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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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050 石像鳥

 クロ達3人は森の中、草木をかき分けて進む。小動物が木を伝い、小鳥が囀るのが聞こえる。近くに大型の獣がいる気配はない。

 やがて獣道に出れば、それを通って歩く。無暗に植物を傷つけて歩きたくはない。このメンツなら猛獣に遭っても対処できるし、問題ない。

 周囲を警戒しつつも、マシロがクロに尋ねる。


「どちらへ向かっているのですか?」

「沼だ。境界付近にあったろ?」


 数日前に境界線を引く作業で確かに沼を確認していた。ぎりぎり領地の外にあり、クロは何とかその沼も領地に入れられないかスミレに交渉したが、受け入れられなかった。


「別に領地内しか歩いちゃいけないわけじゃないしな。」

「それはそうですが・・・何が目的で?」

「事前にスミレからこの辺に棲んでる魔獣達の情報はいくらか得ていた。その中で一度見てみたい奴がこの沼に現れるみたいでな。」


 そんな話をしているうちに、沼が見えてくる。森の中に突然現れる沼は意外に広く、大きめの公園くらいの広さはありそうだ。反対側の森まで2kmといったところか。左右にはさらに広く、少なくとも4kmはあるだろう。

 沼の端は泥で濁っているが、中央辺りは割と澄んでいるように見える。ハスのような植物の葉がたくさん水面に浮かんでいる。残念ながら花の季節ではないようだ。

 沼の端に足を踏み入れる。当然、地面はぬかるんでいるが、クロとマシロは泥で汚れるのもお構いなしに歩けるところまで進む。ムラサキだけが嫌がってクロの肩に飛び乗った。

 沼から感じる多数の生き物の気配に、クロの顔が珍しく笑顔になる。


「いろいろいそうだな。魔力も感じる。真白、わかるか?」

「ええ。たくさんいます。マスターはどれがお目当てで?」


 クロの珍しく楽しそうな様子に、マシロも嬉しくなる。普段から怒りの感情に苛まれるクロを見ている分、それが緩和されているのはいいことだとマシロは思う。

 クロ達は沼に視線を巡らしつつ、沼の端に沿って歩く。


「石像鳥。ゴーレムバードと呼ばれてるらしい。この沼で突っ立ってる様子が観察されている。」

「ならすぐに見つけられそうですね。」

「ところがそいつ、一切動かないんだそうだ。だから石像鳥と呼ばれている。魔力を見ても動きがないから、鳥の形をした魔木じゃないかとまで言われている。」

「じゃあ、そいつが本当に鳥かどうか確かめに来たってのか?」


 ムラサキは退屈そうにしつつも、一応会話には加わる。


「いや、俺の予想だと、確かにそいつは鳥だと思う。スミレもそう言ってたしな。」

「その根拠は?」

「前世に似たような鳥がいてな、っと、いたぞ。」


 クロがさっと沼の端に生える葦のような草の陰に隠れる。マシロはクロが自分の感知より先に目的の鳥を見つけたことに驚きつつも、後に続いて隠れる。


 その鳥は太い足で沼の中に立っていた。水面から上の見える部分だけで1mほどの大きさの茶色一色の鳥だ。巨大なくちばしが特徴的で、その根元に眼光鋭い目がついている。やはりその体は微動だにせず、瞬きすらしない。足は沼の中にあって見えないが、もし沼の底に足がついているのだとしたら、かなり長い脚だろう。あの太さで長大な脚があったら、飛ぶことはできないかもいしれない。


「本当に魔力で見ても動きがありませんね。」

「ああ。あれはすごい。」


 魔力は生き物の意志に反応して動く。体内の魔力もその体の持ち主の意思に従って動き回る物だ。その魔力が動かないのは、意思がない、または完全な無心であることを示している。


「あんな無警戒で大丈夫なのでしょうか?」

「いや、おそらく・・・まあ、見てみよう。」


 盾を泥の少し上に浮かせて、座る。スペースは十分あるので、隣にマシロも座らせた。そうして生い茂る葦の隙間から、微動だにしない石像鳥を観察する。

 観察を始めて早々にムラサキは飽きて、クロの膝の上で寝始めた。マシロは落ち着いてはいるが、時々周囲を警戒して見渡す。クロだけがじっと石像鳥を見続けている。


「こんなところで座っていていいのでしょうか?」

「・・・ん?静かにしてればそうそう見つからねえよ。なんならアレの真似をしてみるといい。ほら。」


 クロが指さした方向には2km程離れた対岸に水を飲みに来た虎のような魔獣がいた。石像鳥がいるのは沼の中央で、十分虎の索敵範囲に入っているように見える。ところが虎が石像鳥に気付いた様子はない。


「気づかれない、のですか?」


 マシロは信じられない、という様子で虎と石像鳥を見つめる。やはり虎は気づいていない。


「おそらくあの虎には沼に生える木にしか見えてないんだろう。俺達が石像鳥を鳥として認識できてるのは、鳥の形に関して知識があるからだ。」

「なるほど。確かに私もマスターから教わらなければ、ああいう形の魔木と勘違いしますね。なら魔獣は近づかないでしょう。」


 この森に生える魔木には、不用意に近づいた魔獣をとらえて捕食する種がわずかながら存在する。魔木は動きは遅いが、甘い匂いや休憩しやすそうな枝ぶりをしていたりと、あの手この手で魔獣を誘う。そして一度枝や蔦で捕まえてしまえばどんどん魔力を吸われ、抵抗も難しくなるらしい。最終的にはその肉も養分にしてしまうそうだ。

 クロとしてはその他者の魔力を強引に奪う闇魔法の解析をしてみたいところだが、魔獣や魔木が行使する魔法は、魔族が長年研究しても模倣すらできない状況だ。

 ともあれ、この森に棲む魔獣たちは、魔木は危険で近づくべきでないものと認識している。そのおかげで魔木のような石像鳥は襲われずに済んでいるらしい。


「俺も真似してみよう。・・・・・・」

「はあ・・・」


 クロは無心になろうと目を開けて石像鳥の方を見ながら、押し黙る。マシロはこんな森の中で警戒を解く気になれず、そんなクロを呆れ気味に見ている。


 そうして数時間、昼時も過ぎた頃、マシロが流石に一度家に戻るべきでは、とクロに声をかけようとした時だ。


「動いた。」

「え?」

「んあ?」


 クロの短い言葉にマシロと寝ていたムラサキが反応し、石像鳥の方を見る。

 よく見れば、風になびく葉のように嘴の向きが少しずつ変わっていく。波のない泉のようだった魔力も、今はわずかに動きがある。


「狩る気ですか。」

「だろうな。」


 その魔力の動きからマシロが石像鳥の意図を察し、クロも同意する。

 やがて嘴の動きが止まり、脚に、首に力がこもる。そしてその嘴の先、ハスの葉の上にいるカエルが、近くを跳ぶ羽虫に舌を伸ばした瞬間。


 ぱちゃっ。


 小さな水音とともにハスの葉が揺れ、その上にいたカエルは消えた。どこに行ったかと言えば、石像鳥が嘴を上に向けて器用にカエルを飲み込んでいく。

 3人はそれを目を見開いて見ていた。


「お見事。」

「速いですね。」

「ああ、すげえもん見たわ。」


 3人が感動していると、カエルを飲み込んだ石像鳥は巨大な翼を広げた。その翼に魔力を集め、風を起こしてその風を翼で受ける。そうして浮き上がると同時に、長大な脚を折りたたみ、ある程度の高さを確保したら、羽ばたいてさらに上空に向かい始めた。そして周囲の木々より高くまで舞い上がると、優雅に滑空していった。

 クロは実に満足した笑顔でそれを見送る。


「いやあ、いいもん見れたわ。」

「待った甲斐がありましたね。」

「じゃあ、帰るか?」


 ムラサキはさっさと帰ってくつろぎたいようだが、興奮冷めやらぬクロはそれを無視する。


「いや、ちょっと真似してみよう。」

「は?」


 その後、クロは装備をマシロに預けて沼に足を踏み入れ、膝まで沼に使った状態でハスの葉の前で動きを止める。そして魔力の動きを極力止めて無心になり、カエルを待つ。

 しかし完全に無心にはなれておらず、ある程度近くまでカエルが来るのだが、近づくとクロに気付いて逃げていく。一度だけ不注意な小柄なカエルが近くまで来たのだが、最速で手を伸ばしても回避されてしまった。

 結局数時間、日が傾くまでそれを繰り返しても一匹も捕まえられなかった。ようやくクロは沼から上がって来たが、実に満足そうな笑顔だった。


「いやあ、やっぱ野生の鳥はすごいな!一朝一夕では真似できない!」

「マスターが楽しそうで何よりです。」

「そうかよ・・・でも待ってる身にもなれ!」

「お前らもやればよかったのに。」

「断る!」

「そうか。まあ、長々と待たせて悪かった。帰るか。」

「ええ。その服は川で洗ってから戻りましょう。」

「そうだな。」


 そうして3人で川に寄って全身と服を洗ってから家に戻り、紅茶を飲んだらその1日は終わった。


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