049 ヴォルフの依頼
「まずはこちらから。」
ヴォルフは封筒から1枚紙を取り出してクロに渡す。クロがそれを読んでいる間に、ヴォルフがもう1枚似た紙を取り出すと、マシロに渡した。
クロは大雑把に読んで内容を理解した。
「契約書?」
「ええ。クロ殿に渡したのが日本語版、マシロさんに渡したのが英語版です。同じ内容ですよ。」
「一応見てくれ。」
クロがマシロに紙を渡し、確認してもらう。
「・・・確かに同じ内容です。」
「ありがとう。・・・内容は金属の取引?」
「ええ。クロ殿が埋立場から金属素材を製造していたのを耳にはさみまして。それを我が国で買わせていただけませんか?」
「耳の速いことで。じゃあ、原料をフレアネスの埋立場から俺が買って、俺が地金に加工してフレアネスに売る感じか。」
「はい。原料代は無料で構いませんが、少しお支払いいただければこちらまで原料をお運びしますよ?」
「確かに運ぶのは手間だが・・・別にいい。」
埋立場と家の往復は時間も労力もかかるが、良い鍛錬にもなる。お金を払ってまで委任するものでもない。
しかしヴォルフは任せてほしいらしく、もう一押しして来た。
「ご迷惑でなければ、運搬はお任せいただけませんか?森の入口まででもいいので。」
「何か理由が?」
「あそこに住んでいる浮浪者に機会を与えたいのですよ。」
「あー・・・」
確かに埋立場には職も住処も失った者達がウロウロしていた。原料の運搬という新たな仕事を得て、僅かでも金が手に入れば、立ち直る可能性がある、というのだろう。
クロとしてはあまり気が進まない。別に生まれつき埋立場にいたわけではないだろうし、そこまで落ちた理由というものがあるだろう。そしてその理由の大半は碌でもない物であろうし、つまりは自業自得でそこにいるのが大半を占めると思われる。そんな連中に小金を渡したところで意味がないと思う。
断るか、と思ってふと横を見れば、ソファーの上に丸まったままこちらを睨むムラサキと目が合う。
・・・労働が嫌なのか、浮浪者を切って捨てようとするのが気に食わないのか・・・やれやれ。
「わかった。運搬は任せよう。運び手の選定はしっかりな。盗みを働くような奴には任せないでくれよ?」
「もちろんです。お任せください。」
ムラサキの顔を立てるだけではない。まず、運搬が面倒なのは事実だし、鍛錬なら家でもできる。それに、浮浪者の大半が碌でもない奴だとしても、一部は真面目な奴もいるかもしれない。きちんと選べば、そういう奴にチャンスを与えることになるかもしれない。そう前向きに考えることにした。だが、もちろん信用はしないので、運搬は森の入口までだ。
「作った地金の納入は?」
「こちらで運搬業者を手配しましょう。流石にそのまま売れる地金は、信用できるものに任せないといけませんから。」
「当然だな。」
そうして鉄、銅、鉛の販売が決まった。価格は今の流通価格と同額。クロは安くてもよかったが、今輸入している地金が急に売れなくなっても困るとのこと。そういえば、フレアネス国内に鉄とかが掘れる鉱山はないようだ。今までほとんど連邦からの輸入頼みだったらしい。あとは帝国からの鹵獲品か。
「さて、次はこちらです。」
2つ目の依頼も紙に書かれていた。これは契約書ではなく依頼書だ。
「これは?」
「傭兵ギルドの依頼票の写しです。この依頼が難儀でして、達成できそうな者がいないのです。」
クロは依頼票を手に取り、詳しく読んでみる。脇からマシロも覗き込み、ムラサキもクロのソファーの背もたれの上まで来て読む。
「少年窃盗団の・・・討伐?」
「子供相手にDead or Aliveとは物騒だなあ。」
「それには事情がありましてね。」
ヴォルフによると、初めはこの依頼は捕縛のみだった。生かして捕まえ、更生させるつもりだったらしい。逃げ足が速く、それなりに戦闘能力まである少年少女に手を焼いたものの、人手と時間をかけて数週間前にようやく捕らえたそうだ。
そうして更生させるべく、仕事を与えたのだが、なんと数日後に監督者と監視の兵士を襲って有り金奪って逃げたらしい。
その結果、もはや更生の余地なし、と判断され、討伐依頼になったようだ。
「それは・・・なんとも・・・」
「クズじゃねえか。」
「クズですね。」
子供に甘いムラサキが何とも言えずに言葉を濁すが、クロとマシロはきっぱり言い切った。
「しかし実力はあるようで、討伐依頼になってから何組か傭兵が向かったのですが、皆身ぐるみ剥がされて返り討ちになっているようです。」
「ふーん。まあ、受けてもいいよ。追跡は真白の得意技だし。」
「ええ。お任せください。」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」
そう言ってヴォルフは封筒を仕舞う。これで依頼は終わりかと思いきや、もう一つ依頼があった。
「で、最後に一つ、これはまだ対処も決まっておらず、貴方方に相談したことを文書に残せない話なのですが・・・」
そうしてヴォルフは最後の依頼、というか王国の懸念事項を相談したのだが、その内容は少々驚くべきものだった。
「そんな状態なのかよ・・・よく持ってんな、王国。」
「お恥ずかしい話です。内密にお願いしますね。」
「もちろんだが・・・そんな政治的な話をされても、俺らは協力できないぞ?」
「場合によっては荒事になる可能性があります。その時はご協力いただければ。」
「はあ・・・」
こればかりは返事を保留するしかない。話が大きすぎるし、畑違いだとも思う。そうして最後の依頼は保留ということになった。
「ではお話はこれで終わりです。長々とお邪魔しました。」
「いや、いつでも来てくれ。ここに引き籠ってると情報が入りにくいし。」
「ええ。ではまた近いうちに。依頼の件、お願いしますね。」
「ああ。」
颯爽と帰って行くヴォルフを見送り、3人は客間に戻る。
「さて、1つ目の地金製造については、毎朝ランニングついでに森の入口を見に行って、鍛錬ついでに原料を運べばいいか。」
「そうですね。」
「オレは手伝わんぞ。」
「わかってるよ。でも気が向いたら手伝ってくれ。」
「気が向いたらな。」
「加工は前回やった通り。3人の協力が必要だ。」
「お任せください。魔法の鍛錬にもなります。」
「まあ、それくらいは手伝うぜ。」
「よし。出来上がった地金は倉庫に並べて、業者が受け取りに来たら渡す、と。入口は馬車が入れるように広げるべきかな?」
「それは少し不用心かと。」
「そうか。じゃあ、業者が来たら馬車は入り口で待ってもらって、運搬を手伝おう。」
「はい。」
そんな感じで地金製造の流れを確認すると、次は討伐依頼の話だ。
「そういえばオレ、前にそれっぽいの見たぜ。市場で。」
「どうだった?捕まえられそうか?」
「逃げ足は速かったけど、強いかって言うと、普通だったと思うぜ?」
「ふむ。一人一人捕まえるのは面倒だから、適当な奴を尾行してアジトを狙うのがベストかな。」
「そううまくいくかね?」
「追跡は問題ないでしょう。臭いを誤魔化しても魔力で追えます。」
「問題は敵の数と実力だな。まずは情報収集からか。」
とりあえず、明日、買い物がてら街で調査することに決めた。
「ところで、クロ。随分と意欲的だな。」
「金が必要なのもあるが・・・俺って盗みって嫌いなんだよな。」
「戦場で殺した奴から色々パクってた奴が言うことかよ。」
「持ち主がいなくなったんだから、有効活用だよ。」
「遺族に所有権があったりしねえか?」
「取ってるのは武器だけだから、いいじゃねえか。」
そんな話をしていると、茶器を片付けていたマシロが戻って来る。
「それで、今日はどうします?」
「自由時間だけど。俺は森を散歩してくる。」
「お供します。」
「暇なだけだと思うが・・・まあ、いいか。」
「じゃあ、オレも。」
「結局全員かい。しょうがない。戸締りして行くか。」
そうして3人で戸締りをして、留守をスイーパー達に任せると、3人は森へ繰り出した。




