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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
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331 無敗の王者

 フレアネス王都が壊滅したその日、遥か東のネオ・ローマン魔法王国で異変が起きていた。

 その中心にいた青い長髪の男が、王国の中枢である王城の長い廊下をのしのしと歩きながら、隣を歩く白い髪の女性の報告を聞いていた。


「炎の神子は死んだのだな?」

「まだ次代の選出通知が来ていませんが、確実でしょう。」

「それは重畳。懸念材料が1つ減った。・・・個人的には一当てしてみたかったがな。」

「それであなたに何かあっては困ります。これが最良の結果ですよ。」

「そうだな。今回はイネインの采配が功を奏したというところか。」


 青髪の大男は、水の神竜レーヴナスチ。その人間体である。並んで歩く白髪の女性は、光の神竜フィエルテであった。

 フィエルテは自在に空間を移動する能力で、各戦場の状況を把握しているのだ。


「<赤鉄>の方はどうだ?あれが最大の懸念事項だろう。」

「現在追跡中のようです。発見はしましたが、抵抗が激しく追い付けないとのこと。」

「あの3人で捉えきれんか。」

「しかし心配は無用でしょう。イーラの炎で奴の魔力を破壊できることが確認できています。追い付きさえすれば、勝利は揺るがない。」

「・・・そうだな。」


 レーヴナスチは小さな不安が頭をよぎったが、それは口に出さなかった。

 フィエルテは冷静で思慮深いように見えるが、己の考えに固執する傾向がある。根拠もなく彼女の意見に異を唱えるのは、彼女の怒りを買う。

 怒ったくらいで手を出す輩でないことはわかっているが、レーヴナスチは面倒が嫌いだった。


「では、こちらはお任せしますよ。順調なようですしね。」

「ああ、こちらは問題ない。引き続き監視を頼む。」

「ええ、それでは。」


 フィエルテが自身の正面に手をかざすと、光のゲートが現れる。彼女がそこに入ると、フィエルテの姿は光と共に消えた。


 それを一瞥する事も無く、レーヴナスチは廊下を歩く。


 このネオ・ローマン魔法王国の王城に、レーヴナスチは単身、正面から入って来た。

 そして、ここに至るまでの道のりは、この王城に詰めていた兵士達の死体と血に塗れていた。

 伝統ある魔法王国の、手練れの兵士達が、たった1人に蹂躙されているのだ。



 レーヴナスチが向かう先の大きな扉の前に、衛兵が2人。魔力を見れば、この王国屈指の実力者だとわかる。


「オオッ!!」

「『サンダー・・・」


 1人が高速で突進、もう1人が雷魔法を使用しようとした。

 連携の取れた、良い動きではあった。


 だが、相手が悪い。


 突進した衛兵の剣は、片手でいなされ、カウンター気味にレーヴナスチの拳が衛兵の胸部に突き刺さる。木魔法で鉄の如く強化されたはずの肉体が、容易く貫かれ、肋骨が折れ、心臓が破れた。

 同時にレーヴナスチの操る水が、流動的に高速で動き、雷魔法を詠唱中だった衛兵の頭と足を捉える。

 水で口を塞がれ、詠唱は中断。さらに足を取られて転倒。

 起き上がる頃には、先に突進した衛兵の死体を投げ捨てたレーヴナスチが彼を見下ろす構図だ。

 瓦割のような下段突きの一閃で、衛兵の肉体は砕け散った。



 レーヴナスチが返り血を拭いながら大扉を開けると、その先は玉座の間。国王が謁見に用いる部屋だ。


「逃げずにここで待ち構えるとは、さすがは誇りあるローマン王ということか。」

「その通り。ローマンは最強の魔術師であらねばならぬ。逃げる等もってのほか。」


 玉座に座る壮年の男は、王にふさわしい豪勢な身なりをしていた。だが、その下に鍛え上げられた肉体があることを、一見してレーヴナスチは見抜いた。

 王を守るように、数名の騎士が立ちはだかる。


「何故ローマンが魔術師にて最強か、その身で知るがいい闖入者!」

「面白い!」


 レーヴナスチが素早く王に接近しようとすると、騎士達が一斉に詠唱する。


「『グラス・スカルプチュア』!」


 素早い詠唱と共に、床から透明な壁がせり上がる。強靭なガラスで出来た防壁だ。騎士達を含め、王を守るように聳え立つ。

 レーヴナスチはその壁に拳を叩きこむが、わずかにヒビが入るだけで、破壊はできなかった。同時に操作していた水流も弾かれる。

 そして、わずかに入ったヒビも、すぐさま修復された。


「<セイブ・ザ・キング>は一人ではない!」

「当主は不在なれど、王には指一本触れさせん!」

「スフェールの誇りにかけて!」


 ここで王を守る騎士達は、スフェール家の者達だった。

 当主クリスは北の前線にいるが、それ以外はここで王を守っているのだ。


 レーヴナスチは今一度拳で壁を突くが、やはり破壊できない。


「なるほど。伊達ではないか。むっ!」

「『ライト・ストリーム』」


 王が光魔法を放つ。照射された光は透明の壁を透過し、レーヴナスチに命中する。

 圧倒的な光熱がレーヴナスチを焼く。竜鱗に守られた彼の肉体はこの程度で滅びはしないが、人間であれば丸焦げだろう。


「これぞ我らの必勝陣形!破れると思うな!」

「大したものだが、種がわかれば・・・」


 光魔法攻撃は、基本的に溜めが必要な攻撃だ。来るとわかっていれば、初動で見切ることができる。

 故に、次は当たらない。そう思ったレーヴナスチだったが、ローマン王は1枚上を行く。


「展開せよ。」

「「「はっ!!」」」


 王の指示に従い、騎士達が魔力を蠢かせる。

 すると、防壁の一部が剥離し、無数のガラス片となって空間に散った。


「『レーザー』」


 王の光魔法攻撃の詠唱。溜めが長い。回避は容易かと思われたが・・・

 発動した瞬間、現れたのは数十条もの光線。それが防壁を透過し、空間に散布された無数のガラス片で屈折して軌道を変え、全方位からレーヴナスチを襲った。


「ぐっ!?」


 その1本が、レーヴナスチの目に命中する。ここばかりは鱗で守れない。奥まで焼かれ、ダメージは脳に達した。

 レーヴナスチは膝をつき、動きを止める。


「やったか?」

「いや、焦るな。追撃の準備を。」


 王の指示で、今度は防壁から大きな破片が削り出される。それは槍のように成形され、ドリルのように回転してレーヴナスチに襲い掛かった。


 しかし、命中の寸前で、水の塊がガラスの槍の横っ腹を叩き、軌道をわずかに逸らした。

 ガラスの槍はレーヴナスチの肩を抉ったが、致命傷を与えられなかった。


 レーヴナスチがゆっくりと立ち上がる。


「分体とはいえ、これほどのダメージを負うのは久々だ。無敗のローマン王と<セイブ・ザ・キング>の力、堪能させてもらった。」

「まだ動くか!」

「とどめを刺す!」


 王が光魔法の準備をはじめ、騎士達が操るガラスの槍が数本形成されていく。

 先程の威力を考慮すれば、これらをまともに受ければ、いかにレーヴナスチが魔族でも無事では済むまい。


「その力に敬意を表し、俺の全力を見せてやる!」


 レーヴナスチは、足で床を強く踏んだ。その直後、地震のような揺れが城全体を襲う。


「何だ!?」

「うろたえるな!奴だ!奴を仕留めよ!」


 王が指示を出しつつ、再度多数の『レーザー』を放つ。それをレーヴナスチは、両腕で顔を覆い、ガードした。竜鱗で受ければ大したダメージではない。

 追撃のガラスの槍が、まさに発射されようとした時、床が砕け、水が溢れ出した。


「馬鹿な!?」

「この城が、こんな容易く・・・」

「ああ、頑丈な城だったよ、まったく。」


 この城は、スフェール家の魔力によって強化されており、破壊は不可能と言われている。

 実際、どんな力自慢でも、たとえ隕石が降って来ても、破壊できないだろう。

 だが、この水は、その城を盛大に破壊している。いや、正しくは、分解している。


「我が固有魔法、万物溶解『ハラーハラ』に溶かせぬものなし。お前達の腕前は大したものだったが、所詮はヒト。ここが限界だ。」

「なんだ、この、水は・・・!?」

「あ、熱い!」

「ごほっ、か、身体が・・・」


 高温高圧の水に浸った王と騎士達は、みるみるうちに装備も体も水に溶けていく。

 彼らだけではない。破壊された城の破片も、内装も、他の部屋にいた人々まで、すべてが水に溶けていく。

 熱湯に身を焼かれ、分解されていく痛みにのたうち回る人々。阿鼻叫喚の地獄絵図だった。



 数十秒の後には、水浸しの廃墟が残るのみだった。

 熱が冷め、溶解機能を水が失うまでに溶け残った塊だけが残っている。


「長く続いたローマン家もこれで終わりだ。あっけないものだな。」


 王城にいた者は全て、この水に溶けてしまった。

 300年以上続いた歴史ある王家は、たった1日にして滅んだのだった。


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