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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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032 「地竜」

 行きはマシロに乗って十数分だった道のりも、徒歩で帰れば数時間かかった。

 その間にマシロは歩ける程度に回復し、逆にムラサキは歩き疲れたと言ってクロのコートのフードに収まった。

 マシロがムラサキの訓練不足を指摘し、嫌がるムラサキをクロが揶揄いながら、それでも的確に敵兵との接触を警戒しつつ進む。もっとも、敵の別動隊は粗方潰し終えているため、主戦線に近づかない限り接敵することはまずなかったが。

 そうして戻って来た最前線司令部。土魔法で造られた即席の小屋が6つほど並んでいる。6つとも同じ大きさで、中央2つが兵士の仮眠室、西側から2番目が倉庫、東側から2番目が会議室とその他諸々、両端は予備の小屋で普段は空だ。さらにここから少し離れたところにいくつかダミー司令部もある。

 クロ達は会議室がある小屋に入り、その中の一室に向かう。会議室では慌ただしく人が出入りし、戦況を伝えている。聞く限りでは押されてはいないが押してもいない、膠着状態のようだ。

 目的の部屋に着くと、声をかけて入る。扉はない。


「邪魔するよ、アクシー司令官。」

「ん?おお、クロ殿!戻られたか。」


 石で作られた簡素な机に書類を広げて書き物をしていた、牛系獣人の中年男性が顔を上げて歓迎する。前の参戦時も報告はこの司令官にしていた。

 アクシー司令官は軍では珍しい草食系獣人だ。獣人族は大抵、肉食系が荒事を担当し、草食系は生産職に就くことが多い。アクシー司令官もそれほど戦闘が得意な方ではない。詳しい事情はわからないが、軍人にならざるを得ない立場だったそうだ。自分なりに役立つやり方を探していたら、指揮能力を買われ、司令官に任じられた。血気盛んな肉食系の司令官と比べ、一歩引いた見方をするアクシー司令官は、どの戦場でも損耗率が低く、部下からも人気がある。クロとしても、偏見なく話してくれる分、他の司令官より話しやすかった。


「どうぞ、そちらの椅子をお使いください。」

「いや、このままで結構。」

「あ、じゃあオレが。」


 クロは戦場でくつろぐつもりはなく、勧められた席を辞する。代わりにムラサキがその椅子の上で丸くなった。


「では、報告する。今日狩ったのは左翼で小隊2つ、中隊1つ。悪いが右翼には手が回らなかった。」

「何かあったのですかな?」


 アクシーの目が険しくなる。会話しながらも右翼をフォローする算段を勧めているのだろう。


「実はその中隊がな・・・」


 クロは事の経緯を説明する。アクシーは国王からの信頼も厚く、クロ達が魔族であることも知っている。隠す事も無い。細かい戦闘の経緯は省き、敵を一人逃したこと、その逃げた敵が魔法を使用したこと、マシロが負傷したこと(負傷の内容は伏せた)、捕虜にしようとした隊長が自爆したことを説明した。


「魔法を使う帝国兵、ですか・・・厄介ですね。こちらは帝国兵は魔法を使わない、いや、それどころか魔力感知もないものとして戦っています。もしそんな帝国兵が紛れているのだとすれば、戦術を一から見直さなければならない。」

「ああ。それは司令官殿に任せるよ。得意分野だろう?」

「いえいえ私など・・・しかしまあ、知恵を絞らせていただきましょう。」


 謙遜しつつもアクシーはにやりと笑う。相変わらず、弱みを見せない人だ。


「それよりも、帝国兵が魔法を使用した件は、政治的にも重要な事件です。うまくいけば帝国を内部から揺るがせるかもしれない。一刻も早く国王陛下に伝えるべき案件です。」

「・・・証拠はないぞ?」

「それでも、揺さぶりをかけるくらいはできるでしょう。その辺りはヴォルフ殿に任せればよろしい。」

「そうだな。」


 そこはクロも迷いなく同意する。ヴォルフを全面的に信頼するわけではないが、これ以上ない適任者と言えるだろう。心配があるとすれば、彼が過労で倒れたりしないか、というぐらいだ。


「国王には俺達が直接伝える。先に言った通り、マシロが負傷した。悪いが休養させてもらう。」


 クロ達は兵士ではない。傭兵として国王に雇われている形だ。そして具体的な成功目標を示されているわけではないため、好きなタイミングで撤退できる。報酬は出来高払いになっている。

 クロは断固として帰還を譲らない姿勢だ。その横ではマシロが申し訳なさそうに少しだけ俯く。


「仕方ありますまい。何とか持ちこたえましょう。」

「・・・武運を祈る。」


 敬礼などはせず、クロは退室しようとする。しかしそこで一つ思い出した。


「ああ、そうだ。敵の新兵器について言い忘れてた。」

「ほう、それはどのような?」

「俺が直接見たわけじゃないが、真白の話から察するに、まずは地雷。地中に埋める爆弾で、上に人が乗ると起爆するものだ。威力のほどは不明だが、鼻が利く奴を斥候にして注意を促した方がいい。」

「それは何とも・・・目や耳に頼る種族では対処が困難ですな。おっしゃる通り警戒が必要になりますが・・・進軍速度が落ちるのが問題です。嫌な兵器を作ってくれたものですね。」


 概要を聞いただけで瞬時にそこまで考察するアクシーに感心しながら、クロはさらに説明を続ける。


「もう一つ。真白が撃たれた銃についてだ。これについては存在する可能性の話だ。本当にあるかはわからん。それは、狙撃銃だ。」

「狙撃、銃ですか?」

「真白は簡単に撃たれるような奴じゃない。真白の知覚範囲内で銃を構えた奴がいたら、真白は確実に感知して躱す。ダメージを受けて動けなかったとしても、直撃はありえねえ。」


 マシロも頷く。感知さえできていれば、電撃で体が痺れていたとしても、強引に体を動かすなり、魔法で服を引っ張るなりできた。


「つまり敵は感知範囲外から撃ったことになる。そうすると・・・敵は3~4kmは離れたところから狙撃したことになる。」

「なんと・・・そんな遠くから当てられるものなのですか?」

「俺の前の世界でもそんな距離届く銃はなかったと思う。本当にそんな銃があるなら、それはもう銃とは呼べないかもしれないがな。それにそんな銃があったとして、そんな遠くから当てるのは神業だ。俺も信じられんが、実際に真白が撃たれている。」


 しかも正確にヘッドショットだ。ムラサキの話を聞く限り、頭部が木っ端微塵だったことから、大口径の銃だったのは間違いない。砲撃の後はなかったらしいから大砲ではないだろう。


「ふむ、科学では非現実的、と。では魔法を併用すればどうですかな?」

「魔法を?」

「マシロ殿が撃たれたのは魔法を使う帝国兵との交戦中でしたな?」

「はい。」

「では、その射手も魔法を使った可能性があります。」


 ・・・なるほど、確かにそうだ。どうも俺も帝国兵は魔法を使わないって考えで凝り固まってたようだ。


「じゃあ、風魔法とかで射程を伸ばして?」

「いえ。マシロ殿、砦との距離はいかほどでした?」

「・・・500m程度かと。」

「ふむ・・・クロ殿、500m先に当てられる銃はありますかな?」

「多分、あった。大口径のライフルならあるいは。」

「では、私の推論を述べますと、射手は魔法で射程を伸ばしたのではなく、身を隠したのではないでしょうか?マシロ殿の感知を誤魔化す魔法を用い、砦から狙撃したのです。例えば、一定範囲の魔力感知を無効にする魔法とか。」

「なるほど。魔力感知は、魔力を飛ばして返ってくるものを読み取る技術だからな。その魔力に干渉されれば、あり得ない話じゃない。」


 ・・・闇魔法にあったかもしれないな。後で調べておこう。


「参考になりました。情報提供感謝します。」

「いや、こちらこそ良い助言をもらった。」


 クロが再び退室の挨拶をしようとしたところで、伝令が飛び込んで来た。息を切らしながらも敬礼の姿勢をとる。


「アクシー司令官!失礼します!」

「何事かね?」

「<地竜>がお着きになりました!」

「おお!予定より1日早いではないか。随分急いできてくれたようだ。」

「ただ今、表で戦闘準備中です。」

「流石<地竜>。休みなく参戦する気ですか。挨拶にはこちらから出向くとしましょう。クロ殿、せっかくですから挨拶していきますか?」

「すまん、<地竜>とは?」


 クロは聞き覚えがなかった。マシロから王国のネームドは一通り聞いていたが、その二つ名は初めて聞いた。


「クロ殿が知らずとも仕方ありますまい。本来は王都防衛のための秘匿戦力ですからな。どういった方々かは、会ってみればわかります。参りましょう。」


 首を傾げながらもクロ達はアクシー司令官に続いて小屋を出る。そこには何十人ものモグラ系獣人が並んでいた。

 縦に4人、8列並んでおり、角に1人分空きがある。その31人の前に、鍛え上げられた筋肉が服の上からでもわかる男が脚をそろえて立っている。その隊長らしき男が声を張り上げれば、31人が声をそろえて返す。


「装備確認!」

「「銃ヨシ!ナイフ、ヨシ!水ヨシ!糧食ヨシ!・・・」」


 31人が手際よく全く同じ動きで装備を確認している。まさしく軍隊といった雰囲気だが、なぜかクロは工場の作業員を連想した。

 装備の確認があっという間に済むと、隊長がこちらに振り向き、ヘルメットを取る。


「よし、休め!・・・久しいなアクシー!いや、今は司令官殿か!」

「ああ、久しぶり。相変わらず声がでかいな、ホシヤマ。」


 砕けた口調になっても大きな声は耳に響く。ホシヤマとアクシーがハグで再会を喜び合う脇で、クロは若干顔を顰め、ムラサキは前足で耳を押さえる。

 ハグを終えたアクシーがクロに向き直って紹介してくれる。ホシヤマの顔は黒髪の角刈りで鼻が高い。遮光機能付きのゴーグルをしていて目は隠れている。モグラ系獣人は鼻が高くて耳たぶがないくらいしか人間との違いがないが、目が光に弱いため、皆このゴーグルをつけている。外見年齢は40歳くらいか。


「クロ殿。この男が<地竜>の二つ名を持つ、ジョニー・ホシヤマだ。モグラ系獣人で、国内では土魔法を使わせれば右に出る者はいない。」

「ジョニーだと同じ名前が多いから、ホシヤマでいいぜ!あんたが<赤鉄>か!」

「ああ。クロだ。その二つ名、こっちでも使うのか?」


 <赤鉄>は帝国軍におけるクロの呼称だ。フレアネス王国ではクロの二つ名はまだ決まっていないはずだった。


「まだ確定ではありませんが、それで決まるでしょう。<疾風>もそうして決まりましたし。」

「そうなのか?」

「興味がなかったので、覚えていません。」


 アクシーに説明されたのでマシロに確認したが、マシロは覚えていないようだ。追求することでもないかと思い、クロは別の気になったことを確認する。


「そういえばホシヤマさんは俺のことを知ってたのか?」

「部下から聞いたぜ!名前の通り黒い服装で黒髪、剣をなぜか持って歩いてる目つきが悪い男だってな!」

「部下?」

「おっと、言ってなかったな。普段俺らは建築業を営んでるのさ。城の補修もうちでやってるんだよ。」


 そう言われてクロは中庭で暴れて壁を壊したときのことを思い出す。見回せば見覚えのある顔が何人かいた。気まずくなってクロは頭を下げ、壁を壊した主たる原因であるマシロも頭を下げる。


「その節はどうも・・・」

「お手数おかけしました。」

「はっはっは!いいってことよ!仕事だしな!ちゃんと代金はもらってるしよ!」


 ホシヤマが豪快に笑うと、部下もつられて笑う。それを見てクロとマシロは少し安心した。すると急にホシヤマが顔を近づけてクロに囁く。


「あと、あんたの家を建てるのはなかなか骨のある仕事だったぜ?建物はできてるから、帰ったら好きに家具とか運び込みな。詳細はヴォルフの爺さんに聞けばいい。」

「・・・ありがとう。」


 建築依頼をして2か月弱。この世界においてこれが早いか遅いかはわからない。だが、とうとう自宅が、念願の拠点ができた。いくら仕事で建てたと言われても、感謝しないわけにはいかない。

 それに対してはホシヤマは返事を返さず、ニッと笑った。そしてアクシーに向き直る。


「酒でも酌み交わして近況を語り合いたいところだが、こうも忙しくちゃそれも叶わねえ。終わってからにしようや。」

「ああ、そうしよう。」


 それだけ言うと、ホシヤマとアクシーは表情と姿勢を正し、ホシヤマはヘルメットを被り直して敬礼の姿勢をとる。それに合わせて部下たちも敬礼した。


「アクシー司令官!われわれ<地竜>はこれより中央戦線に参戦します!」

「うむ。暴れてきたまえ。襲い来る帝国兵は一人残らず撃滅せよ!」

「了解!」


 <地竜>はホシヤマ個人ではなく、部隊全体を指すようだ。<地竜>は司令部北側へ足並みそろえて移動し、立ち止まる。ホシヤマは欠けていた角に入り、8×4の綺麗な列が出来上がる。


「ゴーレム作成!」

「「『アースゴーレム』!」」


 各列先頭が地に両手をつけ、呪文を唱える。すると部隊前方の地面が8か所盛り上がり、高さ3mほどまで隆起する。次の瞬間、その土が圧縮され、身長2m超の土人形が8体完成した。顔も手もないシンプルな造形だが、だからこそ頑強さがうかがえる。

 そして術者が立ち上がり、前から2番目の隊員が先頭に出る。ホシヤマだけは先頭のままだ。全員が背負っていた大型のシャベルを手に取ると、ホシヤマの号令で動き出す。


「よし!皆シャベルは持ったな!?いくぞぉ!!」

「「おおおおおお!!」」


 <地竜>たちは4人8組に分かれて猛烈な勢いで地面を掘り始める。なんと10秒もかからずに8つの地下トンネルに4人ずつそれぞれ一列に入ってしまった。しかもそのまま地中を進んでいるようである。そしてその上、地上を8体のゴーレムが歩き始める。


「すごい速さで掘るな。」

「ええ。モグラ系獣人は無詠唱低燃費で『ディグ』を使えます。シャベルと併用するとさらに速いそうです。溜まった土は『ソイルショット』で飛ばして地上に出します。」


 確かに既に奥まで進んでいるはずなのに、運び出す人員もなしに入口に次々と土が出てくる。


「地上のゴーレムを囮に敵を地中から奇襲します。彼らは耳と鼻がいいので、地中からでも地上の様子が把握できますから、地中からの狙撃も、突然敵の足元に出ることも可能です。敵を地中に引きずり込んで即座に穴を埋め戻すのが基本戦術ですね。」

「・・・その速度は?」

「およそ1秒ですね。1秒で敵は地上から消え、痕跡を残しません。」

「・・・恐ろしいな。」



 この日、帝国軍は術者のいないゴーレムに襲われ、応戦している間に味方が次々と消える怪奇現象を体験することとなる。

 王国軍が<地竜>を投入したのと同じように、帝国軍もまた同日、狙撃銃を携えた狙撃部隊が埒を開けんとやって来たのだが、見えるのはゴーレムだけ。まるでその力を発揮できず帰還することとなった。

 さらに翌日から<地竜>は二手に分かれ、西から東から帝国軍を攻め立てた。無人のゴーレムを新手のネームド1人だと予想していた帝国軍は混乱。結局その後、数日間にわたり帝国軍は<地竜>に押され続けた。ライデン帝国対フレアネス王国の戦線は大きく北上することになる。


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