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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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034 「人形姫」

「<人形姫>?」

「魔族だ。俺を殺しに来たんだろ。」


 2か月ぶりの魔族の刺客だ。最近は基本、王都に引き籠ってたから向こうも襲う機会がなかったのだろう。そしてようやく見つけた機会、そこにとっておきを投入して来た、というわけだ。しかしクロはそこまで考えてそれを否定する。考えてみれば、魔族同士が統率者も無しに連携するはずがない。となると、ただの偶然のほうがありそうだ。


「マスターはこの敵を知っているのですか?」

「ああ。だから慌てる必要はない。」

「まあ、面倒くさい奴ではあるがなあ。」


 クロもムラサキも<人形姫>を知っていた。魔族の集落では割と有名人だ。

 その有名人とそれが操る20体のゴーレムはまだゆっくりと近づいてきており、接敵まではかなり時間がある。敵はまだこちらに気付かれたと思っていないようだ。


「土魔法を使うようですが、どんな敵なのです?」

「・・・ヒステリーの激しい、鬱陶しい女だ。可能な限り関わりたくないタイプ。だが魔法の実力は見ての通り高い。あれだけのゴーレムを同時操作する出力と操作力、それを続けても疲弊しない魔力量と回復力。魔力量と魔法制御力だけでみれは魔族トップクラスの実力者だ。もちろん、どちらも俺より高い。」

「警戒すべき敵ではないのですか?」

「問題ない。真正面から魔法で戦えば勝ち目がないが、弱点がある。だから特に問題視していない。」


 以前、クロは魔族の集落で確認した全ての魔族の魔法制御力をチェックし、自分を上回る者がいないか確認していた。そして結論としていないと判断した。実際には<人形姫>のように上回る者は数名いたが、戦闘になりえない、または戦闘になっても御しやすいと判断し、無視した。

 ムラサキがクロに同意するように説明を引き継ぐ。


「つーか、アイツは実戦向きじゃねえよ。魔族同士の模擬戦では高い魔法能力で一目置かれて、族長クラスの扱いを受けてたが、ガチなら隙だらけだ。」

「そうなのですか?」


 マシロは信じられないという様子でクロに確認する。


「そうだな。人形は強いが、本体は雑魚だ。格闘もできんし、武器も扱えん。仮に護衛でもついていたらやばいが・・・ないな。」

「ないない。あのボッチに護衛なんて誰もつかねえよ。どこの部族にも属してないうえ、一人暮らしなのに、なぜか族長の集会に堂々と顔出してたよな。」

「アレにとっては部族なんだろうよ。あの人形が。」

「聞いてますます何者なのかわからなくなってきました。そんな生き物がいるのですか?」

「まあ、見ればわかる。さてそろそろ真面目に対策するか。」


 クロは姿勢は変えずに思考だけを戦闘に切り替える。


「まず、真白。お前は犬形態のまま待機。」

「なぜです?」

「アレは一定以上の顔の女を見るとキレる。多分理由は嫉妬かなんかだろ。理解したくもないが。だが、初っ端からキレられて本気で攻撃されると困る。向こうがなめてかかってる間に敵の戦力を削りたい。」

「なるほど。」

「それと、一番の理由は、真白、お前はまだ万全じゃない。」

「・・・わかりました。」


 マシロは戦場での負傷で失ったストックを補充できていなかった。糧食を分けてもらって夕飯に少し食べたが、まるで足りない。もしここで再度負傷すれば、再生できない可能性がある。

 それを理解したマシロは悔しそうにしながらも引き下がる。


「まあ、普段真白に頼りきりだからな。今回は俺とムラサキの出番だ。」

「おっ、久しぶりじゃねえか。このタッグも。じゃあ作戦は・・・」

「ああ、俺が奴を挑発して人形を食い止めるから、本体を捕まえろ。」

「オーケイ、相棒。」


 ムラサキは楽しそうに走り出す。身を低くして草原の草に身を隠して進む。輝く金目を細めて隠せば、暗い紫色の体は夜の闇に紛れた。草を揺らす音も、草原に吹く微風に紛れる。

 それを確認したクロは「黒嘴」片手に歩き出す。するとすぐにゴーレムたちが囲むように接近し、視認できる範囲に来ると、間合いの外で一斉に立ち止まる。

 そのゴーレムたちは、昼間にホシヤマ達が作っていた、人の形をした土塊ではなかった。

 一見すれば人間と見紛うように精巧な作りをした、まさに人形だった。しかもそれぞれが豪華な鎧を着用し、剣と盾を構えている。その顔は無表情だが、そろってイケメンに見える男だ。

 クロにとっては既知の事実であるため、驚きはない。相変わらず悪趣味だ、という感想が浮かぶだけだ。しかしマシロは少し驚いた。土魔法で作るゴーレムと言えばホシヤマ達の『アースゴーレム』が普通であり、こんな精巧な人の形を作ることはあり得ない。というか作る意味がない。こんな人間のようなゴーレムになったのは、当然、<人形姫>が魔法を改造したからだ。

 直立不動の人形騎士達の向こう側から、耳障りな甲高い声が聞こえてくる。


「見つけたわよお?使用人。」

「俺は一応、助手って扱いだったんだがな。」


 現れたのは真っ赤なドレスで着飾った女性。外見年齢は25~30歳程度。美女と呼べる程度には整った顔立ちだが、高慢な雰囲気が顔からも感じられる。長い金髪を振り乱しながら、モデル歩きをしている。クロの前世なら女優でもやっていけそうな容姿なのだが、クロとマシロの感想は、

 ・・・相変わらず、けばいな。醜い。見るに堪えん。

 ・・・なぜつま先立ちで歩きにくそうにしているのでしょう?あの変わった靴をスニーカーにでも変えれば歩きやすいでしょうに。服も動きづらそうです。

 ハイヒールは獣人の国であるフレアネス王国では普及していなかった。身体能力の高さが長所の獣人が、その長所を潰すような装いをするはずがない。無論、例外はいるが、一般的ではなかった。


「使用人風情が口答えするんじゃないわよ!」


 <人形姫>が急に大声で怒鳴る。その甲高い声は無駄によく通り、聞く者に頭痛を与える。


「これだけでキレるのかよ・・・短気すぎだろ。」


 クロは敵に聞こえないように呟く。クロとしては戦闘開始前に怒らせるのは避けたい。幸い今のは一言で収まったようで、フンと鼻を鳴らして<人形姫>がふんぞり返る。


「やはり主を裏切るような使用人は教育がなってないわね。あの研究馬鹿も所詮は下賤の者だったってことね。その部下はこの裏切り者の処分に失敗したというし。こんな雑魚一人に何をやっているのだか。というわけで、私が直々に成敗してやりに来たわよ!有難く思いなさい!」

「・・・・・・」


 クロは何を言ってもキレられると思って沈黙することにしたが、それすら癪に障ったようだ。


「なんか言いなさいよ!裏切り者!」


 やれやれという思いを極力顔に出さないようにしながら、月並みなことを言ってみる。


「黙ってやられるつもりはない。」

「ふん!身の程というものを思い知らせてやるわ!やっておしまいなさい!お前たち!」


 挑発?に乗った<人形姫>が指示を出すと、一斉に人形騎士たちが動き出す。1対20の斬り合いが始まった。


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