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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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053 少年窃盗団の頭

 抵抗する窃盗団の子供たちを斬り捨て、一部は逃げ出し、部屋に残ったのはリーダー格の男子を含む3人だけとなった。クロとマシロが部屋の隅に追い詰める。もはや容易に捕獲できる状態だ。敵が何か切り札を持っていなければ。それを警戒してクロは話しかける。


「なぜ逃げなかった?」

「・・・逃げたら見逃してくれたのか?」

「いいや?」


 この部屋から逃げた数人の子供はもう死んでいた。この建物に入る前、裏口にも窓にも、マシロの魔法強化炭素繊維の糸が張り巡らされていた。触れれば切れるような細さで。慌てふためいて窓や裏口から飛び出した子供たちは皆、バラバラ死体になって外に転がっていた。今頃はスイーパー達が啄んでいるだろう。


「下手に抵抗すれば、そこで転がってる肉塊と同じになる。大人しく捕まれ。」

「・・・・・・」


 後ろに転がる子供たちの死体を指さして言うクロを憎々しげに子供たちが睨むが、抵抗する様子はない。数秒の後、マシロが踏み込む素振りを見せたところで、3人は武器を捨てた。

 切り札を警戒していたクロだが、あっさりと降伏した子供たちに拍子抜けする。罠かと思ってマシロに目配せするが、マシロは首を横に振る。不意打ちを狙っているようでもない様だ。

 そうして3人ともロープで縛って口も封じ、魔法も使えないようにする。最初に捕まえたのと合わせて5人。情報源としては十分だろう。

 拘束した5人を一カ所にまとめたその時、マシロが再び剣を抜いて構えた。


「何か来ます。」

「何?」


 クロも警戒するが、部屋の中からでは、クロの感知では外の様子はわからない。同時にスイーパーの警戒の声が聞こえてくる。救援要請ではない。スイーパー達が襲われているわけではないようだ。

 やがてクロもそれを感知する。フィールドだ。元々この建物を包めるレベルの範囲まで広げられる奴だ。外からですらその魔力が入り込み、部屋の入口の扉から入って来ている。


 ・・・ミスったな。フィールドを使う奴を警戒していたってのに、すっかり失念していた。この子供は留守番の代理リーダーで、本当のリーダーは外出中だったのか。


「糸を引き千切られました。」

「引き千切った?」


 建物を封鎖していたマシロの糸が切られたらしい。しかし、刃物で切ったのではなく、引き千切ったのだとすると、敵の魔法は糸に切られない頑強さと糸を引き千切る腕力を得る身体強化系か、それとも遠隔で物体を操作するタイプか・・・今、クロが思いつくのはその2つだが、フィールドを使うなら後者の可能性が高い。


「物体を遠隔操作するタイプの可能性があるな。抗魔力で劣ると勝負にならないから、初見では戦いたくないが・・・」

「撤退しますか?」


 マシロが撤退を提案する。確かに未知の強力な敵との戦闘は基本的に避けるべきだ。

 しかし撤退するなら、捕獲した5人を連れていく必要がある。置いて行けば、また隠れられて、今度はさらに警戒されてしまう。

 さらに最悪なのは、今向かってきているのがこいつらのリーダーでなく後ろ盾の刺客で、クロ達が逃げた後に口封じに子供たちが殺される場合だ。窃盗団は壊滅するが、それを利用していた元凶の足取りは掴めなくなる。


「こいつらを連れて逃げ切れるか?」

「全員は無理ですね。2人までなら、何とか。」


 縛られて転がっている子供たちが反応する。誰が連れていかれるのか、恐れているようだ。


「・・・いや、迎え撃とう。半端になるといいことはない。」

「わかりました。」


 もしかしたら、マシロの提案がベストだったのかもしれない。しかしクロは戦う方を選んだ。

 子供たちの反応に何かを考えたわけではない。ただ、なんとなく中途半端はいけないと思った。ただの勘だ。


 そして数秒後、部屋の扉が勢いよく開けられる。今までわずかに漏れるように入って来るだけだった魔力が一斉に広がり、部屋を満たす。

 クロ達がその姿を確認するよりも早く、敵は魔法を唱えた。


「『ロブ』!」


 聞き覚えの無い呪文に、クロとマシロは身構える。既に敵のフィールド内にいる以上、どこから何が飛んでくるかわからない。

 そしてその呪文と同時に動き出したのは、足元に転がる5人の子供たちだった。5人同時に高速で扉の方に飛ぶ。自分で移動しているのではない。明らかに魔法による直線的な動きだ。殺すわけにはいかないため、両手に剣を持ったマシロは動けず、クロが左手を反射的に伸ばす。だが、その移動速度と引く力は強く、クロの手は弾かれた。

 高速で飛んで行った5人は部屋の入口で急停止すると、その場に落ちる。同時に1人の男が入って来た。

 金髪を逆立てた長身の男だ。それなりに鍛えているが、兵士程ではない。盗賊というより、街の不良という感じだ。その表情は誰が見てもわかるくらい怒りに満ちている。


「やってくれたな、てめえら・・・!」

「お前がこいつらのリーダーか?」


 男の怒りを受け流すように、クロが平然と尋ねる。


「うるせえ!『ロブ』!」


 男は質問に答えず、再度、魔法を使う。すると、クロが右手に掴んでいた「黒嘴」が男に向かって急に引っ張られた。


 ・・・やはり物体操作系の固有魔法か!しかし俺が手に持って魔力を纏わせている「黒嘴」を一瞬で動かすとは、俺の抗魔力を上回る魔法出力ってことか?


 クロは握る力を強めて抵抗するも、数秒でその手を抜けて、「黒嘴」は敵の手に渡ってしまう。浮かせていた盾も、マシロの「黒剣」も2本ともだ。マシロの「黒剣」はすっぽ抜けないように手袋とつながっているのだが、手袋ごと取られたようだ。マシロの握力で握った手袋を奪うとなると、途轍もない力だ。

 男は魔法で奪った武器を、先程の子供たちと同様に足元に落とす。愛剣を乱暴に扱われ、クロは少し頭に来た。


「おい。雑に扱うな・・・」

「うるせえっつったろ!『ロブ』!」

「つっ!」


 クロは喋っている最中に男に遮られ、喋れなくなる。舌を引き抜かれた。口から血が噴き出す。ここでようやく敵の魔法の正体がつかめて来た。


 ・・・これは、対象に魔力を通して操作してるんじゃねえな。もしそうなら、舌だけを引っ張るより、とっとと目とか頭とかを奪えばいい。これは風魔法だ。『エアハンド』の亜種と見ていい。引っ張って奪うことに効果を限定することで威力を上げているのか。


 効果を限定したり、制限を付けることで魔法の威力が上がるのは魔族の研究でも確認されている。ただし威力が上がると言っても、どこかからエネルギーが現れて威力を底上げしているわけではない。細かく検証したところ、一時的に術者の魔法出力や操作力が上昇していることが確認された。つまり感情で魔法制御力が変動するように、制限を設けることで魔法制御力がその魔法を使う時だけ向上するのだ。

 しかし仕組みがわかっても対策はすぐには思いつかない。せいぜい、マシロに口を開かないように伝えるくらいだ。だが、喋れない。


「マスタ、がっ!?」


 マシロから見れば、クロは突然血を吐いたように見えたのだろう。心配して話しかけようとしたマシロの舌も同様に奪われた。

 男がわずかに怒気を緩めながら、こちらを牽制するように両手をクロ達に向ける。


「これでてめえらは武器も魔法もねえ。ウチの子分どもを殺した落とし前は付けてもらうぜ?少しずつ千切り取ってやる。」


 それを聞きながらクロは口を閉じ、舌を再生させる。横目で見れば、マシロもクロほど速くはないが、同様にしているようだ。

 武器を奪われた以上、素手でやるしかない。まずはクロが接近を試みる。


「動くな!『ロブ』!」


 踏み出した一歩目のクロの右足、そのアキレス腱が何かに噛み切られたように千切れる。クロは軸足のバランスを崩されて転倒した。

 クロの転倒に敵が目を奪われている隙をついて、マシロが全速力で走り出すが、敵はそれにすら反応して見せた。


「てめえもだ!『ロブ』!」


 マシロは両足の靴を引っ張られて、仰向けに転倒する。靴をそのまま奪われた。


 ・・・真白の速度が見えたのか?それとも意識した場所から自動的に奪えるのか?後者なら回避不能ってことになるな。


 なんとか攻略方法を模索するクロだが、打開策を思いつく前に、左足のアキレス腱も千切られた。


「ちっ。てめえら全然痛がらねえなあ。舌がなくても喚くぐらいできるだろ。」


 男はすっかり優越感に浸っているのか、怒気は薄れ、嗜虐的な笑みが出て来た。

 マシロが諦めずに袖から隠し持った短剣「黒爪」を取り出し、投げるが、それも空中で止められ、奪われる。


「危ねえ、危ねえ。まだそんなもんを持ってたか。だが、そんな真似もできないようにしてやる!」


 男が手をそれぞれクロとマシロに向け、一際気合を入れて呪文を唱えると、クロの握っていた手が強引に開かれた。鍛えた握力で抵抗するも、やがて指が軋み、千切れる。両手の指を10本とも奪われた。横を見れば、マシロも同様のようだ。いつの間にやら、マシロのアキレス腱も千切られている。


「これで四肢を封じたぜ。もう抵抗はできねえ。」


 男が笑うが、クロは口には出さないが、ツッコミを入れたくなる。


 ・・・いや、まだ腕も脚も動くから、近づけば肘でも膝でも攻撃できるんだが。まあ、あえて言うつもりもないが。


 それでもそれに気がつかない男は、余裕を見せ始める。クロはそれを隙と見て、魔力で何か飛ばせないか考えるが、先程のマシロの「黒爪」を防いだ反応速度から考えると、成功率は低いだろう。多数飛ばす方法も考えるが、さっき2人分の指20本を同時にもぎ取った実力から、生半可な数では防ぎきられる可能性が高い。

 クロが悩んでいるうちに、男は次の行動に出る。


「どうもてめえら痛みじゃあ堪えねえようだからな・・・」


 男が手を伸ばすと、マシロのバンダナが奪われる。露になったマシロの顔を見て、男がいやらしい笑みを浮かべる。


「なかなか上玉じゃねえか。弄んで奴隷にするのもありか?」


 そう言うと同時にマシロの服を魔法で奪い始める。強化炭素繊維でできた服ゆえに容易に破れないはずだが、少しずつ千切られ、剥ぎ取られていく。

 当然、それを見たクロはキレる。怒りによって魔法制御力が急上昇する。


 ・・・ふざけんな!俺の姉弟分を弄ぶと言いやがったか、このクソ!もう勝機を待つとか関係ねえ!今すぐこの部屋にあるすべての金属で圧殺して、ぶん殴ってやる!


 そうして膨大な魔力をいざ解き放とうとしたとき、ふとマシロと目が合う。魔力感知の精度も向上したクロには目が合っただけで感情を読み取れた。怯えるでも助けを求めるでもなく、覚悟を決めているのがわかった。悲壮なものではなく、チャンスを待ち、確実に敵を仕留める機を虎視眈々と狙っている。そして同時に少しだけクロを非難するような感情もあった。


 ・・・怒るなって言うのか、真白。それとも、今はまだ動くなってことか。


 そう感じて攻撃を中断するクロ。普段、作戦立案するのはクロであり、マシロから口を出すことは少ない。しかし、状況を冷静に見定める能力はマシロの方が長けている。


 ・・・策があるってのか。なら信じるぞ?だが、我慢できなくなったら問答無用で介入するからな。


 クロが動きを止めたのを見て、マシロはクロから視線を切る。

 やがてマシロは服をすべて奪われた。立とうと思えば立てるのだが、あえて床に横たわるマシロ。だがその姿はあえて治癒していない両手の指とアキレス腱を除いても傷だらけだ。胸部と頭以外に無数の銃創があるのだから仕方がない。痛々しくすらある。


「随分な傷物だが、まあいい。お楽しみの時間だ。」


 男が舌なめずりをして魔法を行使する。空気の手がマシロの四肢を掴み、高速で男に引き寄せる。両手を潰し、四肢を拘束したこの状態で、できる攻撃はない。そう思って油断した男は、次の瞬間に目の前で起こったことを理解できなかった。

 そして理解が追い付いた瞬間には、決着はついていた。


「------!」


 声にならない叫びを上げる男の喉はもうない。首の前半分がなくなり、血が噴き出していた。

 地に伏し、両手で必死に首を押さえる男の上には、巨大な白い犬が馬乗りになっていた。その白い犬が喋る。


「私と交尾するには力不足でしたね?愚かな獣人よ。」


 マシロは引き寄せられ、男に近づいた瞬間、『変化』を唱えて犬形態になり、男の喉笛に噛みつき、食いちぎったのだった。

 男からすれば、舌を奪ったのに呪文を唱えたことに驚き、犬系獣人だと思っていたものが突如巨大な犬に変化したことにさらに驚いた。そして四肢を封じて攻撃できないと思い込んでいたところへの噛みつき攻撃。完全に虚を突かれた男は反応できなかった。

 もう男に勝ち目はない。喉がなければ発声できず、固有魔法『ロブ』が使えない。もちろん、他の魔法も。既に多量の血を失い、激しい動きもできない。

 それでも一矢報いようと、片手で喉を押さえながら、腰のナイフに手を伸ばす。

 そこへ既に死の淵にいる男にさらに恐怖を与えるような低い声が聞こえてくる。


「どけ、真白。」


 マシロがさっと男の上から退くと、クロが男にゆっくりと近づいてくる。歩きながら魔力を放つと、部屋に転がっていたナイフや盗品の剣などが浮かび上がる。


「既に致命傷のようだが、俺の姉弟分に手を出そうとした落とし前は付けてもらおう。」


 さらにクロが手を前に伸ばして一言呟くと、床に転がっていた「黒嘴」が勝手にクロの手に戻る。


「少しずつ千切り取る、だったか?安心しろ。俺はそんなまどろっこしいことはしない。」


 クロが手を振れば、浮き上がったナイフや剣が男の上に集まる。

 男が這いずって逃げようとするが、操作された武器は全て男を追うようについて行く。

 そしてクロが手を下すと、一斉にその武器が男に殺到し、男の全身に突き刺さる。最後にクロが怒りを込めて「黒嘴」を投擲すると、男の口を貫き、完全に息の根を止めた。


「相手をいたぶってる暇があったら、とっととケリをつけるべきだろ。」


 そう言って再度「黒嘴」を引き寄せ、袖で血を拭いて納刀すると、ようやく怒りが収まった。


「撃破25、捕縛5、残敵0です。」


 犬形態のままのマシロの報告により、少年窃盗団討伐任務は終了した。


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