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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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176 初会合

 3月1日。ピキルとの定期会合1回目の日がやって来た。

 結局この日までコンダクターの再訪はなかったため、今回は単に親交を深めるのが目的となる。

 朝からムラサキが忙しなく動いている。鍋で何かを煮ながら次の料理を刻んでいる。いつもの料理よりもいっそう気合を入れているのがクロにも伝わって来た。

 補佐はマシロとアカリ。半月経ってようやくアカリはムラサキの獣人形態とも普通に接することができるようになっていた。もちろん、まだ町に出ることはできない。仲良くなったムラサキだから大丈夫なのだろう。

 マシロは次々と肉や野菜を刻み、アカリは鍋を見ている。その間にムラサキはフライパンで何やら炒め始めた。

 既に出発準備を終えたクロが、リビングから覗き込む。


「チャーハンか?」

「そう名乗れるほど上手に炒められるわけじゃない。焼き飯と呼んだ方がいいな。」


 クロにはチャーハンと焼き飯の違いはよくわからなかったが、旨そうなのでどちらでも問題ないと思った。


「時間ははっきり決まってるわけじゃないが、そろそろだぞ?」


 山奥に暮らすピキルは時計を持っていない。故に、今日の昼食時、という何とも曖昧な時間設定になっている。

 であればこそ、早めに行っておいた方がいい。クロはそう考えたが、ムラサキは少し違うようだ。


「もうちょい待て。あっちで温めなおすことになるとはいえ、できるだけ出来立てで提供したい。」

「そうか。」


 その辺のこだわりはムラサキに一任している。クロは大人しく料理が出来上がるのを待つことにした。



 それから10分ほどで、料理が出来上がった。料理を次々に容器に入れていく。容器は陶器製の大きなポットだ。1リットルほどのサイズで、持ち運びやすいように取っ手がついている。蓋にはゴムがついていて、液体が入っても漏れない構造だ。

 普通に焼き物でこれを作ろうとしても、焼く段階で微妙に変形するため、不可能だろう。しかし、土魔法を使えば、陶器で精密な形状まで容易に作れる。そのうえ薄くても強度は十分。それを利用して、このポットは二重構造になっていて、断熱性すらある。この世界ならではの密閉保温容器だ。クロとムラサキ、そして化け狸達の合作である。

 ムラサキがアカリと丁寧に料理をポットに入れているうちに、マシロはものすごい速度で使用した調理器具を洗っていく。


「洗い物は帰って来てからでもいいだろ?」

「そんなことは私が許しません。」

「マシロさん、几帳面ですねえ。」


 マシロの几帳面さに、ムラサキは呆れ、アカリは感心する。


 そんなこんなで準備ができたら出発だ。留守はヤマブキと先代を含む狸達、そしてスイーパー達に任せる。

 行くのはクロ、マシロ、ムラサキ、アカネ、ダンゾウ。そして、


「あの、私も行っていいですか?」

「結構速度出すぞ。ついて来れるか?」

「ムラサキさんと同じくらいなら。」


 そのアカリの言葉にちょっと驚く。ムラサキの速度はマシロほどではないが、結構速い。森では開けた場所のような速度が出ないとはいえ、時速40kmくらいは出る。

 クロがムラサキを見ると、ムラサキはクロの意図を察して答える。


「本当だぞ。この前、採集についてきたし。」

「わかった。正直、料理を運ぶのが面倒だったんだ。来てもらえると助かる。」

「はい!」


 役に立てるとわかると、アカリは元気になる。『ガレージ』に閉じ込められて以降、感情の起伏が乏しくなったアカリでも、役に立てる喜びだけははっきりと表す。


 一行はまっすぐに会合場所へと向かう。場所はピキルと初めて会い、蛇戦士達と戦った広場だ。会合が決まった直後に、土魔法で大きめの小屋が建てられている。

 アカリのおかげで手荷物がほぼなくなった一行はスムーズに到着できた。


「ここだ。思ったより早く来れたな。それにしても・・・」


 クロはアカリの方を振り返る。アカリは空中に座っていた。『ガレージ』から椅子を半分出して、それに座っているのだ。そのまま出入口を移動させることで、ここまで滑るように移動してきた。


「すごい移動方法だな。」

「あはは、でも、ちょっとあの速度は恐かったですよ。皆さん、どんどん速度を上げるんですから。」


 先導役だったマシロが獣人形態に『変化』しながら答える。


「申し訳ありません。アカリさんがついて来れるようでしたので、速度を上げました。言うほど恐がっているようにも見受けられませんでしたし。帰りはゆっくり行きますか?」

「あ、大丈夫です。クロさんの後ろなら枝とかも気にならないし。」


 アカリの浮遊する高さは、マシロの背に乗ったクロと同じくらいだ。クロの背にいれば、障害物の心配はない。

 とはいえ、むき出しの椅子に座って時速40km以上出ていたのだから、普通は恐いはずだ。アカリ自身気づいていないが、恐怖への耐性や平衡感覚などが人間離れし始めていた。


 小屋に入ると、すでにピキルが来ていた。護衛と思しき蛇戦士が2人、両脇に立っている。


「すまん、遅くなったか?」

「いや、こっちが、早く来てた。山の上は、結構、暇。」


 クロの軽い謝罪に、ピキルも片言の日本語で軽く答える。同時にクロの心を読んで本題に入る。


「対象は、来なかった、ようだな。」


 クロも読まれるのに慣れて来たので、動じることなくピキルの向かいの席に着く。マシロはクロの斜め後ろに立った。


「ああ。こちらの計画が知られただろうか?」

「さあ、それは、わからない。この間の、打ち合わせに、監視、でもついていたら、知られた、かもしれない。」


 周囲は常にマシロが警戒しているので、尾行されている可能性は低い。が、絶対ではない。

 マシロの索敵範囲は約1kmが限界。その外から見られれば、それを悟る術はほぼない。特に、光魔法による遠視に読唇術を組み合わせれば、数km先からでも監視が可能だ。


「だからと言って・・・」

「ああ。中止は、不要だ。知られていない、可能性も、高い。」


 クロが言おうとしたことを、いつも通りピキルは先に言う。クロは不快感を顔に出すこともなく、頷く。


「では、今日は、会食のみ、だな。楽しみだ。」


 ピキルが笑みを作って昼食を要求する。クロが振り向いてムラサキを見ると、待ってましたとばかりにムラサキが前に出る。猫形態のままでは視点が低すぎるので、『エアテイル』でピキルの肩の高さ辺りまで浮く。


「可能な限り出来立てで持ってきた。ちょっと温めなおせば出来上がりだから、少し待ってくれ。」

「わかった。」

「アカリ、出してくれ。」

「はい。『ガレージ』」


 マシロの後ろに隠れるように立っていたアカリが出てきて、料理が入ったポットを取り出し始める。

 それを見たピキルが驚いた表情をしたのに、クロが気づく。


「最近拾った。アカリという。人間嫌いの俺が同行させてるのは変に思うかもしれないが、人間であることを帳消しにするくらい有能だ。」

「あ、見暗あかり、といいます。ピキルさん、よろしくお願いします。」


 料理をすべて『ガレージ』から出した時点で、アカリはピキルに自己紹介をする。

 その間にムラサキがポットを開いて料理を取り出す。


「あれ?ほとんど冷めてないな。」

「あ、せっかくなので、保存に適した部屋に入れておいたんです。入れたときのままだと思いますよ。」

「へえ、便利だな。」


 そのムラサキとアカリのやり取りに、またピキルが驚く。しかし、何も言わない。気になってクロが尋ねるが、


「どうした?」

「いや、何でもない。」


 ピキルは答えず。クロが首を傾げているうちに、マシロとアカリも手伝って、全員分の料理が広げられた。ないのは蛇戦士の分だけ。食性が異なるのでいらないそうだ。

 ムラサキは一旦小屋を出て、獣人形態になって戻って来た。マシロと違って着替える必要があるためだ。準備ができたところで昼食開始だ。


「さあ、召し上がれ。」

「では。」


 ピキルが待ちきれないとばかりに食べ始める。まずはスープ。ゆっくりと一口飲み込むと、ふう、と息を吐く。


「---」


 何と言ったか、クロには聞き取れなかった。マシロも通訳できないようなので、ピキルの母国語だろう。


「いや、失礼。美味いな。感動した。」

「そいつはよかった。ほら、焼き飯も食ってみろ。」

「遠慮なく。」


 ピキルは貪るように食べる。100年以上まともな料理を食べていないと言っていた。この様子も無理もないだろう。

 ピキルだけ食べるのも何なので、クロ達も少量だが食べる。マシロも席に着き、食べ始めた。アカネだけは床で食べる。しかし、昔のように皿にがっつくのではなく、分身の女の子がスプーンで掬って、本体の狐に食べさせている。

 皆、旨い旨いと言って食べる中、ムラサキだけ別のことに驚く。


「本当にほとんど冷めてないな。アカリ、どんな部屋を作ったんだ?保温してただけじゃないだろ?」

「えと、閉じ込められている間に色々試して見つけたんです。詳しい仕組みは私もよくわかってないんですが、入れたときとほとんど同じ状態で出てくる部屋なんです。自分でもどう設定したかはっきり覚えてなくて、その1部屋はそれ以来弄ってません。」

「へえ、不思議な保存部屋、ねえ。」

「食材の鮮度を保って運べて便利、なんて考えてましたけど、料理をそのまま運ぶこともできるなんて、自分でも驚いてます。」

「ん?まさか、初めてやったのか?」

「あ、えーと。」


 アカリは言葉を濁しているが、そうなのだろう。この機会に保存部屋の性能を確かめたのだ。意外にちゃっかりしている。


 アカリとムラサキがそんなやり取りをしている間、クロはピキルの視線が気になっていた。

 初めは料理に夢中だったピキルが、途中からちらちらとアカリを見ている。


 ・・・何か、気になるのか?


 そんな思考も読み取られているはずなのだが、ピキルはクロの視線を気にした様子もない。ひたすらアカリの方を気にしていた。


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