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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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022 クロの戦い方

「ふん!」


 最後の敵兵を構えた銃剣ごと斬り伏せる。マシロに視線を送れば、すぐに意図を察して返事が来る。


「・・・生存者ゼロ。掃討完了。」

「ふう。」


 これで今日3回目の奇襲も成功。クロ達は帝国軍の別動隊は悉く潰した。


「また本部に戻って戦況を確認するか、それともこのまま進んで逆に帝国軍の側面を突いてやるか・・・」


 クロが悩んでいると、隠れていたムラサキが出てきた。


「おいおい、勘弁してくれ。まだ働く気か?オレはもう疲れたぜ。」

「む・・・」


 ムラサキがこういう弱音を吐くと、必ずマシロが喝を入れる。そこから口喧嘩に発展するのが日常だ。だが、ここは主戦線から離れているとはいえ、戦場の真っただ中。ここで口論している暇はない。マシロを止めるべきかと見てみると、意外にもマシロはムラサキではなくクロを見ている。


「・・・マスター。我々は秘匿戦力です。情報漏洩を防ぐために、接敵したら全滅させる必要があります。このまま進んで敵本隊とぶつかれば、情報を持ち帰られるのは必至と思われます。戻るべきかと。」

「・・・そうだな。」


 ムラサキに突っかからないマシロを珍しく思いつつも、言っていることは正論。クロは帰還を決めた。



 本部に戻ってみれば、クロ達が別動隊を潰したというのに、主戦線は膠着状態のままだった。


「右翼も左翼も潰してきたが・・・状況は変わらないか。」


 クロが不満そうな顔をすると、司令官の獣人が申し訳なさそうな顔になる。帽子の脇から出ている短い角が印象的だ。牛だろうか。


「申し訳ない。わざわざ王都から来ていただいたのに・・・現状では勝利は困難と思われます。しかし、本当に助かったのです。もし貴公に来ていただかなければ、とっくに我々は敗走していたでしょう。」


 司令官がちらちらと周囲の兵士に目線を配りながら弁解する。周囲の兵士の中に、あまり気持ちの良くない視線をクロに送る者がいるのは気づいていた。獣人至上主義の国に、外見が人間のクロが偉そうにしていれば、獣人は気持ち良くないだろう。下手な争いが起きないように、クロがいかに王国に必要な者かを司令官がそれとなく説明してくれているのだろう。それはクロとしても助かっている。


「役に立てたのならよかった。・・・だが、悪いがこれ以上は役に立てそうもない。国王から俺たちの存在はできるだけ隠すように言われているからな。」

「ええ。それは皆納得しております。主戦線は、我らが何としても持ちこたえさせます。」

「じゃあ、俺達は今日は休んで明日また別動隊を狩るか?」


 クロは司令官に尋ねるが、マシロが割って入る。


「いいえ、マスター。休養が必要です。王都まで戻ります。」

「え?しかし・・・」


 クロが反論しようと振り向くと、いつも無表情なマシロが、相変わらず無表情でありながら、怒気を感じられる顔でこちらを睨んでいた。仲間になって半月ほど。マシロは基本的にクロの指示に従って動いていた。自らクロの行動に意見することは初めてだった。しかし、その雰囲気から固い意志を感じ取ると、クロは反論できなくなった。


「・・・わかった。すまない、司令官。俺達は帰還する。武運を祈るよ。」

「お任せください。」


 司令官は力強く胸を叩き、ニッと笑って見せる。一傭兵にも礼儀正しく接し、苦境にあっても他者を心配させまいと明るく振舞って見せる。

 ・・・立派な人だ。俺には真似できん。

 最前線基地を辞したクロ達は、ついでに配達を頼まれた荷物と共に、一路王都を目指した。

 その夜。帰路の途中で一泊野営することになった。基地での様子から、マシロから何か話があるだろうと思っていると、案の定、マシロが近づいてくる。


「マスター、お話があります。」

「なんだ?」

「私は犬ですから・・・主と認めた者に尽くすことが私の生き方です。故に、マスターの行動を遮るようなことがあってはならないと思っています。」

「そんなことは・・・」

「しかし、私は同時に魔族であり、自分の意志を最優先にすべき存在でもあります。」

「・・・ああ。」

「それゆえ、迷っていましたが・・・誠に遺憾ながら、ムラサキに諭され、こうして口を挟むことになりました。」


 マシロは顔をしかめて説明する。犬としての本能に従うなら、わざわざこんなことを言わず、いや、そもそも王都への帰還を提案する事も無かっただろう。それをまげて、話している。


「おい!遺憾の下りはいらねえだろ!」


 ムラサキが喚いているが、今は大事な話をしている。無視だ。

 マシロも無視しているようで、ムラサキに視線を向けることすらしない。じっとこちらを見ている。そして、意を決して口を開く。


「マスター。もう少し、御自愛ください。」

「ん?」


 クロは一応、はぐらかそうとはしてみる。無理だとわかっているが。


「マスターは戦闘中、被弾しすぎです。いくら回復力が高くても、あんなに被弾していてはいつ死んでもおかしくありません。」

「・・・でも、大丈夫だっただろ?戦闘が終われば、すぐ回復するし。」

「それは結果論です。」

「心配しなくても、やばくなった時の切り札くらいある。」


 嘘ではない。切り札はいくつかある。ほとんど攻撃用だが。


「だとしてもです。」


 それでもマシロは譲らない。そこへムラサキも加わる。


「そうだそうだ!毎回ハチの巣になりやがって!見てるこっちの身にもなれ!」

「ハチの巣って・・・そんなにひどいのか?」


 喰らってる本人であるクロには自分の様子はわからない。傍から見るとそんなにひどいのだろうか?


「ひどいです。」

「正直、見るに堪えねえ。」

「う・・・」


 2人そろって言われたことより、マシロに迷いなく言い切られたことがショックだ。クロは、マシロの感性は戦闘に関してはわりと自分に近いと思っている。そのマシロが断言するとなると、無視はできない。


「我々のために囮になってくださっているのはわかります。しかし、防御はしてください。」

「わかった。・・・帰ったら対策を講じてみる。」

「ええ、お願いします。」

「やれやれ・・・」


 クロは近接戦闘になると、頭に血が上って突進してしまう癖があり、それを自覚している。そのため、防御を心掛けるだけではいけない。暴走状態でも機能するよう、自身の防御性能を上げる工夫が必要だ。


「以前検討していた奴を試してみるか。素材はあったんだが、一人じゃ難しかったんで保留していたものがある。真白、助手を頼めるか?」

「防御のための物ですよね?」

「ああ。」

「是非協力させてください。」


 ・・・よし。真白の了承を得られた。


「ようやく実現できるな。ムラサキに頼んだ時は断られたから、どうしようかと思ってたんだ。」

「?」


 マシロは首を傾げ、ムラサキは固まる。


「防御って・・・まさか、アレか!?お、オレは手伝わないからな!」


 ムラサキが逃げるように離れ、毛布に包まった。


「いったい何をする気ですか?」

「帰ったら説明する。さ、真白も寝ておけ。最初の見張りは俺がやるから。」

「はあ。」


 マシロが横になって寝始めたのを確認してから、クロは荷物袋からある金属のインゴットと資料を取り出す。


「いつかやろうと、重くても持ち歩いてた甲斐があった。さて、準備しておくか。」


 資料を見て寸法を決め、『ヒート』で融かしながらインゴットを原子魔法で加工、強化していく。そうして形は一晩のうちに仕上げておいた。

 ・・・明日が楽しみだ。


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