046 初の来客
「おじゃましま~すぅ。」
「・・・失礼します。」
スミレは自然に玄関で靴を脱ぎ、クロの家に入っていく。ブラウンは、玄関で靴を脱ぐのは珍しいようで、少し戸惑いつつも靴を脱いでいる。
「客間でくつろいでてくれていい。今、布団を持ってくる。」
クロはマシロと一緒にソファーを部屋の端に寄せながら言う。
「すみません。わざわざ部屋を用意していただいて。」
「いや、俺のせいで遅くなったわけだし、むしろちゃんとした寝室を用意できなくてすまない。」
ブラウンとクロがそんなやり取りをしている間に、スミレは荷物や外套をソファーに放り出して、残ったスペースに座ってくつろぐ。
「スミレさん、他人の家なんですから、その、もう少し・・・」
「えぇ~?でもクロさんはくつろげって言いましたしぃ~。」
そんなスミレを気にする素振りも見せずにクロとマシロは物置に布団を取りに行く。残ったムラサキが家の説明をする。
「隣はリビングだ。後で夕飯出すから、食べるのはこっちで。奥の扉を開ければトイレと風呂もある。あ、風呂は悪いがまだ水浴びみたいな感じでしか使えねえ。石鹸買い忘れたからな。あと、水は『ウォーター』、お湯にするのは『ヒート』で各自でな。」
「ありがとうございます。水浴びでも十分ですが・・・」
「サバイバル感が抜けませんねぇ。私は構いませんけどぉ。」
クロとマシロが布団を担いで戻ってくると、話題は夕飯に移る。
「悪いが保存食しかないんだ。」
「いただけるだけでも・・・」
「おおっと、ただ干し肉や干し芋をかじるだけの夕飯を客に出すなんて、オレが許さないぜ!待ってな。オレがスープとかある物で作るから。」
ブラウンが妥協しようとしたのをムラサキが止め、料理すると言い出した。奥に走って行ったムラサキは、数分後、獣人形態で食材を担いで戻って来た。
「じゃあ、夕飯はムラサキに任せよう。」
「まあ、適任ですね。」
「それじゃ~。待ってる間、お風呂いただいてもいいですかぁ?」
「どうぞ。」
「じゃあ、遠慮なく~。」
「ちょっとスミレさん。家主が先でしょう、こういうときは。」
早速荷物から着替えを取り出すスミレをブラウンが引き留める。常識的な意見だ。だが、ここには常識人のほうが少ない。
「いや、いいよ。俺らは川に行ってくるから。なあ、真白。」
「ええ。我々は水適性が低いので、大量の水を出すのには時間がかかりますし。川の方が手っ取り早いです。」
「川って・・・」
「今日、南西側で見つけたじゃないか。」
驚くブラウンにクロがさも当然のように説明する。確かに今日、境界線を引いているときに川を通った。濁りがないきれいな川で、水量も多い。川底は石が多く、水浴びできそうな川ではあった。
しかしここは魔獣の森であり、どんな怪魚が潜んでいるかわからないし、そもそも夜の森を歩くというだけで正気の沙汰ではない。
だがクロはそんなことを気にもかけずに淡々と説明する。
「実際、この家の水の貯蓄は多くないんだ。外の水瓶の分だけ。1人風呂に入ったらもう空になる。どの道汲みに行かなきゃいけないし、ついでだよ。」
「それは・・・そうですが。」
泊めてもらうのに、そこまで迷惑はかけられない、と思いつつも、自分達では夜の森を抜けて水を汲んでくることなどできない。そう思ったブラウンは同意するしかなかった。
「マスター、ブラウン殿が心配されるのもわかります。念のため一緒に行きましょう。」
「そうだな。余った鉄板で水を入れる缶でも作っていくか。」
「ええ。ムラサキ、お客様の対応は任せますよ。」
「わーったよ。」
そう言ってクロとマシロはさっさと外出してしまった。と、思ったらクロだけ戻ってきて玄関から声をかける。
「スミレ、オレらがいない間にムラサキに魔法使ってたら・・・」
「わかってますぅ!わかってますよぉ~。」
クロの脅しにビクつくスミレ。本当にわかっているのか、クロは疑いの目で数秒スミレを睨むが、怪しいからと言って残るのも面倒だ。結局、クロはそのまま出発した。
結論を言えば、スミレは反省の色もなく、あの手この手でムラサキを捕らえようとした。風呂に入ってからあれがない、これがないと呼びつけたり、料理の様子見と言ってムラサキに近づいた。
ところが、それは悉くブラウンが阻止したため、事なきを得た。スミレが(わざと)忘れた着替えを風呂に持ってきてと頼めば、ブラウンが持って行って脱衣所においてさっさと立ち去る。キッチンに接近しようとしたスミレをブラウンが道を塞ぐように遮る。
そんな攻防を繰り返し、ムラサキは冷や冷やしながらもどうにか料理を完成させた。
鉄板を加熱して薄く引き伸ばし、折り曲げ、熔接して20Lくらいの鉄の缶を4つ作ると、クロとマシロはそれぞれ両手に缶を持って走り出す。
日々王城の林で訓練していた成果か、2人は素早く森を抜けていく。その速度は夜行性の獣さえ追い付けないだろう。
そうしてものの数分で川に着いた2人はまず缶と武装を川のそばに置く。クロは服を脱ぎ、マシロは服を着たまま川に入る。
そもそも魔族は汗もかかないし、老廃物もほとんど出ない。食事をしたとき、どうしても栄養になりえない成分だけ、たまに排泄するだけだ。なので汚れるとすれば外的要因だけと言える。今日は川以外にも沼のようにぬかるんだ道もあったし、そこそこ汚れている。故に服を洗うのがメインの目的だったりする。
マシロは身に付けているのが全部自分が作った炭素繊維製だし、クロのズボンと外套もそうだ。雑な洗い方をしても傷んだりしない。
クロは体を適当に洗った後、ズボンと外套を洗う。川の水ですすいで、汚れが付いた部分はゴシゴシ擦る。マシロも似たようなものだ。
途中、魚が何度が襲ってきたが、すべてマシロが素手で撃退した。できるだけ殺さないように、というクロの方針に従い、大怪我はさせないように注意している。
洗い終えたら、クロは『ヒート』と『ウィンド』で体も服も乾かし、服を着る。マシロは服を着たまま体をゆすって水滴を飛ばした後、『ヒート』と『ウィンド』で乾かす。
最後に缶に水を汲んだら、それを持ってまだ2人で走る。
10分ほどで家に戻って来た2人は、水がたっぷり入った缶を水瓶の隣に置く。見ればすでに水瓶は空に近い。缶の1つを開けて水瓶に注いだ。
「いい訓練になりましたね。」
「そうだな。これは日課にしてもいいかもしれない。」
「ええ。もう少し缶を大きくできますか?」
「流石だな。よし、明日は25Lにしよう。」
「お願いします。」
玄関から2人が入り、客間の戸を開けると、客間には着替えたスミレと、着替えを持ったブラウンがいた。ムラサキも様子を見にリビングから顔を出している。
外でのクロのマシロのやり取りが聞こえていたらしいスミレとムラサキは苦笑いを浮かべている。
「脳筋・・・」
「脳筋ですねぇ。」
「何の話です?ともかくクロ様が戻られたなら、私がお風呂をいただきますね。クロ様、お借りします。」
気づいていないブラウンがクロに一礼する。
「ああ、どうぞ。遠慮しなくて先に入ってていいのに。」
「いえ、スミレさんから目が離せなかったので。」
「やっぱりそうなったか・・・助かったよ。」
「いえ、御迷惑おかけしまして、申し訳ありません。」
「いいんだ。そのリスクも込みでの付き合いだし。」
そうしてブラウンが風呂に入ると、クロとマシロも客間でくつろぐ。マシロは初め立っていようとしたが、クロが座るようにすすめたので、ソファーに礼儀正しく腰掛けた。布団を2つ並べて狭くなってはいるが、ソファーとテーブルを置いて座るくらいのスペースは何とかある。
クロは足を組んで背もたれに寄り掛かり、ぼーっと宙を見つめながら、今日出会った獣たちを思い返す。
マシロはクロの隣で目を閉じてじっとしている。何をしているかは、傍からはわからない。
スミレはクロとマシロのソファーの反対側の1人用ソファーに座って読書をしている。
初めは静かな3人だったが、スミレが切りの良いところまで読んだのか、本を閉じて口を開く。
「そういえばお二人とも鍛えるのが好きですよねぇ。」
「そうだな。」
「そうですね。」
「理由とかありますぅ?」
「強くないと生き残れないだろ。」
「私は魔族になった目的が、強くなることですから。」
「へぇ~。」
3人が雑談を始めたところに、キッチンからムラサキの声が聞こえてくる。
「おーい、クロ。ちょっと来てくれ。一応味見してくれ。」
「俺に頼んでも、あまりわからんぞ。味覚はムラサキの方が確かだろ。」
「初めてだから自信ねーんだよ。客に頼むわけにもいかんし。マシロよりはマシだろ。」
「しょうがないな。」
そう言ってクロは席を立ち、キッチンに向かう。
マシロの味覚音痴はもはや周知の事実で、マシロ自身も否定しない。
マシロと2人だけになったのを見計らって、スミレが声を潜めて尋ねる。
「マシロさんにとって、クロさんってどうですかぁ?」
・・・メイドの同僚もこんな話をしていましたね。ヒトの女性はこういう話題を好むのでしょうか?
そんな感想を抱きつつも、マシロは淡々と答える。
「私に力を与えてくださった、という点では師と呼ぶべきでしょう。だからマスターと呼ばせていただいています。しかし、マスターは対等の関係を望んでいますから、師弟関係とも違いますね。」
「表向きは主従関係に見えますけどぉ、そういうってことは実情は違うわけですねぇ?」
「そうですね。表向きはそうしていますが・・・やはり兄妹が一番近いでしょうか。」
「ほうほう。兄のようなもの、と。」
「ええ、手のかかる兄です。」
「というと?」
「マスターは放っておくと、すぐ自分の身を犠牲にしようとします。だから我らがそばにいて、死ねない理由を作っていないと、ダメなんです。」
「そうなんですかぁ?そんな死にたがりには見えませんけどぉ?」
「顔には出さない方ですから。」
そういってマシロはクロがいるキッチンの方向を見る。壁が邪魔でその姿は見えないが、そのマシロの目は本気でクロを心配しているのが見て取れる。
そんな真面目な話をしているなど知りもしないクロ達は鍋の話をしている。
「だー!やっぱ手前じゃだめだ!やっぱり生姜を入れるべきなんだよ!」
「別にこれでも十分美味いと思うんだがなあ。」
そう言いながらクロがキッチンから戻って来る。
「なあ、真白。生姜ってどこに入れたっけ?冷蔵庫にないんだが。」
キッチンには備え付けの冷蔵庫があった。魔法で作ったの氷を上のスペースに入れて、下のスペースに入れたものを冷やす。クロ達は氷を作れないので、定期的に街で買うしかない。今は買って来た調味料の一部だけが入っている。
「生姜は物置にあります。私が取って来ましょう。」
「そうか?じゃあ、頼む。」
クロは前世のイメージで生姜は冷蔵庫に入っているものと思ったが、この世界における「生姜」は、前世の生姜に似た味の粉末の調味料だった。冷暗所での保存が適する調味料は物置に置いていた。料理の頻度が低いゆえに、キッチンに置く必要はなかった。
マシロが席を立ち、今度はクロとスミレだけになる。いつも携帯している「黒嘴」は流石に自宅では自室に置いてきている。
「クロさんにとって、マシロさんってどうですかぁ?」
・・・ヒトってのは、やっぱりそういう話が好きなんだな。いや、こいつの場合は単に情報を得るのが好きなだけの気もするが。
自身の情報は基本秘匿するクロだが、スミレ相手では開示できるところを開示していかないと、強引に重要な情報を引き出そうとしてくる可能性がある。仕方ないので、質問にクロは答える。
「最初は信頼できる仲間が欲しくて誘ったが、今はもうそれ以上だな。」
「ほう~。仲間以上~?ということはぁ?」
「姉弟だな。」
「あらら、クロさんもですか。」
「真白もそう言ってただろ?」
「まあ、そうですけどぉ。・・・ちなみに妹で合ってますぅ?」
「いや、姉じゃないか?頼れる姉。」
「あれぇ?そこは食い違うんですねぇ。」
「ん?」
そこへマシロが戻って来る。
「マシロさん~、マシロさんにとってクロさんは兄貴分なんですよねぇ?」
「ええ。さっきもそう言いましたが?」
「え?」
「ん?」
互いに見合って首を傾げるクロとマシロ。
「いやいや、戦闘はもう真白の方が強いし、真白の方がよっぽどしっかりしてるだろ。俺が至らないところはフォローしてくれるし。」
「いえ、戦闘はまだマスターの方が強いでしょう。それに私はヒトの常識がわからないので、失敗もあります。とてもしっかりしているとは・・・第一、リーダーはマスターでしょう。」
「いや、鍛錬では9:1で真白が圧勝してるじゃねえか。まあ、リーダーってのは否定しないが、俺がリーダーやってるのは成り行きで、元々俺は上に立って指示するのには向いてないんだ。」
「あんな棒きれでの鍛錬ではマスターの実力は出せていないでしょう?本気でやればマスターの方が強いはずです。それと、リーダーは上に立つものばかりではありませんよ。先頭になって進む者もリーダーです。」
「むう。リーダーについてはまあいいよ。でもやっぱり真白の方が強いと思うがなあ。」
「いいえ。マスターの方が強いはずです。」
「なら今度ガチでやるか?」
「望むところです。真剣でやりましょう。」
「なんですかぁ?これぇ。」
どちらが兄か姉かの議論が、いつの間にかどちらが強いかに変わっている。しかも互いに自分の方が弱い主張する、なんとも変な勝負だ。
そこへリビングからムラサキが顔を出す。
「おめーら、アホなこと言い合ってないで、こっち来い。飯できたぞ。ブラウンももう出てくる頃だ。」
ムラサキのセリフが終わると同時に、脱衣所の扉が開く音がする。新しい服に着替えたブラウンがさっぱりした様子で出てくると、着替えた服を荷物袋にしまう。
「すみません。待たせてしまいましたか?」
「いや、今できたとこだぜ。ほら、リビングに来い。おめーらも。」
「はいは~い。」
「おう。」
「ええ。」
そうして5人がリビングのテーブルを囲んで座り、食事が始まる。
「「いただきます。」」
保存食を加工しただけの鍋やスープだが、調味料で味が調えてあり、なかなかうまい。
「美味しいじゃないですかぁ。やりますねぇ、ムラサキさん~。」
「ええ、この限られた食材でここまでできるとは。」
「へへ、そうだろ?」
スミレとブラウンに褒められたムラサキは胸を張る。
「まあ、舌が肥えてるからな、ムラサキは。」
「体も肥えてますよね。もっと運動するべきです。」
「お前ら・・・」
クロとマシロは美味いと思いつつもムラサキをからかう。2人ともムラサキが嫌いなわけではなく(いや、マシロは嫌いなのかもしれないが)、調子に乗りやすいムラサキは適度に落とした方がいいと思っていた。
ムラサキは「文句あるなら食うな」と言いたかったが、既にこの2人は自分のスープの他は鍋を味見程度だけ食べて食事を終えている。そもそもこの2人は無駄な食事をしないので、負傷したわけでもない今日は食べる必要がないのだ。ムラサキのそれがわかっていて、鍋は3人分しか作っていない。
悔しがるムラサキを見かねたクロは、改めて玉杓子を取り、鍋をもう一杯だけもらう。
「まあ、その分やっぱり料理が上手いな。今後はムラサキは料理担当ってことで。頼むぞ。」
「え、お、おう。」
「俺や真白は料理あまり上手くないからな。こういうところはやっぱりムラサキがいないと。」
「そうですね。こればかりは敵いません。」
フォローするクロにマシロも乗っかる。
「いいように言いくるめられてる気がするが、まあいいや。」
とりあえず落ち着いたところで食事を再開。スミレだけは会話を聞きながらも食べ続けていたが。とにかく料理は主にスミレとブラウンとムラサキが食べ、クロとマシロも少しつついて、完食した。
「では、おやすみ。トイレと脱衣所の洗面所は使っていいけど、奥の個室には立ち入り禁止で。」
「わかりました。」
「は~い。」
そうしてブラウンとスミレは布団に横になる。ブラウンは若い女性が隣に寝ていることを意識して気まずい気分だったが、スミレに動きはなく、ブラウンは日中の疲れが出てすぐに眠った。
その数分後、寝たふりをしていたスミレがそっと起き上がる。
・・・ああは言われましたが、やっぱり気になりますよねぇ。
上半身を起こし、客間の奥の引き戸を少し開ける。猫耳を澄ませて個室側の様子を探る。個室の扉が閉められている以上、中までは見えないが、どうやらそれぞれ個室に入った模様だ。
・・・よしよし~。ではこっそり覗いてみましょうかぁ。
スミレはそっと布団を抜け出し、足音を殺して廊下に出る。当然『エアーステイ』で消臭済みだ。トイレの前から風呂の前の方に進もうとしたとき、扉が開く音がした。
・・・この足音は、猫形態のムラサキさんですねぇ。トイレでしょうかぁ?
慌ててスミレはトイレの前まで戻る。この位置なら誤魔化しは効くはずだ。ところがムラサキはこちらまで来ないで、4つある個室のうち、誰もいない一番手前に入った。
・・・部屋は余ってないと言っていましたが、なんでしょう~?
再度接近を試みようとしたスミレは、再び扉が開く音がして動きを止める。
ほとんど足音はなく、しかしわずかに聞こえる足音から重量感を感じる。マシロだ。
マシロは一番奥の個室に行き、ノックする。
「マスター?」
「ああ、先に行っててくれ。すぐ行く。」
「かしこまりました。」
マシロは来た廊下を戻り、自室を通り過ぎて、ムラサキがさっき入った部屋に入る。スミレの鋭敏な耳はその扉が開いた瞬間に、ムラサキの寝息を聞き取った。
・・・一番手前の部屋は寝室ですかぁ。各人の個室と別に寝室があるから空いてないんですねぇ。ん?さっきクロさんすぐ行くって・・・
そう思った瞬間、一番奥の部屋からクロが出て来る音がした。そうして廊下を歩き、やはり寝室に入った。
・・・ムラサキさんは既に寝ていた。ということは今、クロさんとマシロさんは寝室で2人っきりぃ!ふふふ、兄妹とか言っておきながら、やることはやるんですねぇ。そうですよねぇ。魔族に繁殖能力はなくても、行為はできますからねぇ~。
にやにやと笑いながらスミレがそっと寝室に近づき、扉に近づいて中の音を聞こうとすると、急に扉が開いた。
「ひゃっ!?」
慌てて跳び退いたスミレ。この至近距離から外開きの扉を回避した反射神経は流石と言うべきだろうが、危機はまだ回避できていない。
「「何をしている(んですか)?」」
扉が開いた先には、寝間着にしているのであろう半そで半ズボンのジャージを着たクロと、犬形態で鞍を外したマシロがいた。2人してスミレを睨んでおり、クロの目はいつも通り恐ろしく、マシロは巨体の犬になっており、牙を剥いて唸る姿は本能的な恐怖を想起させる。
「いやぁ~、お二人が仲良く寝室に入るものですからぁ~、気になってぇ~。」
「「そうか(そうですか)。で?」」
「えぇ~と、そういう行為をしようとしていたのではなくぅ?」
「違うな。」
「違いますね。」
マシロが犬形態であるのを見れば、一目瞭然だ。
「そ、そうですかぁ~。」
「で、俺の安眠を妨害した件については?」
「立ち入り禁止と言いましたよね?」
「ごめんなさいぃ~!」
スミレは素早く土下座し、その直後に脱兎のごとく客間に逃げ込んだ。泥のように眠るブラウンはそれでも起きない。
それを見送ったクロとマシロは、やれやれとそろって溜息をついて寝室に戻った。




