052 vs少年窃盗団
注意:残虐かつ非人道的な描写あり
「じゃあ、留守番頼むぞ。」
「・・・ああ。」
森の自宅にムラサキを残し、クロとマシロは出発する。時刻は23時。普通の子供なら寝ていることだろうが、窃盗団はわからない。だが、寝ていれば好都合だ。待ち伏せされる危険が減る。
今回ムラサキを置いていく理由は2つ。1つはムラサキが乗り気ではないこと。戦場で戦う兵士ならまだしも、子供を手にかけるのは無理そうだ。もう1つは万が一負けた際に奪われる物を減らすために、財布等の戦闘に使わない貴重品を置いていくためだ。
代わりといっては何だが、スイーパー達が数十羽随伴する。戦力というより監視要員だ。
マシロに乗って王都に辿り着き、いつもの空き地で『変化』する。クロはいつも通り黒色のコート。マシロは戦闘用のシャツとズボン、髪は束ねて黒い布でバンダナのように覆う。
準備ができたら、2人は屋根伝いに音を殺して進み、窃盗団のアジトを目指す。その頭上をスイーパー達が音も無く飛ぶ。人通りが少なく、いても酔っ払いが千鳥足で歩く程度の深夜。巡回の衛兵さえ避ければ、見つかることはない。まあ、見つかっても疚しいことはないのだが、一々職務質問とかされるのは面倒だ。
マシロの案内で王都を走ること10分強。
「あれです。」
マシロが指さす建物は明かりはついていない。深夜だから当然だし、周囲の住宅もそうだ。少なくとも窓越しの魔力感知では起きている人の気配はない。だが、一つ想定と異なる点がある。
「フィールドがねえな。」
「常時展開しているわけではない、ということでしょうか?」
「いずれにせよ、好都合だ。予定通り仕込みをしてから突入するぞ。」
「了解。」
そっと建物に近づくと、わずかに足音が聞こえる。足音は軽く、子供であることがうかがえる。一応警戒して見回りしているようだ。気づかれないように慎重に仕掛けを設置していく。
設置を終えたら、いざ突入だ。といっても、いきなり攻撃はしない。今回の相手は初めから殺し合いを目的とした兵士ではないのだ。クロは他者の評価だけで人を判断する気はない。参考にはするが。したがって、まずは話をしてみる予定だ。
クロとマシロが2人、玄関の扉前に並ぶ。クロがコンコンと軽くノックをすると、建物の中を巡回していた足音が止まる。巡回していた者からすれば驚きだろう。ここは窃盗団のアジトであり、来客などあり得ない。稀に近所の人が訪ねてくることはあるが、深夜に来ることはまずない。そんな巡回者の心情を想像しながら待つこと数秒。ようやく扉が開かれ、わずかに開けた扉から10歳くらいの子供が顔を覗かせる。
「こんばんわ。」
「っ!・・・こんばんわ。」
クロと目が合った瞬間、顔を真っ青にして子供が硬直する。クロの目に恐怖を抱くのは死に直面した経験がある者だけだが、流石は盗みで生計を立てているだけあり、命がけの仕事も経験があるようだ。それでも気丈に子供は挨拶をして見せる。
「こんな時間に子供が起きてるとはね。親は?」
「・・・何の御用ですか。」
とりあえず普通の質問をしてみるクロ。子供は言い訳するでもなく、警戒心むき出しで用を尋ねてきた。クロ達の武装を見れば、ただの来客でないのは察せられるだろう。穏便に入るのを早々にあきらめたクロはさっさと本題を持ち出す。
「昼間に傭兵の身ぐるみ剥がした子供がここに入るのを見たんだが。」
「え!・・・みん、ぐうっ!」
慌てて警戒の声を挙げようとする子供を、クロは瞬時に捕まえ、首を絞める。まだ殺しはしない。マシロが黒いロープを取り出して暴れる子供を拘束し、口も閉じさせる。その子供をクロが抱えたまま、建物に入る。
建物内は雑な掃除しかしていないのか、かなり汚れていて、壁が崩れたままのところすらある。
「居場所はわかるか?」
「1階の広い部屋に集まって寝ているようです。他は2階に巡回が1人。」
「よし。そっちを捕まえてきてくれ。俺は広間に行く。」
「建物の中央です。お気をつけて。」
家全体に散っていたら面倒だったが、それなら都合がいい。巡回はマシロに任せて、クロは捕らえた子供を抱えたまま、目標がいる場所へ向かう。
廊下を足音を殺して進み、その部屋の前に着いた時には、もうマシロが追いついてきた。
そしてクロが蹴破るように部屋の扉を開け、捕らえた子供2人を投げ込む。
部屋の中には多くの子供が毛布を被って寝ていたが、全員たった今飛び起きた様子だ。数は捕らえた2人を除いて27人。すべて処理するのは骨が折れそうだ。
見回せば、盗品らしき袋や服、鎧や武器が乱雑に置かれている。その一部にマシロが目を付けた。
「ああ、あれです。今日彼らが傭兵から剥ぎ取った装備です。」
「よし、確定だな。お前らが噂の少年窃盗団か。」
「・・・・・・」
子供たちは返事をせずに警戒している。クロ達の戦力を見極めているようだ。すると、一番奥にいる犬系獣人の男子に隣のモグラ系獣人の女子が耳打ちした。それを聞いた犬系獣人の男子はニヤリと笑う。
「それがどうした?たった2人で俺達を捕まえられると思ってるのか!」
その声と同時に、子供たち全員がナイフや棍棒を取り出す。中には拳銃を持った奴までいる。構え方から全員がそれなりに使い慣れている雰囲気がある。並の傭兵ならすぐに袋叩きにされるだろう。
「まあ、待て。その前に話をしようじゃないか。」
ナイフや拳銃を向けられ、囲まれているにもかかわらず、まるで怖がる様子も見せずにクロが言う。
「お前らは生活費を稼ぐために盗んでるのか?」
「・・・そうだよ。」
一番奥で拳銃を構える犬系獣人の男子が躊躇いつつも答える。
「盗品をどこで売ってる?」
「・・・言うわけないだろ。」
「それもそうか。じゃあ次だ。何で盗む?盗まれた奴の気持ちがわからないわけじゃあるまい。」
「知るかよ。俺達身寄りのない孤児はそうするしか生きていけないんだ!」
「そんなことはない。真面目に働けばいい。その機会は与えられたはずだろ?」
ヴォルフから、一度捕らえた窃盗団を仕事に従事させたと聞いている。しかし、そこでもまた強盗まがいのことをして逃げたと聞いた。なぜせっかくの安定した生活を捨てたのか?クロはそれを聞いてみたかった。
「あんな仕事やってられるかよ!」
さっきまで答えていた男子とは別の猫系獣人の男子が答える。
「どんな仕事だったんだ?」
「丸一日農作業の手伝いさ!それを何日もやってもらえるのがはした金だ!」
「まあ、そうだろうな。」
元犯罪者に責任ある仕事を任せられるわけがなく、子供に難しい仕事をさせるわけにもいかない。結局単純作業しかやらせることがないわけだが、さらにそこで力仕事も子供の体格では難しいとなると、農作業が関の山だろう。しかし戦時で食糧不足が深刻な今、重要な仕事だ。
「すっごく広い畑からひたすら芋を掘るのよ!やってらんないわ!」
また別の女子が文句を言う。
「狩人の荷物持ちよりは、命の危険がない分、マシだと思いますがね。」
そこにマシロが口を挟む。狩人の荷物持ちは、孤児がやる仕事の一つらしい。子供にとっては重い肉や毛皮を必死に担いで、健脚の狩人についていく。それだけでもきついのに、獣に襲われれば、真っ先に狙われる危険な仕事だ。最悪囮にされることすらある。
むしろ犯罪者にふさわしいレベルの最悪の仕事だが、それに割り振らなかった辺り、国がこいつらにかけた温情がうかがえる。だが、この子供たちには全く届いていない。
「知るかよ!とにかく大変だったんだ!」
「その大変な思いを丸一日して1人たったの20ドルだぜ!?まるで奴隷だ!」
「いや、むしろ大盤振る舞いだろ。」
この辺では1食5ドルもあれば大人でも十分食える。更生させる犯罪者を自宅に帰すわけないから、衣食住は別に提供されているはずだ。生活に必要なものを全部そろえてやったうえで自由に使える20ドル。しかも金を渡すということは、使う機会を与えているということだ。甘すぎじゃないかと思う。
「20ドルで?んなわけあるか!財布1つ掏れば10倍は入ってるぜ。」
「そうだそうだ!盗んだ方がもっと楽に稼げる!」
「おう!あんな労働やってられるわけがねえ!」
「・・・・・・」
子供たちの物言いに、クロの目つきが変わる。今まではまだ更生の余地があるかと思って話していた。面倒を見る気はないが、アドバイスを与えて見逃す気は少しあった。
だが、この子供たちの言葉に、そのわずかばかり残った温情をたった今捨てた。そして確認する。
「そうか。お前らは作るんじゃなく、奪って生きるんだな?」
「「・・・うっ。」」
クロの放つ殺気に子供たちは言葉が出ない。しかしクロはそれを肯定と取った。
「真白。こいつらはヒトの社会ではなく、獣の理で生きるそうだ。」
「・・・では、奪い合うのみですね。勝者だけが全てを得ます。」
「ああ。・・・『つなげ』」
マシロはそう言って「黒剣」を抜く。クロも「黒嘴」を抜いて組み立てる。
マシロの言葉の意味を理解した子供たちは、リーダーらしき一番奥の男子の号令で、2人が動く前に仕掛ける。
「怯むな!たった2人だ!攻撃開始!」
子供たちは既に役割を決められているらしく、素早く前進する者が6人、魔法で攻撃する者が12人。残り9人は様子を見ている。魔法攻撃のすぐ後に前衛が攻撃する見事な連携だ。
部屋の入り口に陣取る2人に、子供たちは前面からしか攻撃できない。そのため直接攻撃で同時に攻撃できる数は限られる。前進してきた6人のうち4人が2人ずつクロとマシロに分かれて攻撃、残り2人がクロの足元に転がっている子供2人の救出に向かう。
クロ達に飛んできた魔法攻撃は発動が早い各種属性の小規模魔法だ。『ソイルショット』『ウィンドカッター』『ファイアバレット』の3種。前方180°から飛んでくる12発の魔法は通常は脅威だが、銃弾飛び交う戦場で戦い慣れた2人には何の問題もない。
クロは背負った盾を前に出して全て受け止める。それを見た前衛2人は慌てて足を止める。宙に浮く巨大な盾に進路を塞がれてしまったのだから仕方がない。
一方、マシロは魔法攻撃を発射前から見切り、発射と同時に走り出していた。魔法弾の間を難なく通り抜け、反応できずに前進を続けていた子供の一人に前蹴りを喰らわす。
「はバッ!?」
前蹴りを喰らった子供は自身の前進速度まで加わった強烈な衝撃を顔面に受け、吹っ飛び、転がり、部屋の反対側の壁に当たって止まった。血や折れた歯らしきものを撒き散らして転がった子供はぴくぴくと動いているが、完全に致命傷だ。
マシロに向かって前進していたもう1人が慌てて振り返るが、マシロに斬られるのとほぼ同時だった。当然、防御も回避も間に合わず、袈裟斬りにされ、内臓が零れ落ちる。
「あ・・・!?」
斬られた子供は何が起きたかわからない、という顔のまま崩れ落ちる。
その凄惨な様に子供たちの大半が目を奪われている間に、パアンという汁気が多い塊が固い何かにぶつかって弾けた音が反対側から二重に聞こえた。
見れば、マシロが蹴り飛ばした子供が転がっていった壁と逆の壁に真っ赤な何かが大きく貼りついており、クロの前には下半身だけの子供の死体が2つ転がっていた。クロが盾を2つに分割し、その隙間から盾の前に棒立ちになっていた子供2人を「黒嘴」で一刀のもとに薙ぎ払ったのだ。
「「きゃあああああああ!?」」
離れてそれを見ていた後衛や控えのメンバーはようやく理解が追いつき、悲鳴を上げる。圧倒的な戦力差に自然と後ずさりするか、その場にへたり込む。
何ということはない。少年窃盗団が今まで大人相手に勝てたのは、不意打ちや一斉魔法攻撃によって有利な態勢を作れたことと、大人が子供を殺すことに躊躇したり手加減をしようとしていたからだ。人外であるがゆえに躊躇がないうえ、対多数戦闘にも慣れたクロとマシロの敵ではなかった。
激しく動揺し、恐慌状態にも陥りそうな子供たちの中で、奥にいたリーダー格の男子だけが気丈に叫ぶ。
「お、お前ら!この人殺し!なんてことを!」
捕まった2人の子供を救出しようとしていた子供をクロが捕まえ、首根っこ掴んで持ち上げながら言う。
「ヒトの社会で生きることを捨てた奴らが人道を説くな。」
「うわあ!放せえ!」
捕まった女子が暴れ、ナイフをクロの腕に刺すが、クロは全く意に介さない。そして持ち上げた女子を思い切り床に叩きつける。暴れていた女子は動きを止め、血溜まりが広がる。
もう1人の救出担当の女子はすでにマシロに斬り捨てられていた。
「社会で生きる奴だけが人権を主張できる。社会で生きるには相互利益が成り立つように働かなければならない。その義務も果たさずに権利ばかり主張するんじゃあない。」
「そんなの知らねえ!俺達は生きたいだけだ!」
「じゃあ、勝つしかない。ヒトの社会で生きられないなら、獣の理の中で生きるしかない。戦って奪って、生き延びろ。」
そう言ってクロはゆっくりと近づく。子供たちは全員がわかっていた。このままでは勝てない。なんとか、しなければ。それぞれが考え、行動に移す。
女子が数人、前に出て跪く。
「「お願い!殺さないで!」」
精一杯の可愛さアピールによる懇願。しかしクロの返答は一切の躊躇なく一言。
「お前ら、猛獣の前でもそう言うのか?」
「「え?」」
次の瞬間、並んだ女子の首が一斉に横の壁に飛び、頭蓋と脳の欠片を血とともにぶちまける。
それを見て別の出入り口から数人が逃げ出そうとするが、半分がマシロに追いつかれて斬られる。しかし、マシロが向かった方向と逆の出入り口に向かった子供は追いつかれずに部屋を出た。
クロは次に必死の反撃をしてきた子供を容赦なく盾で床とプレスしながら、リーダー格の男子を見る。
・・・今見た通り、逃げようと思えば逃げられなくもないはずだ。あいつは何故逃げない?何か切り札があるのか?できれば生け捕りにするのはあいつにしたいが、どうするか。
阿鼻叫喚の地獄の中、まだ希望を捨てていないように見えるリーダー格の男子に警戒しつつも、クロは淡々と向かってくる子供たちを虐殺していった。




