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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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036 レストラン

 <人形姫>撃破後、王都に戻ったクロ達は手短に国王へ報告を終えた。その夕方、3人は人間または獣人形態で街へ繰り出した。もちろん、正門からではなく、周囲に人気がないことを確認してから塀を飛び越えた。王城を囲む塀は身体能力が高い獣人でも越えられないように10m程あるが、クロは体内に仕込んだチタンを『移動』させて飛び、ムラサキは『エアテイル』で自身を運び、マシロは平然とジャンプして乗り越えた。自身の身長の5倍以上の高さを跳んでいるが、それでほとんど音がしない。どうやっているのかクロは気になったが、逸るムラサキを抑えられず、聞くのは後回しにした。

 人混みが嫌いなクロのために大通りを避けて路地裏を進み、目的地付近でようやくメインストリートに顔を出せば、正面に目的の大きな店が見えた。


「立派な店だろう?王都で一番美味いって評判のレストランだ!」


 ムラサキが自慢げに胸を張る。王城滞在中の自由時間の間、街を散策していた時に見つけたらしい。


「あまり騒ぐなよ。目立つだろ?」


 ムラサキはいつの間に用意していたのか、そこそこ見栄えのいい私服を着ている。水色のシャツに紫色のズボンだ。服装は目立たないが、紫色の髪は目立ちやすい。


「そいつほど目立ってねえよ。」

「何ですか、ムラサキ。これでも服装は少し変えたのですよ?」


 ムラサキはマシロを指して反論する。マシロの言う通り、マシロの服は今まで黒のワンピースのようだったのが、ちゃんと上下別れたシャツとロングスカートになっている。実際は別れているのは見た目だけで、マシロの身に着けている服はすべて一つながりの「影縫」という武装なのだが、好きに形を変えられるので今日は比較的一般的な服装に変えたわけだ。だが、その服はすべて黒一色で、何より美しい真っ白な長髪がかなり目立つ。

 この世界の住民はあまり奇抜な髪色は少ない。黒髪、茶髪、金髪が普通だ。紫色も老人の白髪ではない白色もめったにいない。相当目立つ。なお、国王の赤髪は例外だ。


「服の色が変わってねえよ。あと一番問題なのは髪の色だ。いっそ丸刈りにしてくればよかったんじゃないか?」

「それは俺が許可しない。」


 マシロが反論する前にクロが口を挟む。

 ・・・ムラサキも冗談で言ったんだろうが、これは譲れん。この美しい髪を刈るなんてとんでもない。

 そのクロの心情を読み取ったのか、ムラサキが半目でクロを睨む。


「別に刈ってもすぐ生えるだろ。」

「だとしてもだ。ほら、さっさと店に入るぞ。」


 話を強引に切り上げて店に入る。入ってすぐの広いスペースには、余裕を持った間隔でテーブルが何十個も並べられ、18時前だというのに半分が埋まっている。店の造りは高級レストランだが、客は大半がラフな格好で来ている。

 美味しい高級料理だけれど気軽に入れる店、という感じだ。なるほど人気が出るのも頷ける。頷けるが、クロとしては静かな方がよかった。予約などしていないのだから、個室になど行けない。仕方ないので比較的空いている空間に向かう。

 店内を歩く間に、複数の視線を感じる。やはり目立つようだ。ちらりと周囲を見渡せば、その視線のほとんどはマシロに向いていた。

 ・・・まあ、マシロは結構美人だしな。可愛い系じゃなく美人系で、愛想ゼロだから万人受けする感じじゃないが、それでも目を惹くか。

 注目されるのは嫌いなクロだが、身内を褒められている気もするので、その点は悪い気はしない。プラマイゼロとして気にしないことにした。マシロもハヤトとともにいた頃から注目されるのに慣れているため、気にした様子はない。ムラサキは自分が注目されているわけではないので、気にしていない。

 席に着いて早速メニューに目を通す。高級そうな料理に実際高い値段がついている。


「一品で10ドル以上かかるのか・・・」

「こんだけの料理で15ドルならお手ごろだと思うがなあ。」


 クロはかなり高価に感じるが、ムラサキは逆の意見のようだ。マシロも難しい顔をしている。小遣いでは足りないと思っているようだ。マシロは武器や裁縫の勉強に地味に金を使うので、そこまで小遣いを余らせていない。クロも予算を気にして躊躇するが、今日は皆を労うために奮発する決意を固める。


「好きに頼んでいいぞ。共有の貯蓄から出す。」

「マジで!?ひゃっほう!」

「よろしいのですか?」


 ムラサキは両手を挙げて喜び、マシロは心配そうにクロを見る。


「今回は普段頑張ってる全員を労うつもりだ。遠慮しなくていい。たまにはいいだろう。ただ、食べきれる量にしろよ?」

「任せとけ!今日は底なしだぜえ!」

「マスターがよろしいのでしたら。」


 そうして3人で再びメニューを睨んで注文を決める。クロは適当に数品とエール、マシロは決めかねて肉中心のコース料理を頼み、ムラサキは本当に遠慮なく10品以上頼んだ。

 10分ほどして料理が出てくると、3人そろって「いただきます」と手を合わせ、食べ始める。出てきた形式を見る限り、大皿の料理を小皿に取り分けて食べていいようだ。せっかくなのでコース料理も3人で分ける。

 ムラサキ、クロ、マシロが一品ずつ食べていく。まずは季節の野菜サラダ。


「お、このサラダのドレッシングいいなあ。」

「いい野菜使ってるな。甘みがある。ドレッシングなしでもうまい。」

「確かに甘みはありますね。」


 野菜と腸詰を煮込んだスープ。


「うまい!・・・マシロ、腸詰ばっか取ってんじゃねー!」

「よく煮込んであるな。柔らかい。」

「こういう調理法もいいですね。」


 霜降り肉(牛?)のステーキ。


「おお!とろけるー!」

「うまいけど・・・脂っこいなあ。」

「旨いですが、この獣はどんな生活をしていたのでしょう?こんな脂肪だらけで・・・」


 等々、各々の感想を述べながらそれぞれに料理を楽しむ。ところが残り数品というところで・・・


「う、ちょっと腹いっぱいになってきた。」


 ムラサキが限界を訴え始める。


「だから言ったじゃねえか。食べきれる量にしろって。」

「いや、一品の量が予想より多いんだよ。悪いことじゃないんだが・・・」

「よく動く獣人は大食いが多いらしいからな。」

「ムラサキは運動しませんから。それにしても自分が一番多く注文しておいてその様とは。」

「ぐぬぬ。」


 マシロに鼻で笑われても言い返せないムラサキ。結局、残りはクロとマシロで完食した。普段から負傷が多いクロと、ストックが補充しきれていないマシロは多量に食べる必要があったので、かえって好都合だった。

 そして皿が下げられ、最後のデザートをのんびり待つ。


「ムラサキ、デザートは入るのか?」

「甘いものは別腹っていうだろ?いけるいける。」

「まあ、(魔族だから)気合で胃を広げるのは可能だが・・・太るぞ。」

「べ、別にちょっと太ったくらいで・・・」

「フードに入らなくなったら不便だな。そのときは自分で歩けよ?」


 ムラサキはよく歩くのが面倒だと言って、クロのコートのフードに入る。頑丈なコートだから破れたりしないが、これ以上重くなるとわからないし、何よりクロがバランスを取りにくくなる。

 ムラサキもそれは困る、と唸り始めると、マシロが口を挟む。


「問題ないですよ。」

「マシロ?」

「腕の一本でも吹き飛ばせば、すぐにストックを消費します。」

「イイ笑顔でグロイこと言ってんじゃねー!」


 確かに魔族としては正しい。正しいが、ダイエットの方法としては過激だ。太った人の腹を削ぎ落とすと言っているようなものだ。

 普段無表情のマシロの貴重な笑顔だが、完全にサディストのそれである。


 ムラサキとマシロが迷惑にならない程度の声量で言い合うのを聞きながら、クロがぼーっと店内を見回していると、ガタイのいい虎系獣人の男2人が近寄って来た。そしてクロを指さし、怒鳴る。


「おい、てめえ!」

「ん?俺?」

「そうだ!てめえさっきから殺気をばらまいて、どういうつもりだ!」

「は?」


 クロは何を言われているのかわからず、ぽかんとする。しかしクロの表情は変化が乏しく、相手にクロが戸惑っていることは伝わらない。逆に威嚇か何かと勘違いされたようだ。


「ふざけやがって。何が気に食わねえんだ!?」

「いや、そういうわけじゃないんだが・・・」


 クロは2人が何にキレているのかわからない。思い返して自分がこの2人にやったことと言えば、ぼーっと見回した際に目が合っただけだ。


「だったら何で睨んでやがった!」

「睨むって・・・ああ。」


 そこでクロは以前、デフォルトで目つきが悪いと言われたことを思い出す。

 ・・・別に普通に目が合っただけなんだが、睨んでるように見えたのかな。

 もちろんそれだけではない。クロは普段から無意識化で人間に対する怒りや恨みを募らせているため、敏感な者にだけわかる程度だが、常に殺気を発している。この2人の虎系獣人は狩人(獣を狩る依頼専門の傭兵の俗称)で、森で活動することが多く、殺気には敏感だった。

 乱闘になったとして負ける気はしないものの、せっかく美味い料理を出してくれた店に迷惑をかけたくはない。クロは人嫌いだが、人が作る素晴らしい作品には敬意を払う。美味い料理という優れた物を作る店に不義理はしたくなかった。

 クロは荷物を持って立ち上がる。虎系獣人2人は警戒して半歩下がり、構える。クロの荷物が剣なのだから仕方がない。


「なんだ!?やる気か!?」

「いや、帰るよ。悪かったな。」

「え、あ、ああ。」


 てっきり自分たちに因縁をつけてきていると思っていた2人は意外にすんなり引き下がるクロに戸惑う。

 それを意に介さず、クロはムラサキ達を見る。


「俺のデザートも食っていいぞ。俺は先に帰る。」

「マスターが帰るなら、私も帰ります。」


 マシロも席を立ち、クロに続く。ムラサキは若干名残惜しそうにするも、すぐに席を立った。


「オレだけ残ってどうすんだよ。オレも帰る。」


 さっさと会計に向かう3人に、慌てて虎系獣人がついていく。


「お、おい!どういうことだよ!」

「いや、だから、悪かったって。」

「まあまあ、クロは会計やってろ。オレが説明するから。」


 クロは面倒になりつつあり、対応が雑になる。見かねたムラサキが割って入った。クロが会計でやり取りする間に、ムラサキが説明する。


「すまんなあ。こいつは生まれつき目つき悪いんだ。睨んでるように見えたならごめんな?」


 ひどい言いようだが、事実である。クロも訂正する気はない。そんな感じでムラサキが説得する傍ら、クロが会計の店員に説明する。


「申し訳ないが、会計頼む。残りのデザートの分も支払うから。」

「かしこまりました。・・・105ドル10セントです。」


 クロはズボンのポケットから財布を出し、支払う。


「余ったデザートは、もったいないし、そこの2人にあげちゃってくれ。詫びもかねて。いいかな?」

「かしこまりました。」


 店員が了承し、奥にそれを伝えに行く。虎系獣人2人もムラサキに説得された上に、詫びまで出されたら、いかにクロの態度が悪くても強く出られない。


「ちっ、しょうがねえな。次来るときはちょっとは改めろよ?」

「・・・善処する。」


 できるとは言えず、クロ達は店を出る。

 すぐに路地裏に入り、王城に向かって3人で歩く。


「悪いな。デザートを食べられなくて。」

「まあ、惜しくはあるが、別にいい。」

「次は俺抜きで行けばいい。」

「オレは皆で食べたいんだよ。」

「そうか。」


 日が暮れた路地裏はガラの悪い連中もいるが、見るからに武装しているクロ達に近づく者はいない。クロは「黒嘴」を右手に持ち、マシロは腰のベルトの両側に「黒剣」を提げている。


「やっぱ俺、目つき悪いか。サングラスでもした方がいいかな?」

「さっきの者たちはそれだけではなく、マスターの殺気に反応していたと思われます。」

「殺気?」

「やはり無自覚でしたか。出ていますよ?わずかにですが。」

「マジで?」

「ダダ漏れだな。気づく奴は少ないと思うが。」

「マジか・・・」


 マシロに若干呆れられ、ムラサキからストレートに言われて、落ち込むクロ。


「しかし、飲酒後は緩和されていましたよ。」

「本当か?」


 希望を見出したと言わんばかりにクロがマシロを見る。


「ええ。マスターは常に怒りの感情が奥に潜んでいる状態ですが、飲酒時はその怒りがだいぶ抑えられています。」

「嫌なことは呑んで忘れるって奴だな。」

「そうか。じゃあ、今後人に会う時は常に酒を飲んでから・・・」

「「それはやめてください(やめとけ)。」」


 それを肯定したら、クロは間違いなく国王への謁見すら酔っぱらった状態で行く。そう思った2人に同時に止められ、軽く落ち込みながらクロは王城へと歩いて帰った。


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