、これから向かう最前線付近の町は、人間も獣人も暮らしているらしい。そのカイ連邦は西大陸の西側3分の1くらいの領土で、魔族の集落がある山もこの中にある。西大陸の東側は、フレアネス王国という獣人至上主義の王国だ。今はカイ連邦もフレアネス王国も共に北のライデン帝国の侵攻に対して戦っている。

 ライデン帝国は人間中心の国の一つで、北大陸の北半分くらいの領土だったが、建国後順調に力をつけ、数十年前には北大陸を統一。西大陸にも東大陸にも同時に攻め込んでいるらしい。北大陸と西大陸の境界部分はフレアネス王国の領土で、初めは帝国対王国だけの戦争だった。しかし徐々に攻め込まれ、戦線はカイ連邦の領土まで拡大。連邦は軍を招集し、まもなく防衛戦が開戦ということだ。つまり、対帝国戦は今回が初めて。ここまで一方的に広大な戦線を押し続けているとなると、帝国は他の国に比べて圧倒的な武力を持っていることになる。クロはちょっと不安になっていた。

 ところで、東大陸はどうなっているかというと、貿易船からもたらされる情報のみなので、詳しいことはわからないらしい。ただ、東大陸の多くの国は人間が多いが、思想の違いから帝国に対し徹底抗戦の意志を表明しているらしい。その思想の違いとは、帝国が提唱する魔法排斥だ。選ばれた個人しか使えない魔法を捨て、万民が利用できる科学を発展させよう、というものだ。この部隊が銃を持っているところからもわかるように、科学はかなり普及しているらしい。しかし、魔法はまだまだ健在。少なくとも帝国以外では。特に東大陸では保守的な考えが根強く、魔法中心の生活スタイルのようだ。

 なお、東大陸で異質なのが、北大陸と東大陸の境界、その東半分を領土に含む宗教国家ノースウェル。30年ほど前に興ったノースウェル教の信徒のみが暮らす国だ。ここは中立を宣言しており、他の国々と共闘する気はないようだ。しかし、問答無用で攻め込んだ帝国を返り討ちにしたという。現状、侵攻する帝国を押し返すことに成功しているのはノースウェルだけだ。武力においては頭一つ抜けているとみていいだろう。

 ちなみに、今クロ達は普通に日本語を話している。

 魔族が日本語を話しているのは、おそらく魔族を作ったマッドが日本人だったんだろう、とクロは推測している。

 この世界に日本語が普及しているのは、魔族討伐戦争が原因だ。それまでは日本語は魔族が使う言語として忌避されてきたが、勇者を含む有力な異世界人が日本語を使っていたことが大きかった。また、勇者が敵を知ることの重要性を説いたことで、魔族討伐にあたり、全世界で日本語の教育が進んだらしい。魔族討伐後も定期的に来る異世界人の一部が日本語を話すため、その有用性は変わらず、どの国でも少なくとも第二言語あたりに定着したそうだ。

 なお、日本語普及前は英語が主流だったそうで、この世界の人々は大抵、英語と日本語が話せる。この世界独自の言語は地方の少数民族くらいにしかもう残っていないらしい。


 そんなことを考えているうちに夕飯になる。干し肉や日持ちがする野菜を煮ただけの鍋だが、うまい。小食を理由にして、少量で済ませる。先の戦闘で負傷したのを再生させる材料分だけでいいのだ。酒は少しもらう。多分、エールだろう。強烈な香りが、慣れれば心地よい。結構気に入った。


「ところでクロ殿。詮索はしないと言った手前、申し訳ないのだが・・・」

「ん?」

「あの銃弾をどうやって防御したのかだけは教えてもらえないだろうか?」


 情報を得ようとしているというより、好奇心からのようだ。クロは自分の能力を明かす気はないが、それについては隠す要素もない。


「まぐれですよ。」

「まさか、そんな。」

「いや、本当に。ただ、相手の撃つタイミングを見て構え、銃口の向きから着弾点を大体予測し、引き金を引くのを見えた瞬間に着弾予想範囲をできるだけ高速で払っただけです。それが運よく銃弾に当たって。だから、まぐれです。現に2回目は失敗しましたし。」

「そんな一か八かを?いや、当たってもその服で防げるからですか。」

「ええ。でも防げると言っても、かなり痛いですよ?かわせるならかわしたほうがいい。」


 確かにこのコートで防御していることもあるが、一番の理由は、当たってダメージを負っても再生可能だからだ。魔族はたとえ頭が吹っ飛ぼうと魔力があれば再生する。ただし、頭や心臓が吹っ飛ぶと意識が飛んだり、動きが鈍るから、できれば避けたい。


「そうなると、戦場では使えそうにありませんな。」

「ええ、銃を持った敵が一人だったからできたんです。やるならこっちも遠距離攻撃を使うか、こっそり近づいた方がいい。」

「では何故クロ殿はあんな派手に・・・あ。」

「そうです。こっそり近づくなんて悠長なことをしていたら、あなた方を助けられなかった。」

「それは、無茶をさせてしまいました。申し訳ない。」

「私が望んでやったことです。お気になさらず。」

「あ、そういえば、今更ですが、ケガはないのですか?いくらその服が丈夫でも衝撃は体に伝わっているのでしょう?」

「ああ、大丈夫です。・・・私は木属性が得意なので、自己治癒は得意なんです。」


 嘘は言っていない。クロは魔族としての再生能力に木属性の生活魔法『ヒール』を併用して傷を治している。『ヒール』は本来、自然治癒を早める程度の効果しかないが、魔族の場合、その自然治癒が驚異的な再生能力を持つため、『ヒール』の効果は人間が使うよりもずっと強力になる。実際、銃弾をくらったとき肋骨が折れていたが、戦闘終了時にはもう完治していた。生物の体を操作する木魔法。今まで魔族で適性のあるものはいなかったらしいが、魔族細胞と組み合わせると、かなりチートな気がする。クロは生活魔法以外の木魔法は使えないから無理だが。。


「おお、では仲間の治癒も可能なのですか?」

「いえ、実は、諸事情あって、えー、他者には使えないんです。自己治癒のみで。他人に使えるのは『ヒール』程度でして。」

「そう、ですか。いえ、無理を言って申し訳ない。」


 ・・・まあ、気持ちはわかる。前線で戦える衛生兵なんて理想的だ。そういえば、この世界だと衛生兵は木魔法使いってことになるのか。腕のいい奴なら部位欠損すら治せるらしいし、そう考えれば戦場において、かなり重要なポジションだ。魔法も銃もある戦場って、どうなるんだ?ちょっと興味湧いてきた。




 夕食後、交代で見張りを立てながら眠る。テントの中に場所を用意してもらったが、遠慮した。正直、至近距離で雑魚寝するほど信用していない。近場の岩に寄り掛かって寝る。

 寝付くまでの間、戦闘の反省を行う。実は銃弾防御は、正確にはまぐれではない。ちゃんと銃弾を見てはじいた。敵が引き金に指をかけた瞬間から、脳と神経に魔力を供給し、思考加速。飛来する銃弾を視認してタイミングを計り、剣ではじいたのだ。もちろん、体の動きまで速くはならないので、思考と体の動きの誤差は事前の訓練で把握している。

 ならば銃が効かないのかといえば、違う。二射目は事前に構えていなかったので、はじけなかった。思考加速は魔力をかなり消耗するので、ここぞという時にしか使えない。銃声がしてから慌てて発動したときはもう遅かった。したがって、銃弾防御は、事前準備ありで、単発のみ可能、というところだ。

 ちなみに魔族が皆思考加速が使えるかと言えばそうでもない。クロは闇の神が会いに来るたびに、強制的に周囲が止まって見えるほどの思考加速をさせられているため、次第にその感覚を覚え、自発的に使えるようになっただけだ。なお、クロが使える思考加速は、せいぜい周りがスローに見える程度。それでも多大な魔力を必要とする。そんな能力を他人に、しかもより強力にしながら、会話するためだけにほいほい使う闇の神は、どれだけの魔力を保有しているというのか。クロは神はほぼ無尽蔵に魔力を使えるのだろうと思っている。


 あとは格闘戦について。傍目からは無傷で蹂躙していたように見えたかもしれないが、実は結構殴られたり斬られたりしていた。昂っていたために痛みを無視し、感情によって向上した魔法制御力が治癒力を高めて即座に治癒していたから、問題なかっただけだ。前向きに言えば、すぐ直る程度のケガに抑えられたとも言えるが、クロ本人は満足していない。


「ただの盗賊相手にあんなに苦戦するとは。3年鍛えてきたけど、我流じゃ効率悪いかな。」


 クロは前世でも格闘技を習ったりしていない。無論、剣術も習っていないし、剣道もかじった程度。素人が腕力と速度に任せて暴れているだけだ。

 とはいえ、誰かに教わるのも面倒だと思っているので、特に行動を起こすでもない。第一、クロは自分を剣士や格闘家だとは思っていないのだ。




 翌日は特に何事もなく馬車が進み、また野営となった。昨日と同じメニューの夕飯を食べる。


「すまない、クロ殿。今日には町に着く予定だったのだが。」

「予定より遅れているんですか?順調に見えましたけど。」

「私もそう思っていたのだが、御者が言っていたのより時間がかかってしまっている。・・・本職との違いということだろう。やはり御者がやられたのは痛かった。」


 盗賊の襲撃時、御者が真っ先にやられたらしい。そこからは部隊員のうち、比較的馬の扱いがうまい者が交代で御者の代わりをしていたが、事前に御者が想定したほどの速度は出せなかったようだ。きっと馬を走らせるペース配分とか、悪路での工夫とかいろいろあったのだろう。


「そうすると、開戦に間に合わない、と?」

「いや、それなんだが・・・明日、朝一で出て、まっすぐ向かえば間に合うと思う。つまり、その・・・」


 隊長は数秒渋った後、口を開く。


「散々宣伝しておいて悪いが、町は素通りすることになる。申し訳ない!」

「ああ。」

「ええ!?」


 クロは成程、と納得。ムラサキは驚愕する。

 ここまで馬車の中で、このギルバート隊長をはじめ、隊員達が町の宣伝をしていたのだ。あそこの食堂がうまいとか、あの酒場はマスターの話が面白いとか。その上、開戦前夜には奢るとまで言っていたのだ。

 クロは今日中に町に着かなかった時点で予想できていたので、驚きはしないが、ムラサキはそうでもなかったようだ。


「本当に申し訳ない。あとで埋め合わせはする!」

「ぜ、絶対だぞ!」

「あとで、ねえ・・・まあ、いいけど。」


 ムラサキは必死に言質をとったぞ、と念を押している。ここまでまともな飯にありつけなかった反動だろう。

 対してクロは、戦争ってそんなにすぐ終わる物だろうか、ということと、なんかフラグっぽいと思っていた。まあ、そう簡単に彼らを死なせるつもりはない。最悪自分が矢面に立って敵を引き付けるくらいはするつもりだ。


 そして翌朝、日の出とともにバタバタと軽い朝食をとり、出発。2時間ほどで町に着くが、事前の説明通り、ほぼ素通り。消耗した医薬品だけ補充して、すぐに前線へ向かった。

 しかしそれでも出遅れたらしく、司令部を見つけて駆け込もうとしたときには、主軍が前進を始めていた。


「遅れました!申し訳ありません!エンツ村より8名!参陣しました!」


 司令部に入るとすぐに謝罪するギルバート隊長。すでに開戦しているのであれば、長々と挨拶をしている余裕はない。


「おお、義勇兵か。いや、まだ間に合う。協力、感謝する。」


 軍服を着た指揮官らしき人族の壮年の男性が笑顔で迎える。正規兵なら遅刻なぞ懲罰ものだろうが、臨時招集の義勇兵はそうでもないようだ。指揮官はリストを素早くめくり、一点に目を止めると、真剣な顔になって隊長を見る。


「あなたがギルバート隊長か。エンツ村からは12名と連絡を受けていたが?」

「道中、山賊に襲われ、4名は・・・ここまで来られませんでした。」

「成程。遅参もそれが原因か。・・・災難だったな。」

「・・・・・・」

「来たばかりで悪いが、出られるか?」

「もちろんです!ぜひ行かせてください。」

「うむ。では・・・ん?一人多いようだが。」


 ようやく司令官がクロの存在に気がつく。ムラサキはカウントされていない。猫だから。


「はっ!彼は我々が賊に襲われていた際に助けてくださったのです。彼は・・・」

「傭兵のクロだ。報酬がもらえるなら、参加したい。」

「ほう。」


 道中、クロは隊長から傭兵という職業について聞いていた。金次第で戦争に参加したり、獣を狩ったりする職業。危険は多いが、最悪、元手ゼロから始められる。装備はどうするのか、というと、戦場で死体からくすねたり、落ち武者狩りのごとく剝ぎ取って装備を入手し、適当に獣を狩って稼いで整備し、装備がまともになったら戦争参加、というルートが広まっているらしい。

 ここ10年隣国で戦争続きで、輸出のためと防衛のために武器の類に関する職人や工場は増えており、銃弾も安くなっているらしい。大量生産+国家事業というわけだ。国としても強大な帝国に対抗するため、傭兵の手も借りたいと積極的に傭兵を支援しているようだ。今までカイ連邦には戦火が及ばなかったが、先見の明がある一部の政治家が事前に軍備増強を進めていたとか。評議会の総意ではないため、規模は小さいが、戦争できる程度には整えられているようだ。


「彼の実力は保証いたします。単独で数十人の賊を倒すほどです。」

「それは心強い。ぜひ雇わせてくれ。」

「了解した。」


 なお、クロはわざと態度をデカくしている。実力のある傭兵として雇われるには、舐められてはいけない。まあ、こっちのほうが素に近いので、正直助かっている。


「指揮官殿、状況をご教示いただきたい。」

「うむ。こちらの数は1万、帝国軍は2万と言ったところか。」


 ・・・劣勢じゃねえか。なぜこの指揮官はこんなに余裕なのだろう?


「獣人の割合は?」

「約3割といったところか。」

「ならば、行けますな。」

「大丈夫なのか?」


 何故か自信満々の指揮官と隊長に、クロは思わず尋ねた。キョトンとする指揮官。隊長が説明してくれる。


「彼は異世界人なのです。おそらく獣人について知らないものかと。」

「ああ、なるほど。クロ殿、獣人の力を侮ってはいけませんぞ。」

「はあ。」

「身体能力は人間とは比べ物になりません。かつての戦争では獣人1人に対し、魔法なしでは人間は10人は必要でした。」

「そのわりに盗賊にボコられてたが・・・」

「言い訳させてもらえるなら、あれは奇襲を受けたうえ、馬車を守らねばならなかった。我らの本分は足を使った機動戦だ。むしろあそこまで不利な状況で倍以上の敵相手に長時間粘っていたことを評価してもらいたい。」

「そうか。」


 確かに人間基準で考えれば、すごいかもしれない。長時間2~3人と戦いながら、敵の弓矢や銃を警戒し、馬車に侵入されないように防衛する。確かに並大抵のことではない。


「ギルバート殿の言う通りだ。獣人は攻めでこそ本領を発揮する。そこで、陣形を組んだ人間族部隊が主軍として守り、獣人部隊が横から叩く手はずになっている。」

「なるほど。」

「ご理解いただけたかな?さらに安心材料を言えば、フレアネス王国から援軍が向かっている。心配はいらない。さて、あなた方には急ぎ左翼の獣人部隊に合流していただきたい。」

「はっ!」

「了解。」


 部隊の8人は司令部を出ると、剣を腰に下げ、銃弾を確認し、銃を持って隊列を組み始める。馬車に積んでいた武器弾薬は司令部脇の倉庫に軍服の男たちがすでに運び込んでいた。司令部防衛の予備戦力だろううか。

 クロはその倉庫に背負い袋を下す。


「ムラサキ、荷物を見ていてくれないか?」

「な!オレは留守番かよ!」

「他に荷物を預けられる奴がいないんだ。頼む。」

「背負っていけばいいだろ!オレだって帝国の奴らに一泡吹かせてやりたい!」

「そこまで余裕ねえよ。お前の気持ちは、わからんでもないが・・・」

「何だよ。」


 正直に言うか、少し迷う。だが、睨むムラサキが隠し事をするな、と言っている気がした。


「正直、危険だと思う。ムラサキには。」

「・・・・・・」

「銃弾飛び交う戦場だ。できるだけ防御するが、万が一ってことがある。いくら再生できても、お前の魔力容量では、不安だ。」


 魔族の再生限界は魔力容量で決まる。魔力が尽きれば再生できなくなるので当然だ。それに対し、ムラサキの魔力容量は、魔族としてはかなり少ない。体の50%も損耗したら、再生限界に達するだろう。最悪、1発か2発の被弾で死ぬ。


「それに、最初にも言ったが、荷物を預けられるほど信頼できるのが、今はムラサキしかいないんだ。頼む。」

「・・・本当にオレの気持ち、わかってんだな?」

「完璧とは言えないが・・・仇敵を恨む気持ちなら、共感し得る。」

「お前・・・前世か?」

「ああ。俺も魔族になるだけの理由があるってことだ。」

「わかったよ。行って来い!・・・あとで聞かせろよ!」


 最後の言葉には曖昧に手を振って返しておく。

 ・・・さて、俺も恨みを晴らしに行こう。暴れるとするか。


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