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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
431/457

351 神の導き

 9月2日。北大陸全域を支配する広大なライデン帝国の西側を、南から北へジグザグに飛び回りながら、軍事拠点や物資集積拠点を襲撃、帝国兵を鏖殺、武器を奪取、そして追いかけて来る神竜達から逃走。クロはそれをひたすら繰り返していた。

 もう何日目になるか・・・しかし、それもゴールが見えて来る。

 上空から強化した視力でようやく見える程度だが、皇都が視界に入っていた。一応、クロはそこを目標に進んでいる。


 ・・・こんだけ潰してもまだ半分だが、まああいつらの助けにはなるだろう。


 クロが軍事拠点を潰して回っていたのは、武器の回収もあるが、最大の目的は西で戦う仲間の援護だ。

 帝国軍と事を構えた場合、最も厄介なのは、絶え間なく攻めて来る兵士、兵器、その物量だ。

 いくら強力なネームドでも、無限に戦い続けることはできない。無限に襲い来る兵士にされられれば、いずれは体力が尽きるか、心が折れる。


 そうならないために、今前線に出ている帝国軍だけ倒せばそれで済むように、クロは帝国国内の拠点を徹底して潰し回った。

 本当なら、すべての軍事力を削いでしまいたいところだったが、後ろから追跡してくる神竜達がそれを許してくれない。

 先回りされないよう、移動ルートはできるだけランダムに。あえて見逃した拠点もあった。


 ・・・最後は皇都で奴らと決着をつけよう。


 そう思いつつ、また新たな拠点を発見。襲撃する。



 初撃。拠点へ降りるとともに、自らに追従する無数の武器を雨のように降らせる。

 武器はいずれも怨霊が宿り、自我を持って生者を襲う。

 大抵はこれで8割方の敵兵が死ぬ。接近速度が速すぎるため、敵は警戒もしていないことが多い。


 だが、今日は違った。


「ん?」


 いつもなら、初撃の直後に、生者を殺した歓喜を叫ぶ怨霊達の声が聞こえるはずだが、それがない。

 武器達より一拍遅れてクロも着地。同時に魔力を高速展開。拠点にあるすべての金属を掌握する。


 そこでいつもと違う点に気付いた。


 クロを取り囲む生きた兵士達。怨霊付きの武器達の強襲を受けてなお、生存し、かつ、戦意が衰えていない。

 こういう兵士はここまでも稀にいたが、今回は明らかに武装が違う。


 一様に銃を構えていたこれまでの兵士達と違い、盾と槍を持っている。しかも、いずれも金属製ではない。

 魔木や魔獣素材でできた、金属を一切使用していない武装。明確にクロ対策の装備だった。


 ・・・流石に対策を取って来たか。それにしても、違和感があるな。


 金属を操作するクロに対し、金属なしの装備で対応する。正解ではある。

 だが、基本的に銃で戦う帝国兵が、急に盾と槍に持ち替えて、満足に戦えるだろうか?

 まったくできないとは言わないが、縦横無尽に飛ぶ無数の怨霊付き武器に襲われ、それに対応できるほどの技量があるとは思えない。

 にもかかわらず、目の前の兵士達は、絶妙な盾捌きで、襲ってくる剣や槍をいなしている。


 ・・・明らかにあの装備を使い慣れた動きだ。帝国にこんな部隊がいたのか。


 クロは純粋に驚いていた。クロにとって人間は憎悪の対象であるが、技術や才能を持った人間は嫌いではない。むしろ貴重だとさえ思う。

 この兵士達は、誰かが作った道具に頼るのではなく、自身を鍛え、道具を使いこなしている。動きを見れば、並大抵ではない努力で身に付けた技術だと感じられた。


 戦場で向かい合った以上、殺し合うのは避けられないが、クロはそんな彼らが少しだけもったいないと思い、ほんの数秒、彼らの戦いを立ち止まって見ていた。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・好機。


 クロが襲撃した拠点。その中心部では、今まさに地獄のような戦いが繰り広げられている。

 情報通りとはいえ、剣や槍が独りでに動き、飛び回り、襲い掛かる。そんな武器達が100以上、それぞれが意思を持つように動いている。どこの地獄かと思うような光景だ。

 その中で、<RTB>の前衛担当の仲間達が必死に戦っている。四方八方から襲い来る武器を捌きつつ、<赤鉄>の意識を引きつけている。


 これまでの情報では、<赤鉄>は拠点襲撃の際、走り抜けるように忙しなく襲撃すると聞いていた。

 だから、それを如何にして止めるか、狙撃手であるリンゾウの弾丸が当たる機会を如何にして作るか、それが課題だった。


 ところが、理由は不明だが、<赤鉄>は着地の直後、立ち止まって動かなかった。

 慮外の好機。リンゾウの、狙撃銃を構える手に力が籠る。

 しかし、その力をすぐに抜く。


 ・・・落ち着け。逸るな。いつも通りに、だ。


「我が神、八咫烏やたがらす様に願い奉る・・・」


 いつものように、我流の詩を口ずさむ。

 狙撃の際に必要なもの。軌道計算、風の流れの把握、敵の動きの予測、・・・そう言ったものは、すでに体に染みついている。わざわざ意識する必要もない。

 そこまで来れば、重要なのは、冷静に、一切の動揺なく、イメージ通りに引き金を引くことだ。興奮も緊張も不要。詩を口ずさみ、ルーティンを行うことで、不要な感情を沈めていく。


 敵を観察する。


 ・・・ああ、なんて恐ろしい相手だ。


 これまで、色んな強大な魔獣を見て来た。怪獣、怪物、神の化身、そんな風に呼ばれた魔獣とも戦って来た。

 だが、そのどれとも違う。途轍もなく大きな力。人間にはどうしようもない災害。それが形を成したらああなるのではないか。まさしく昔の人間が「神」と呼んで畏怖したもの、そのものに見える。

 沈めた感情のおかげで、恐怖に震えることはないが、一瞬、引き金を引くことに躊躇した。


 神に弓引くのか?


 ・・・ああ、もちろんだとも。


 リンゾウ達の目的は、八神への直談判。敵対も辞さない、強い意志で臨んでいる。その八神の尖兵であろう<赤鉄>を倒し、八神を交渉の場に引きずり下ろす。

 そも、リンゾウ自身にとっての神は、信仰する八咫烏のみ。あるいは、それと同格の、日本古来の八百万の神々。

 決して、あんな力が強いだけの者を、「神」だと認めるものか!


 瞬間、リンゾウの頭に閃くものがあった。

 論理も因果もわからない。だが、それを正しいと感じた。まさしく神の導きだと。


「・・・そのお導きに、感謝を!」


 リンゾウは、銃口をわずかに逸らした。<赤鉄>をまっすぐ狙っていた銃口を。

 そして天啓を信じ、引き金を引く。


ーーーーーーーーーーーー


 その瞬間、起きた事象を理解できた者は、クロだけだった。


 クロの魔力がまだ行き届いていない遠方から、音速を超えて飛来するものがあった。

 銃弾。狙撃だ。


 加速した思考の中、まずクロは、その弾丸の操作を試みる。


 ・・・通らない?魔力が込められている?


 時間が1秒でもあれば、押し通せるだろうが、銃弾はそれより早く着弾するだろう。


 止む無く、クロは防御する。クロの意識に呼応し、数本の武器がクロと銃弾の間に滑り込む。

 急所をカバーした、完璧な防御。


 そのはずだった。


 銃弾は、クロへと向かわず、クロの目の前にいる兵士の傍へ。

 外れたか、と思った瞬間。銃弾は、死角から兵士を襲おうとしていた剣に当たる。剣は弾かれ、兵士は命拾いをした。


 そして、剣に当たった銃弾は、ひしゃげながらも軌道が変化し・・・クロの顔面、目に突き刺さった。


 目は、クロが魔法強化チタン装甲でガードしていない数少ない部位。銃弾は容易く脳に達する。

 そして、その先は、クロの頑丈な頭蓋が仇となる。

 侵入した弾丸は、クロの頭蓋内で何度も跳ね返り、徹底的に脳を破壊した。


ーーーーーーーーーーーー


 <赤鉄>の周囲で必死に戦っていた<RTB>の前衛たちは、飛び回る武器達の動きが急に鈍った事に気づいた。

 武器達は徐々に減速し、やがて力なく地面に落ちる。ガランがらんと音を立てて。


 もしやと思って<赤鉄>を確認すれば、項垂れて、顔から血を滴らせている。

 これまでの経験から、彼らはすぐに、リンゾウの狙撃が成功したのだと理解した。


「や、やった・・・」

「やったぞ!」


 無数の武器が転がる軍の拠点に、<RTB>のメンバーの歓声が広がった。


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