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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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M05 ネオ・ローマンの援軍

 9月7日、イーストランド王国対ライデン帝国戦線、最前線。今日も砲弾と銃弾、そして魔法が飛び交う。互いに死傷者が次々と出るも、王国側に悲壮感はない。確実に優勢であることが一兵卒にまでわかるのだ。

 先月ついにネオ・ローマン魔法王国との同盟が成り、ネオ・ローマンの魔導士部隊が参戦してくれたのだ。

 数こそ少ないが精鋭ぞろい。前線では強力な攻撃魔法が帝国兵を薙ぎ払い、戦車を吹き飛ばす。後方では豊富な木魔法使いが次々に負傷者を治癒していく。今やイーストランドには数人しかいない、部位欠損まで治せる上位木魔法使いが、ネオ・ローマンから送り込まれた部隊には30人もいる。これによって王国軍の死亡率はぐっと下がり、数の不利を補っていた。

 そして何より大きいのはネオ・ローマンが誇る2人のネームドが参戦していることだ。しかもイーストランドの英雄たる勇者マサキと連携して。

 実際、3か月前には王都付近まで攻め込まれていた戦線は、もう王都から遥かに離れ、かつての領土を6割ほど取り戻していた。王国軍は希望に満ちていた。


 さて当の勇者マサキはというと。


「ヴェスタ!一斉砲撃が来るぞ!」

「わーってるよ、大将!今戻る!」


 マサキは光魔法『リフラクト』で光を屈折させ、敵軍の様子を見ていた。『リフラクト』は地味だが応用が利く魔法で、光魔法攻撃の軌道を変えたり、今のようにレンズがあるかのような屈折をさせることで、望遠鏡のように使うこともできる。

 銃弾が飛び交う中、堂々と立っているマサキのもとに、1.5m程の長さのミサイルのようなものに乗った女性が飛んでくる。

 そのミサイルのようなものは後端からまさしくミサイルのごとく火を噴いており、その推進力で飛んでいるようだ。マサキの近くまで来ると後端からの噴射を止め、先端から逆噴射して減速。見事に着地を決める。マサキをこれを見るたび、なぜバランスを崩さないのか、不思議でならない。

 着地した女性は三つ編みにした赤銅色の長い髪を揺らしながら、ミサイルのようなものを担いでマサキに駆け寄る。


「『光の盾』!」


 射程に入ったところでマサキが素早く駆け寄って来た女性、ヴェスタを『光の盾』で包む。その数秒後に砲弾の雨が降り注ぎ、彼らが立つ地面を吹き飛ばした。

 土煙も晴れぬうちに、ヴェスタの楽しげな声が聞こえてくる。


「サンキュー、大将!じゃあ、もっぺん行って来るぜ!」

「おい!魔力残量は大丈夫だろうな!?」

「よゆーよゆー!」


 そう言ってヴェスタはミサイルのようなものにまたがり、土煙の中から飛び出す。彼女を狙って帝国兵が銃を撃ちまくるが、一発も当たらない。彼女が回避しているのではなく、彼女に近づくと銃弾が勝手にそれてしまうのだ。

 そうして敵の弾幕を無視して敵軍の上空まで飛んできたヴェスタは、たっぷり魔力を込めた金属片をポケットから取り出す。


「『エレクトロマグネティックシールド』・・・『ファイア・タイムボム』」


 2つの魔法を込めた金属片を、ヴェスタは敵軍のど真ん中に投げ落とし、自分は方向転換して逃げる。

 それに気づいた帝国兵が慌てて逃げ出すが、もう遅い。金属片が地面に落ちた瞬間、半径10mの空間が一瞬で炎に包まれる。その炎は拡散することなくきっちり10mの範囲に留まり、範囲内のあらゆるものを焼き尽くす。範囲内にあった大砲は融けてひしゃげている。


「ヒャッハー!燃えろ燃えろー!!」


 上機嫌に叫ぶヴェスタが次々に同じものを帝国軍に投げ込んでいく。その様子を眺めながらマサキは彼らと出会ったときのことを思い出していた。


ーーーーーーーーーーーー


 9月1日、イーストランド王城の一室。マサキはそこでネオ・ローマンから来た2人のネームドと顔合わせをしていた。

 援軍のネームドが2人だけ、というのも初めは少ない気がしたが、向こうも万が一の防衛のために戦力を残さなければならないし、同盟なんてものは情勢が変われば容易く破棄されるものだ。開示できる情報はここまで、ということだろう。

 マサキと向かい合って座るのは2人の男女。190cmはあろうかという長身で筋肉質のスキンヘッドの男性と、140cmくらいの小柄な赤銅色の髪の女性だ。


「はじめまして!アタイはヴェスタ!二つ名は<炎星>だ!」


 まずはヴェスタが元気よく挨拶し、マサキと握手をする。


「はじめまして。僕は正木三郎。マサキでいいです。一応、勇者なんて呼ばれてます。」

「なんだ、元気がないなー。大丈夫か?」


 ヴェスタは心配そうにマサキの顔を覗き込む。マサキはアリスを失った以降も目の前で多くの友軍を助けられず、ずっと自分の無力を嘆いていた。初対面の、わざわざ外国から助けに来てくれた人に、明るく接しなければと思っても、気分は沈んだままだった。


 ・・・きっとこの人も僕では守り切れないんだろうなあ。


 マサキはそんな風に思うようになってしまっていた。

 心配するヴェスタとは対照的に、大男はマサキの様子にむしろ感心したようだ。


「いや、勇者殿の武勲は聞き及んでいる。心配するのは失礼というものであろう。むしろそれだけの力を持ちながら、その謙虚な振る舞い!儂は気に入ったぞ。」


 大男が席を立って握手を求めて来る。


「申し遅れた。儂はバク・シンと申す。二つ名は<大山たいざん>。土の神子なぞやっておる。」


 マサキは握手しながらそれを聞いて驚く。


「土の神子?では、あなたも?」

「いや、違う。よく聞かれるが、儂は異世界人ではない。両親はそうだがな。異世界人ばかりが神子に選ばれるわけではないよ。」

「へえ、そうなんですか。」

「あ、アタイも異世界人じゃないからな!固有魔法なんてなくても立派に戦えるってところを見せてやるよ!」


 挨拶が済んだところで3人とも着席し、メイドが淹れてくれた茶を飲みながら情報交換が始まった。


「さて、上の連中は儂らに連携を求めておるようだが・・・」

「・・・・・・」


 マサキは連携と聞いて憂鬱になる。今までマサキと共に戦おうとしたものは、アリスも含めて皆死んだ。できれば一人でやりたい。それがマサキの本音だった。どうにか連携の話をなかったことにできないか、と思っていると、話は意外な方向に進む。


「無理だろうな。」

「ああ、アタイも無理だぜ。」

「え?」


 まさかネオ・ローマン側2人そろって連携拒否。マサキにとっては願ってもないことだが、流石に即却下は気が引ける。


「ええと、何故無理なんです?」

「まず、儂は能力の性質上、戦闘中は周囲とほぼ連絡が取れん。」

「アタイも飛び回ってるから、連絡が取れないわけじゃないけど、ついて来れる奴がいないな。」

「飛び回るって・・・」

「これさ!」


 ヴェスタは椅子に立てかけてあったミサイルのようなものを軽々と持ち上げ、テーブルにドンと置く。


「カスタムファイアスタッフ、ヴァージョン89!通称「トマホーク」だ!アタイはこいつで空を飛ぶのさ!後で見せてやるよ!」

「トマホークって・・・」


 ・・・ミサイルに乗って自爆特攻でもするんですか。


 とりあえずマサキはそのツッコミは内心に留め、もっと心配なことを聞く。


「でもいくら速く飛びまわっても、帝国兵は無数の銃で弾幕を張って来ます。避け切れませんよ。」


 マサキはそう言って心配するが、ヴェスタもシンも不敵な笑いを浮かべる。


「心配するでない勇者殿。儂らが援軍に選ばれたのは、その帝国の数に任せた銃撃に対して対応できるからこそ、なのだ。」


 シンがそう言うと、ヴェスタは席を立ち、壁を背に仁王立ちになる。


「『アースウォール』」

「『エレクトロマグネティックシールド』」


 シンが床に手を付け魔力を流すと、床の一部が削れて集まり、ヴェスタの背後に壁を形成する。ヴェスタもなにか目では見えない結界のようなものを自身の周囲に張った。

 するとシンがおもむろに拳銃を抜いてヴェスタを撃った。


 ドオン!


「なっ・・・!?」


 マサキが驚き、周囲のメイドも息をのむが、ヴェスタは悪戯が成功した子供のように笑い、ケガをした様子もない。シンが撃った銃弾は、確かにヴェスタへ向かって飛んだのだが、ヴェスタの結界に触れた瞬間、軌道がそれ、背後の壁に当たって止まっていた。


「見ての通りヴェスタの『EMシールド』は電磁力で動かせるものなら何でも逸らせる。重量の限界はあるがな。」

「元々この魔法は炎や投げナイフくらいにしか効果がない、使い勝手の悪い魔法だったんだが、銃が主力の帝国軍相手なら効果覿面だ。まあ、話に聞く大砲はちょっと厳しいかもしれんが、銃なんか当たらねえよ。」

「そして後ろの土壁を見てもらうとわかるが、儂の土魔法で作った防御壁は銃弾くらいではびくともせん。実戦ではこれをもっと分厚くしたもので全身包むから問題ない。」

「シンの旦那の防御力は天下一品だぜ!アタイは時々勝手に盾にさせてもらうくらいだ。」

「まあ、そういうわけで、協力はするが、連携って程のことはできんだろう。勇者殿も好きにしてくれればいい。」

「あ、ああ。」


 マサキは共に戦う仲間に、初めて守ってくれと言われなかった。

 そう言われるとかえって寂しくなり、結局その後の打ち合わせで最低限の連携は行うこととなった。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・まあ、結局できる連携なんて、さっきみたいに危ない時に僕のところに避難するくらいなんだけど。


 それでもなかなかうまくいっているようで、3人の快進撃は続いている。ヴェスタは『EMシールド』で広範囲攻撃炎魔法を閉じ込めることで一定範囲を徹底的に焼き尽くす火球をばらまき、破壊の限りを尽くしている。そして必ずマサキと離れないようにして、危険な攻撃が来たら避難することで、帝国の様々な新兵器にも対応していた。狙撃銃は自前の『EMシールド』で、大砲のブドウ弾はマサキの『光の盾』に避難してやり過ごし、ヴェスタの炎魔法とマサキの『レーザー』で反撃して撃破した。

 そしてシンはと言えば・・・


「お!シンの旦那も動き出したみたいだぜ!」

「何度見てもあれは・・・敵に同情するしかないな。」


 マサキたちが戦う場所から遥か西。そこに突如巨大な影が現れる。全長20mを超える『アースゴーレム』だ。

 『アースゴーレム』は一般的な土魔法だが、ここまでの大きさのものを作れるのはシンだけだろう。しかもこの大きさで銃弾を弾く強度だというのだからどうしようもない。当然、砲撃も効いていない。

 こういう術は基本的に術者を狙うべきなのだろうが、肝心の術者であるシンは、あのゴーレムの中心にいる。あのゴーレムの関節などにある僅かな隙間から空気を取り込み、呼吸しているらしい。どうやって周りを見ているのかと聞いたら、


「熟練したゴーレム使いは、ゴーレムの感覚を共有できる。感覚と言ってもゴーレムに目や耳や鼻は作れないから、触覚式魔力感知だけだがな。あとは窓を付ける。ガラスも土魔法で強化できるんだ。あ、使い手はレアだから、そこらのガラス職人に同じものを注文するんじゃないぞ?」


 今、遠くに見えるシンのゴーレムを『リフラクト』による遠視で見てみれば、確かに胸部に小さな窓がある。分厚いが透明度が高いガラスだ。そのガラスを弱点と見た帝国軍がそこめがけて砲撃する。かなり高い位置にあるのに正確に当てる帝国兵の腕に感心するが、その窓は砲弾が直撃しても無傷だった。

 そしてそのゴーレムはゆっくりと歩きだし、無慈悲に帝国軍を踏み潰していく。


 そんな光景をマサキが眺めているうちに、ヴェスタが戻って来た。


「なーに、よそ見してんだ?こっちは終わったぜ?」


 見れば目の前には融けで曲がった大砲と人間だった炭人形ばかりになっていた。


「皆殺しかあ・・・」


 できれば殺しはしたくないマサキは憂鬱な気分になる。


「何言ってんだ?戦争だろ?」


 気にした様子もなくあっけらかんとしているヴェスタを見て、マサキはさらに憂鬱になる。しかし、だからと言ってさぼっていられない。


「少し休憩したら進軍しよう。余力があったら、後続にここの始末を頼んで来てくれない?」

「あいよ。」


 快く引き受けて飛び去って行くヴェスタを見送ったマサキは、糧食を取り出して齧りつつ、目の前の惨状と、進軍を続ける遠くの巨人を見ながら思った。


 ・・・この2人が敵じゃなくてよかった。


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