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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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029 雷との邂逅

 林で帝国の中隊を全滅させた翌日、クロは戦場で大の字になって空を仰いでいた。

 ・・・久しぶりにピンチかもしれん。こう思ったのは、魔族の刺客に襲われた時以来か?



 時は十数分前、クロ達はいつも通り遊撃に走り、マシロの嗅覚で見つけた別動隊を襲撃しようとした。ところが予想以上の苦戦を強いられる。

 敵部隊後方から高速で接近したにも関わらず、1kmも手前で気づかれた。

 迎撃してくる敵の銃弾を躱そうとするも、それも困難を極めた。的確に狙い、さらにマシロの行く先を予測した銃撃を混ぜることで回避を困難にする弾幕だった。

 盾を駆使しても突破できない弾幕に痺れを切らしたクロが、昨日倒した兵士からくすねた手榴弾を投げて突破口を開いた。

 それで接近戦に持ち込むも、この部隊の兵士は異様に格闘戦が強かった。

 一撃で敵を屠るために速度と威力を鍛え上げたクロの斬撃を何度も回避し、反撃してくる。その反撃を防御もせずに受け止めて、カウンターとは言えないような強引なカウンターで殴り倒し、あえて武器を捨てて取っ組み合いに持ち込むなど、力技で倒すしかなかった。

 マシロはクロほど泥臭い戦いにはならなかったが、いつも一人1秒もかけないマシロが一人に数秒かかる程度には苦戦した。それ故に今回ばかりはマシロも数発被弾していた。当然、そんなことはまるで顔に出さず、さっさと治癒しているが。

 そして敵部隊の半数を倒したあたりで、隊長らしき男が叫んだ。


「撤退だ!任務失敗!撤退せよ!」


 その声に兵士たちが一斉に撤退を始める。しかし、その中の一人が振り返る。撤退を指示した隊長が動かないことに気付いたのだ。


「おっさん!」

「お前は逃げろ!やるべきことがあるだろう!」


 おっさんと呼ばれた隊長は振り向かずに叫ぶ。その眼はクロとマシロをしっかりと捉え、銃を捨てて構えをとる。素人目にも武術の心得があるのが見て取れた。


「ここは俺が止める。」

「しかし・・・」

「行け!」

「くっ!」


 立ち止まっていた男は再び走り出す。二人が話している間、クロとマシロはあることに気を取られていた。

 たった今、隊長と話していた男。魔力感知ができるクロ達には、そいつが持つ異常に膨大な魔力を感知していた。接敵前は、帝国兵は魔法を使わない、という先入観から気にしていなかった。接敵後は気づきながらもそれを気にする余裕がなかった。

 ・・・こいつらの会話から、あのデカい魔力を持つ男が重要人物なのはわかった。だが、何者だ?魔力が多いなんて、魔法排斥を謳う帝国では疎まれるだけのはずだ。どういう立場だ?

 迷うクロにマシロが声をかける。


「マスター。」

「わかってる。真白は逃げた奴らを追え。」

「了解。」

「行かせると思ってるのか?」


 隊長が立ちはだかるが、マシロは無視して走り出す。隊長がそのマシロに襲い掛かるが、その前に盾が割り込む。


「ちっ。」


 足を止めた隊長にクロが斬りかかる。マシロに攻撃しようとした隊長の右斜め後ろからの攻撃。見えない角度のはずだが・・・クロは、気がつけば腕を掴まれて投げ飛ばされていた。視界がぐるりと回り、背中に強い衝撃を受ける。自分の状態を確認すると、地面に大の字になっていた。


ーーーーーーーーーーーー


 「『エレクトリック・ブースト』!」


 テツヤは周囲に部隊の仲間がいないことを確認し、雷属性の強化魔法を使う。魔力が続く限り、神経をはじめとした身体機能を向上させる魔法だ。他の属性の強化魔法に比べれば、走る速度はあまり速くならないが、今は少しでも速く走りたい。

 おっさん・・・部隊の隊長ヨセフは、部隊を逃がすために残った。だが、テツヤは知っている。ヨセフは何よりテツヤを生かすために残ったのだ。

 いくら合気道をはじめとした各種武術の達人であるヨセフでも、<疾風>と<赤鉄>が相手ではどうなるかわからない。いや、死ぬだろう。片や銃弾を回避する化物、片や銃弾を受けても効いている様子がない化物だ。勝てるとは思えない。

 それでもヨセフが残ったのは、テツヤの目的に賛同し、それに賭けているからだ。ならばテツヤは死力を尽くして生きなければならない。

 テツヤは必死に走り、先に撤退していた仲間を追い抜く。すると、後ろから発砲音と仲間の悲鳴が聞こえた。奴らが追って来たのだ。

 ・・・まさか、もうおっさんがやられたのか?いや、そんなわけねえ!信じろ!きっと二手に分かれて追って来たんだ。だとしたらおそらく足が速い<疾風>の方だろう。

 テツヤは振り返る時間も惜しんで走る。仲間を見捨てて逃げていると後ろ指さされようと、あとで処分を受けることになろうと、とにかく今は生きなければならない。

 一人、また一人、仲間が殺されているのが音だけでもわかる。そして、その音は近づいている。だが、10分ほど走り、仲間が一人もいなくなったころ、テツヤは目的の場所まで逃げ延びて、振り返る。

 荒い息を整えつつ振り返った先には、数十m離れたところに女が立っていた。真っ白な長髪を赤い血で染め、真っ黒なシンプルな服もよく見れば返り血に塗れている。黒い手袋をした両手には黒い剣が握られている。女はテツヤを睨んだまま動かない。


「来ないのか?」


 テツヤは挑発してみる。言ってからあからさま過ぎたかと反省する。

 女は答えずにちらりと地面を見て、歩き出した。

 テツヤは驚く。女が立ち止まったのは、罠に気付いたからだと思ったからだ。この砦の前、ここら一帯に仕掛けられた地雷の存在にまで気づかないまでも、何か罠があると感じて立ち止まったのだと思っていた。だが女は、走りこそしないが迷いなく前進してくる。

 そしてさらに驚くべきことに、その歩みは全ての地雷を回避していた。

 テツヤは距離を取ろうとするが、動揺が頭を鈍くする。記憶した地雷の配置を思い出しながら砦の方へ移動するが、その歩みは遅々として進まない。追ってくる女の遠距離攻撃を警戒しながら進んでいるせいもある。

 対して女は迷いなく歩いてくる。当然、距離は縮まる。そして、距離10mあたりまで縮まったところで、女が跳んだ。

 テツヤは拳銃を素早く抜いて構える。歩兵銃は逃げる時に捨てていた。空中にいる女に向けて撃つ。が、なんと女はあり得ない軌道で急に地面に降り、一歩で残りの距離を詰めてきた。

 虚を突かれたテツヤが銃を構え直す前に、黒い剣がテツヤの胴に滑り込む。

 だが、次の瞬間、テツヤは女の両腕を掴んでいた。


ーーーーーーーーーーーー


 マシロは驚いていた。空中から、自らの服「影縫」を操作して地面に降りて銃弾を回避した。そのまま最高速度で接近し胴を薙ぐ。敵が虚を突かれていたのは、魔力感知で確認していた。とても反応できる状態ではなかったはず。意識的にも、態勢的にも。だが、敵は反応して見せた。胴を薙ごうとした左手を止め、首を落とそうとした右手を止めた。

 マシロが改めて敵の状態を確認すると、ようやく理解した。敵の体を流れる魔力が尋常ではないほど増大していた。おそらくは強化魔法。逃走の際に使用していた雷属性の強化魔法を、窮地に陥った際に反射的に最大出力にし、反応速度と運動速度を急上昇させたのだ。

 そこまで理解したら、マシロは迷わない。腕力で押し切る。問題なく押し切れるはずだったが・・・敵がにやりと笑った。

 マシロは敵の魔法攻撃を悟るが、両腕を掴まれていて躱せない。


「『サンダーボルト』!」


 雷魔法の基本、『サンダーボルト』。効果は単純。指定し場所の電位を上昇または低下させる。通常、2点を同時に操作して、その間に電流を流す。

 敵はその魔法でマシロの右腕から左腕へ高圧電流を流した。マシロの「影縫」は絶縁体ではない。むしろ電気をよく通す。それが功を奏して電流の大部分は体を通らず「影縫」だけを流れたが、一部が体を、そして心臓を通ってしまう。そして、一部とはいえ、それは心臓を停止させるには十分な威力だった。

 大電流が流れたことによる発熱で皮膚が焼け、焦げた臭いを発しながらマシロが膝をつく。しかし、そこから崩れ落ちることはなく、顔を上げる。心臓が停止すると魔族は動きが止まるが、魔力で全身を操作するように切り替えれば動ける。マシロはたった1秒でその切り替えを終えた。

 しかしそこで妙なものが目に入る。敵はとどめを刺そうともせず、後ずさりして離れていた。怯えてはいるが、それが原因で離れたようではない。むしろ勝利を確信している。

 ・・・いったん離れて高威力の魔法を使う気か?

 そう思って立ち上がろうとしたとき、ふと正面の砦、その屋根を見た。何を感知したわけでもないがなんとなくその方向を見た。

 その瞬間、なにかが音速を超える速度で飛んできたのを知覚し、次の瞬間には意識が途切れた。


ーーーーーーーーーーーー


 テツヤの目の前で、女の頭が弾け飛んだ。頭蓋も脳みそも飛び散るグロ映像だが、それを見てテツヤはようやく安堵する。

 テツヤの全力の『サンダーボルト』を受けても女が立ち上がって来た時はビビった。消し炭にする威力で電流を流したのに炭にならないどころか、立ってきたのだからそれは驚く。

 だがテツヤは万が一のための準備を既にしていた。

 女の体が地面に倒れ、動かなくなったのを確認してから、踵を返して砦に走る。もう頭は冷静になり、地雷の位置を把握できていた。

 電話が鳴る。帝国でもまだ開発段階の携帯無線機だ。懇意にしている研究所から借りた物だ。テツヤはボタンを押して電話を耳に当てる。


「無事?」

「ああ、ケガはない。魔力はすっからかんだけどな。助かった。」

「それならいい。」

「あ、さっさと逃げろよ?上に無許可で開発段階の最新式狙撃銃を持ちだしてたなんてばれたらシャレにならねえ。」

「当然よ。とっくに撤収してるわ。ちゃんと仕留めたか確認した?」

「頭が一撃で粉々だぜ?生きてるわけねえ。俺ももう逃げてるよ。」

「アンチマテリアルって言うんだっけ?専用弾を使うだけあって凄い威力ね。で、あの追っ手は何だったの?ヨセフ先生は?」

「・・・詳しくは後で話す。予定通りの場所で合流しよう。」


 電話を切ると同時に地雷原を抜ける。テツヤは振り返り、女の死体を見る。遠目にははっきり見えないが、テツヤを追い詰めた強者は確かにそこに倒れていた。

 ・・・<疾風>。まさか人間に変身できるとはな。最近奴らと戦った部隊が一人も生還しなかったのは、アレを隠すためだったのか?いずれにせよ、<疾風>はこれで消えた。


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