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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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056 窃盗団討伐の反省会

 クロの自宅。森の中にぽかんと空いた荒れ地の中央に建つその家には、満腹になったスイーパー達が群がり、冬が近づく少し肌寒い秋空の下、日向ぼっこのように屋根に集まってくつろいでいる。

 そしてその家の中。リビングには帰還したクロとマシロがムラサキと向かい合っていた。何故かクロとマシロは床に正座し、ムラサキは椅子の上から2人を見下ろしている。今、まさに窃盗団討伐の結果をムラサキに報告したところだ。


「なるほど、話は分かった。じゃあ、反省会だな。」

「いや、俺は寝たいんだが。」

「私も休養が必要だと思います。」


 徹夜で戦い、かなり負傷もした2人は早く休みたかった。しかしムラサキが許可しない。


「い~や、その前に言っておくことがある。お前ら、反省点はないか?」


 椅子の上に猫形態のまま2本足で立ち、腕組みのように前足を組むムラサキ。ふらつくのを『エアテイル』で押さえ、わざわざ立ち上がって威厳を出そうとしているが、前足はうまく組めていないし、特にクロから見ればかわいい猫でしかない。


「負傷しすぎたな。途中まで敵に主導権を握られていたのはまずかった。敵が俺達をいたぶるんじゃなく、初めから殺そうとしていたら危なかったかもしれん。」

「事前情報が不足していましたね。敵の能力をもっとよく精査してから向かうべきでした。」

「それは時間がなかったから仕方ないとしても、フィールドを使う奴に馬鹿正直に接近を許したのがダメだったかな。」

「捕虜を置いて行くわけにもいきませんでしたし、今回は仕方ないでしょう。」

「いや、先に外出中の頭目を暗殺してから、本体を襲撃するべきだったかもしれん。」

「しかしマスターは敵の処遇を敵と直接話して決めるつもりだったのでしょう?ではその手順は変わりません。」

「それもそうか。まあ、結果的には殺すことにしたんだが。」

「それだ!」


 クロとマシロの反省会にムラサキが大声で口を挟む。


「30人中25人殺害ってやりすぎだろ!しかも残った5人の目の前でトラウマもんのスプラッターと来た!悪魔かてめえら!?」

「まあ、魔族だから悪魔みたいなもんか。」

「そうですね。何も不自然なところはありません。」


 悪びれもしない2人に、ムラサキは説教を続ける。


「クロ、お前、人間はやめても社会は利用して生きるって言ってたよな!?なら、王国の社会と関係を悪化させる気はないんだろ?」

「ああ、そうだ。この土地を守るために金が必要だ。今回だってそのために働いたんだ。」


 クロはそう言って硬貨が詰まった袋を持ち上げる。紙幣がないこの世界では、大金も硬貨でジャラジャラと持ち歩くことになる。単価の高い硬貨を作ることで、重くて運べない、ということはないようにしているが、今回の報酬はそれを加味しても結構な数の硬貨になった。


「ああ、依頼を達成するのはいいんだよ。それでちゃんと金をもらってるんだからな。」

「ちゃんと法に違反しないようにしてるぞ?心配しなくても大丈夫だ。」


 実際、法や社会の仕組みについてはムラサキよりクロの方が詳しい。


「オレが言いたいのは、その依頼の達成の仕方で、倫理や常識の話をしてるんだっ!」

「まあ、そうだよな。」


 ムラサキがクロに説教をするのは、大抵、そういう話だ。クロに欠けているのがまさにその倫理や常識であり、それを補うのがムラサキの役目と言える。


「いくら"Dead or Alive"って指定されてても、子供を皆殺しにする奴はいねえ!」

「ちゃんと残しましたよ?」

「25人も殺ったら十分やりすぎだ!」

「まて、頭目は大人だったぞ。24人だ。」

「24人でも多いわ!子供を殺すの自体が異常なの!」

「しかし、今までの傭兵はそれを躊躇していたからこそ、窃盗団を捕らえられなかったわけで・・・」

「お前らなら加減くらいできるだろ!」

「いやいや、本当に手強かったんだ。手加減してる余裕はなかったんだよ。」


 そこまで3人で言い合って、ようやくムラサキが溜息と共に座る。ちょっと申し訳なくなってきて、クロも本音を言う。


「俺だって惜しい人材だったとは思う。だが、連中は真っ当に生きる道を自分から捨ててたんだ。それを更生させる自信は俺にはない。」

「はあ、わかってるよ。でも、常識を持った連中は、それでも更生させるべきだったと思うだろう。お前らが最善を尽くしたと言っても、社会はお前らを残忍な悪魔と呼ぶだろう。それは理解しとけよ。」

「わかってるよ。」


 それで反省会はお開きとなった。クロとマシロは川で返り血などを洗い流し、さっぱりしてから2人そろって寝室に入った。服を脱いで犬形態になったマシロにクロが声をかける。


「真白も子供を殺すのは気分が悪かったか?嫌な仕事をさせちまったな。」

「・・・まあ、気分がいいとは言えません。」


 マシロはいつもの位置に横たわる。


「しかし、あの時マスターが言った通り、彼らはヒトの社会を捨て、獣の理で生きることを選びました。ならば子供であろうと敗者が勝者の糧となるのは当然のことです。」

「そうか。」

「ですから、マスターも気に病まないでください。ムラサキはああ言っていますが、本気で責めているわけではありませんし、私もそこまで気にしていませんから。」

「ああ、ありがとう。」


 そう言ってクロはマシロに寄り掛かって眠る。

 マシロはクロが罪悪感を感じ始めているのに気づいていた。戦う時は怒りと恨みに塗りつぶされて感じないそれが、落ち着いたころに顔を出してクロを悩ませていた。


 ・・・マスターはいつも戦場の帰りに罪悪感を思い出し、悩んでいる。顔には出さないようにして。そしていつも怒りと恨みが勝って忘れる。今回もそうだろう。ならせめて、その罪悪感がマスターを苛むのを少しでも軽減できれば・・・


 マシロにしがみついて眠るクロを見ながらマシロはそう思い、自身も浅い眠りについた。


ーーーーーーーーーーーー


「ビンゴ!でしたよぉ。」


 王都の中央にある王城の一室。その執務机で仕事をしていた国王ジョナサンのもとに、ノックも無しにスミレが入って来る。


「スミレ、ノックくらいしなさい。」

「すみません~。急いでたのでぇ。」


 国王の脇に立つヴォルフがスミレに注意するが、スミレは全く急いでいるように見えないのんびりした口調で言い訳をする。


「いいさ、今更スミレに礼儀を期待してない。結果はどうだったんだ?」


 国王が仕事の手を止め、ペンを置いて尋ねる。


「5人もいましたから裏取りもバッチリですぅ。さっすがクロさん~。」

「まあ、あいつの実力は確かだな。だがこっちのイメージアップ戦略にも少しは協力してほしいもんだが。」


 国王は今朝の同盟宣言の演説で、魔族であるクロ達と友好的な関係を国民にも呼びかけたかったのだが、不吉の象徴たるジャングルスイーパーを無数に引き連れ、生首を引っ提げて民衆の前に現れたクロ達の印象は、敵対とまではいかずとも最悪となった。彼らが王都に買い物に来ても、まともに買えるかも怪しい。


「あの人がヒトに友好的にとか無理でしょう~?」

「そこを何とかしたかったんだがな。まあいい。尋問の結果を聞かせてくれ。」

「はいはい~。」


 クロ達が捕らえた少年窃盗団の生き残り5人はスミレの手で尋問されていた。自白魔法を使うだけだから簡単なものだ。彼らから聞き出した曖昧な情報に、スミレの膨大な知識を当てはめて、窃盗団の盗品売買ルートを割り出した。


「彼らの後ろ盾とのやり取りは主に頭目がやっていたそうですがぁ、盗品の搬送を手伝っていたので、場所はわかりましたぁ。王都東の持ち主不明の倉庫ですぅ。」

「そんな倉庫があったのか?」

「偽名で登録されてたんですよぉ。で、さらに頭目が時々会いに行く人が気になって、子供たちの一人が頭目を尾行したことがあったそうで、彼が頭目が入って行った屋敷を覚えていましたぁ。・・・フォグワース侯爵の屋敷ですぅ。それでその倉庫も侯爵の方から情報を追ってみると、フォグワース侯爵の物だとわかりましたぁ。」


 フォグワース侯爵は狐系の獣人で、南部に小さな領地を持っている。有力な産業がなく、細々と経営していたはずだ。


「あのキツネか・・・爺さん、じゃない、ヴォルフ、すぐに倉庫とフォグワースの屋敷に兵士を送れ。物的証拠を確保しろ。」

「承知しました。」


 ヴォルフは一礼して足早に部屋を出る。それを見送った国王は溜息をついて椅子の背もたれに寄り掛かる。


「やれやれ、あのキツネめ。南部のわりにクロとの同盟に渋らなかったのは、王都の混乱があいつにとって好都合だったってわけか。」


 戦争に直接関わっていない南部の領主は、クロとの同盟に反対する者が多かった。その中で早めに賛成に切り替えていた1人がフォグワース侯爵だった。

 魔族と王国が同盟を結んだとなれば、国民は多かれ少なかれ動揺するだろう。そうすれば窃盗団は仕事をしやすくなる。


「まあ、侯爵の誤算は、そのクロさんが窃盗団を討伐しちゃったことですかねぇ。」

「まさか魔族が国内の問題の片付けまで協力するとは思わなかったってところか。ところで、頭目は異世界人だったんだって?」

「尋問した限り、頭目は固有魔法を使っていたようですし、その言動も異世界人っぽかったようですぅ。かなりの手練れだったようでぇ。話に聞く限りではBランクでも厳しいレベルだったようですねぇ。」

「そいつがいるからこそ、窃盗団の敗北は想定していなかったのもあるか。・・・ともかく、証拠が集まり次第、粛清だな。」

「おお~、国王様の派手な花火が久々に拝めるんですねぇ?期待しちゃいますよぉ?」

「傍からは花火に見えるのか?俺の魔法・・・いや、んなわけないだろ。」


 国王の炎魔法攻撃は大抵自身を中心に展開するため、国王は自分の攻撃がどう見えているか知らない。だが、決して愉快なものではないはずだ。スミレの感覚がおかしいのである。

 会話が途切れたところで、国王はチラリと時計を見る。時刻は14時を既に回っていた。


「さて、休憩は終わりだ。俺は今日中にこの書類の山を片付けなきゃならん。お前もヴォルフを手伝って来い。」

「えぇ~。図書館に戻って本が読みたいですぅ~。」


 口を尖らせて文句を言うスミレを国王はしっしっと手を振って追い払う。


「この案件が片付くまでお預けだ。読みたきゃさっさとキツネが裏取引してた証拠を持ってこい。」

「はぁ~い。」


 渋々と部屋を出ていくスミレを見送り、国王は再び溜息をつく。


「はあ。何人目の粛清だ、これ・・・戦争中くらい、一致団結してほしいもんだ・・・」


 誰もいない部屋で愚痴を言いながら、国王は再び書類の山を処理し始めた。


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