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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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T01 テツヤ

 テツヤ、本名、逆神哲也さかがみてつやは2年前にこの世界に転生した。自分が魔法がある世界に転生すると知ったときは一瞬浮かれもしたが、すぐに落ち込んだ。テツヤは機械いじりが趣味であり生きがいとしていた。実際、整備士の仕事に就き、いずれは機械を一から作る仕事に就きたいと思っていた。

 魔法の世界に転生したら機械いじりはできないだろうと思い、神々に愚痴をこぼしたら、ライデン帝国への転生を勧められた。帝国は先人(異世界人)の努力により、だいぶ近代化が進んでいるらしい。既に戦車まで開発されているとか。機械いじりできるとなれば、否やはないと跳びついたテツヤは帝国への転生を承諾する。ついでに雷の神子なんてものにも選ばれたが、テツヤにとってはどうでもよく、固有魔法も適当に機械いじりに便利そうなものを選んだ。

 ところが転生して数日で現実を思い知ることになった。帝国内では魔法禁止となっていたのだ。こっそり生活魔法を使うくらいなら黙認されていたが、派手な魔法を使えば即刻警察のお世話になる。せっかく転生したのに魔法が使えないのはもったいないと、テツヤはこっそり独学で魔法の使い方を学んだ。

 機械いじりの方もうまくいかなかった。初めは町工場に突撃して親方らしき人に頼み込み、仕事をさせてもらった。単純な機械の組み立ての一作業員だったが、テツヤはそれでも機械に触れるだけで楽しかった。ところが軍に見つかり、身体能力の高さが知られると、問答無用で徴兵された。

 魔法が使えることを隠しながら訓練を受け、1年後には前線へ送られた。ばれないように身体強化魔法を使ったりして必死に生き延び、現在に至る。


 <疾風>を倒したテツヤは砦の西門に近づくが、その手前ではたと気がつき、再度電話をかける。


「なに?」

「すまん、西門まで迎えに来てくれるか?こっそり入りたい。」

「・・・上官に報告するんじゃないの?」

「それなんだ。ちょっと相談したい。」

「わかった。ちょっと待ってて。」


 テツヤは西門の見張りの目が届かない壁際で待つ。

 予定ではこのまま堂々と砦に戻り、上官に報告して敵前逃亡の罪と<疾風>撃破の功績でプラマイゼロにしてもらえるよう、交渉するつもりだった。

 だが、その報告はありのまま話すことはできない。魔法を使ったことは隠さなければならないからだ。

 帝国は魔法排斥を謳っている。その兵士が魔法を使うなど言語道断。間違いなく粛清される。

 だから、魔法を使わずに何とか<疾風>を倒した説明をしなければならないのだが、上官たちを誤魔化せるか、自信はあまりなかった。リスクが高い。さらに今思い出したのが、<赤鉄>の存在だ。

 <赤鉄>には派手な魔法は見せていないが、逃走時に使った『エレクトリック・ブースト』は見られたかもしれない。だとしたら、例え今、上官たちを誤魔化せてもいずれはテツヤが魔法を使ったことはばれてしまう。ならばこのままテツヤは生還しなかったことにして、逃げてしまうべきではないか?とテツヤは考えたのだ。


 しばらくすると頭上に魔力を感知する。見上げれば、長い銀髪を垂らして壁の上からテツヤを覗く女性がいた。テツヤが見上げると、女性は目を合わせて西門の方を指さす。それを確認してテツヤは彼女が用いる認識阻害魔法が再度自分にかけられたと判断し、西門へ走る。そして難なく門を通過した。見張りはテツヤが通ったことに気付いていない。

 そうして女性と合流したテツヤは広い休憩室の隅にある席に向かい合って座る。テツヤの向かいに座った銀色の真っ直ぐな長髪を靡かせる女性は、10人見れば10人が美女と評するほど整った顔をしていた。珍しい銀髪も相まって間違いなく人目を惹く容姿だが、誰も彼女に気付かない。


「で、報告を省いて合流した理由は?」

「俺はこのまま軍を抜ける。魔法を使ったことがバレると思う。セレ、お前の組織に合流させてくれ。」


 それを聞いた女性、セレは顔をしかめる。セレはある組織の構成員で、兵士ではない。認識阻害魔法『ソリチュード』を駆使して砦に忍び込んでいるのだ。セレというのはテツヤが彼女を呼ぶ愛称で、実際はセレブロと名乗っている。それも組織内でのコードネームらしい。テツヤは以前からその組織と協力関係にあったが、情報収集などの目的で組織に合流することなく、軍に籍を置いたままだった。


「うちに来るのはいいけど、追手は仕留めたでしょう?私の『ソリチュード』を疑ってるの?砦の見張りは誰もあなたを見ていない。追って来た女もね。」

「そうじゃねぇよ。順に説明する。」


 テツヤはセレにここまでの経緯を説明する。行軍中に<疾風><赤鉄>コンビに襲われたこと。ヨセフ隊長が足止めに残って撤退したこと。<疾風>に追われてテツヤ以外は全滅したこと。そしてヨセフ隊長が足止めした<赤鉄>に魔法を使ったところを見られたこと。

 一通り聞いたセレは、それでも納得がいかない様子だ。椅子にもたれて腕を組み、右手で左ひじをトントンつつきながらテツヤを睨む。


「ヨセフが負けると?いくらネームドとはいえ、一人に?」

「ああ。おそらく<赤鉄>は不死身かそれに類する能力を持ってる。おっさんは対人は強いが、あの化物を倒すには攻撃力不足だ。」

「不死身?」

「何発銃弾撃ち込んでもお構いなしに突っ込んでくるし、数秒で再生するんだぜ?不死身だろ。」

「強力な木魔法使いならあり得なくはないけど。」

「いや、詠唱はしてなかったぜ?」

「詠唱なし?・・・ねえ、<疾風>が犬から獣人に化けたって言ったわよね?」

「ああ。さっきお前が撃ち殺したのがそうだよ。」

「・・・・・・」


 セレは数秒だけ黙考すると、急に立ち上がる。そして武器が入ったケースを担ぎ、休憩室を走って出て行った。テツヤは慌てて追いかける。そのまま西門を抜け、セレは地雷原へと向かう。そこまで走ってテツヤはようやく追いついた。


「どうしたんだよ?」

「魔族かもしれない。」

「は?」


 セレは地雷原の手前で立ち止まり、それを確認すると、大きく溜息を吐く。


「逃げられたわね。」

「はあ?何言って・・・」


 そこでテツヤも気づいた。<疾風>の死体がない。テツヤは事態が理解できずに動揺する。


「どういうことだよ!?なんでないんだ!?確かに死んでただろ!」

「・・・魔族は魔力がある限り再生する。<赤鉄>の再生能力はおそらく、それ。」

「魔族・・・あれが。」


 テツヤは何発撃たれても立ち止まりもせず突き進む<赤鉄>の姿を思い出し、その恐怖を思い出す。


「魔族は人間が失伝した古い魔法を持っていると聞くわ。金属を操るというのも、それかも。さらに、魔族は別人や動物に姿を変えられるらしいの。」

「えーと、てことは?」

「<疾風>は犬に変身した魔族だった、ってこと。そして、その魔族特有の再生能力で復活し、逃げた・・・かもしれない。」


 セレはそう推測を述べるが、自信はなさそうだ。だがそれでもテツヤを驚愕させるには十分だった。


「な!?頭吹っ飛ばしたんだぞ!?魔族は頭が木っ端微塵になっても再生するってのかよ!?」

「・・・それはわからない。魔族は100年前に勇者に粛清されて以来、人前に姿を現していない、いや、いなかったから、過去の文献しか情報がないの。ある文献には頭を潰しても再生するとあるけど、別の文献には頭さえ潰せば倒せる、ともある。」

「わけわからん。どういうことだよ。」

「私にもわからないわよ。再生して逃げたかもしれないし、別の誰かが死体だけ回収したのかもしれない。どっちかはわからないわ。でも、最悪を想定するなら、前者だと想定するべき。」

「仕留めそこなったかもしれない、か・・・」


 理解が追い付いてきたテツヤが肩を落とす。セレはその肩を励ますように軽く叩く。


「まあ、過ぎたことは仕方ないわ。あなたはもう軍を抜けるんだから、あとは軍に任せればいいの。」

「ああ・・・あ、奴らが魔族だって報告だけでもするべきか?重要な情報だろ?」


 律儀に報告することを思いつくテツヤに、セレは呆れて肩をすくめる。


「あなたは戦死したことになってるから今、抜け出せるのよ?報告に行ったらもう抜け出せないわ。」

「う・・・」


 今、軍を抜けなければ、待っているのは魔女狩りのごとき裁判だ。魔法を使ったというだけで良くて終身刑だろう。


「心配しなくても、<疾風>と<赤鉄>が魔族かもしれないって噂くらいは流せるわよ。その事前情報を基に帝国軍の諜報部隊が動けば、そのうち裏もとれる。あなたは自分のことを考えなさい。ヨセフにもそう言われたんでしょう?」


 そういわれてテツヤはヨセフのことを思い出す。


「そうだ、おっさんだ。せっかく抜け出すんだ。おっさんのところへ行こう!」

「・・・話を聞く限りじゃ、生還できないと思うけど。」

「それでも、もしかしたら生きてるかもしれねえじゃねえか!そうじゃなかったとしても、せめて遺品くらいは・・・」


 危険を冒したくないと渋るセレに、テツヤは言い募る。セレは色々と危険性を説明するが、テツヤは頑として聞かない。そして結局セレが折れる。


「仕方ないわね。まあ、ヨセフもウチの組織を知ってるし、万が一情報が漏れたらことだからね。行きましょうか。」

「ああ、行こう!」


 そうしてテツヤとセレは戦場へ戻って行った。


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