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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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004 八柱の神々

 クロがいる現世とは異なる異空間。現世とは隔絶されながらも「近い」そこは神域と呼ばれていた。そこには8柱の神々が住み、普段は各々現世を監視し、時々自分の神子に信託を下す。そんな神々が一堂に会していた。彼らが集まるのは、定期的に行われる異世界人の召喚と、問題が発生したとき。今回は後者であった。


「では、今回の議題は、かのイレギュラーについてです。」


 白い髪をまっすぐに腰まで伸ばした長身の女性、光の神が進行役を務める。続いて言葉を発するのは金髪で寝ぐせのようにくしゃくしゃの髪をした青年。


「まさか今更動くとはな。田舎に落ち着いて永遠に隠居暮らしかと思っていたが。」

「楽観的すぎます。力を蓄えていたのでしょう。油断なりませんね。」


 楽観的な青年を注意するのは青い波打つ髪を肩まで伸ばした女性。


「しかし、水の神。3年も動かなかったんだぞ?」

「雷の神はせっかちですなあ。準備を0から始めればそれくらいかかりましょう。」


 ゆったりと答えるのは茶髪の壮年の男性。


「土の神はゆっくりしすぎだ。」

「はっはっは。これは手厳しい。」

「しかしなぜ動き出した?まさか魔族を率いて人里に攻め入る気ではあるまいな!」


 怒鳴るのは紅い髪を逆立てた筋骨隆々の男。それを青髪の女性、水の神が諫める。


「落ち着きなさい。まったく、すぐに興奮する・・・誰かイレギュラーの最近の行動を見ていたものは?」


 水の神が見渡すが、ほとんどは首を横に振る。動きがないのは2柱。水の神は椅子の背もたれに寄り掛かって遠くを見ている、水色の短髪の青年に視線を向ける。


「風の神、何か知っているのですか?」

「え?ああ、ごめん。聞いてなかった。」

「はあ。魔族に転生したイレギュラーの話をしていたのです。最近彼を監視していましたか?」


 初めから話を聞いていなかったらしい水色髪の男、風の神に、光の神が説明する。


「ああ、見てないけど・・・一緒にいる猫は見てた。魔族になる猫なんて初めて見たし。」

「なに!?」


 一同は騒然となる。火の神が立ち上がって怒鳴った。


「一大事ではないか!どうして報告しない!」

「ああ、ごめん。なんか話す機会を逸しちゃって。」

「なんだと!」

「落ち着きなさい、火の神。それで?その猫の他には?」

「他にはいないよ。魔族の研究者が猫に実験した結果、魔族になったみたい。で、研究者は他の獣にも何度も試したけど、再現できず。成功率1%ってところかな?博打だったら絶対かけないねー。」


 その言葉に安堵の息が漏れる。


「ならば急に魔族が増えるということはなさそうですね。」

「いやはや肝が冷えましたぞ。」

「それなら少しは顔に出せ、土の。」

「火の神は顔に出すぎです。」


 魔族は神を信仰しない存在。神々はその魔族の台頭を恐れていた。それが杞憂と分かれば、場の空気も緩む。しかし、まだ本題が終わっていない。パンパンと手を叩いて光の神が仕切り直す。


「さて、話を戻しましょう。風の神、その猫を通してイレギュラーを監視していましたか?」

「いや、猫と仲良くしてるのは見たけど、研究者の下で仕事したり鍛錬してるだけで、動きがなかったから、ここ1年は見てない。」

「鍛錬・・・やはり力を蓄えていたのですね。」

「おお!その話が終わっていなかった!奴が戦争を始める前に手を打たねば!」

「そうですね。討伐用の神獣を・・・」


 話がクロの討伐に進みそうになった時、そこまで動かなかった緑色の髪の小柄な女性が手を挙げる。


「お待ちください。証拠もないのに討伐なさるおつもりですか?」

「木の神・・・それはもっともだが、我々は直接手を出せぬ以上、先手を打っていかなければなりません。」

「水の神、もし彼が我々に利するものだった場合、責任が取れるのですか?」

「イレギュラーが?進んで魔族になったあの者が?ありえません。」

「では・・・光の神、現在の彼の姿を映せますか?」

「ええ。」


 光の神が手をかざすと、全員に見える位置に丸い窓のようなものが現れ、映像が映る。緑のシャツに黒いズボン。黒いコートを羽織って長剣を片手に森を歩いている20歳くらいの男。後ろには紫色の猫一匹。


「彼が魔族を率いて戦争をするというのなら、なぜ手勢を率いていないのです?」

「むう。」


 流石の火の神もすぐには反論できない。そこに雷の神が議論に加わる。


「まだわからんぞ。魔族の動向はどうなっていますか?」


 映像が切り替わると、魔族の南の集落。その南端に武装した魔族が集まり、数名が森に入っていく。それを見た火の神がまた怒鳴る。


「やはり進軍しているではないか!」

「待ちなさい、火の。進軍にしては少なすぎるし、今動いた魔族は散開した。進軍というよりは探索だろう。」

「探索?何を?」


 そこで全員が唸り始める。すると、傍観していた黒いローブに全身を隠した老人が手を挙げる。


「発言いいかね?」


 皆が嫌そうな顔を老人に向ける。何を言う気だ、と。表面上は穏やかに、光の神が答える。


「何でしょう、闇の神。」

「なに、会議が進まないので、ワシが真実を教えてやろうと思ってな。」

「真実?フン!信用できるか!」


 火の神の言う通りだった。全員、闇の神が事情を知っていることは初めからわかっていたのだ。イレギュラーは彼の神子なのだから。それでも聞かなかったのは、単純に信用できないから。彼は、胡散臭い。


「まあ、聞け。信用できるかどうかは、確かめればよかろう。何、すぐにわかる。」

「・・・では、説明していただきましょう。」

「ワシは1年前にあれに魔王討伐を命じた。それを達成したから魔族から逃げている。魔族はそれを追っている。それだけだ。」

「はあ!?」


 他の神々が驚くのも無理はない。魔王の出現すら知らなかったのだ。


「疑うなら、その集落の城の、大広間を見てみろ。」


 光の神が影像を切り替えると、玉座周辺が派手に破壊された大広間が見える。そこに魔族の族長たちが集まり、話し合っている。音を拾うと、どうやら彼らを招集した城主が何者かに殺されたらしい。


「どうだ?この城主は魔王として立ち、魔族を束ねて戦争を始めようとしていた。ワシがそれを察知し、あれに暗殺を命じた。そして、時間がかかったが、暗殺成功。まあ、宣言直前というぎりぎりのタイミングだったがな。」


 半信半疑の神々の中、1柱、木の神だけが賞賛する。


「やはり、彼は我々に利するものだったようですね。木属性の適性があったのですから、悪人ではないと思っていたのです。魔王討伐に、戦争の阻止。いずれも我々に利する行為です。そしてそれらは、彼が魔族になったからこそ達成できたこと。・・・もう彼の魔法禁止の呪いは解いてあげてもよいのでは?」


 クロの行為が神々にとって利益あるものだったのは間違いない。木の神の賞賛を皆黙って聞いていたが、解呪の話だけは火の神が断固拒否した。


「ならん!魔族に力を与えるなど!」

「しかし、魔王討伐の功績は大きいはず。その功労者にいつまでも呪いをかけているのは、問題では?」

「ぐっ・・・しかし・・・」


 譲らない木の神に、言い淀む火の神。そこに光の神が口を挟む。


「お待ちなさい。この破壊跡を見てください。明らかに魔法による攻撃の後です。」

「確かに・・・魔法が使えないのではなかったのか?」

「全く使えないわけではありません。生活魔法は許可しています。」

「生活魔法は戦闘には使えんだろう。そのためにリミッターが・・・あ!」


 話している最中に、雷の神は思い当たることがあったのか、唖然とする。


「ええ、魔族は術式を自分で書いています。既存の魔法のコピーと複合だけですが・・・そのコピー元はリミッター設定前の物です。生活魔法にすらリミッターを設けていないほど古い物です。」

「くそっ!リミッターがなければ、確かに武器になる!『ヒート』で人を焼き殺せるし、『ライト』は目潰しになる!」


 本来魔法は、神域にある石板に書かれた術式で発動される。すなわち人々が魔法を使うには、神々の許可が必要であり、神々が用意した魔法しか使えない。故に、神々から忌み嫌われる魔族は当然、許可が下りなかった。そこで魔族たちはどこから入手したのか既存の術式を複製して自作。自らの手で魔法を再現した。そのため、魔族はある程度魔法発動の原理を知っている。術式の詳細な書き方まではまだわかっていないようだが。

 さらに神々が魔法を作って人間達に与えた約1000年前にはまだリミッターなどなかった。数百年前に人間の魔法の濫用を見かねて設定したのだ。魔族が入手した術式はその前の物らしい。


「お待ちください。それではその破壊跡は説明できません。」

「ええ、生活魔法の暴走だけではないでしょう。おそらく、魔法禁止の呪いの穴を突かれたかと。」

「というと?」

「魔法禁止の呪いは、阻害魔法によるものでしたね?」

「ええ。イレギュラーは魔族なので、魔法使用許可を出さないだけでは不十分でしたから。」

「ああ、あの時は大変でしたなあ。かのイレギュラーのためだけに新魔法を構築し、既存の魔法を一つ一つ登録して。」

「数が多すぎて属性ごとに分担したんだよね。あれは二度とやりたくないなあ。」

「ええ、ですから、属性のある、既存の魔法しか阻害できないのです。」

「あ!?じゃあ、奴は、新魔法を?」

「おそらく。」


 唖然とする神々。ただ闇の神だけは静かに笑っている。

 新魔法を魔族が作るのは初めてではない。既存の魔法の組み合わせしかできないとはいえ、適当に行った改変で意外な効果の魔法ができることもあった。


「闇の神、知っていましたね?場合によっては契約違反ですよ?」

「いや、なに。新魔法ができたら、逐次担当の者が対応するのかと思ってな。あれは少なくとも闇属性ではないから、ワシは何もしなかった。」

「では、何属性ですか?」

「さあ、あれはなんだろうなあ?」

「ご説明を。」


 そして闇の神から説明されたクロの魔法に神々は戸惑う。


「うーん。主に金属を操るんだし、土属性じゃない?昔あったでしょ、金属を操る土魔法。」

「いや、同じ原理で空気や水も操れますぞ。風属性や水属性でもある。」

「じゃあ、複合属性?」

「いいえ。複合属性は既存の魔法を同時に発動して異なる効果を発現するもの。適切な表現ではありません。」


 風の神、土の神、水の神が中心となって議論するが、決まりそうにない。そこへ木の神が手を挙げる。


「あの、決める必要はないのでは?無属性でもよろしいかと。」

「いや、それでは阻害魔法への登録が・・・」

「それを恩賞としては?その魔法だけは許可する、ということで。」

「あ、いいねそれ。」


 風の神はあっさり納得するが、水の神は食い下がる。


「しかし、神子へは本来恩賞は与えない規則では?」

「これは与えるのではなく、呪いの軽減です。かけていた不利な効果を少し戻す。プラスにするのではなく、マイナスだったものを少し0に近づけるだけです。」

「む・・・」


 反論に迷う水の神。そこで雷の神が木の神に賛同する。


「それでいいんじゃないか?そもそもここまで見逃してきた新魔法を今更禁止するというのも体裁が悪い。」

「確かに、今頃になって禁止すれば、それまで新魔法に我々が気づけていなかったことを露呈するようなもの。神の眼に対する不信感を世間に広めかねません。落としどころとしては良いでしょう。」


 周囲の神々に確認し、光の神が決議を告げる。


「では、イレギュラー、鴉山明文、改めクロの魔法禁止の呪いは継続。ただし、生活魔法と件の新魔法のみ例外とする。討伐に関しては保留とする。以上!」


 ばらばらと神々は席を立ち、各々の空間に戻っていく。

 自分の空間に戻った闇の神は独り呟く。


「やれやれ、合同の討伐は避けられたか。予定通り、木の神は味方に付いてくれそうだな。問題は血気盛んな火の神やせっかちな雷の神が単独で動く可能性か。さて、どうなるか・・・楽しませてもらおう、クロよ。」


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