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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
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330 フレアネス王国最後の日

 フレアネス王都が一瞬で壊滅したその頃、神域では。


「あー、こうなっちまったかー。」

「何を暢気なことを言っているのです!どう責任を取る気ですか!?」


 大爆発の様子を見ていた炎の神が、光の神から糾弾されていた。


「そもそも何ですかあの威力は?防御用の魔法ではなかったのですか?」


 炎の神子ジョナサンの固有魔法は、転生時に炎の神から授けた者で、その概略は他の神にも伝えられていた。

 攻撃して来た者に自動反撃する、防御用の魔法だと。


「いや、確かに防御用だ。攻撃して来た者に、追尾爆弾を飛ばす魔法にした。奴ほどの腕ならば、生半可な攻撃魔法はいらない。注意すべきは不意打ちだけだと思ったからな。」


 ジョナサンは類まれな魔法出力を持っていたので、その火力で押せば、まず負けない程の実力があった。

 故に警戒すべきは、不意打ち、暗殺の類。そこで、自動反撃魔法『スネークファイア』を作ったのだった。


「ただ、燃費の関係もあって、消費魔力を固定にすると、小さな攻撃を連打されただけで無駄に消耗しかねないと思ったからよお、受けたダメージに比例して魔力を込めるようにしたんだよ。」


 それにより、小さなダメージには小規模の爆発で反撃。大きなダメージを受ければ大爆発で反撃。ダメージを受けなければ、反撃は発動しない。

 これにより、日常生活でいきなり事故で発動することも防げると、その時は思ったのだが・・・


「それでまさか、即死すると、全魔力を込める仕様になってしまうとは。はっはっは。想定外だった!」

「全・・・!?あのジョナサン・レーヴァの全魔力ですか!?」


 ジョナサンは、魔法回復力は弱いが、容量そのものは莫大だ。

 それを1発の爆発魔法にすべて込めるなんてことをすれば・・・今見えている凄惨な光景も当然起こるべき結果だ。


「はあ・・・。炎の神、当分、新魔法の開発は禁止です。以後、実装の前に我々の検査を受けること。いいですね?」

「えー、面倒だなあ。」

「拒否権などありません!まったく、今回は不幸中の幸い、我々のミスであることが現世に知られることはないでしょうが。証拠となるようなものも丸ごとすべて吹き飛びましたからね。」


ーーーーーーーーーーーー


 王都の北、対帝国の最終防衛ラインで指揮を執っていたロクス司令官は、突如後方から吹いた熱風に驚き、振り返った。

 そして、一瞬にして破壊された王都を見て愕然とする。


 城壁越しにも見えていた、立派な王城は姿を消し、瓦礫で内から破壊されて穴の開いた城壁の隙間から覗く王都は、見るも無残に破壊されていた。


「何が、起きた・・・!?」

「し、司令官、王都は、王は・・・!?」


 王国軍は混乱を極め、拮抗していた戦線は急に押され始める。

 次第に状況を理解したロクス軍は、撤退、いや、敗走することとなった。

 王都を捨て、決死の覚悟で包囲を破り、南へと逃げた。


 生き残った兵は、2割に満たなかったという。


ーーーーーーーーーーーー


「やったぞ!」

「我々の勝利だ!」


 一方、帝国軍は戦勝を喜んでいた。

 爆発の原因は不明だが、別動隊が何か仕掛けることは聞いていた。

 きっとその別動隊がやってくれたのだろう。占領すべき都市を破壊してしまうのはやり過ぎな気もするが、勝ちは勝ちだ。


 一時は後方を怨霊兵に攻め立てられ、本国との連絡も絶たれてヒヤリとしたが、それも<雨竜>の活躍で収束に向かっている。


 王都を包囲していた帝国軍は、一部を逃走したロクス軍の追撃に当て、残りで王都の跡地の占拠に乗り出した。

 逃げたロクス軍はもはや敗残兵。東の海岸に展開しているらしいラッド軍も同様だ。

 王都という敵の本拠地を抑えた以上、もう焦る必要はない。なにより、敵の最大戦力である国王を仕留めたのが大きかった。



 王都跡地を闊歩する帝国兵達の表情は明るい。

 今はまだ補給線が絶たれているが、備蓄は十分あるし、復旧の見込みもある。

 この跡地に残った城壁を補修して陣地にすれば、敗残兵の掃討も問題ないだろう。


 それとは逆に、帝国軍の指揮官たちは、今後の対応に頭を悩ませていた。


「軍師殿から連絡は?」

「皇帝陛下からの勅命で別の任務中らしい。連絡が取れん。」

「王都占拠後の対応を誰も聞いていないのか?」

「本国と連絡を取らなければ・・・」


 補給線と共に、連絡網も怨霊兵に破壊されていた。東の戦線とも当然無線連絡網は断絶しており、古臭い隼便での情報交換が多少行われている程度だ。

 復旧の見込みはあるが、復旧するまでは連絡が取れない。


「東にラッド軍、南にロクス軍。最悪、挟撃されることにならないか?」

「どちらも我らに比べれば寡兵。そのうえ、今は士気も低かろう。今のうちにどちらか叩くか。」

「いや、待て。」


 1人が地図のある点を示した。そこは、王都西の深い森だ。


「問題なのは、ここではないか?<赤鉄>の本拠地。ここには複数のネームドがいると聞く。ここを放置して攻めに出れば、背後を突かれる可能性がある。」

「東の<勇者>と派手にやり合って疲弊していると聞いたぞ。当の<赤鉄>も行方不明だ。無視してもいいのでは?」

「いや、だからこそ早めに叩くべきだ。」


 指揮官たちはしばらく議論した後、最終的にまず森の不安要素を排除することにした。


 翌8月29日、帝国軍は魔獣の森に踏み入る。

 それが藪蛇になるとも知らずに。


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