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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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177 転生について

「美味かった。礼を言おう。」


 ピキルが米粒一粒残さず平らげてそう言った。

 その言葉にムラサキが満足げに頷く。


「口に合ったなら何よりだぜ。」

「ああ。懐かしい、味だった。」


 その言葉にクロが違和感を覚えた。


「・・・故郷にこんな料理があったのか?」

「いや、故郷、ではない。前世で、日本で、食べた。」

「「日本で?」」


 その言葉にクロは疑念を抱き、アカリは驚いた。

 ピキルがこの世界に転生したのは100年以上前。ピキルは見た限り東南アジア出身だ。クロの前世の日本において100年以上前というと第二次世界大戦前になる。そんな時代に東南アジアから日本への渡航が可能だっただろうか?

 また、その時代の日本で今日のような料理が食べられたか、も疑問だ。

 考え込むクロとアカリに、ピキルはその疑念を読み取って答える。


「そうか。クロ、達は、まだ、知らなかった、か。」

「何を?」

「この世界と、前世の、時間の、関係だ。」


 それはクロにとっても興味のある話題だ。クロも今まで考えたことはあった。前世とこの世界はまったくの別世界。時間の流れが同じとは限らないのではないか、と。しかし、今のところ出会った異世界人の様子を見るに、同時期に転生した者ばかりで検証が難しかったので、保留していた。

 ピキルは、クロが自身の頭にある情報を整理しているのを読んだようで、その間に背後に控える蛇戦士の一人に何事か指示を出した。指示された蛇戦士は小屋を出て行った。

 それを見送ったピキルは、説明を始める。


「まず、事実、確認だ。私が、前世で、死亡した、時期は、クロ、そして、アカリ、さんと、同じだ。」

「本当か?」

「記憶を、読んだ、限り、そうだ。例えば、私が、見た、日本は、東京は、ビルが、たくさん、建ち、高い、技術で、作られた、電化製品や、ゲーム、があった。」


 それは確かにクロの記憶にある前世の東京と同じ光景だ。念のため、ゲーム機の種類を聞いてみると、確かに同世代だった。

 ビル群がある以上、戦前というのはありえない。また、ゲーム機は数年単位で入れ替わるため、同型機が売られていた以上、近い世代だと言わざるを得ない。


「確かに死んだ時期は同じみたいだ。となると、やはりこの世界と前世では、時間の流れが違うのか?」


 クロの質問に、ピキルは首を横に振る。


「いや、まったく、同じ、ではないだろうが、大きく異なる、わけではない、と思う。話は、もっと、単純だ。」


 そこへ、先程出て行った蛇戦士が戻ってきた。「シュッ」と短い声を発すると、ピキルがその蛇戦士を見る。数秒目を合わせると、クロ達の方へ向き直った。


「我が神から、許可を、得た。食事の礼、もある。情報を、開示、しよう。」


 ちょうどそこで、マシロが全員にお茶を配る。話が長引くのを既に察していたマシロがお茶を淹れていたようだ。

 クロとしては、今の短時間で蛇戦士がどのように山頂にいるはずの<神>から許可を取ったのか気になったが、ピキルの話を聞く方を優先した。それを読んでいるはずのピキルが説明しないあたり、連絡方法を開示する気はないのだろう。


「これは、私が、読心で、集めた情報と、我が神の、知識を、合わせて、推論した、話だ。」


 それからピキルが片言の日本語で説明した内容をまとめると、こうだ。

 まず、転生させる八神からすれば、いくら彼らが豊富な魔力を持ち、高度な技術を持っていたとしても、異世界に干渉するには膨大な魔力が必要になる。したがって、異世界人の魂を持ってくるのは、気が向いた時に気軽にできることではない。

 ではどうするか、となれば、当然、一度にまとめて回収してくるのが理に適っている。ピキルたちの推測では、いくら頻度が高くても、数十年か百数十年に一度が限界だろう、ということだ。

 すなわち、ピキルもクロもアカリも、そしておそらくクロが今まで出会った他の異世界人たちも、同時にまとめて回収されてきたと考えられる。

 では転生したタイミングに最大100年以上のズレがあるのはなぜか?その答えは単純だった。


「眠らせておけば、魂は、劣化したりしない。」


 <神>によれば、そうらしい。

 つまり、クロやアカリの魂は、前世から回収された後、100年以上保管されていただけ、というわけだ。


 さらにまとめると、八神がやっているのはこういうことだ。

 まず数十年か百数十年に一回、前世に干渉して死者の魂を回収してくる。

 回収した魂を保管しておき、この世界の様子を見て適切だと思った異世界人、もしくはランダムに選んだ異世界人を転生させる。この世界の発展を期待してか、もしくは単なる新魔法の実験台としてか、は八神しかわからない。

 それを何年も繰り返し、魂の在庫が尽きたら、もしくは異世界への干渉に必要な準備が整ったら、また魂を回収してくる、というわけだ。


「あくまで推論、なんですよね?」


 アカリが恐る恐る尋ねる。


「そうだ。だが、的外れ、でもない、だろう。」


 ピキルの返答を聞いたアカリは、不安そうにクロを見る。視線に気づいたクロはぶっきらぼうに答える。


「まあ、十分あり得ると思うぞ。何か不安か?」

「ええと、なんというか・・・そんな、まるで、人を物みたいに・・・保管とか。」

「あの連中からすれば、そんなものだろう。異世界人を実験動物程度にしか見てないだろうな。」

「ええ・・・」


 アカリはこの世界の大多数に崇められている八神が、人々をそんな風に見ていることに困惑している様子だ。だが、絶望しているわけではないことはクロにも見て取れた。裏切られた、と思っていないあたり、彼女もそこまで八神を信用していなかったのだろう。

 少し考えたアカリが、不安そうに言う。


「モルモット、ってことは、神様が機嫌を損ねれば、私たちはあっという間に潰されちゃう、ってことですか?」

「・・・・・・」


 クロが何と答えたものか、と考えていると、ピキルがニヤリと笑ってクロに言った。


「答えてやれば、いい。知ってる、だろう?闇の、神子。」

「バラすなよ。」


 一応、クロは自身が闇の神子であることを必要以上に喋らないようにしている。少なくともアカリには話していなかった。

 アカリは若干驚いた感じで尋ねる。


「クロさん、闇の神子だったんですか?」

「まあな。」


 クロは仕方がない、という様子で頭をぼりぼり掻きつつ答える。


「だから、闇の神は時々連絡してくる。鬱陶しい限りだが、多少は情報もくれる。信用できるかは別だが・・・」


 そう前置きしてからアカリの質問に答え始める。


「闇の神が言うには、八神は基本的に現世に干渉しない取り決めがあるらしい。可能な干渉はそれぞれの神子への連絡と、神獣を作ること、だ。だから、直接潰されることはまずない。神獣を使って潰そうとはするが、神獣も八神の言いなりとは限らない。ヤマブキみたいにな。」

「そうなんですか。」


 ヤマブキという実例を出されて、アカリは少し不安が落ち着いたようだ。

 そこへまたピキルが口を挟む。


「クロ。その、八神が、潰そうとしている、当の本人として、危険性も、教えるべき、だろう。」

「それもバラすのかよ・・・まあ、いいが。」


 クロの信条としては、安心材料ばかり与えるのは本意ではない。何事にも警戒を怠るべからず、というのがクロの信条だ。


「実際、俺は、八神のモルモットのくせに、八神に背く魔族への転生を選んだことで、命を狙われている。今までも2回、神獣に狙われた。」

「ええ!?」


 慌てるアカリをクロは宥めるように続ける。


「さっきも言った通り、神獣は自分の意志がある。撃退できる力があれば生き残れるし、ヤマブキみたいに仲間になることもある。」

「神獣を仲間にしようなんて発想があるのはクロさんだけだと思いやすがね。」


 ダンゾウが一応、この世界の常識として、そう言っておく。


「だから、俺の近くにいると、神獣に襲われる可能性は常にある。八神は干渉は限られているが、監視はいつでもしているからな。」

「だ、大丈夫なんですか?」

「絶対とは言えないが、今の戦力なら対処可能だと思ってる。」


 クロの言う通り、クロもマシロも神獣と戦える力があるし、対生物ならムラサキも強い。アカネはまだ不安があるが、ダンゾウも化け狸達も立派な戦力だし、ヤマブキに至っては神獣そのものだ。対等以上に戦えるはずである。

 とはいえ神獣は強大だ。いざ襲われれば、被害ゼロとはいかない。人間であるアカリが巻き込まれれば、危険は多い。


「うーん・・・」


 不安が拭い去れないアカリに、クロは何と言ったものか、考える。


 ・・・アカリの能力は相当有用だ。できれば手放したくないが・・・こいつが自分の意志で離れたいというなら、まあ、仕方ないか。


 言うべきことは言った、とクロがアカリ自身の判断を待ち、ムラサキが口を挟もうとしたその瞬間。タイミングを計ったようにピキルが口を開いた。


「では、アカリ、さん。こちらに、来る気は、ないか?」


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