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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第8章 黒
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301 動く山

 <疾風>マシロと戦うシンは、ゴーレムの足が崩されていくのを感じていた。


「まさか、帝国の大砲でも破壊できぬ我が体躯を、こうも容易く破壊するとはな。」


 ゴーレムの足元を動き回るマシロは、隙を見つけては、鉄球の付いた棒のようなハンマーを振り、だるま落としのようにゴーレムの足を吹き飛ばしていく。


「だが、無駄なことをしていると、理解しているのか?」


 ゴーレムの足は崩され、確かに前進は止めざるを得ない。また、足が壊れた分、脚が短くなり、シン本体がいる胸部は地面に近づいている。

 だが、それだけだ。

 壊された足は、シンの制御下から離れたわけではない。集めればすぐに再構築できる。

 それをせずに、単純な土魔法による反撃のみやっているのは、マシロを罠にかけるためだ。


 壊された破片は、周囲に飛び散り、地面に紛れ込む。そうして、そこに触れた敵を拘束する機を窺っているのだ。

 シンの魔力なら、少量の土でも足1本程度は拘束できる。



 そう思って、マシロが罠にかかるのを待っていたのだが。


「・・・かからない?まさか、避けているのか?」


 地面に散った、無数の土の罠。見た目では普通の地面と変わらず、発見できないはず。

 しかし、マシロはそのすべてを回避しながら走り回っていた。


「魔力感知が優れているとは聞いていたが、これほどか。」


 頭上からのシンのゴーレムの攻撃を高速移動で回避しつつ、足元の罠を踏まないように移動する。並の人間には到底無理だし、そこらのネームドにも不可能な芸当だろう。


「ふむ、これで捕まえられんとなると、厄介だな。」


 今回の状況は、シンにとってとにかく戦いにくい。


 まず、勝利条件として、<赤鉄>クロを斃しても、この土地の製錬業は止めてはならない。

 すなわち、この戦場のど真ん中にある、工場や家は、破壊しないように立ち回らなければならない。

 大質量を振り回して戦うスタイルのシンには厳しい条件だ。


 さらに、ここまで接近して気がついたが、この土地の地面は、既に他の者の魔力で覆われている。

 土魔法のような物体操作系は、対象物に自分の魔力を浸透させて操作する。その時、対象物に他人の魔力が入っていれば、魔力同士の反発により、その物体は操作できなくなる。

 その他人の魔力を強引に押し出すことも可能だが、それを実行するには、魔法出力で十分に上回っている必要がある。

 シンは世界最高峰の土魔法使いだ。大抵は強引に押し出せるのだが、ここの土地を守る術者は、シンを上回るほどではないにせよ、シンが強引に支配権を奪えない程度には強いようだった。


 この土地の地面を使えれば、シンがマシロを捕まえるのはこうも難しくならなかっただろう。


 そこで、シンは頭を切り替えた。


「まあ、我らの目的は<赤鉄>のみ。<疾風>を無理に相手する必要も無し。・・・やるか。」


ーーーーーーーーーーーー


 マシロは、超重量ハンマー「鉄塊」を担いで、ゴーレムが飛ばして来る石弾を避け、足元に散った敵の魔力を避けながら、ゴーレムに接近する隙を窺っていた。

 ゴーレムは両足を数回削られ、バランスを崩している。人間で言えば、膝辺りまで砕かれただろう。


 次はどちらの脚を狙うべきか。マシロがそう考えた時だ。

 ゴーレムが傾き始めた。前のめりに傾き、倒れていく。


 ・・・好機、でしょうか?奴の本体は胸部のはず。


 そう思って接近しようとした時、マシロの鼻が危険を感じ取った。

 弱った相手に追い打ちをかける時に感じる臭いではない。感じ取ったのは、リスクを承知で反撃に出る覚悟だった。


 急ブレーキをかけ、接近を中止。同時に、ゴーレムの胴体が、大きな音を立てて地面に伏した。


「シン!?」


 離れたところから、<勇者>マサキが声を上げる。声色からは心配している様子が感じられる。


 ・・・勇者には伝えていない作戦、ですね。何をする気でしょうか。


 マシロが警戒して待機していると、倒れたゴーレムはすぐに起き上がり始めた。

 だが、おかしい。

 おかしいのは、起き上がる向きだ。さっきまで立っていた場所ではなく、倒れた際に伸ばした手の方向へと起き上がる。まるで逆立ちでもするように。


 ・・・しまった!そういうことか!


 マシロはすぐにゴーレムに駆け寄る。

 ゴーレムは、逆立ちをした。しかし、それは人間がやるように勢いをつけてやったのではなく、完全に倒れた状態から、機械的に、棒切れでも起こすように行った。魔法で全身を操作できるのだから、それも可能だろう。

 そして、普通に歩き出した。

 逆立ちのようには見えない、安定した歩き方。それもそのはず、腕だった部位は脚に。脚だった部位は腕に。頭部は崩して取り込み、再度正しい位置に再構成していた。


 シンは、ゴーレムをわざと倒し、その際に手をついた位置に逆立ちで立ち上がった。

 それにより、荒れ地の外縁部で足止めされていた位置から、一気に数十m前進。クロとマサキが戦っている位置の近くまで進んだのだ。


 シンは、ゴーレムを屈み込ませて、その拳をクロへと振り下ろす。

 当然、クロは回避しようとしたが・・・


「っ!?なんだ?」

「逃がさないよ。」


 クロの周囲を、『光の盾』が覆っていた。3枚の『盾』で柱を作るように囲み、逃げ場をなくす。

 クロは、『光の盾』を突破できないと見るや、巨大ゴーレムの拳と競り合う覚悟を見せる。


 だが、そうはならなかった。


 突然、爆音が響き、ゴーレムの拳が粉砕された。

 何かが高速で飛来し、ゴーレムの拳を砕いたのだ。ゴーレムはそれを受けた衝撃でバランスを崩し、壊れた腕を、クロのいる位置から少しずれたところに突いた。

 そして、ゴーレムの拳を貫いた物体は、その速度を緩めながらもそのまま飛び、工場の壁に突き刺さった。


 その隙にクロは上から『光の盾』の囲いを跳び越えて脱出する。どうやら『光の盾』が覆うことができる面積は、そう広くないらしい。

 そして、駆け寄って来たマシロに声をかける。


「すまんな、真白。助かった。」

「いえ。咄嗟にマスターの投擲を真似てみましたが、思いの外うまくいきました。」


 マシロは、ゴーレムがクロに攻撃を仕掛けた際、全力で走っても間に合わないと見るや、走る勢いも乗せたまま、クロがよくやる投擲攻撃を行ったのだった。

 もともと、膂力でクロを上回るマシロが、走る勢いまで乗せたのだ。その威力は戦艦の大砲にも劣らぬ威力だった。


「うまくいったって、工房壊してんぞ。」

「あれは、修理できますから。」


 悪びれもせず、しれっとマシロは言った。

 まあ、確かに丁寧に謝罪している暇はないのだが。


「では、マスター。これより『大樹』を起動します。少々お時間をいただきます。」

「わかった。それまでは粘ろう。」


 マシロは急いで家の方に向かう。

 クロは愛剣を担いで、マサキと巨大ゴーレムに対峙した。


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