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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
421/457

341 受け継ぐもの

 宙に浮く2体のアイアンゴーレムと1人の剣士が森の中で激しく斬り結ぶ。

 木々が生い茂る動きにくい空間であるはずなのに、どちらもまるでそんな障害がないかのように自在に動き回っていた。

 だが、それは傍から見た感想である。実際に動いている者の主観からすれば、間違いなく動きにくい。


 ・・・くそ、木が邪魔で本体に仕掛けるルートがなかなか見えねえ!

 ・・・この場所では位置取りがどうしても安定せんな。いつ隙を与えることになるか、冷や冷やするのう。


 剣士、クロードは、ゴーレム達の攻撃を躱したり防いだりしつつ、本体である先代ダンゾウに仕掛ける機を窺っていた。クロード得意の突進斬りが決まりさえすれば、相手に回避する術はない。

 だが、それを実行するには、数歩以内に対象に接近できるルートを見つけなければならない。そのルートがなかなか見極められないのだ。

 木が邪魔なのはもちろん、ゴーレムが必ずそのルートを塞ぐ位置にいる。そのため、目に見える距離にいながら、未だにクロードは先代本体に仕掛けられずにいた。

 木を切り倒せば道は開けるが、その一刀が命取りになる。そんな隙を許さないほど、ゴーレム達の攻撃は激しかった。


 しかしこの状況、決して先代に有利というわけではない。

 先代のとっておき、複数のアイアンゴーレムによる連携攻撃。2本の大剣と2本の槍で敵を攻撃し、浮遊することでヒトにはできない機動で動き回る。対多数ならともかく、1人が相手であれば、たとえ手練れの魔法使い、武術使いであろうと数秒で屠れる代物だ。

 それに対して、クロードはずっと危なげなく立ち回っている。人間とは思えない反応速度に緻密で素早い動き。アイアンゴーレムの全力攻撃を正面から受ける膂力も驚愕ものだ。

 故に、先代からすれば、切り札を切っても状況を打開できず、時間稼ぎをしているに過ぎない状態だ。


 そして、このまま根競べのスタミナ勝負になれば、勝負は見えている。


 ・・・やはり皆を避難させて正解じゃったな。後は儂が可能な限り時を稼ぐのみ。


 2体の大きく重いゴーレムを浮遊させ、動かし続けるのは、足がある状態よりも多大な魔力を消耗する。

 先代の限界はそう遠くなかった。





 どれほど時が経ったか。時間を計れば10分にもならないだろうが、実際に戦っていた2人からすれば、数時間にも感じただろう。


 先代は、とにかくゴーレムをクロードに斬られないように立ち回った。

 1度目は平気な顔をして見せたが、ゴーレムへの魔力再充填は膨大な魔力を消費する。持久戦になった時点で、もう二度と斬られるわけにはいかなかった。


 だが、あのクロードの攻撃をすべて回避し切ることなど不可能だ。

 ついに1体が斬撃を受け、『斬魔』で宿った魔力が霧散させられる。

 残る1体で必死に抵抗するも、すぐにもう1体も斬られた。


「終わりだぜ!」


 すぐさまクロードが先代を間合いに入れるべく走り出す。

 それでも先代は諦めない。


「なんの!」


 倒れたゴーレムから2本の槍を切り離し、それだけ操ってクロードの進路を塞ぐ。

 しかし、たった2本の槍では、不十分だ。


「残念、遅かったな。」

「・・・!」


 先代には、クロードが構えたのが見えた。外見上はそれほど体勢を変えていない。木を避けつつ走っているだけ。だが、わずかな重心移動が、クロードが例の突進を実行する準備が整ったことを示していた。


 そして、クロードが浮遊する槍も並び立つ木も、すべてすり抜けて、一瞬で先代に接近したのと同時。先代は覚悟を決め・・・手に持っていた「金山棒」を手放した。


 一閃、鮮血が飛び散る。


「ん?」


 攻撃を終えたクロードが違和感に首を傾げる。

 クロードの予想では、丸ごと綺麗に胴を両断するはずだった。

 だが、うまく切れずに先代は地面を激しく転がった。

 真っ二つとはいかなかった。だが、十分致命傷の深さだった。


 クロードが綺麗に切れなかった、その原因は、


「お前さん、なぜ防御しなかった?」


 クロードは、先代が手に持った金属の棒で防御することを予想し、それごと両断するつもりで太刀を振るった。

 ところが先代は防御もせずに得物を捨てた。そのため、斬る予定の硬さよりも柔らかいものを斬ることになり、わずかに刃の当たり方がずれた。それで綺麗に斬れなかったのだった。


 胸から腹にかけての大きな傷から血を流しながら、仰向けの先代が答える。


「ごほ・・・いや、その棒切れはな・・・儂の命より大事なモノなんじゃ・・・」

「これが?」


 クロードが「金山棒」を拾い上げる。質感と宿る魔力から、魔法金属製であるのは明らか。さらに、細かくびっしりと何やら文字が書き込まれている。クロードには読めないが。


「儂らが、先祖代々受け継いできた、金属魔法の源・・・げほっ・・・もし、敗者に情けをかけてくれるのなら、この後それを取りに来る、我が弟子のため、それを・・・そのままそこに、置いて行ってはくれんか?」

「ああ、金属のゴーレムなんて珍しいと思ったが、そういうものか。」


 クロードはしばらく「金山棒」を矯めつ眇めつ観察し、最後にそれを地面に突き立てた。倒れて動けなくなった先代のすぐ横だ。


「わかった。これには手を出さねえ。だが、敗者への情けなんかじゃねえぞ。俺相手にこんなに長く戦ってくれたのは、あんたが初めてだ。この勝負、楽しかったぜ。これを無事に返すのは、その礼と、次の世代とも戦ってみたいからだ。」


 クロードは魔法の仕組みに詳しくはないが、先代の言葉を信じるならば、今回クロードを苦しめた金属魔法はこの先代の固有魔法ではなく、この「金山棒」を以て代々受け継がれるものだと理解した。

 ならば、これを無事に返せば、金属魔法はこの先代の弟子に受け継がれ、また戦う機会が得られるかもしれない。

 クロードには、それが本心から楽しみだった。


「ほっほ、楽しかった、か・・・こんな歳でも、自分の頑張りを認めてもらえるのは嬉しいのう。まあ、願わくば、弟子にお前さんと戦ってほしくはないが。」


 クロードは先代の最後の願いには答えず、ゆっくりと先代の頭の横に移動する。


「さて、俺はもう行くが、介錯は必要か?綺麗に斬ってやれなかったからな。」

「そうじゃなあ・・・」


 先代は木々の隙間から覗く空を見上げる。

 思い残すことはない、というわけではない。

 現在の戦況不利もそうだし、弟子にまだすべてを教えられたわけではないことも心残りだ。金属魔法自体は継承されても、使い方のノウハウはいくつか失伝するだろう。それがもったいない。


 ・・・もう少し早めに、教えとくんじゃったな。


 今代のダンゾウが土適性不足で「金山棒」を受け継ぐことができず、止む無く後継者はその次の世代から選ばれた。

 そうなれば必然、後継者は若い。まだ現場で働いてもいない子供だ。

 それゆえ、まだ地力不足で習得できない技術があった。先代は「大人になってから」と先送りにしていたが、こうなっては形だけでも教えておくべきだったと思う。


 しかし、もはや詮無いこと。


「せっかくだから、世界最高の剣士に、送ってもらおうかな。」

「おう。」


 先代は目を閉じ、それを確認したクロードが目にも留まらぬ速さで太刀を振り下ろす。

 森の中の激闘は、これにて幕を閉じた。


ーーーーーーーーーーーー


 介錯を終えたクロードは、ふと少し離れた木の上に視線を向けた。

 そこには、1匹の化け狸が木の枝の上から、こちらの様子を窺っていた。


 ・・・あれが弟子か?


 実際には、その狸、マタザは先代の側近であり、「金山棒」を受け継ぐ弟子ではない。

 だが、そんな事情は知らないクロードは、そう思った。


 クロードは先代の遺体と「金山棒」に視線を向けてから、木の上の化け狸を無視して走り出した。


 後方で、その狸が地面に降りる気配を感じ、その後、嗚咽が聞こえた気がした。


ーーーーーーーーーーーー


 同じ頃、フレアネス城跡地。帝国軍が陣を張った場所はここから少し離れている。なにしろここは、あまりにも多くの瓦礫が積み上がっていて、使えるようにするには時間がかかるからだ。

 それでも手すきの者で少しずつ片づけをしていた。使える場所にするのはもちろん、フレアネス王国の機密などが残っていれば、それを回収するためだ。

 もっとも、城内の物はほとんどが例の爆炎で燃えてしまっていて、原形を留めていないものがほとんどだったが。


 そんな中、ある兵士ががれきの下にヒトを見つける。


「おい、こいつは燃えていないみたいだぞ。」


 万が一、敵の生き残りがいた場合に備えて、彼らは小隊編成で作業に当たっていた。見つけたものを仲間に伝える。


「なに?生きてるのか?」

「ん~・・・いや、死んでるな。全身火傷で今日まで瓦礫の下敷きだったんだ。仕方ないだろ。」

「だよな。まあ、この惨状で原形を留めてるだけマシだがな。」

「で、そいつは誰だ?要人ならチェックしておかないと・・・獣耳がないから、人間か?」

「いや、獣耳がない獣人もいるらしいし、この分だと耳だけ燃え落ちた可能性もある。」

「わかんねえな。辛うじて顔はわかるから、諜報部の奴を連れて来ようぜ。何人かいたよな?」

「そうだな・・・」


 小隊がその遺体を瓦礫の下に残したまま、専門家を呼びに一旦戻って行った。

 その時、1人の兵士が担いでいた無線機に音もなく電流が走る。

 電波に乗ってやってきた「それ」は、誰にも気づかれることなく地面に潜り、地面が盛り上がってヒト型を形成した。

 土人形が成型され、着色され、黒髪の猫系獣人になる。


 眼鏡をかけたその獣人の姿をしたモノは、しゃがみこんで瓦礫の下敷きになった死体に触れる。


「ブラウンさん・・・」


 その猫系獣人の姿の、スミレは悲し気に目を伏せた。即席で作ったこのボディには、涙を流す機能は付いていない。


「あなたには、まだ生きていて欲しかったなあ。」


 焼けてほとんど毛髪がなくなったブラウンの頭をなでる。触れてみれば、耳の跡があった。昔の戦場で失った耳だ。


 数十秒、スミレはそこでブラウンの死体を見ていた。

 そして気持ちの整理が付いたところで、立ち上がる。


「貴方の仇ってわけじゃないですが、これはどう考えても問題ですぅ。任せてください~、今の私は、神様に物申せる立場なんですよぉ。」


 そして、仮初の体から電流が飛び出し、空へと飛んでいく。残った抜け殻は崩れて土に戻った。



 その後、神域にスミレが殴り込み、炎の神に目いっぱい説教し、それを闇の神が笑いを堪えながら見ている、という一幕があったが、ここでは割愛する。


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