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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第2章 赤い狐
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048 公表と戦況

 領地の完成の2日後、森の中のクロの家にヴォルフが一人でやって来た。いつものようにスイーパー達が警戒し、クロが出迎えてスイーパー達を制止する。

 客間に招かれたヴォルフは玄関で靴を脱ぐのに少し戸惑ったが、入ってみれば実にくつろいだ様子だ。マシロが紅茶を淹れると、上品な手つきでそれを飲む。


「ふむ、腕は落ちていないようですね、マシロさん。」

「ありがとうございます。次は腕を上げた、と言わせて見せますよ。」

「ふふ、楽しみにしています。」


 ・・・満足してもらえたようだ。とっておきの茶葉を出した甲斐があるな。


 クロは買い物の時に買った高級な方の茶葉を使うようにマシロに指示していた。安物は普段自分たちが飲む分で、高級品が来客用だ。マシロなら言わずともそうしただろうが。

 クロがヴォルフの様子にちょっと安心していると、ヴォルフはカップを置いて背筋を伸ばす。


「ここだと仕事を離れている感じがして、くつろいでしまいますね。しかし長居するのも悪い。仕事の話をしましょう。」

「ってことは、もう公表したのか。」

「ええ、昨日。早い方がいいですからね。」


 ヴォルフの話によると、昨日、王城に国中の貴族を集めて発表したそうだ。招集時にはクロへの二つ名<赤鉄>の授与式に関する会議と言っていたが、そこでさらっとクロ達が魔族であることを言ったらしい。ついでにマシロがクロの手で魔族化されたことも。


「それはとんでもないサプライズだな。」

「ええ、皆さん大層驚いておられましたね。」

「そら、驚くわ・・・」


 ムラサキはドン引きしているが、事前に伝えるよりはいいかもしれない。事前に伝えれば、国王が説得するより先にクロ達に対して行動を起こす者がいる可能性が高い。


「マシロさんについては、どう伝えるべきか迷ったのですがね。シロによく似た犬に変化する別人の魔族、と発表する手も考えたのですが。しかし、クロ殿が既にカイ連邦にシロを喋れるようにしたことを話したのでしょう?」

「あー、確かにそう説明しちまったな。」

「そこで、もう包み隠さず事実を述べることにしました。マシロさんの魔族化は国王も与り知らぬところで行われたこと。そして魔族化したからと言ってマシロさんを追放すれば、我が国の戦力低下が無視できないため、交渉の末に傭兵として雇ったことを。魔族を雇ったことを非難する貴族は多かったですが、皆、戦況がいかに苦しいか理解していますからね。クロ殿たちの参戦でどれだけ助かったか、丁寧に説明して黙らせました。」

「大丈夫か?クーデターとか起きたら面倒だろ?」

「今の戦況でクーデターなど起こせば、一気に帝国に潰されると理解できない者はいませんよ。もしいたら、処理する他ないですね。」

「物騒だな。」

「穏便な手段をとっている暇がありませんので。」


 そこでヴォルフは一口紅茶を飲む。そして若干下を向きつつ、少し声を落として言う。


「別にクーデターが起きてもいいのですよ。新政権が国を維持できるのならね。ですが、帝国との戦争中に起きれば、確実にこの王国は潰されます。今でこそ押していますが、前線を支える後方でトラブルが一つ起きれば、簡単に押し返されるでしょう。ですから、帝国との戦争に決着がつくまでは、力ずくでも従わせますよ。」


 面と向かって話すクロに、ヴォルフの覚悟が伝わってくる。建国からずっと国を守って来た男。120歳を超える老人とは思えない覇気。魔族以上の化物と呼べるのではないだろうか。彼は守るべきもののためには手段を択ばないだろう。


 ・・・やっぱり敵には回したくないな。


 クロがそう感じていると、マシロが口を挟む。


「ヴォルフさん。力で黙らせることはできるでしょうが、政治的な決定には必ず貴族の同意も必要なはずでは?」


 マシロの言う通りだ。フレアネス王国は国王が中心とはいえ、独裁ではない。国王の決定でも、貴族の過半数が反対すれば取り消すことができる。


「ええ。そこが苦労したところでして。魔族を雇っていたことに関しては、どう非難をされても過去の話。隠していたと言われても、聞かれなかったからと言えばいい。」

「屁理屈っぽいなあ。」

「いや、そういうもんだろ。わざわざ言う事も無いしな。」


 ヴォルフの言い訳にムラサキは否定的だが、クロは同意した。意見が割れたものの、それはとりあえず置いといて、話を進める。


「問題はこれから。自治区を得たクロ殿は外国扱い。今後も共闘していただくには同盟を結ぶ必要があります。それの決議に手間取りました。」


 ふぅと小さく溜息をついて、ヴォルフはまた紅茶を一口飲む。


「当然、反対多数。特に戦線から遠い南部ほど反対意見が強かったですな。逆に北部は戦況の厳しさを身に染みて理解していますから、勝つためなら必要と見れば迷わず賛同してくれました。そこから長く議論が続きましたが、決定打は、ワンド伯爵の言葉でしたね。」

「ワンド伯爵?」

「ミツルギ山周辺の領地を治める貴族です。ついこの間まで戦場になっていた場所ですよ。」


 ワンド伯爵領は帝国との戦線の南下により、3年前から戦場になったそうだ。その際、ワンド伯爵は自ら最前線基地まで赴き、陣頭指揮を執って必死の抵抗をしたという。それによって1年もの間持ちこたえたが、とうとう耐え切れず、2年前、涙を呑んで領地を放棄。領民と共に王都付近に避難したそうだ。彼の領民は今、王都の北の平原に集落を作ってかなり貧しい生活を送っているらしい。

 その武勲と悲劇、さらに領民からの信頼の厚い領主という評判もあって、ワンド伯爵は国内の貴族の中でも一目置かれている。そんな背景の説明を一通り受けたクロは、その伯爵がどんなことを言ったのか、興味を持った。


「で、その人はどう言って反対派を説得したんだ?」

「彼の領地の主産業は、香辛料でしてね。」

「え?」


 ソファーで丸くなっていたムラサキが身を起こして目を見開く。


「彼が領地を必死に守ろうとしたのは、その産業を守るためでもあったのです。香辛料の材料となる作物の多くはミツルギ山のような高山でしか育たない物が多い。あの土地を失えば即ちその作物を失い、領民は生きる糧を失う。今、避難している彼の領民は国の援助で生活していますが、援助にも限りがあります。劣勢になれば援助を出す余裕はなくなりますし、仮に勝っても、領地を取り戻すのが遅ければ、その分、土地は荒廃する。既に2年経っており、残してきた作物はもう全滅しているかもしれない。元々野生でも高山に生息していた植物ですから、生きている可能性はありますが、時間が経つほどその可能性は低くなる。ワンド伯爵は、領民のためにも、一刻も早く領地に戻りたいのです。」

「待てよ、じゃあ、今流通してる香辛料って・・・」

「ほとんどが備蓄を吐き出している状態ですね。いずれはごくわずかな輸入品だけになります。」

「ええええええ!?」


 ムラサキが動揺する。食を生きがいとしているムラサキにとっては、そうなると大打撃だ。


「種とか持ってきてないのか?」

「もちろん、持って来ているでしょう。しかしミツルギ山に戻れなければ育てられませんし、種も永久に保存できるわけではない。第一、種から育てるのは大変なんです。デリケートな植物らしいですしね。一度大きくなれば安定するそうですが。」


 その植物は小さいうちは非常に雑草に負けやすく、すぐに枯れてしまうらしい。高山という特殊な環境で他の植物が育ちにくいところでなければ育たず、それでも無数の種のうちのごく一部しか大きくなれない。そんな植物らしい。


「ワンド伯爵はその現状を訴え、すぐにでも領地を取り戻したいと言いました。そして最後にこう言ったのです。「聞けば、その魔族の一人が我が領地の香辛料を甚く気に入り、香辛料の生産を復活させるために戦おうと言ってくれたそうではないか。そんな者達が悪人だと?彼らは戦闘狂ではない。彼らもこの土地の素晴らしさを理解し、守ろうとしてくれているのだ。そうでなければ命懸けの戦場になど行くものか。前線で戦った私は知っているぞ。戦場で戦い続けるには、命を懸けてでも守るべきものや成すべき目的が必要だということを。・・・私は彼らを信じよう。異論があるなら言ってみろ。」とね。戦場に出た事も無い南部の者たちは黙るほかなかったようです。」


 それを聞いた3人の感想は、まず香辛料について。


「そういえば、ムラサキが食堂で胡椒について騒いだことがあったな。」

「つまり、オレの心意気が勝利を呼び込んだんだな!」

「あれはお前、ノリで騒いでただけだろ。」

「しかし、伯爵は誰からそれを聞いたのでしょう?兵士は我々のことを外部に漏らさないよう言われていましたよね?」

「食堂で大柄なメイドにこっそり教えられたそうですよ。」

「マリーさんですか・・・あの方には世話になりっぱなしですね。」


 そして戦う理由について。


「こいつは戦闘狂だけどな。」


 ムラサキはクロを指して言う。


「否定はしない。間違っても善人ではないしな。」

「しかしマスターも目的があって戦っているのでしょう?」

「そりゃあ、そうだが、碌なもんじゃないぞ。ただヒト嫌いなだけで・・・」

「それだけなら相手を選ばないでしょう。マスターは我々とこの土地を守るために戦っている。そうでしょう?」

「まあ・・・そうだが。」

「素直じゃねーよなあ。」


 クロは誤魔化すように咳払いをした後、話題を変える。


「で、その伯爵の言葉で過半数の賛成が取れた、と。だが、全員じゃないんだろ?」

「ええ。それでも批判的な貴族はまだいます。中には過激な手を使う者もいるでしょう。警戒を怠らぬように。」

「勿論です。」


 マシロが力強く頷く。クロとて油断する気はない。野生の魔獣の強襲、魔族の刺客の暗殺に、魔族を嫌う者からの攻撃。それらすべてを迎え撃つつもりでここに居を構えたのだ。

 改めて覚悟を決めるクロ達に、ヴォルフが更なる忠告を加える。


「それと、いずれ他国からも問い合わせが来るでしょう。その時も正直に伝える予定です。そうすれば、他国の過激派も刺客を送ってくるかもしれません。易々と国境を越えさせる気はありませんが、万が一には備えてください。」

「わかった。来るとしたらカイ連邦かね?」


 カイ連邦は、100年前の勇者の教えを忠実に守っている。崇拝していると言っても過言ではない。その勇者と敵対していた魔族への嫌悪は強烈だろう。


「確かに苦情は来るでしょうが、カイ連邦に関しては問題ないと思います。あなた方に多大な恩がありますからね。」

「帝国を撤退させた件か。」

「はい。」


 2ヶ月半ほど前、クロが初めて戦った戦争、カイ連邦対ライデン帝国の戦線。確かにあれはクロと<疾風>の参戦がなければ、連邦は惨敗していただろう。それを引き合いに出せば、連邦の連中は強く出られない。


「第一、勇者カイは魔族を嫌っていたわけではありません。」

「そうなのか?」

「現に魔族は生き残っているではないですか。山奥で慎ましく暮らし、世界征服など企てないならば、殺しはしない、と勇者が温情をかけたからこそ、魔族の集落が残っているのです。その勇者カイの意思を尊重するなら、連邦は魔族だからというだけの理由であなた方を攻撃することはないはずです。・・・もし、攻撃などして来たら、私が直々に説教してやりましょう。」

「そりゃ、頼もしいな。」


 勇者が魔族を嫌っていなかったというのは少々意外だったが、考えてみればあり得る話だ。勇者カイは人間と獣人の間を取り持つような、あらゆる種族を寛容に認める精神の持ち主だ。魔族にも情けをかける可能性は十分ある。そうでもなければ、魔族嫌いの神々の後押しもあるだろうし、魔族は根絶やしにされているはずなのだ。

 とりあえず外交は王国に任せて、クロ達は自身の身の安全を守ればいい。そう結論して、次の話題に移る。


「ところで戦場はどうなっていますか?我々が抜けて1週間経ちますが。」

「それなのですが・・・結論から言えば、膠着状態です。」

「<地竜>は?」

「欠員が出たため、撤退しました。今、王都に帰還中です。」

「・・・そうか。」


 欠員、つまり、死者もしくは再起不能者が出たということだ。元々王都防衛が任務の部隊だ。あまり数が減ってしまえば、本来の任務が果たせない。不利となれば退くだろう。


「詳しく聞いても?」

「ええ。クロ殿達が退いてから数日、<地竜>を軸に攻め上がり、戦線をかなり北に押し上げました。そうして西はモスト川まで進み、北もミタテ平野まで進んだのですが・・・」


 モスト川は西大陸北東部に聳えるミツルギ山から西大陸北端まで流れる大きな川だ。そしてそのモスト川の北半分の東側に広がるのがミタテ平野。モスト川の恵みを受けて豊かな穀倉地帯が広がる広大な平野だ。もっとも、今は戦場となって荒れているだろうが。


「まず、モスト川は帝国が川に強固な防衛戦を敷いたため、突破できずにいます。」


 聞けばモスト川下流は川幅が広く、その割に潜れるほどの深さはないそうだ。そのため、橋を渡ろうが川を泳いで渡ろうが、さらに水魔法で水面を歩こうがどうしても対岸に待ち構える帝国軍に狙い撃ちにされてしまうらしい。帝国軍は人海戦術で夜でも十分な人員が川を見張っており、電気式の強力なライトが夜闇を照らすため、夜襲すら難しいとか。風魔法使いの航空戦力の投入も検討したが、実践に堪える者は少なく、少人数では攪乱も難しいとの見方だ。


「そしてミタテ平野なのですが・・・そこで<地竜>が2名戦死し、先へ進めなくなっています。」

「罠か?」

「いえ・・・雨です。」


 それを聞いた瞬間、マシロが歯を食いしばり、拳を握り締める音がした。ごく小さい音だが、隣にいるクロには聞こえた。


「死亡した2名に随伴していた部隊の証言では、<地竜>が操るゴーレムの周囲に急に雨が降り出したと思ったら、ゴーレムが崩れたそうです。雨を見たら即時撤退が周知されていたので、その部隊は情報を持ち帰ることができました。後から<地竜>が掘った穴を進むと、地中で死亡している2名を見つけたそうです。一見外傷はなかったのですが、検死の結果、耳の中や口内に穴が開いており、何かに入られたような跡だったそうです。小型の虫型魔獣の可能性もありますが、状況から考えて、雨を操作する水魔法使いの可能性が高いと考えられます。」

「視界外の地中ですら殺傷能力を持つのか。理論上は可能だが、人間業ではない・・・いや、まるごと固有魔法ならありえるか。」


 魔法は基本的に知覚範囲外では行使できない。地中の敵を正確に攻撃するには、マシロ以上の感知能力が必要だ。それは人間にできるとは到底思えない。

 ただし、条件を満たせば特定の挙動をするように事前にプログラムされた魔法なら知覚範囲外でも起動し得る。「雨を自在に操作する魔法」では知覚範囲外の地中を攻撃できないが、「降らせた雨が触れた敵を自動攻撃する魔法」なら地中の敵も攻撃できる。そちらの可能性が高いだろう。


「ってことは、その雨使いは異世界人なのか?」

「だろうな。」

「その雨がフェイクでなければ、ですがね。」


 ムラサキの予想にクロが同意するが、ヴォルフは別の可能性も提示する。確かに、まだ雨を囮とした別の攻撃手段である可能性はある。まだ断定はできない。


「ただし、フェイクだったとしても、雨を降らせているのは強力な水魔法使いであることは確実です。」

「その心は?」

「2か月前から風水魔導士が戦場の天候を制御しています。雨に警戒するように言った以上、普通の雨まで警戒していては戦えませんからね。」

「ああ、通りで参戦するとき晴ればかりだと思った。」


 風水魔導士はその名の通り、風、水適性が高い魔法使いで、天候を操る魔法が使える者たちだ。そこそこ希少であり、通常は海岸の警備を担当している。彼らのおかげで帝国の海からの攻撃を防げている。


「その風水魔導士の天候制御を無視して雨を降らせている時点で、彼以上の水魔法使いだとわかります。」

「つまり、帝国に魔法を使う兵士がいるのは確定か。」

「ええ。もう帝国は知らぬ存ぜぬでは対応できないでしょう。国内で混乱が起き始めている模様です。今までこっそり使っていた秘匿戦力だったのでしょうが、なりふり構っていられなくなったということでしょう。ミタテ平野を抜ければ、リュウセン運河は目の前ですからね。」


 北大陸と西大陸を隔てるリュウセン運河。そこまで帝国を押し返せば、もはや無理に攻める必要はない。講和の道も見えてくるだろう。


「川と雨に阻まれて我が軍は進めなくなりましたが、その混乱のために帝国も進軍できない様子です。あと1か月半で冬。私の見立てではもう今年は大規模戦闘はないでしょう。」

「冬はやらないのか?」

「おや?クロ殿はご存じないのですかな?」


 クロの質問に、ヴォルフは意外そうに答える。何かおかしなことを聞いただろうか、とクロが思っていると、マシロが教えてくれた。


「マスター。帝国との戦線は例年、冬は休戦しているのです。」

「なんでまた?」

「まず第一に帝国が冬は攻めて来ません。」

「雪中行軍くらいしてくるだろう?」

「戦争の初めの年はそうして来たそうですが、その際に帝国は手痛い反撃を受け、それ以降、冬は攻めて来なくなったのです。」

「手痛い反撃?」

「そこの、目の前の方が大層暴れたそうで。」


 クロが正面に向き直れば、対面したヴォルフがにこやかに笑っている。


「いやあ、あの時は年甲斐もなく張り切ってしまいました。」

「爺さん・・・あんた・・・」

「ヴォルフさんは<永久凍土>の二つ名を持つ世界最強の氷使いと言われています。雪に覆われる冬は完全にヴォルフさんのフィールドと化し、毎日千を超える帝国兵が屠られたそうです。帝国が諦めて撤退するまでの半月のうちに、2万人近い帝国兵が犠牲になったとか。」

「・・・もうあんた一人で攻め上がれよ。」

「無茶をおっしゃらないでください。その年は帝国を追い返した後、王都に戻ったら物流が大混乱になっていたのです。初の戦争でマニュアルもない状態では、若い部下たちだけでは対応できなかったようで。春までに建て直せたのは奇跡でしたね。今は後進の育成も進み、私が一月抜けた程度なら大丈夫でしょうが、いくら私でも単独では攻められません。あなた方のように不眠不休で働けるわけではないのですから。」

「いや、それは俺らも無理だけど。」

「とにかく冬に攻めるとなれば大量の物資が必要になります。今の王国にそんな余裕はありません。冬の休戦中に物資の調達と新兵の育成ができるから何とか持っているようなものです。よって、冬の戦闘は避けたいところです。」

「それを狙って帝国が再度攻めて来る可能性は?」

「なくもないですが、冬の間に準備を整えたいのは向こうも同じはず。いくら帝国でも物資や兵士が無限にあるわけではないでしょうし。」

「それもそうか。」

「まあ、万が一来た時にはクロ殿に依頼しますよ。」

「雪中戦闘か。不安が多いなあ。」

「私も避けたいところです。どうしても足を取られますし。」

「オレは問題ねえな。」


 雪中戦闘にクロとマシロは不安を感じるが、ムラサキは余裕の表情だ。『エアテイル』による空中移動を得意とするムラサキは、雪に足を取られる心配がない。クロとマシロも空中移動は可能だが、空中戦ができるほどではない。


「練習しとくかあ。」

「そうですね。」


 トレーニングメニューの追加を検討するクロとマシロ。クロは億劫そうにしつつも、どこか楽しそうでもある。

 クロとマシロがそれを話し合い始める前に、ヴォルフが次の話を始める。


「ところで、しばらく戦闘の予定がないので、別件の依頼があるのですがね。」


 そう言ってヴォルフは封筒を懐から取り出した。


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