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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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M02 光魔法

 勇者マサキはイーストランド王国の対帝国最前線基地にいた。数十m先に人型の的がある。両腕をだらんと下げて自然体になり、呼吸を整える。

 神に祈りとともに魔力を捧げる。体内の魔力が少し抜けて、どこかへ消えるのを感じる。


「『レーザー』」


 魔力の奉納を確認したらすぐに呪文を唱え、同時に右手を前に出して指先を的に向ける。同時に指先に魔力を高速で注ぐ。適当な量になったと思うところで発動を意識する。光線が指先からまっすぐに伸び、的に指と同じ大きさの焦げた穴ができた。


「やべっ。」


 的に穴が開くと同時に、後ろの壁にも穴ができていた。慌てて壁に駆け寄り、穴を確認する。

 ・・・よかった。貫通はしていない。魔法の訓練で勢い余った魔法が友軍を攻撃、殺傷なんて大問題になるところだった。


「予想以上です。凄まじいですね。」


 振り向くと、軍服の女性が立っていた。金髪を無造作にまとめた小柄な女性。10代後半に見えるが、実際は20歳以上らしい。正確な年齢を聞くのは失礼だと思ってマサキは聞いていない。


「アリスさん、いらしてたんですか。お恥ずかしいところを・・・」


 ・・・アリスさんは僕がこの国で勇者として最前線に立つにあたり、世話係に任命された人だ。アリスという名前を聞くと、有名な某不思議の国を連想してしまうが、あながち間違いでもないらしい。

 この世界にアリスという名前の人は多く、理由はこの世界最初の異世界人の名前にあやかっているらしい。正確には異世界人のうち、この世界でまともに行動できた最初の人、か。初めのころは異世界人は言葉が通じない不審人物として処理されていた。そこでそのアリスさんがこの世界の言語を学び、逆にこの世界の住人に英語を教えることで、異世界人が受け入れられる土壌を作ったのだそうだ。異世界という不思議の国に迷い込んで大活躍だ。まさにおとぎ話の主人公。まったく手掛かりがない状態から異世界の言語を理解するとか、本当に偉人だと思う。

 話が逸れたが、目の前のアリスさんは軍人だ。重い武器を持つよりも魔法を使って戦う。接近戦に使える武器はナイフくらい。徹底的に遠距離魔法攻撃タイプ。僕という鉄壁の盾がいれば、かなり強い。


「そんな魔法を見せつけて恥ずかしいなんて言われたら、私は軍にいられませんよ。」

「いやあ、実際制御できてないわけで・・・今も危うく壁を貫通するところでした。」

「・・・光属性の攻撃魔法で威力が強すぎることを悩んでる人なんてあなたくらいですよ。」


 どうやら光魔法は一般的には攻撃に使えないらしい。理由は、攻撃魔法は存在するが、発動に必要な魔力が大きく、かなり強い適性と膨大な魔力量が必要らしい。さらに使えたとしても発動が遅く、とても実戦で使える代物ではないそうだ。その常識を踏まえて見ると、今のマサキの『レーザー』は異常らしい。


「まず光属性に適性がある人が少ないですし、いてもあの的に焦げ目をつけるのが限度。貫通する威力を持たせようとすれば、詠唱から発動まで10秒はかかります。あなた今、2秒もかかってませんでしたよね?」

「そうだけど・・・まだまだじゃないかな?2秒もあったら回避は可能だよ。」

「それは、そうですが・・・はあ、常識破りな人です。」


 ・・・どうもアリスさんは納得いかないようだ。そもそも僕は銃を使いたかったんだが、アリスさんが頑なに魔法を勧めるから止む無く教会で登録してきた。で、銃の代わりになりそうな魔法を登録したわけだけど、これじゃあまだまだ銃の代わりにはならない。第一、詠唱から発動までは発射点を移動できないのが問題だ。できなくはないのだが、移動すると指先に貯めた魔力が霧散してしまうことが多い。もっと早く発動できないと。

 さっきは出力過剰だったから、込める魔力をもう少し抑えて・・・


「『レーザー』」


 ・・・うん。今度は1秒くらいでできた。まあ、ぎりぎり使えるレベルだろう。アリスさんが唖然としているが、気にしないことにした。



 その夜、帝国軍の夜襲に対応した。早速『レーザー』を使ってみると、なかなか難しい。距離や攻撃対象の大きさに合わせて魔力量を調節しないと、威力が不十分だったり、貫通して標的以外も焼いてしまったりする。

 それでも敵には十分脅威だったようで、帝国兵はさっさと撤退してしまった。正直言えばもっと練習しておきたかった。できるだけ殺さずに無力化するには、もっと正確な狙いと威力調節が必要だ。

 そんなことを考えていた僕は、アリスさんがどんな顔をしているか気づかなかった。



 数日後、最前線の司令部。マサキはアリスと共に会議に参加していた。


「西大陸戦線の情報が入りました。2週間ほど前、帝国はカイ連邦まで攻め込みましたが、魔族の乱入によって甚大な被害を被り、撤退したようです。」

「ふん、いい気味だ。」

「しかし、魔族の乱入までカイ連邦は一方的に押されていたそうです。もし帝国が部隊を再編してもう一度攻め込めば、連邦の敗北は必至かと。」

「むう・・・。」


 会議室に重苦しい空気が流れる。帝国は東西両方の戦線で同時に戦っている。もし西が決着してしまえば、分散していた帝国の戦力がこちらに集中してしまう。イーストランド王国としては、西側の勢力には可能な限り耐えてもらいたいと考えている。


「フレアネスは?」

「フレアネス王国の戦線には、同日、国王である火の神子ジョナサンが参戦。帝国を大きく押し返したとのことです。その結果、帝国がカイ連邦に再度攻め入るまでは猶予ができたと思われます。」

「おお!」


 押され続けていたフレアネスが反撃。間違いなく吉報だった。そして同時に皆が願う。どうかそのまま拮抗してくれ、と。勝ってくれ、ではない。イーストランドにとって、フレアネスは味方とは限らないのだ。


「しかし、火の神子はすぐに王都に帰還。火の神子が去った戦線は再び押され気味です。今はどうにか押し返した分を守っているようですが、再度押し込まれるのは時間の問題でしょう。」

「そうか。」


 将軍たちは残念そうに報告を聞く。表向きは。内心はガッツポーズでもするか、歓声でも挙げているだろう。戦線の維持という理想的な結果なのだから。しかし顔には出さない。会議には見るからに善人という勇者マサキが同席している。勇者からの心証を悪くしたくはない。

 そのマサキはというと、いまだ戦争の実感が湧かないでいた。目の前で戦闘が起きれば仲間を守るが、遠く離れた場所での戦況を聞いても、よくわからない。マサキ個人としては別に帝国を嫌悪しているわけでもないのだ。


「東の戦線の報告に移ります。帝国は神聖国を除くすべての東大陸北部諸国を同時に攻めているようです。我が国は今のところ、北側からだけ攻められていることと、勇者殿の活躍により防衛できていますが、西のマルベリー共和国が落とされれば、一気に危うくなるかと。」

「共和国への援助は?」

「そんな余裕はないだろう。勇者殿を筆頭に反攻することはできないか?」


 全員の視線がマサキに向く。マサキは緊張しながらも首を横に振る。


「僕の『光の盾』で守れるのは2人・・・いや3人が限界です。その4人で攻め上がっても、カバーできるのはごく一部。一時的に押し返しても維持ができませんよ。」

「勇者殿のおっしゃる通りだ。彼一人ではできることは限られる。分散して動けるネームドがあと数人残っていれば・・・」


 ネームド。帝国の最新兵器をものともしない実力者。連射が聞く最新の銃を装備した帝国兵の部隊を単独で蹂躙できる強者。以前はイーストランドにもそういったネームドが何人もいた。しかし長い戦いで1人、また1人と戦死し、今はマサキとアリス、他数名しか残っていなかった。しかもいずれも運用に難がある尖った能力の者ばかり。分散しては容易に各個撃破されてしまう。単独で戦えるのはマサキだけだろう。

 マサキの隣でアリスが悔しそうに歯を食いしばる。アリスもまた尖った能力者だ。炎と風を用いて広範囲の敵を屠ることができるが、防御魔法がほとんどない。逃げ回る足もない。単独では銃の射程まで近づかれただけで簡単に撃ち殺されてしまう。


「だいたい、南のネオ・ローマンが動けばどうにかなるのだ!何をやっているんだ、あの差別主義者共は!」

「差別主義者だから、来ないのだろう。まったく、我々が負ければ、次は自分達だというのに・・・」

「外交官を再三送って、助力を乞うているのですが、芳しくないようです。曰く、負け戦に参加するつもりはない、と・・・」

「だから、その負け戦を勝たせなければ、ネオ・ローマンも厳しくなるというのだ!」

「落ち着け。彼に言ってどうする。」


 ある将軍は怒鳴り、別の将軍がなだめる。マサキはそれを見ながら、自分にできることを考えていた。この状況をどうにかするために、力を与えられたのだろう、と考えて。

 しかし、マサキにも将軍たちにも名案は浮かばず、戦線は膠着状態になっていく・・・


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