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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
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308 最終局面へ

 神獣となったアカネの『紅炎砲』が、<勇者>マサキの『光の盾』を破ろうとしている。

 その異変に最初に気づいたのは、上空で戦い続けていたヴェスタだった。


「なんなんだ、あの炎は!?」


 長年、炎魔法を扱い、より高い威力を出す工夫を重ねて来たヴェスタにとって、アカネの紅炎は驚くべきものだった。

 ヒトが試行錯誤の末に生み出す工夫ではなく、神の力による力業ではあるが、それでもかつてない威力の炎魔法であることには変わりない。


 炎の外からでは、その中に包まれているマサキの様子は見えない。

 それでもヴェスタは、嫌な予感がした。

 マサキの『光の盾』は、絶対ではない。また、その原理が魔法である以上、より強い力が加えられれば、壊れない保証はない。

 その出力の源が八神だったとしても、神の力を上回る存在がいないと、どうして言えよう?


 ヴェスタは飛行する向きを下に変えて、マサキの助力に向かおうとする。


 ・・・アタイの『EMシールド』なら、いくらか軽減できるはず!


 しかし、そのヴェスタの行方を、槍と雷が遮る。


「どこへ行く?拙者との勝負がついておらぬぞ!」

「今それどころじゃねえっ!」


 強引に突破を試みるヴェスタだが、ヤマブキが張る弾幕があまりにも厚い。それも、先程までの攻防よりも、激しく感じる。


「てめえ、今まで手を抜いてやがったな?」

「まさか。長期戦を見据えた温存、という奴でござる。アカネ殿の晴れ舞台、横槍を入れさせるわけには参らぬ。」

「ちっ!」


 結局ヴェスタは、ヤマブキに邪魔され、マサキの救援には向かえなかった。


ーーーーーーーーーーーー


 次に、ヴェスタより数秒遅れて、シンがマサキの異常に気がつく。

 初めは余裕を見せて、わざと炎を受けているのかと思っていたが、そもそもマサキは相手を侮るような性格ではない。

 慎重な性格ではあるが、それを加味しても、攻撃を受けてから今まで反撃しないのはおかしい。


 ・・・マサキ、まさか、効いているのか!?


 マシロとの取引に基づき、今まで傍観していたシンも、これには動かざるを得ない。


「<疾風>!この横槍で、取引はナシだ!」

「そうですね。ですが、そう易々と邪魔させはしません!」


 シンの巨大ゴーレムが動き始める。それを、その全身を包む黒い根が抑え込もうとする。


 だが、黒い根はブチブチと千切れ、払いのけられていく。


ーーーーーーーーーーーー


「くぅっ・・・」


 マシロは、神経の繋がった根が引き千切られる痛みに呻く。感度を調整し、根が感じ取る感覚はある程度弱めて伝えているが、それでも太い根が同時に何十本も千切られれば、相当な激痛だ。

 しかし、マシロの意識は、その痛みではなく、千切れた原因に向いていた。


 ・・・<大山>の力が想定以上だったとはいえ、こうも簡単に振り解かれるわけが・・・まさか、根が脆くなっている?・・・そうか、この熱。まさか裏目に出るとは・・・


 アカネが戦う場所からかなり離れたこの『炭の大樹』の根元でさえ、相当な暑さになっていた。ならば、そのすぐ近くにいるシンの巨大ゴーレムも、それに巻き付いている『大樹』の根も、かなり高温になっているはず。

 マシロの魔法強化炭素繊維は、生半可な熱ではびくともしないが、一定以上の温度になれば燃えてしまう。おそらくは、その温度を超えてしまっているのだろう。


 マシロは膝を地面に着く。『炭の大樹』と接続した黒い糸も切れていく。

 時間的にも、マシロはもう限界だった。これ以上、『炭の大樹』を操作することはできない。


「アカネ・・・」


 霞む視界で、遠方で戦うアカネを見守る。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・行ける、行ける!


 アカネは、『紅炎砲』の威力がどんどん上がっていくのを感じていた。

 そして、これが敵に有効打を与えているのが見える。アカネの嗅覚式魔力感知が、敵の苦しむ感情を伝えていた。


 ・・・私が、戦える!私が、皆を助けられる!


 今まさに、アカネは自分の望みを叶えている瞬間だった。

 母のように強くなりたい。そして、恩人である養父母や仲間達を助けたい。そう思っても、今までは自分の無力を嘆き、歯噛みするばかりだった。

 それが今、できている。こんなに嬉しいことはない。


 高揚する感情が、さらに炎の勢いを増す。


「いっけええええ!」


 トドメ、とばかりに火力を上げたその時、アカネは敵意を感知する。

 自分を攻撃しようとする者が、攻撃の直前に発する気配だ。


 アカネは『紅炎砲』を継続しながら回避しようとするが、その攻撃は、アカネの想定よりも速かった。

 紅い炎の中から、一条の光線が飛び出す。回避不能の光速攻撃。『レーザー』だ。


 しかし、その光線は、アカネに当たる直前で鉄の板に遮られた。

 いつの間にか、クロが盾をアカネの前に滑り込ませていた。熱で半分ほど融解した状態だったが、それがちょうどアカネの首から下を守るような形になっていた。


養父様とうさま!」

「振り返らなくていい。そのまま行け。」

「はい!」


 クロは、アカネが攻撃を開始してから、アカネの後方、十数mのところまで離れていた。

 それくらい離れないと、巻き添えで死にそうだったからだ。

 強化されたアカネの炎は、余波だけで周囲のあらゆるものを融解させていた。

 十数m離れた今の位置でさえ、クロは全身にやけどを負い、目も見えていなかった。魔力視だけは辛うじて生きていて、アカネの位置だけは把握できる。


 アカネが振り返れば、自分の攻撃の余波で、クロが死にかけていることに気づいてしまう。それは避けたくて、振り返らせなかった。



 続けて何度か『レーザー』が飛んできたが、狙いが甘く、外れるか、もしくはクロの盾の残骸に防がれていた。


 ・・・もう少し、もう少し!

 ・・・もう少しだ。


 アカネは『紅炎砲』を放射し続ける。クロは、その熱に耐え続ける。

 一度は諦めた勝利が、目前だった。



 その時、ふと、周囲が暗くなったのに、アカネが気づいた。


 アカネが見上げると、そこには、黒い根の拘束を振り解き、自由になった巨大ゴーレムが、アカネに向かって足を上げ、踏みつけようとする姿があった。


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