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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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180 アカリの選択

「ちょっと、待て。」


 アカリがピキルの勧誘に頷きかけたとき、それを遮る声が響いた。低い声だが、アカリの耳にはしっかり届いた。


「クロさん・・・」


 クロが立っていた。息が荒く、剣の鞘を杖代わりにしているが、立っていた。


「馬鹿な!」


 ピキルはユルルを振り返るが、ユルルも驚いていた。ユルルが力を弱めたわけではない。


「何故?立てるわけが、ない・・・」


 ユルルの力は、この世で最も強い。抗える者など存在しないはずなのだ。

 慄くピキルに、ユルルの楽しそうな意思が伝わって来た。


 ・・・すばらしい。これが人の意思の力か。我がエネルギーが、我より奴を選ぶのか。


 魔力が、生みの親であるユルルの指示ではなく、クロの意思に従っている。それ故に、ユルルによる操作が弱まっているようだ。


 ・・・いや、これは、弄ってあるのか。闇のの仕業か。なるほど、奴は未だ執着しているのか。


 ユルルの考察がピキルに漏れ聞こえるが、ピキルの脳ではユルルの思考の全容を読み取れない。

 ピキルがそれに気を取られている間に、クロがアカリと話す。


「アカリ・・・」

「クロさん、無茶しないでください。」

「いや、見過ごせなくてな。」


 アカリはトコトコとクロに駆け寄る。クロは立っているのがやっとで、あまり声が大きくない。


「私を心配して?」

「いや。」

「ええ・・・」


 少し期待していたアカリがガッカリする。そこへさらにクロが期待外れの言葉を追加。


「ピキルに言われっぱなしだったのが、しゃくだったから。」

「それだけですか!?」

「あ、あと、見下されてるのが気に食わなかった。」


 クロはそう言ってユルルに視線を向ける。

 クロは天邪鬼である。天邪鬼は大きな流れや力に逆らう性質がある。故に、見下されるのは大嫌いだ。上から命令されるなんてもってのほか。押さえつけられたらはねつけたくなる。

 アカネを攻撃されて、クロの復讐魔法はすでに発動率が上がっていた。そこへ天邪鬼的に腹立たしい状況がプラス。復讐魔法の発動率が一気に上昇していた。

 クロは「ふう」と大きく息を吐く。魔族ならば呼吸は然程重要ではないが、そうしたくなるほど、立っているのが辛い状況なのだ。


「アカリ、ユルルの眷属になるのか?」

「それは・・・」

「まあ、ピキルの言う通り、そっちの方が安全だろう。逆にこっちは危険だらけだ。」

「・・・・・・」


 意外にもクロは引き留めない。アカリは、理由はどうあれ、クロはアカリを引き留めるために立ったと思っていた。


「ああ、ただ、ここに棲むと、町とか行けなさそうだが、いいのか?完全に世捨て人だが。」

「8ヶ月も閉じ込められてたんですよ。今更です。第一、町は、恐いし。」

「それもそうか。」


 後何か言うことはないか、と悩むクロに、アカリは思い切って尋ねる。


「・・・あの、クロさん。引き留めないんですか?」

「ん?ああ。アカリが居たい方に行けばいい。無理に引き留めても、後々問題になるだけだ。」


 クロは友好的な他者に対しては、何かを強要したり、考えを押し付けたりは、極力しない。自分がそうされるのが嫌だから、仲間にもそうしない。

 とはいえ・・・


「ただ、残念だ。」

「え?」

「アカリは有能だからな。引き抜かれると痛手だ。」


 クロの本音が漏れた。なんとなく、言わずに見送ったら、自分が後悔しそう、と思っただけだが、言った。

 それを聞いたアカリの目の色が変わる。ピキルとクロを交互に見て、悩み、最後にピキルの方を向いた。


「あの、ピキルさん。」

「・・・・・・」


 ピキルには既にアカリが言おうとしていることが読み取れたが、あえて言葉を待つ。


「やっぱり、私はクロさんの方に残ります。」


 ピキルには、何故、と問うまでもなく、アカリがその選択をした理由がわかっていた。彼女は何より、誰かの役に立つことを願っているのだ。

 しかし、それだけではピキルは諦めない。ピキルがアカリに惚れているのもまた事実なのだ。

 ピキルがユルルに振り向いて手を掲げると、ユルルの鱗が一枚、剥がれてピキルの手に落ちた。たった一枚でも、人の頭ほどの大きさがある。

 ピキルはその鱗をアカリに差し出しながら言った。


「アカリさん。あなたの、気持ちは、わかった。だが、やはり、危険だ。クロに、ついて行けば、きっと死んでしまう。お願いだ。これを、受け取ってくれ。これに触れれば、ユルル様の眷属に、なれる。敵と、戦う力も、得られる。」


 ユルルの鱗は、虹色に輝き、見る角度によって様々に色が変わる美しい物だった。それだけで魅了する効果があるかのようで、アカリの心が揺れる。

 それを見たクロは、おもむろに自分の胸を貫手で貫いた。胸部のチタン骨格を操作して道を広げ、心臓を取り出す。

 突然のクロの凶行にアカリが驚くのも無視して、クロは自分の心臓をアカリに差し出す。


「力ならこっちでも得られるぞ。」


 それを見たピキルが怒る。


「馬鹿を言え!魔族化は、死の危険が、伴う。アカリさん。こちらは、そんなリスクは、ない。こっちの方がいい。」

「アカリ、好きな方を選べ。」


 クロとピキルに迫られて、アカリは悩む。

 人の役に立ちたい。その一心でアカリはこの世界に転生した。その望みに沿うならば、クロの方がいい。

 しかし、クロの方に行けば、高確率で死の危険が付きまとう。閉じ込められ、死の恐怖に怯えた記憶が蘇る。

 悩み、悩み、悩みに悩んで、アカリは決めた。アカリの中では何十分も悩んだ気分だったが、実際の時間は1分も経っていない。


「ピキルさん。」

「アカリさん・・・」


 ピキルにはもう彼女の答えが見えていた。


「ごめんなさい!やっぱり私は、誰かの役に立ちたい。あなたのところは安全かもしれないけれど、私の出番はあまりなさそうだから。」

「・・・死んでしまうかもしれませんよ?」

「それでも。私は、より私を必要としている人の方に行きたい。」


 そう言ってアカリはクロの心臓を手に取った。


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