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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第7章 青い竜
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251 皇帝の情報

 日が暮れたクロの家の前。『ライト』の明かりを頼りに、簡素なテーブルで夕食が始まった。

 夕食と言っても、食べているのはテツヤだけで、クロ、マシロ、そして夕食をすでに済ませたムラサキは緑茶だけだ。ヤマブキは茶もなく、立っている。なお、リースは先程、大型獣をほぼ丸々1頭食べたので、十分だという。


「なんか、飯までもらって、悪いな。」

「気にすんなって。」

「ムラサキのおせっかいだ。有難く受け取っとけ。」


 食事なら家の中の方がいいのだが、テツヤ達はまだまだクロ達にとって信用ならない相手だ。有意義な情報提供者であるため、追い返しはしないが、家まで入れるほどではない。

 テツヤが食べているのを眺めながら、クロが話し始める。


「さて、そっちの竜の目的はわかった。ここは人外のための土地だ。ここに滞在するのを拒否する理由はない。さっきの狩りも、食料を得るためだったって言うなら咎める気はない。」


 リースは、当然、と言わんばかりに胸を張る。水で作った分身が大げさに感情を表現する。

 クロとしては、未だにリースとあの緑竜との関係がわからないために油断できないところだが、追求して藪蛇になるよりはスルーした方がいいと判断している。


「しかし、テツヤっていったか。お前がここで狩りをした理由が不十分だ。ここでは、人間が狩りをすることを禁じている。」

「あれは、リースが狩ったのをちょっともらっただけだ。」

「だが、さっき話した感じだと、俺のことは調べてたんだろう?なら、この森が禁猟区だと知ってたんじゃないのか?」

「それは・・・」


 テツヤは返答に困る。夕食前の情報交換で、テツヤは町でクロの話を聞いた旨を話した。王都で噂されるクロの話を聞けば、自然とこの魔獣の森での狩りが禁じられていることは耳に入るはずである。

 テツヤの返答を待たずにクロがさらに尋ねる。


「お前だけでも町で食べて来る方法もあったんじゃないか?というか、なぜわざわざ町に泊まらずに野宿を?」

「まあ、クロじゃあるまいし、普通は野宿より町に泊まるよなあ。」


 その点はムラサキも不審に思っているようだ。


「リースと森で落ち合う予定になってたから、自然とな。」


 一応、テツヤはそう返す。嘘ではない。

 だが、クロの傍らには高精度のウソ発見器がいる。


「それだけですか?」

「・・・・・・」


 マシロが追求すると、テツヤは言葉に詰まる。


「今のあなたは、物見遊山の旅行者には見えません。内に常に焦りがある。警戒心も、我々だけに向けられているものではないでしょう。誰に追われているのですか?」

「そこまでわかるのか。」

「え、テツヤ、追われてたの?」


 リースが分身で驚きを表現しながら言う。


「なんでそっちの竜は把握してないんだ?」

「だって、一緒にいたのはほんの数日だし、その間、テツヤも何も言わないから・・・ちょっとテツヤ!そんな身の上ならちゃんと説明しなさいよね!」

「そんなタイミングなかっただろ。道中ですらずっとお前の歴史談義が続いてたんだから。というか、何回か説明しようとしたんだぞ。お前が無視しただけで。」

「だって、あなたの声小さいし。」

「おま・・・」


 リースとテツヤの体格を比較すれば、そんなこともあるだろう、と思えた。

 リースの体長は10mを超える。テツヤの5倍以上だ。竜にとって人間の声とは、人間から見て30cm程度の小型獣の鳴き声程度のものなのだろう。気を付けていなければ聞き逃してしまうかもしれない。


「内輪揉めはその辺にして、追われていることについて説明してくれ。」

「内輪っつーか、俺はリースと仲間ってわけでもないんだけど。」

「ちょっと!それは冷たくない?共に歴史を探求する仲間でしょ!?」

「いつ俺が歴史探求するって言ったんだ!お前が俺を拉致しただけだろ!」

「魔力の源泉に興味を示してたじゃない!」

「そりゃ、興味はあるけど・・・その後まで付き合う気はなかったんだよ!」

「そこまで。」


 クロが焦れて、魔力をたっぷり乗せた威圧をすると、言い争いはピタリと止まった。


「2回も言わんぞ。説明。」

「お、おう。」


 テツヤはどこまで話すか少し悩んだが、マシロの前で隠し事ができないと悟ったのだろう。洗いざらいすべて話した。

 テツヤが革命組織<夜明け>に所属していたこと。そしてつい最近、皇帝に強襲を仕掛け、返り討ちにあったことを説明した。

 クロ達としても、帝国と敵対し続けるならば、いずれは戦う相手だ。貴重な情報である。


「強力な闇魔法使い、か。」

「ああ。俺の仲間も強力な闇魔法使いだけど・・・あっさり洗脳されちまったらしい。クロ、あんた魔族なら魔法に詳しいんじゃないか?なあ、洗脳魔法って、そんなに簡単にかけられるものなのか?」


 クロはそのテツヤの仲間を知らない。だが、テツヤの様子から、そう易々と洗脳される輩ではなかったのだろう、と見当はついた。

 高い抗魔力を持つ者でも、容易く洗脳する闇魔法。クロは魔族の集落にいた時に得た情報から、1つ思い当たる。


「未知の固有魔法以外で、そんな強力な洗脳魔法があるとしたら、1つ心当たりがある。」

「本当か!?」

「・・・正直、情報が少ないから断言できないが、高い抗魔力をすり抜けて、洗脳なんて高度な闇魔法を成功させるなら、これしかないだろう。」


 一拍置いて、クロが説明する。


「感染式闇魔法だ。」

「感染?」

「俺が魔法を教わった師が開発してた魔法の元になったやつでな。術者が直接対象に干渉するんじゃなく、闇魔法にかかった奴が、同じ闇魔法を別の奴に自動的にかける、っていう術式だ。」

「えっと、つまり、洗脳された人間が、他の人間に接触したりすると、その人間も洗脳されるってことか?」

「そうだ。まさしく感染症みたいだろう?ただし、感染の条件は術式による。あと、かける効果によってその条件も適切な方法が変わって来る。洗脳なら・・・会話とかな。最悪、キーワードを感染者がしゃべって、それを聞いただけでも感染するだろう。」

「そんな簡単にかかっちまうのか?」


 クロは頷く。


「この感染式の厄介なところは、抗魔力が機能しない場合が多いことだ。抗魔力は、術者への警戒心が大きく影響するが、もし感染者が仲間だったら?」

「・・・・・・」

「警戒心は薄れますね。洗脳の成功率も高いでしょう。」


 押し黙ったテツヤの代わりに、マシロが答える。


「俺が以前に見た、自爆を連鎖させる魔法は、自爆する奴の死に際の思念を利用して、強引に誘爆先の抗魔力を突破するタイプだったが・・・洗脳ならそれよりも容易いだろう。」

「しかし、そんな強力な闇魔法なら、なんで使ってる奴がいないんだ?」


 ムラサキが問うと、クロは淡々と説明する。


「1番の理由は、制御できないことだ。感染先を決められないからな。無関係な奴もかかるし、最悪、味方にもかかる。あの『カグツチ』だって、術者が誘爆に巻き込まれる危険があったんだ。やぶれかぶれの自爆でもなきゃ使えない代物だっただろ?」

「あー、そうだな。」

「・・・でも、あの洗脳なら、誰にかかっても問題ねえ。」


 黙っていたテツヤが口を開いた。


「洗脳された奴が全員、皇帝を崇拝するようになる、か。なるほど、誰にかかっても問題ないか。むしろ、できるだけ広げたいだろうな。」

「そうするとマスター。我々が戦場で感染するおそれはありませんか?」


 マシロの心配ももっともだ。もしこの感染魔法が末端の帝国兵にまで及んでいるなら、戦場で帝国兵と会話しただけで、帝国側に寝返るおそれがある。


「気を許さなければ大丈夫だと思うが・・・こうしてその可能性を知っただけでも、感染への抵抗力は上がったはずだ。より確実に防ぐなら、帝国関係者と話すときは意識して警戒すべきだろうな。」

「つーか、そんな可能性あったなら、先に話しとけよ!」

「そう言われても、まさか魔族の間ですら取り扱い注意、外部への公開禁止になってる魔法を、帝国が使うなんて思わないだろ。」

「そりゃそうだがよお・・・」


 そこでヤマブキが口を挟む。


「ほうほう、いわゆる禁呪であったと。では、なぜ皇帝は魔族の禁呪を使っているのですかな?」

「「あ。」」


 クロとムラサキが、唖然とする。確かに、魔族でなければ知りえないような禁呪を、なぜ部外者であるはずの皇帝が知っているのか。


「皇帝は、竜人族だけじゃなく、魔族とも繋がりがあるのか?」

「あの閉鎖的な集落に?どこからだよ。」

「それについては、リースさんが何かご存じのようですが?」


 悩むクロとムラサキに、マシロが助言する。

 言われてみれば、感染式魔法の話が始まってから、リースは一言も発していない。

 そのリースは、明後日の方向を見て、口を閉ざしていた。


「おい・・・」

「黙秘権を行使します。」


 クロが問う前に、リースは黙秘の意思を示す。

 だが、それで退くクロではない。


「そんな権利は、ヒトの社会に入ってから言え。」


 クロが傍らの剣を手に取って立ち上がる。明らかに戦闘態勢だ。

 戦えば両者無事では済まないだろうが、何しろ敵の首魁に関する情報だ。命を懸ける価値がある。

 しかし、リースは慌ててクロを止める。


「ちょ、ちょっと待って!本当に話せないの!竜族の掟に関わることなの!死んでも話せないからね!」

「む・・・」

「嘘ではないようです。」


 マシロが保証したことで、クロは椅子に戻る。

 ふう、と安堵の息を吐いて、リースが告げる。


「言っておくけど、私もその、皇帝の正体についてはっきりわかるわけじゃないわ。心当たりがあるって程度。魔族との関わりもね、もしかしたら、ってのはあるわ。それ以上は・・・悪いけど、自分たちで調べてちょうだい。」

「仕方ないな・・・」


 そんな話をしているうちに、テツヤの食事が終わった。

 話題はテツヤの処遇に戻る。


「とりあえず、お前が帝国から追われてる、ってのはわかった。後々、皇帝とやり合う際に戦力になるようだし、ここに滞在してもいい。」

「すまん。助かる。」


 たとえフレアネス王国の王都でも、どこに帝国の密偵がいるかわからない。しかし、ここならヒトがそもそも入って来ない。町中よりはずっと安心だ。


「ただ、家に入るのは許可できない。そこに即席の小屋を作ったから、そこで寝ろ。」

「いつの間に・・・」


 情報交換の間にダンゾウの部下が作った小屋だ。土魔法で形だけ作った、シンプルなものである。


「内装は好きにしろ。」

「何から何まで悪い・・・って、何もねえ!」


 礼を言おうとしたテツヤだったが、小屋の中を見て驚いた。

 本当に何もなかったのだ。床板すらない。これでは洞窟で野宿するのと変わらないだろう。


「好きにしていいぞ。」

「何もねえのに、何を好きにするんだよ!」

「好きに作っていいぞ。」

「そこからかよ・・・」

「あ、木の伐採は許可しないから。もちろん、狩りもな。」

「材料すら無しかい!」


 クロとテツヤがそんなやり取りをしているうちに、リースはその小屋の隣でとぐろを巻くように丸くなった。


「私は野ざらしでも平気だから。おやすみ~。」

「俺は平気じゃねえ!」

「鱗がないやわな種族は大変ね。あんたも鎧着て寝れば?」

「そういう問題じゃないっての!」


 散々文句を言っていたテツヤだったが、クロが一切取り合わなかったため、最終的には諦めて、鎧を着たまま土の上で寝た。


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