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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
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349 「疾風」vs「雨竜」 その6

 マシロの『サンダーボルト』により、大電流がカイルの身体を貫く。

 体表から流されたのならば問題なかった。竜鱗は電流をも防ぐ。

 だが今は、右腕を黒い糸に侵食され、左肩を刀で貫かれている。それぞれの武器から流された電流は、確実にカイルの体内を貫いた。


 マシロは、この奥の手を考案したきっかけを思い出す。


ーーーーーーーーーーーー


 マシロが『サンダーボルト』を習得するに至ったきっかけは、ヤマブキだった。


 ヤマブキがクロの一味に参加した少し後。クロとマシロの日課の早朝鍛錬に、ヤマブキが混ざりたいと申し出て来た。

 2人だけの鍛錬には限界がある。いい刺激になると思い、2人は受け入れた。


 ヤマブキとマシロの勝負は、空を飛び、遠距離から攻めるヤマブキに、マシロが如何に接近するか、という戦いになった。

 初めはマシロの速度に対応できず、ヤマブキは負けっぱなしだったが、その速度に慣れれば、いい勝負をするようになってきた。


 その鍛錬の中で、ある気づきがあった。


 ある日の鍛錬で、マシロは回避しきれずにヤマブキの『サンダーボルト』を受けた。

 勝負あり、と思われたその瞬間。なんとマシロは落雷の如きヤマブキの『サンダーボルト』を受けてなお、止まらなかった。


「「は?」」


 当のヤマブキも、傍から見ていたクロも驚きの声をあげた。


 その勝負は、驚いた隙を突いたマシロがあっさり勝利。

 勝負がついた後に、先程の現象の検証が始まった。


「なぜ某の電流を受けて、平気なのでござるか!?」

「ヤマブキが加減した・・・わけではないようですね。」

「当たり前でござる!」


 そして、議論と実験を繰り返した結果、どうやらマシロは無意識に絶縁結界を使用していることがわかった。

 絶縁結界は、雷魔法使いが雷魔法によるダメージを防ぐために用いるものだ。

 雷魔法を使用する魔獣は、皆、無意識に使用するものだ。適性さえあれば、教会で習得しなくても使えるのは不思議ではないのだが・・・


「マシロ殿に雷適性があるとは初耳でござる。」

「私も知りませんでした。」

「あー、そういえば・・・」


 そこでクロが思い出した。

 マシロの属性適性を調べたのはクロだ。自分が使える生活魔法を使わせて、その効果から適性を測った。

 しかし、生活魔法には、雷魔法と闇魔法がない。その2つの属性は調べていなかったのだ。


「すまん。ちゃんと調べておけばよかったな。」


 原子魔法以外は生活魔法しか使えない呪いを持ったクロにはどうしようもないことではあったが、マシロが仲間になったその当時ならばともかく、今なら各所に顔が効く。正式な方法でちゃんと適性を調べることは可能だったはずだ。


 その後、マシロの属性適性をきちんと調べようということになった。

 初めは一般市民と同様、教会に行こうとしたが、八神が毛嫌いしている魔族が、八神の教会に行くのはまずいだろうということになり、スミレから紹介された裏ルートを利用した。

 裏ルートは、犯罪者などの表を歩けない連中が、魔法を習得するために利用するものだ。

 元教会関係者とかが、こっそり人目に付かないところで運営しているのである。結構な需要があり、どこの町にも1人はいるものらしい。


 たとえ裏ルートを使用しても、魔法の習得には結局、八神の許可が必要なのでは?と思ったが、どうも八神は世界の存続には御執心だが、人間社会の犯罪とかには無頓着なようで、普通に習得できているようだ。

 また、試してみると、マシロも魔族なのに魔法を習得できた。この辺は個人差があるとは言われていたが、実際に成功してしまうと不思議なものだった。

 尚、ダメ元でクロも試したが、やはり習得できなかった。


 せっかく適性があることがわかったので、マシロは雷魔法を習得した。

 しかし、適性そのものは高いものの、身体から離して使う魔法は相変わらず苦手で、使える魔法は限られた。

 その結果、そこで習得したのが『サンダーボルト』、そして、神経系の機能を強化する『エレクトリック・ブースト』だった。


 さらに、マシロはそれだけでなく、もう1つ習得した。


「ヤマブキ。あなたは視覚以外にもう一つ、感知方法を持っていますよね?」

「うむ。微弱な雷を利用したものでござる。クロ殿が言うには、電波、というものだそうで。」

「それを、教えていただけないでしょうか?」

「うーむ。教えると言っても、拙者にとっては生来のもの故、どうすればできるようになるか等、説明できかねますぞ。」

「感覚的なもので結構です。細部はこちらで読み取ります。後は試行錯誤を重ねるのみです。」


 そうして、マシロは自身の得意技である嗅覚による読心を駆使して、ヤマブキから電波式魔力感知を学んだ。



 すべては、<雨>、カイルに勝つために。


ーーーーーーーーーーーー


 全身をくまなく「影縫」で覆えば、水に侵食される恐れはなくなるが、視覚も嗅覚も十全には機能しなくなる。見えないことはないが、マシロの高速戦闘を考慮すれば不十分だ。

 だが、電波式ならば、導電性の衣である「影縫」を無理なく通過できる。


 もちろん、電波式魔力感知は何もかも見えるわけではない。「影縫」を通過できると言っても、通過によってノイズが入るし、嗅覚式に比べれば、得られる情報は少ない。少なくとも、読心は不可能だ。

 その点が不安であったが、それは想定外に身についた能力で補うことができた。

 それは、『炭の大樹』のと感覚リンクである。

 神経を接続していなくても、感覚がリンクしたことで、戦闘中も『大樹』からの視点を得ることができた。

 これと電波式感知を組み合わせれば、十分戦うことができた。


 その結果、ようやくここまで辿り着いた。


 カイルの表皮を貫き、その内部に今まで隠して来た雷魔法を浴びせる。

 カイル程の猛者であれば、多少の強力な攻撃は対応し、あるいは耐えてみせるだろう。

 猛者を倒し得る攻撃、最も効果的なのは、予想外の攻撃だ。まったく想定もしていない攻撃を受ければ、対応も耐久も困難。

 そのために、雷適性があることを隠匿して来た。これまでどんなピンチに至ろうと、人目がある場所で雷魔法は使わなかった。



 そして、マシロの嗅覚は、その渾身の一撃の効果を正確に読み取る。


 ・・・効果あり。ですが、仕留めきれていない!


 右腕から左肩への電流は、確かにカイルの心臓を捉え、それを停止させたはずだ。

 だが、カイルの魔力は生きている。

 死んでもおかしくない攻撃。そうでなくとも意識の喪失には至るはず。にもかかわらず、カイルは意識を保っていた。

 心臓が止まっても、ヒトは意識を保てるものなのか?動けるものなのか?

 魔力がその意識を繋ぎとめているのか、あるいはカイルの強烈な意志が気絶を強引に阻止しているのか。

 理屈はわからないが、カイルは確かに、反撃をしようとしていた。


 ・・・トドメが必要ですね。やはり、最後は・・・


 そこで、マシロの意識が飛んだ。


ーーーーーーーーーーーー


 カイルは、必死に歯を食いしばって耐えていた。


 ・・・うおお!?わかる!今、心臓止まってるだろ、俺!!だが、まだだ、まだ死ねん!


 脳への血流が止まり、意識が消えそうになるのを、魔力で必死につなぎとめる。

 心臓が送らなくなった血液を、水魔法で強引に流す。


 それでどうにか意識を繋ぐも、身体は動かない。魔法で血を流す方法も、全身まで流すのには無理がある。脳へ送った余波で流れてくれるかもしれないが、それにしてもあと数秒はかかるだろう。


 だが、カイルに焦りはなかった。


 ・・・驚いたぞ、<疾風>。まさか『サンダーボルト』とは。この時のために、隠していたな?だが、あり得ない話じゃない。俺だって風魔法を奥の手として隠していたからな。


 カイルの視線の先、マシロは、動きを止めていた。

 マシロの顔から、血が流れ落ちる。目、鼻、耳、様々なところから血が流れ出していた。

 カイルが侵入させた水が、マシロの脳を破壊したのだ。

 魔族故、即死ではないが、もう意識はないはずだ。


 ・・・勝負あった。


 カイルは、十全に動かない口を無理やり動かし、強敵と認めた者にいつも最後に送る言葉を口にする。


「惜し、かった、な、<疾風>。お前も、確かに、強敵、だっ・・・」


 そのセリフの最中、突然、マシロが動いた。

 カイルには、「<疾風>」という言葉に反応したように見えた。


 マシロは両手の武器を手放し、片手でカイルの胸倉をつかむと、素早くカイルの足を払った。同時に胸倉をつかんだ手で地面へと投げおろす。

 体がまだ動かないカイルは、なす術なく、地面に叩きつけられる。


 カイルは知らない。この柔術は、マシロがフレアネスの王城にいた時、同僚のメイドから教わった護身術であることを。

 このメイド流の護身術は、非力なメイドが、たとえ屈強な兵士に襲われても、相手を投げ飛ばせるようにと編み出されたもので、本来は相手の動きに合わせて使用する合気道にも近いものだ。ただ、マシロの場合、相手に合わせるまでもなく、力で投げ飛ばせてしまう。今のように。


 そしてマシロは、血涙を流す目でカイルを見下ろしながら、腰の後ろからある武器を取り出し、カイルに向けた。

 その武器を見て、カイルは全てを察した。


「そうか、お前は・・・」


 ドオン!


 マシロの手にある、大口径の拳銃が火を吹き、弾丸はカイルの頭を貫いた。


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