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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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054 窃盗団の後始末

「んーーー!」


 蒼褪めて唸る子供たち。口も縛られているので言葉は出ない。しかし、大勢の仲間が殺されても気丈に振舞っていたリーダー格の3人ですら、頼みの首領を目の前で殺され、動揺している。

 そんな様子を尻目にクロ達は体の再生と武具の回収を行う。


「『影縫』」


 マシロが呼びかけると、破られた服が集まって来る。マシロは『変化』して獣人形態になり、戻って来た服を身に付けるが、所々破れてしまっている。


「後で繕わねばなりませんね。その前に、後始末ですか。」

「ああ。結界を解除してくれ。スイーパー達を呼ぶ。」

「わかりました。」


 建物を包んでいたマシロの糸を回収して外に出ると、クロは「カア」と鳴き真似をする。その声にスイーパー達が集まって来た。やがて集合を終えたとき、クロは違和感に気がつく。


「1羽足りなくないか?」

「そうですね。」

「クウ・・・」


 リーダーのスイーパーが悲し気な声を出し、嘴を出入り口の脇に向ける。そこには大きな手に握りつぶされたような1羽のスイーパーの死体があった。


「1名戦死、か。」


 クロは合掌して冥福を祈る。マシロも同様にし、周囲のスイーパー達もその意味を察して目を閉じ、頭を下げる。

 数秒後に顔を上げたクロは、周囲のスイーパー達を見渡す。


「道半ばで斃れた仲間を丁重に弔ってくれ。彼の分まで生きられるように。」


 クロの意図を察したスイーパー達は死体に集まり、皆で啄む。ものの数分で戦死者の死体はわずかな血を残して消えた。

 それを見届けたクロは次の指示を出す。


「さて、大掃除だ。中の死体を綺麗にしてくれ。」

「「カア!」」


 了解、とばかりに元気な声を上げ、スイーパー達は建物に飛び込んでいく。クロ達が追いかけて大部屋に戻った時には、部屋に散らばった死体をスイーパー達が次々と食べ始めていた。


 震える5人の子供から少し離れたところにクロは腰を下ろす。ちょうど無数の剣が刺さった首領の死体の前だ。そして片手で逆立った金髪を掴んでその死体を持ち上げると、首の剣を抜く。同時に傷口から血が流れ出た。


「お、まだ残ってるな。」


 殺してから時間が経っていたので、血は出尽くした可能性もあるかと思っていたが、まだ残っていたようだ。クロは嬉々としてその傷口にかぶりつき、血を吸う。傷の治癒に使ったストックの補充と、魔力の回復のためだ。

 しかし傍で見ている子供たちにとっては発狂物の地獄絵図である。周囲では不吉な黒い鳥が無数に集まって仲間たちの死体を貪り、目の前では首領の死体から血を吸う男。傍らの女性は見た目こそ美しいが、巨大な犬に化ける化物だ。

 クロが満足するまで血を吸った後も、スイーパー達の食事兼掃除は続く。大人1人、子供24人の死体を片付けるのは時間がかかる。マシロにも首領の肉を勧めてみたが、断れらた。まだヒトを食すのは抵抗があるようだ。まあ、戦闘時に食いちぎった喉笛はしっかり胃に納めているようだが。

 ぼーっとスイーパー達の様子を眺めていると、何羽か外へ出て行く者が現れた。そして半分ほど掃除が終わったところで、リーダーを残して皆出かけてしまった。リーダーの様子を見るに、中止したわけではないようなので、しばらく様子を見ていると、またスイーパー達が飛び込んできた。

 よく見ると出て行った者とは別固体だ。どうやら満腹なったため、留守番組と交代したらしい。飢えていた留守番組は凄い勢いで死体を貪っていく。その小さな体のどこに入るのか、というくらいだ。そして数えるとどうも数が増えている気がする。確かクロの家に住み着いていたのは100羽ほどだったはずだが・・・


「出てったのと合わせて、150くらいいないか?」

「増えてますね・・・」


 どうも大量の食糧があると聞いた別の群れまで合流して来たらしい。とんでもない数になってしまったが、掃除が捗るならまあいいか、とクロは気にしないことにした。


 やがて空が白み始めた頃、ようやく掃除も終わった。スイーパー達が死体をキレイさっぱり鳥葬して(弔って)いるあいだに、クロとマシロは手分けして盗品をまとめていた。ちなみに首領の首だけは残してある。討伐依頼を達成した物証が指定されていなかったので、とりあえず首を取っておいた。


「さて、出かけるまで時間があるし、ちょっと話でも聞こうか。」


 そう言ってリーダー格の犬系獣人の男子の口の縄を解く。


「『ファイア・・・べっ!?」


 口が自由になった瞬間、魔法を唱えようとした男子の顔をクロが引っ叩いて阻止する。


「無駄だ。それにそんな下位魔法1発でどうにかなると思ってるのか?」

「ぐうう・・・」


 呻く男子の前に首領の首を持ってくる。


「確認する。こいつがお前らのトップで間違いないか?」

「ひいっ!」

「うっ・・・おええ・・・」


 周囲の4人の子供は怯んで離れようとしたり、吐いたりしている。しかしリーダーの男子だけは歯を食いしばってクロを睨む。


「・・・そうだ。かしらが俺達を助けてくれたんだ。路頭に迷って飢えていた身寄りがない孤児の俺達を、ふらりと現れた頭が食い物をくれて、生き方を教えてくれたんだ!」


 戦争をやっている以上、孤児はたくさんいる。同族のつながりが強い獣人族は、大半の孤児は親戚が助ける。親戚がいなかったり、いても経済的理由で助けられないときは、国営の孤児院が拾う。しかし、孤児院の目も王都全てに行き届くわけではない。さらには長い戦争のせいで孤児院もぎりぎりの運営だ。結局、路頭に迷う孤児は0にはならない。


「誰も助けてくれなかった俺達を頭だけが助けてくれたんだ!何の見返りの求めずに!頭は立派な人だ!悪党はお前の方だ!」


 男子が泣きながら叫ぶように訴える。それを聞いてもクロは一切動じない。


「そうだな。」


 クロは自分が悪党だなんてことはとっくの昔に理解している。善人なら子供を殺したりなんてしない。戦争に出て人を殺して金をもらう傭兵なんてやらない。人の道を外れた魔族になんてならない。間違いなく自分は悪党だ。クロはそう思っている。


「お前らが生きるために盗むしかなかったのは否定しない。いいとは言えないが、仕方ないとは思う。だが・・・」


 クロは床に散らばる盗品を指さす。


「生きるため以上に盗んでいるよな?しかもお前らがやってたのは強盗だ。他人を傷つけ、生活を脅かすレベルで奪っている。仕方ないとは言えない。」

「・・・・・・」


 言われた男子は反論を探して視線をさまよわせるが、それを思いつく前にクロが話を続ける。


「終いにはまともな生活が送れる機会を自ら蹴った。だから社会はお前らを見放した。」


 クロはポケットから折りたたまれた紙を取り出し、開いて見せる。少年窃盗団の討伐依頼だ。しっかり「Dead or Alive」と書かれている。死んで構わない。社会にそう判断されたのだ。

 それを見た子供たちは目を見開いて驚いている。どうやら知らなかったらしい。


「え?・・・だって今まで来た奴らは皆俺達を捕まえようと、してた・・・」

「他の傭兵たちがどうしてそんなことをしたのかは知らんが、結構前から生死を問わず、だったはずだぞ?」


 実際は子供を殺すほど非情になり切れなかっただけだろう。だいたい、今王都にいる傭兵のほとんどは狩りをメインにやっている連中だ。対人戦を得意とする傭兵はほとんど戦争に行っている。もちろんそういった傭兵たちもずっと最前線にいるわけではないが、わざわざ遠い王都まで戻って来るのは稀だ。マシロの足で1~2日で戻って来れるクロ達が特殊なのだ。

 まさか命を狙われているとは思っていなかった子供たちはみるみる蒼褪める。今度は前のように甘い処置では済まないだろう。王都を混乱に陥れた犯罪者として処刑すらあり得る。今ここで死んでおいた方が楽だったと思うような拷問が待っているかもしれない。

 リーダーの男子の隣で吐いていた男子が慌てて捲し立てる。


「お、俺達は農作業から逃げてなんかいない!あの時捕まったのは半分だけで、俺やこいつは脱走なんてしてないんだ。だから助けてくれ!」

「俺に言っても仕方ない。誰が裁くかは知らんが、国の奴に言うんだな。」

「うう・・・」


 嘆く子供たちを無視して、クロは話は終わりだとばかりに立ち上がり、周囲を見渡す。開け放った扉の向こうの窓から、朝日が差し込み始めていた。そろそろギルド職員も集まり始める頃だろう。未明に訪れても対応する職員が不足していたら大変だろうと思って、向かう時間を調節していたのだ。


 ・・・盗品の売り先や後ろ盾についても聞きたいが、それは尋問官に任せるとしよう。


「マシロ、そろそろギルドに向かうぞ。こいつらの口をもう一度縛ってくれ。」

「わかりました。」


 クロが話している間に、破れた服を修復していたマシロは、作業の手を止めて、子供たちを再度拘束する。服は最低限治せたようなので、出発できるだろう。

 捕らえた子供5人を一つながりにつないでマシロがそのロープの端を持ち、もう片方の手に盗品の束を担ぐ。クロも盗品が入った袋(強化炭素繊維製)に窃盗団の頭の首を詰め込んで、担ぐ。そうして朝日が差し込む街に繰り出した。


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