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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第7章 青い竜
289/457

T08 雷神の忠告

しばらくテツヤSideです。

クロのほうは、気が向いたら閑話で。

 革命組織<夜明け>が強襲作戦決行を決定したのは、3月29日昼のこと。すぐさま各員行動を始めたが、帝都に赴くのも簡単ではない。作戦開始前にそれを帝国軍に気取られれば、成功率は格段に下がってしまう。

 第1関門は、ここザーフトラスクの脱出だ。

 この帝国の最新技術が集まる都市は、入るときは簡単だ。ここの研究者が研究のために様々な物資を仕入れるため、入るときの検閲は効率を重視して簡素化されている。

 だが、逆に出る時は厳しい。この都市で開発された最新技術は、まず軍が利用する。そのために、最新技術が軍の与り知らぬところで勝手に使用されないように、技術の流出には厳しく目を光らせている。

 だから、この都市の門を出ようとすると、兵士に必ずチェックされる。積み荷の確認はもちろん、運搬者の身分確認も行われる。車両の底部までチェックする徹底ぶりだ。<夜明け>メンバーは当然、不審人物なので、このチェックを逃れるのは容易ではない。


 ただしそれは、普通の方法ならば、である。

 軍の兵士たちは真面目に抜け目なくチェックしているが、魔法まで想定していない。他の国の国境に使用されているような境界魔法のように、魔力を検知して警報が鳴る、などというものはない。

 それに、科学が発展しているとはいえ、監視カメラや赤外線センサーなどが普及しているわけでもない。結局監視しているのは人の目だ。抜け穴は確かにある。もちろん、警備体制を把握したりでもしなければ見つけられないようなものだが。


 <夜明け>はその警備体制をきちんと把握している。博士が持つ兵士とのコネに始まり、隠密行動が得意なメンバーによる警備兵士の観察。果てはセレブロが認識阻害魔法『ソリチュード』を使用してマニュアルを盗み見るところまでやっている。もはや並の兵士以上にこの都市の警備体制を把握していると言っても過言ではない。


 ある者は巡回する警備兵の合間を縫って壁を登り、乗り越える。

 またある者は土魔法で即席のトンネルを作って抜け出す。

 そしてテツヤが所属するセレブロの班は、『ソリチュード』でトラックごと堂々と正門から出る予定だ。


 セレブロが運転するトラックに、テツヤ、メーチ、ビャーチ、そしてリーダーと側近の数名が乗り込む。テツヤは助手席に座った。

 トラックはゆっくりと走り出す。『ソリチュード』が発動している以上、全速力でもトラックが認識されることはないが、跳ね飛ばした石や土埃は見つかる恐れがある。万が一を考えれば、不用意に速度を出さない方がいい。

 テツヤは窓を開けて頬杖を突き、ぼんやりと外の景色を見ていた。新装備のアーマーは荷台に積んでいる。


「ちょっと、テツヤ。窓から顔出さないでよ。トラックを覆う分しか発動してないんだからね。」

「ああ、悪い。」


 そう言いつつも、テツヤは窓を開けたまま外を見ていた。

 この都市に滞在したのは半年以上だ。思い返せば結構長く居た。

 この都市で過ごした時間が一番楽しかったと思う。博士と共に最新技術の研究開発に明け暮れた。テツヤが一番やりたかったことがここでできた。そう思うと名残惜しく感じる。

 その研究は成功したし、集大成も今トラックの荷台に積んでいる。完成したのは喜ばしいことだ。活躍の機会もこれから得られる。

 だが、やはり一番楽しかったのは、研究している間だった。作っては失敗し、試しては壊し、けれどもそのたびに博士と大笑いした。次こそは成功させよう、と。


 ・・・ずっとああして、研究だけしてられたらよかったのになあ。


 そう思うが、そうもいかないことはわかっている。

 結局は隠れてやっている非合法な行為であり、軍に見つかれば終わり、という危うい綱渡りの研究だった。

 これを堂々とできるようにするにはどうすればいいか?


 ・・・だから、この国を変える。俺の動機はそれだけだ。


 国民を救うため、とか、この国の未来を憂いて、とかいう大義ではない。悲劇的な過去があるわけでもない。ただ自分の欲求に正直に行動した結果、テツヤは革命に協力する。



 窓の外を見ながらそんなことを考えていた時、音が聞こえた。


 ジリリリリリリリ・・・


 電話の音だ。道端の公衆電話が鳴っている。

 テツヤはその意味をすぐに察した。


「セレ!車止めてくれ!あと、認識阻害の範囲をそこの電話ボックスまで広げてくれ!」

「・・・こんなときに?まあ、わかったわよ。」


 セレブロもすぐに察した。ブレーキを踏み、緩やかに車を止める。

 車が止まると、テツヤはすぐに飛び出し、電話ボックスに向かった。

 セレブロがそれを見送っていると、運転席と荷台を隔てる壁に付いている小窓が開いた。リーダーが顔を覗かせて尋ねる。


「どうした?」

「雷の神からの連絡みたいです。」

「・・・神から電話で連絡が来るのか。」

「そうみたいですね。」


 言葉にしてみると滑稽というか、風情がないというか、妙な感じだが、神は肉体を持たない以上、現世への干渉方法が限られる。雷の神が情報伝達に機械を頼るのは致し方ないことだった。

 ちなみに神獣に対しては、肉体改造時に注ぎ込む魔力のついでに情報も送り込み、神獣の意識の中で会話が可能である。便利だが、神獣化の時にしか指示を出せないので、神の方からすれば不便らしい。



 テツヤは受話器を取って電話に出る。


「もしもし。」

「やっと出たか。まったくイライラさせる。」

「車に乗ってたんで、遅くなりました。すみません。」

「いや、そのことではない。・・・まあ、お前の責任でもないし、今はそのことはいい。」

「はあ。」


 実は雷の神は、今までも何度もテツヤに電話をかけていた。つまり、テツヤが滞在している場所、イラガ博士の家の電話に、だ。

 ところが、電話の対応はすべてその家のメイドが行っていた。雷の神にとって不運なことに、メイドは魔法や神に関する知識が乏しかった。そのため、以下のようなやり取りになってしまった。


「はい、イラガです。」

「テツヤはいるか?」

「どちら様でしょうか?」

「神だ。」

「失礼いたします。」

「おい、ちょっと待・・・」


 ガチャン


 まさか神が電話をかけてくるなど、普通は夢にも思わない。だからメイドは質の悪い悪戯だと考えた。もっとも、魔法や神を知る者でも、雷の神が電話を利用することを知る者など、世界中見てもほんの一握りだろうが。

 また、有名なイラガ博士には様々な者から電話があるため、知り合い以外からは繋がないように言われていたこと、<夜明け>メンバーに関する情報は徹底して秘匿することを指示されていたこともあり、メイドは頑なに雷の神からの電話を切り続けた。

 そうして結局、雷の神がテツヤに連絡を取れるタイミングはここしかなかったのだった。


「いくつか伝えるべきことがある。まずは、お前たちの作戦、高確率で失敗するぞ。」

「・・・それは、神様の予想?それとも運命的な確定事項?」

「予想だ。公平を保つための神同士の契約に抵触するギリギリのところであるため、具体的には言えんが、戦力を比較しただけでもお前たちは不利だ。だから作戦を中止しろ。今は機ではない。もっと戦力が揃うタイミングを待て。」

「そんなこと言っても・・・もう皆出発しちまったぞ。連絡なんてもう取れないし。」

「では、お前だけでも逃げろ。」

「そんなバカな!俺が抜けたら、それこそ戦力不足だろ!」

「そうだな。お前が抜ければ、その組織の勝ち目はほぼ0になる。」

「え?そんなに?」


 テツヤは、雷の神子である以上、当然強い。だが、戦局を左右する程かというと、疑問を感じる。

 単純な戦闘能力で言えば、メーチの方が強い。状況によってはビャーチもテツヤを上回る力を発揮できる。セレブロに至っては作戦の要だ。テツヤは決して自分が強いとは思っていない。


「俺が抜けたら、ほぼ0?どういうことだよ。セレやメーチのおっさんがいても、0なのか?」

「そうだ。戦闘能力の問題ではない。相性の問題だ。それ以上は言えん。」

「・・・・・・」


 テツヤは考える。神が言うのだ。きっと正しいだろう。この作戦の成功率は低い。行けば死ぬ可能性が高い。雷の神が言う通り、今からでも逃げ出せば、自分は生き延びられるだろう。

 だが、テツヤはそうしたくない。ここで逃げたくはなかった。


「逆に言えば、俺が行けば勝ち目があるってことだな?」

「・・・さっきも言ったが、勝率は低いぞ。機を待つべきだ。」

「言葉を返すけど、俺もさっき言った。もう止まれない。今更俺が逃げても、皆が死んじまう。そうすれば戦力は0だ。それこそ勝ち目がなくなるさ。」


 仮にここでテツヤだけが生き残っても、その後どうするというのか。隠れて細々と暮らすことはできるかもしれない。他国に逃げるのもアリかもしれない。だが、テツヤはそんな生き方は御免だった。

 テツヤは負けず嫌いである。勝負には絶対勝ちたいし、負けても必ずリベンジする。負けっぱなしだけは絶対に嫌だった。不器用な性分だと自覚しているが、これだけは変えられない、生まれついての性格だった。


 ハア、と電話越しにも聞こえる大きな溜息を雷の神が吐いた。


「まあ、そう答えるんじゃないかと予想はしていた。やれやれ、ここで逃げてくれれば楽だったのだが。」

「悪いな、神様。」

「気にするな。予想していたと言っただろう。こうなった以上は、お前の生存率を少しでも高めるため、可能な限り情報を与える。」


 そうして雷の神は手短にテツヤに情報を伝えた。

 それは、世界中で周知され始めている情報で、かつ、<夜明け>がまだ入手していない情報だった。

 神聖国との戦争の最新状況。帝国の秘匿戦力が竜人族であること。秘匿戦力達の大まかな能力など、だ。



「以上だ。死ぬなよ。」

「ありがとう。神様。」

「フン。感謝するなら祈りでも捧げておけ。」

「ああ、そうする。」


 テツヤは雷の神が電話を切ったことを確認すると、受話器を置いて足早に車に戻った。

 セレブロはすぐに車を発進させる。


「雷の神はなんて?」

「情報をくれた。リーダー、秘匿戦力が前線に出張ってるって話、当たりみたいですよ。見た事ない奴が前線にいたそうです。」

「ほう。そりゃあ朗報だ。神様のお墨付きなら、間違いないだろう。」


 荷台の窓越しにリーダーが笑う。同じく荷台にいる他のメンバーも喜んでいるようだ。


 その後、テツヤは雷の神から得た情報を共有した。ただし、この作戦の成功率が低いという話だけは伏せた。


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