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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第6章 碧い竜
242/457

M18 生還

クロも出るので、タイトルナンバーを本編にするか迷いましたが、ヴェスタ視点なのでMの方にカウントします。

 目が覚める。体を起こそうとするが、節々が痛む。が、意地で上体を起こした。


 ・・・朝か?あれ?アタイ、何やってたっけ。


 ボーっとした思考で、ヴェスタは辺りを見渡す。どこかで見た部屋だ。


 ・・・ああ、病室か。なんでアタイが病室に?


 戦場で大した怪我もしたことがないヴェスタは、見舞いでここに来ることはあっても、自分がベッドに寝ることはなかったし、そうなることも考えていなかった。今こうしてベッドに寝ていることに非常に違和感を感じる。

 腕に繋がっている点滴も鬱陶しいので外してしまう。そして布団をはねのけ、床に足を下して立とうとするが、ふらついてまたベッドに座ってしまった。

 体が言うことを聞かない。はて、なんでこんな体になっているのか?

 頭を捻っていると、病室の扉が開いた。


「ヴェスタさん?」

「あ?」


 入って来たのは見知らぬ顔。だが装いからこの病院に努める治療師見習いだとわかった。

 治療師は木魔法だけでなく薬や人体にも精通し、治療はもちろんのこと看護まで一手に担う役職だ。

 とはいえ、腕が立つ者はやはり治療がメインの仕事になり、看護は主に見習いの仕事である。高給取りで有名な役職だが、当然仕事はきつい。しかし、木適性さえあれば努力次第でなれるとあって、意外に人気が高い仕事だ。この世界では、仕事に必要な能力が適性という才能に左右される面が大きい。


 立ち上がろうとしているヴェスタを見て、治療師見習いは硬直。数秒固まってから慌てだした。


「えっと、まだ寝てなきゃ・・・いや、立てるんですか?」

「あー、ちょっときついが、頑張れば・・・」

「すごい回復力ですね。って、そうだ!勇者様ー!」


 治療師見習いは叫びながら病室を出て行った。

 それを見送ったヴェスタは状況を思い出そうとする。彼女の口ぶりから、自分は大怪我を負っていたようだ。どんなけがをしていたのだろう?

 そこまで考えて、その怪我の原因を思い出した。マサキを閉じ込めていた溶岩使いを追いかけたこと。それが帝国の秘匿戦力で、実は竜人だったこと。激戦の末に自爆覚悟の特攻で敵を仕留めたこと。そしてその場で力尽きて倒れたこと。


 ・・・思い出した、思い出した!あれ、何でアタイ生きてんの?味方とかいなかったよね?救援が期待できる状況じゃなかったし、絶対死ぬ状況だったよね?


 ふと、その特攻の時に両脚が折れたことを思い出す。しかし、自分の脚を見下ろしてみるが、少し痛むが普通に真っ直ぐ存在している。立ち上がってみると、やはりふらつきはするが、立つことができた。

 ふらふらと歩いていると、もう一つ気がついた。


 ・・・あれ、さっきあの見習い、なんて言った?「勇者様」?


 ヴェスタの記憶では、マサキはまだトンネルに埋まったままのはずだ。それをまるで呼びに行ったように・・・

 困惑していると、激しい足音が近づいて来た。「走らないでください!」という注意の声も聞こえるが、この足音は確実に走っている。

 そして勢いよく扉が開き、現れたのは間違いなくマサキだった。


「ヴェスタっ!!」

「マサキ!?なんで・・・」


 ヴェスタが尋ねるよりも早く、マサキがヴェスタに抱きつく。ヴェスタは急激に顔が赤くなった。

 一応夫婦になっているものの、戦時中ということであまり密接な触れ合いはできていなかった。それに、ヴェスタは側室で、だいたい正室のスーが優先される。こんな密着するのは初めてだった。


「よかった・・・!目が覚めて・・・!」

「ちょ、ちょっと、マサキ・・・あの、人前だから・・・」

「あ、ごめん。」


 マサキが慌てて離れると、ヴェスタはふらついてベッドにすとんと座った。

 ヴェスタは赤面した顔を俯いて隠し、咳払いしつつ顔を戻してから、マサキに尋ねた。


「一体、いつの間に掘り出されたんだ?」

「あ・・・それは、その、いろいろあって・・・」

「はあ?」


 何故だかマサキは言いづらそうにする。

 結局マサキは自分が掘り出された経緯をぼかしたまま、状況をヴェスタに説明した。


 まず、ヴェスタが敵を斃した後、遠視魔法でそれを見ていた友軍がすぐさま救援に駆け付けたそうだ。

 魔法で雨を降らせて森の延焼を防止しつつ、ヴェスタと斃した敵を回収。前線司令部に詰めていた治療師がヴェスタの治癒に取り掛かった。

 ところがヴェスタはかなりの重傷で、その場にいた治療師の魔力では、命を繋ぐので精一杯。脚や火傷は治せそうになく、内臓にも後遺症が残りそうだった。

 そこへマサキが駆け付けた。掘り出されて司令部本部で休んでいたマサキは、夕方には戻るはずのヴェスタが日が沈んでも戻って来ない、と聞いて飛び出した。

 とはいえ、マサキも体力が戻っていなかったので、ホン将軍の直属の部下の中で、足が速い獣人に送ってもらったそうだ。


「彼は凄かったよ。本当に俊足で。俺を担いだまま、日の出頃にはヴェスタのところに着けた。」

「・・・お前も無茶するな。」

「ははは。ごめん。心配だったから。」


 そしてマサキは到着するなりヴェスタを木魔法で治癒。脚も火傷もあっという間に治して見せた。


「本当に勇者様の治療はお見事でした。正直、ちょっと妬けます。」


 勇者の傍らにいる治療師がそう言う。まあ、彼らが必死に治療して力及ばなかったところをマサキがあっさり治して見せたのだ。それが本業で、生業としている治療師たちからすれば、嫉妬もしたくなるというものだろう。


「いえいえ。治療師の皆さんは万全ではなかったでしょう?それに比べれば、僕はずっと閉じ籠っていて、魔力だけは有り余ってましたから。」


 マサキが言う通り、ヴェスタが担ぎ込まれた時、前線は帝国の夜襲を受けた直後だった。治療師たちは既に負傷兵の治癒で魔力を使い果たしていて、ヴェスタの治療が満足に行えなかったのだ。

 マサキは謙遜してそう言うと、すぐに申し訳なさそうな顔になってヴェスタを見つめた。


「それに、完全に治せたわけじゃないです。・・・ごめん、ヴェスタ。ここだけは間に合わなかった。」


 そう言ってマサキが触れたのはヴェスタの頬。鏡を借りて自分の顔を見ると、ヴェスタの顔は右半分に火傷の跡が残っていた。

 木魔法による治癒は、できるだけ早くやらないと、効果が薄くなってしまう。体が傷ついた状態を標準状態だと認識してしまえば、『リペア』系を使っても元には戻らない。

 『オペレーション』系で手術まですれば綺麗に治せる可能性はあるが、マサキに手術の技術などないし、ここの治療師にもそこまでできる者はいなかった。


「あちゃー、こりゃひでえな。」

「ほんと、ごめん・・・」


 深刻そうに謝るマサキだが、ヴェスタはそれほど気にしていなかった。

 好き好んで戦場に出ているのだ。多少の傷はやむを得ないと思っていた。それに・・・


「まあ、いいや。嫁入りはもう済んでるし。マサキが嫌じゃなければ。」

「嫌だなんて、とんでもない!僕の力不足なんだし!」

「いや、アタイの力不足だって。あの野郎を倒すのに無茶しなきゃいけなかったんだから。」


 とりあえず顔の火傷については話をそれで打ち切り、次に現在の戦況の話になった。



 そして、ノースウェルの宣戦布告の件を聞いて、ヴェスタはいてもたってもいられず、立ち上がって歩き出した。

 慌ててマサキと治療師が止める。


「ちょっと、ヴェスタ!まだ本調子じゃないだろ!?」

「安静にしててください!」

「うるせえ!ここで寝てなんていられるか!」

「1週間も寝ていたんですよ!無茶をしないでください!」


 治療師の言う通り、今日は3月22日。ヴェスタは倒れてから1週間、目を覚まさなかったのだ。

 いくら魔法で治癒しても、欠損の再生には本人の体の細胞を使っている。当然、体力は激しく消耗する。

 だが、ヴェスタは止まらない。気合だけで2人を振りほどこうとする。

 やがて諦めたマサキが言う。


「わかった。じゃあせめて着替えてくれ。」

「あ。・・・そうだな。」


 ヴェスタは今になって自分が寝間着姿だと気づいた。これで外出はちょっと恥ずかしい。




 着替えてから病院を飛び出したヴェスタは、マサキを伴ってすぐ近くの駐屯所に入った。

 マサキの救出を終えたホン将軍は、もうトンネル付近に陣を残す意味はないということで、イスダードに来ていた。

 ヴェスタはマサキの案内で真っ直ぐにホン将軍の部屋に向かい、ノックもなしに扉を開ける。


「ノースウェルが宣戦布告ってどういうことだ!将軍!」

「ヴェスタ殿!?もう歩けるのですか?」


 無礼を咎める事も無くホン将軍はヴェスタを気遣う。しかし今のヴェスタはそれに取り合う余裕すらない。


「こんなこと聞いておちおち寝ていられるか!どういうことなんだよ!」

「落ち着いてくだされ。順を追って説明します故。」


 そこへ伝令兵が顔を出す。


「失礼します。ホン将軍、<赤鉄>殿がお見えです。」

「おお、通してくれ。」

「はっ!」


 勇者救出の報酬の話だろう、と察した将軍はすぐに兵士にクロを通すように伝えた。

 それを聞いたマサキは渋い顔になる。


「<赤鉄>・・・」

「<赤鉄>?なんでここに?」


 訝しむヴェスタに、将軍が説明する。


「勇者殿の救出を依頼したのです。私が極秘裏に依頼を出していました。賭けでしたが・・・彼は見事、勇者殿を救出してくださった。」

「へえ!恩人じゃねえか。悪い噂も聞いてたけど、いい奴じゃん。」

「違う!ヴェスタ、あいつはいい奴なんかじゃ・・・」


 マサキが言い募ろうとした時、ノックの音がした。


「どうぞ。」


 将軍が促すと、クロとマシロが扉を開けて入って来た。


「あんたがホン将軍か?地図に書いてた司令部本部に行ったらもぬけの殻で驚いたぞ。」

「申し訳ない。司令部移転の連絡をしようにも、貴殿の居場所も顔も把握していなかったもので。」

「例の副官はまだ戻っていないのか?」

「ええ。」


 どうやらワン副官はまだ帰還していないらしい。


「で、報酬の話なんだが・・・取り込み中だったか?」


 クロが居合わせた2人を見る。分かりやすく殺気を出しているのは勇者マサキだとわかったが、もう1人の勝気そうな女性は知らなかった。顔の火傷が目立つが、クロはそれを気にも留めない。むしろ、歴戦の戦士感があって好ましいくらいだった。

 一旦帰ろうか、という雰囲気のクロを、将軍が引き留める。


「いえ、それなのですが、<赤鉄>殿。申し訳ないが、もう1つ依頼を受けてくださらんか?」

「・・・報酬によるな。」


 依頼内容をなんとなく予想しつつ、クロはそう返答する。

 その返事に将軍は頷きつつ、その場にいる面々を見渡す。


「折角です。まとめて現状をお伝えしましょう。ヴェスタ殿、よろしいですか?」

「聞けるんならアタイはなんでもいいよ。・・・本当は部外者に漏らしていい情報じゃないんだろうけど、将軍が必要と判断するなら文句は言わないさ。それに、あんたらは旦那の恩人みたいだしな。」


 クロはヴェスタの言葉から、彼女と勇者の関係を大まかに把握した。


「承知しました。ではお話ししましょう。」


 そうして将軍は事の詳細な経緯を説明し始めた。


転勤・引っ越しすることになりました。当分は執筆時間が取れないので、投稿頻度が少なくなります。申し訳ありません。

落ち着いたらまた週2に戻します。

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