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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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021 「疾風」と「赤鉄」

「うわあああぁぁ!」

「なんでだ!?畜生!」


 仲間たちが悲鳴を上げながら無茶苦茶に銃を撃ちまくる。

 ・・・畜生、俺だって悲鳴を上げてえよ!でも俺の仕事は応戦することじゃなく、連絡することだ。

 通信兵の男は背負った無線機を手早く起動し、本部につなぐ。焦る気持ちを必死に抑えて操作する。訓練通りに。


「本部!応答せよ!大至急!こちらイーグル!」

「こちら本部、どうした?イーグル。」


 通信兵は本部の落ち着いた声に苛立ちを覚えるが、それどころではない。たったこれだけの会話の間に、また1人斬られた。


「ネームドに接敵!」

「接敵?まさか見つかったのか。」


 ・・・そうだ、見つかってしまった。俺達は帝国の対フレアネス王国最前線で、迂回して敵を挟撃する別動隊だ。森や山中を秘密裏に突っ切り、敵の側面か背後に出る予定だった。王国の諜報部隊である飛行魔導士にも警戒しながら進んでいたというのに。それが途中で見つかってしまうとは。


「敵は識別できるか?」

「・・・<疾風>、それと<赤鉄>だ!」

「は?間違いなのか?」

「俺だって信じらんねえよ!」


 つい怒鳴ってしまう。だが、それほどあり得ない事態なのだ。なにせ、目の前のネームドはいずれも2週間前のカイ連邦戦線で死亡したはずなのだ。

 <疾風>は犬の魔獣に乗った王国の兵士で、目にもとまらぬ速さで犬が走り回り、その背に乗った兵士が銃や魔法で攻撃してくる。この数年で帝国兵を何千人も屠った有名なネームドだ。連邦戦線に現れたが、帝国の秘匿戦力で仕留めたと聞いていた。秘匿戦力については帝国内でも情報が伏せられ、この通信兵のような末端にはその人数も戦闘方法も知らされていない。だが、今まで何人もの敵国のネームドを倒した実績があり、実力については信頼できた。

 <赤鉄>は、連邦戦線に突如現れ、真っ赤に溶けた鉄を操り、単独で百人以上の帝国兵を殺したと言われている。しかし、直後に戦場で起きた謎の大規模爆裂魔法のせいで、正確な情報は得られなかった。最後に確認された位置がその爆発の中心部だったため、爆発に巻き込まれて消し飛んだと思われていた。


「・・・確かに<赤鉄>は死亡を確認していない。ありえなくはない。だが、<疾風>は確認したはずだ。」


 怒鳴る通信兵に、本部は冷静に情報を述べる。すぐに情報を照会するあたり、優秀なんだろう。それを感じて通信兵は少しだけ頭が冷えた。


「あ、いや、<疾風>は犬だけだ。犬に<赤鉄>が乗ってきて・・・」


 そこではたと気が付く。目の前では剣を振り回し、仲間を薙ぎ払う<赤鉄>。被弾してもまるで止まる様子がない。

 ・・・犬はどこにいった?俺達は森を抜けて山に登り始めるところで、急に犬に乗った<赤鉄>が飛び出してきて、奇襲を受けた。俺達が慌てて銃を構える間に<赤鉄>は犬を降りて・・・で、犬は?

 なんとなく通信兵が振り向くと、そこには真っ白な波打つ長髪に犬耳の長身の獣人族がいた。その白髪とは対照的に真っ黒な飾り気のない服を着て、両手に真っ黒な剣を持っていた。前傾姿勢で、ありえない速度でこちらに走ってきていた。

 よくあの速度で動く奴の姿なんて見えるもんだ、と自分の動体視力に感心すると同時に、その獣人が走り寄る一瞬のうちにそんな無駄な思考ができるほど、自分の頭がありえない速さで回転しているのを自覚した。

 ・・・ああ、これが死ぬ間際に見える奴か。敵が右手の剣を突き出してくる。避けないと。いや、無理だ。間に合わねえ。というかこいつどこから来た?俺の後ろは山で、これから向かう方向だから十分注意してたはずだ。隠れられそうなところもないし、こんな目立つ色の奴、見落とすはずない。色?真っ白な髪、真っ黒な服、犬耳。さっきの犬は真っ白な毛に黒い鞍。犬が獣人に?そんなことあるのか?いや、ある。魔族だ。これは重要な情報だ。本部に知らせなければ。


「魔、あがっ!」


 真っ黒な剣が通信兵の右手と無線機を貫き、口に入るのが見えたところで、通信兵の意識は途切れた。


ーーーーーーーーーーーー


 無線機を持った帝国兵の頭から「黒剣」を引き抜く。

 ・・・情報は可能な限り与えない。さっきの会話から、帝国では私とマスターは死んでいたことになっていたようだ。それが生きていたのがばれたのは痛いが、それはこうして戦っていればいずればれること。問題はない。少なくとも魔族だとは伝わらなかったはず。

 マシロたちに関する情報はほどんどの王国兵に伏せられている。傭兵として参戦することは告げられても、決して他の王国兵と共闘することはない。魔族と共闘など、有効とわかっていても心情的に無理だろう。国王が魔族を使っているとばれたら、どんな政治的な問題が発生するかわかったものではない。

 だから、情報は可能な限り潰す。ここでマシロたちの戦闘を見た者は、一人も生かして返してはいけない。


 ・・・敵兵の意思を感知。こちらを向いているものは少数。ほとんどはマスターに注視している。マスターの不死身を思わせる回復力を考えれば、マスターが囮になるこの戦法は、まあ、妥当だろう。速く確実に殲滅するのならば。しかし、私の個人的な感情としては、マスターも守りたいのだが・・・マスターは自分の命を軽視する傾向があるようだ。この戦法を頑として譲らなかった。ならば私は全力で敵を屠るのみ。盾になれないなら、剣になろう。

 敵兵がこちらに銃を向けると同時に、マシロは射線から逃れるように走り、距離を詰める。攻撃の意志が強い者から優先的に。敵兵を盾にするように移動し、接近し次第斬り捨てる。銃剣で応戦する者もいるが、遅い。銃で防御する者もいるが、「黒剣」の前では無駄だ。銃ごと斬る。

 マシロに気が付く者が増えた。慌てて振り向くが、それによって薄くなった弾幕をクロが強引に突破する。長柄長剣「黒嘴」を投げ、帝国兵が数人まとめて倒される。そうして空いた陣形の穴に飛び込み、一気に距離を詰めた。近場の数人を殴り倒す。帝国兵はまた距離を取ろうとするが、森側の数人がまとめて意識を失った。ムラサキの援護だ。森に潜んで酸素魔法を行使している。

 クロが「黒嘴」を再度手に取り、山側に残った兵士に向かうのを認識しながら、マシロはまた一人斬る。ここまで接近すればもう難しくない。奇襲を受けた故に散開できずにいたのが運の尽きだ。誤射を恐れて撃てない者は放置。撃つ意志のある者を先に仕留める。銃を撃つタイミングを見極め、間に合うなら接近して銃を払う。間に合わないならタイミングを見て避ける。突いてきた銃剣をかわし、横を通り過ぎざまに首を斬る。

 そうして数分後、マシロたちは一人残らず斬り捨てた。魔力感知で生存者を確認する。


「・・・生存者なし。掃討完了。」

「よし。ムラサキは?」

「こっちもOKだ。しかしちょっと通信されちまったなあ。」


 森に潜んで俯瞰していたムラサキが出てくる。


「申し訳ありません。『換装』がもう少し速くできればいいのですが・・・」

「まあ、それは仕方ない。今後の課題だな。」


 ハーネス(鞍)を構成する炭素の糸を高速で服に編みかえる『換装』は、キーワードこそ設定しているが、その実、『移動』を駆使した全手動の操作だ。複雑な操作であるため、どうしても時間がかかる。また、糸の移動自体は低コストだが、同時に動かす数が半端ではないため、結局多量の魔力が必要になる。今のところ、所要時間は8秒。


「それより今回は俺の作戦ミスだ。突っ込む前に通信機を狙撃しておくべきだったな。」

「そういえば金属操作は使わなかったのですか?」


 ・・・剣だけでなく、銃弾などを操作して戦えば、あそこまで被弾する必要もなかったのではないだろうか?まあ、こうして会話している間にマスターの傷はもう完治しているのだが。


「倒せそうに見せた方が、より注意を引けるだろう?」

「「・・・はあ。」」


 ため息がムラサキと被る。

 ・・・これについてだけはムラサキと共感できる。やはりマスターは自分の身を蔑ろにしすぎだ。心配するこっちの身にもなってほしい。だが、言っても結局、再生力が一番高いのが囮になるべき、とか言い張るのだ。


「それより、さっさと移動しよう。ここに俺達がいるのはさっきの通信でばれてるんだからな。」

「わかりました。・・・『変化』」


 『変化』はもう数秒でできるようになっているが、あえて速度を落とし、『換装』に合わせる。犬形態になると、マスターが背に乗り、ムラサキがマスターのコートのフードに隠れる。


「いったん本部に戻って状況を確認する。出発。」


 走り出し、一気に加速する。山の麓に残るのは、死体だけだ。


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